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 第19回公判検討

明日はいよいよ第20回目公判で最終弁論を迎えるが、昨日アップされた会見も含めて第19回の方も検討。
(1)求刑年数とハイジャック防止法違反適用の関係
→まずハイジャック防止法(以下同法)を抜きにして、他の業務妨害罪など最長3年以下刑の併合罪として考える。併合加重と再犯加重があるので最長刑期計算は以下のようになる。
       3年x2(再犯)x1.5(併合) = 9年

つまり、9年を超えて10年になったことは同法が適用されている証となる。但し、残り1年が同法によるということでは無く、各罪状は再犯・併合も考慮した上での一括した求刑になり、個別の刑期は分からない。傍聴したTBSラジオ崎山記者も「検察官は(10年の内容について)はっきりと言ったわけではない」と述べている。

なお、昨日記事でも考察したが、ハイジャック防止法の正式名称は「航空機の強取等の処罰に関する法律」である。対象となる行為は「強取等」であり、第一~三条は「強取」に関する規定になっている。しかし、本事件でのJAL機への犯行を「強取」とするのは無理があるから、強取等の「」に基づく処罰が考えられ、それが第4条に相当する。それでも同条のメインである「航空機の針路を変更させ」に関して、脅迫文の中に針路変更要求がないので該当させることは容易ではないと思われ、「その他その正常な運航を阻害」という部分の適用が行われたと推測される。(引き返すという針路変更は犯人要求ではなくJALの判断で行われた)

つまり、「強取」 → 「等」 → 「その他」 という拡張になる。
航空機を乗っ取り針路変更をさせたりする「ハイジャック」対策の特別法という本筋から離れていくような適用であり、これでは実質的に「偽計業務妨害」相当ではないかという疑問に対する議論は必須だろう。重罰適用にすれば良いというものではなく、法律運用として整合性や妥当性が必要。

また、「正常な運航を阻害」という場合、例えば新幹線と比べてどうなのか。新幹線の方が影響が大きくなる場合もあるのではないか。第4条の拡張解釈は他の交通機関とのバランスも欠くことになるし、同法立法の趣旨に立ち返っての吟味も必要になる。(米国のテロ対策との関係なども取りざたされるが、やはり同法適用に関しては充分な議論が必要だろう…当ブログでは既に昨年5月検討実施 http://blogs.yahoo.co.jp/kensyou_jikenbo/53529946.html )

(2)「サイバー犯罪史上まれに見る卑劣で悪質な犯行」という「詭弁」
→検察側は論告でこのような表現を繰り返したとのことだが、「サイバー犯罪史上」と付けていることに違和感を覚える。「サイバーかどうか」より、まずは業務妨害等の被害の大きさではないのか。それで考えると「マルハニチロ事件」(求刑4.5年判決3.5年)は「58億円以上の損害」との報道もあった。( http://turunasi.seesaa.net/article/399944093.html )
また地域経済に与えた影響も大きかったようである。このような業務妨害犯行は「史上まれに見る」ものではないのか。食品に毒物を吹き付け国民に広く健康被害の心配を与えたのは、相当に「卑劣で悪質」ではないか。

更に「黒子のバスケ事件」(求刑4.5年判決4.5年)では、2012年10月の犯行開始から2013年12月逮捕までの長期間に渡り、約400通もの脅迫状を送り続け社会に不安を与えたのは「まれ」ではないのか。また、予告だけでなくリアルで硫化水素や食品毒物混入を実行しているのに、予告だけの本事件に比べて「卑劣で悪質」とは言えないということか。加えて損害額も1億円以上と見られて本事件を上回る。しかも裁判でも無反省を貫き、東京地裁が判決で「同種事件で他に類例を見ないほど重大で悪質な犯行。刑事責任は極めて重い」としている。

また、誤認逮捕者が出た犯行は悪質であるが、度々ご紹介しているように例えば最初の横浜CSRF事件で「サイバー捜査史上まれに見る失態」があり、その報告書は出たが短期間で掲載は終了。真の反省があるなら永久的に載せておくべきものだろう。そして論告では誤認逮捕を防げなかった司法当局の責任を「別論」とするだけで終わらせている。

