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 第20回公判2 「ハイジャック防止法」等

昨日に引き続き佐藤氏会見の文字起こし。弁護団の弁論要旨の説明で「ハイジャック防止法」や「再犯加重」などの件。
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(昨日から続きの会見内容…括弧内は当方)
本件の中で一件だけJAL事件はハイジャック防止法が適用されています。ハイジャック防止法第4条は法定刑が1年以上10年以下の懲役ということになっておりまして、法定刑を基に刑の加重等を行なって計算する範囲内で判決を出すというのが処断刑なんですけども、それが懲役30年ということになってしまったんです。
その中で検察官は懲役10年を求刑したということになるんですけども、業務妨害罪というのは懲役3年以下の刑です。JAL事件で仮に威力業務妨害罪で起訴したとすると、その処断刑というのは懲役9年にしかならないわけなので格段の差があるわけですね。

もう一つ問題が有りまして、JAL事件というのは平成24年(2012年)8月1日に行われたものなんですけども、被告人が前刑を終えて出所したのが、その5年前の平成19年(2007年)8月6日だったんです。8月1日ではなくて、それから1週間後にJAL事件を行なったとすると、再犯ということにならなくて再犯加重ということがなされないんです。その場合は仮にハイジャック防止法が適用されたとしても懲役20年以下(実際は併合で15年?)ということになって、いずれにしても二つの点で問題があったということです。再犯加重の件については、本人が僅か6日の差であれ再犯に合致することをやってしまっているので、法律的にどうこう言う訳ではありませんが、元々そういう問題があったということです。

ハイジャック防止法が適用されて、検察官は法律が予定する中でも最も重い類型に属する犯罪だと決めつけたんですけども、皆さんも本件でハイジャックという航空機をコントロールするということを目的とした、或いはテロの目的で行われた事件ではないということはお分かりと思うんですけども、ちょっとそれ(ハイジャック)は言いすぎじゃないかと。
それで実際にハイジャック防止法第4条の事件というのは今まで無いんですけども、第1条が適用された実際に航空機がハイジャックされた事件との比較でも、本件は非常に重いんじゃないかと主張しました。

それから最近の事件では同種の事件で「黒子のバスケ事件」がありますけども、これは最高刑が言い渡されたとは云いながら懲役4年6月の事件でした。
それから「マルハニチロ事件」は実際に(健康)被害を生じさせた業務妨害事件ですけども、これは懲役3年6月ということだったので、本件は少し厳しすぎるのではないかということを主張したのです。
(文字起こし以上)
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ハイジャック防止法適用については当ブログで何回か考察してきて、例えば本年11月26日記事では、本事件への同法第4条適用は<「強取」 → 「等」 → 「その他」>という拡張が行われたものであり、同法の本来の趣旨である「ハイジャック」への対応から外れてきて、「業務妨害罪」の適用が妥当ではないかという指摘を行なった。
また上記会見で言及されている検察官の「法律が予定する中でも最も重い類型に属する犯罪」という主張も、同法第4条が予定する「最も重い類型」が本事件の「いたずら」とすぐ分かる行為相当とは到底思えない。この検察官主張は特に無理が際立つと感じる。

次に再犯の方であるが、佐藤氏は前刑による再犯加重が付く5年間の期限が2012年8月6日だったことを明かして、8月1日に行われたJAL事件がもし後6日遅かったら再犯加重にならなかったことを述べた。
再犯加重については、JAL事件だけでなく本事件全体でも考えてみたい。最初の犯行である横浜CSRF事件は2012年6月29日に行われている。もしこれが約40日遅れて8月7日以降に犯行が開始されていて、全犯行がそれ以降の実行だったら全く再犯加重が付かなかった。
それで当方独自考察として、以下の2点の仮定を置いて考えてみる。
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(1)JAL事件も業務妨害罪での起訴を行なったとする
→大阪男性はオタロード犯行予告で誤認逮捕されて、JAL事件では逮捕されておらず、JAL事件は誤認逮捕発生に影響していない。また、業務妨害罪の方が妥当ではないかという弁護団や当方見解は前述の通り。
(2)本事件犯行が全て2012年8月7日以降だったとする
→たかだか40日程度遅れていたら、再犯加重は全く付かなかったのである。
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この二つの仮定を置くだけで、処断刑業務妨害罪やその他3年以下刑の併合で4年6月以下となる。つまり検察側が重視している誤認逮捕者の発生に影響しない上記仮定を置くだけで、「サイバー犯罪史上まれに見る卑劣で悪質な犯行」の最長刑が30年→4年6月になり、例えば「黒子のバスケ事件」と同じになる
黒子のバスケ事件」も「同種事件で他に類例を見ないほど重大で悪質な犯行」と判決文で指摘されているが、加えて全く無反省を貫いた情状最悪での4年6月判決(求刑同じ)であり、「謝罪と反省」を表している本事件で上記仮定を置けば情状酌量が入って4年の可能性も出てくる状況になる。

もちろん佐藤氏も述べているように、本人が再犯に合致することをやってしまっているのは事実だし、いたずらとすぐ分かる内容ではあるが飛行中の航空機をターゲットにした脅迫メールを送信している。
そして仮定はどこまで行っても仮定だから、当方もこの仮定の件で深い議論を展開するつもりはない。しかし検察側が論告書の約8割も情状にあてた「卑劣で悪質な犯行」が、最も重視されたと思われる誤認逮捕者発生や事件全体の犯行内容に影響しない仮定を置いただけで、最長刑期30年→4年6月になるというのは当方個人的には見逃せない観点になる。このような量刑面は更に明日も検討予定。

以上