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 権力行使上の問題点

先週の判決を受けて控訴は行なわれず、このまま確定する見込みと報じられている。本人も納得している模様で、会見で佐藤氏が述べておられたように「刑事事件の解決としてはこれで良かった」ということになるのだろう。

ただ、本事件を通して司法や社会全体との関連を考えた時、色々な問題があると当方は考えている。横浜CSRF事件被害者の父親が語った記事がある。被告人への憤りは当然強いが、捜査・司法当局への不信感も明らかにしている。
”PC遠隔操作事件、「早く忘れたい」 誤認逮捕された元少年の父”2015.02.05 
<父親は、片山被告の懲役8年の量刑を「適切」とした上で「きっちりと責任を取ってもらいたい」と話す。片山被告が「社会復帰したい」と話したことを報道で知ったといい、「世の中をなめていて、とても腹が立った」と語気を強めた。
特に強調するのが、捜査・司法当局への不信感だ。「(誤認逮捕した)警察、検察、裁判所という巨大な国家権力に対して、私たちには何の対抗手段もなかった」と当時を振り返り、「捜査は手を尽くしていなかった。不審な点を放置していて、変だなと何度も思ったが、何を言っても駄目だった。裁判所も、誤った捜査をうのみにしていた」と批判した>

しかも、こう付け加えている。
「片山被告のことはいつか忘れるかもしれないが、誤認逮捕時の(警察、検察、裁判所の)対応は今でも思い出す」。そう、無念さをにじませた。

国家権力が国民をクロと決めつけ、不審な点があっても有罪に無理やり持っていく。その怖さが改めて示されている。
しかも、こういうことがあったのに同じ事件でまた同様の行為を行なっているのである。それを当ブログで指摘してきた。
”「ハイジャック防止法適用の問題点」” 2014/12/16
ハイジャック防止法違反に問われたJAL機への犯行予告メールの内容が”具体的”という検察側主張は、実際のメール文と照らし合わせると論理的に無理がある

これはCSRF事件での問題とは違うように感じるかもしれない。しかし、「無理があるのに押し通そうとする」と云う点では同根なのである。ここを是非ご理解いただきたいと思う。
検察側の役割は、弁護側が軽い罪を主張するのに対抗して、重い罪を主張することではないと当方は考える。被告人・弁護側が、刑を出来るだけ軽くしてもらうために、無理な主張も行うのは人としての自然な心情からやむを得ない。だが検察側は国の代理人として、あくまで客観的立場からの有罪立証や求刑検討が求められるのではないか。
ただ、日本の裁判の当事者主義に関する運用の仕方とも絡んでくる深い問題であるが、少なくとも検察側が「具体的」というごく基本的な日本語の使い方まで自らの主張に都合良く曲げて論告求刑を行うなど、有ってはならないことだと思う。

また、上記父親コメントは裁判官も対象にしているが、本事件裁判官の問題点が分かる記事もある。
”PC遠隔操作、被告に懲役8年 「悪質なサイバー犯罪」”2015年2月4日
自作自演メールの送信は「保釈中に行われたものとしては類を見ない悪質な証拠隠滅行為だ」と(裁判官は)厳しく批判

判決理由の一端として当たり前に見えるかもしれないが、「類を見ない」というところにご注目いただきたいと思う。
地裁裁判官は保釈申請を却下した。顔を知られて逃亡の恐れはなかったから、却下理由は「罪証隠滅の恐れ」ということになる。つまり「類を見ない=従来に無かった」証拠隠滅行為まで想定して裁判官は保釈却下したことになる
これはその時の心証でクロと見ていても、やってはいけないことだと当方は考える。
「類を見ない=従来に無かった」と云うことは、方法の想定が付かない行為の可能性まで織り込めてしまい、「罪証隠滅の恐れ」は容易に拡大出来て人質司法がまかり通ることになる。これも権力側が無理を通そうとした例と捉えることが出来ると思う(この時は高裁が適切な判断で止めてくれた)。「罪証隠滅の恐れ」だけで説明が無くとも漫然と勾留許可が出せてしまう仕組みは見直しが必須だろう。

このように判決が出て本事件が終結しても、権力行使上で検証すべき問題点は多い。
発端となった警察の誤認逮捕についても検証報告書は出ているが、この父親に当時の神奈川県警捜査の怠慢と誤りを具体的に説明したら、更に怒り沸騰するような内容である。しかも各警察HP上から僅か2週間程度で削除されており、公約された「シロにする捜査」は本事件でさえも行なわれなかった(裁判官は片山氏の反省を「心もとない」と述べたそうだが、こちらはどうなるのだろうか)。

当方は一部マスコミ等のように教条的な「権力批判」を声高に言うつもりは全く無く、基本的に信頼を置いてきたが、本事件の経過を通しては権力を持つ側が無理を通すつもりになれば通せてしまう場合があることを如実に見た。
本当に最後まで色々考えさせてくれる事件である。権力行使に関しては、今後制度面なども含め各方面からの検証が行われることを期待したい。

以上
(明日より不定期掲載に入ります)