結局何が言えるかというと、「サイバー犯罪史上」と付けることで範囲を限定し、「マルハニチロ事件」や「黒子のバスケ事件」、或いはネットが普及してなかった過去の事件などを除いた上で、「まれに見る卑劣で悪質な犯行」というフレーズを使ったということである。そして「サイバー捜査史上」まれに見る問題の方は「別論」で済ませてしまい、自らの「取調を行わず早期解決を逃した」という大問題もスルー。
つまり、検察側が「詭弁」を使ったということが容易に分かってしまう。(但し、読解に慣れていないと、これでも乗せられるかも知れない)
今回の検察官だけの特徴なのか検察官一般にそうなのかは不明としても、当方が傍聴した別の回の公判でも「バレバレの詭弁」を使っていて呆れた。詭弁を使うにしてもエリート集団の本領を発揮して、もっと高度にやっていただきたい。

(3)損害賠償
会見で佐藤氏は損害賠償に関する記者の質問に対して次のように述べた。
<Aさんについては、以前Aさんの法廷証言前にAさんの弁護士から電話で打診があったが、「それだけの力(資力)がなく応じられない」という話をした。その後前回(第18回)公判の後に日本航空の弁護士から『被害弁償をするつもりはないのか?』という問合せがあったが、「その他の被害者約20名も含めて、申し訳ないのだけども1円も払うことが出来なくて、本人には全く資力が有りません」と答えた>

しかし、第18回公判では片山氏本人が<被害への損害賠償も、誤認逮捕者の分も含めて「自分で出来る限りのことはやっていきたい」>と述べていたのは当方がハッキリ聞いたので間違いない。これと今回の佐藤氏発言との関係は現在不明。
ただし、片山氏が賠償の「意思」自体は示したが、具体的方法は資力の裏付けも含めて現段階では全く明確ではないから、被害者側が納得いく形になるのは困難という意味かも知れない。
それでも、まず「意思」だけでも示すことは情状面で効いてくる可能性もあるから、前回の片山氏証言から敢えて説明を変えた理由は不明。

(4)反省
第18回公判で「謝罪と反省の念」を被告人自らが表明したが、今回のマスコミ報道を見る限りでは、これについて検察側から論告で「今も反省していない」などの否定コメントは無かったようである。もし実際にも否定されていなければ、最後の被告人質問の機会に鑑定人証言を取り止めてまで時間を取って、本人に語らせた意味が有ったのではないかと思う。検察側は最終的に大団円の空気を読まなかったようだが、もし「謝罪と反省の念」を明確に表していなければ、裁判官が求刑10年に対して極めて近い判決を出す可能性も出てくるからである。(最終的には裁判官の良識に期待するが)

なお、以下記事で「真摯な反省から罪を認めたわけではない」となっているのは、真犯人メール自演発覚後の自供の話で、前回の「謝罪と反省の念」に対するものではないと考えられる。
”検察側「酌量の余地は皆無」懲役10年求刑”毎日新聞 11月21日
<検察側は一連の被告の行動を「刑事司法制度を愚弄(ぐろう)し、真摯(しんし)な反省から罪を認めたわけではない」と批判。>

以上
[追記]
(2)項で取り上げた「マルハニチロ事件」は、求刑が併合罪で4.5年であったが、裁判所の判決では次のように併合なしになった。
<公判では成立する罪の数が争われ、検察側が、農薬を混入した日ごとに罪が成立すると主張したが、判決は全体で一つの罪(業務妨害の併合なし)と判断し、退けた。
但し、業務妨害(最長3年)だけでなく、放置してあった自転車に勝手に乗ったとして占有離脱物横領罪(最長1年)でも起訴されていたので、量刑判断は上限4年として行われた(併合で1.5倍だが各罪の最高刑の合計4年が上限)。その上で、「真摯に謝罪と反省の態度を示している」など、被告にとって有利な事情を考慮した>ので判決は3.5年になった。
このように検察官の謂わば「無茶振り」に対して、裁判官が筋を通して対応していると思われる。

また、以下の記述をしている記事もある。
<弁護側は、事実関係は争わないが、農薬混入について器物損壊と偽計業務妨害併合罪が成立するとの検察側主張に対し、重い方の罪だけを適用するよう求めた。>
どうも検察側は厳罰化の流れに乗って色々な策を弄しているようである。(それでもこの事件の検察側は慎重な判断で流通食品毒物混入防止法は適用しなかった)

追記以上