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 隠れた真実14「ハイジャック防止法量刑」

以下の記事などで「JAL事件におけるハイジャック防止法適用と量刑に問題あり」ということを示した。

判決も出て本事件評価のために量刑は非常に重要な要素であるため、「隠れた真実14」として明確に取り上げておく。
まず、本事件犯行で法定刑期が最も長いハイジャック防止法第4条違反に関する検察官(求刑)と裁判官(判決)の見解を簡潔にまとめると以下のようになる。
 ・検察官:第4条が予定する中で最も重い類型の悪質な犯行
 ・裁判官:運行阻害の程度としては重いが、最も重い部類とまで評価することは疑問が残る

更に端的にすると、検察官は「最も重い」、裁判官は「重い」という評価になるだろう。
それを以下の表にまとめてみた。「最も重い」と「重い」があるので、それに加えて全体としては「平均的」、「軽い」、「最も軽い」の段階レベルにした。これは常識的な分類の仕方ではないかと思う。
第4条の刑期は1~10年であるので、各段階に2年ずつ割り振ってある。なお、当方見解は「悪質なイタズラではあるが脅迫が現実に実行される可能性はゼロ」だったので「軽い」の評価である(上記3記事で脅迫文内容等の検証実施した上での評価)。

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更にシンプルな表にしてみた。
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検察官は「最も重い」の10~9年に対して求刑10年。裁判官は「重い」の8~7年に対して判決8年。
これでは求刑も判決もハイジャック防止法第4条分で一杯か、ほぼ一杯になってしまう。前表のように、軽減分についても(心許ない)反省等による情状で精々1年程度と想定されるから、大幅な影響にはならない。

つまり、ハイジャック防止法第4条の量刑が求刑や判決の大半を占める。再犯や他の業務妨害・ウィルス供用罪等の併合、誤認逮捕、犯行後のメール、真犯人メールなどによる加重や悪質情状分は殆ど入る余地がない。
検察官が論告書の多くの頁を使って、ハイジャック防止法以外の犯行も悪質性を強調し、裁判官も「誤認逮捕も量刑上考慮することは妥当」・「犯行後の情状が良くない」などの悪質さを上乗せするような見解を述べた。だが、前述のようにハイジャック防止法違反だけで求刑・量刑の説明がついてしまうので、他犯行は求刑・量刑に殆ど影響していないことになる。検察官・裁判官の主張と求刑・判決の整合性が崩れているのではないか。

しかし、当方の見解である「軽い」の評価をベースにして、そこから再犯・併合等による加重と反省等による軽減を考慮して刑期を判断するとしたら、検察官や裁判官の指摘も或る程度生きてくるだろう。(再犯以外は加重と云わないかもしれないが適当な言葉が見つからなかったので加重としておく)。
結果的にやはり検察官・裁判官のレベル想定は重すぎると思われ、当方見解の方が筋が通るのではないだろうか。脅迫文はもし仮に要求を呑もうとしても交渉先も書いてないイタズラ丸出しの内容で、機長も「いたずらのようにも思えた」と言っているぐらいであるから、求刑・判決が過重であることはは犯行の態様からも明らかと云えるだろう。

ただし、「併合罪の各罪について個別的な量刑判断は予定されていない」との判例や自由心証主義などを持ちだしての反論が有り得ることは分かる、だが、個別的量刑判断による積み上げと、犯行全体を一体としての量刑判断とのギャップが大きすぎるような場合には単純に問題無しとはいかないのではないか。本事件はまさにその典型と感じるが、特に過大と思える求刑・量刑を正当化しようとしてハイジャック防止法第4条と云う初適用になる法律の量刑を恣意的に適用した感がある。

更に同法は初適用にも関わらず、裁判官は法廷での議論の機会を一度も設けず、論告求刑と最終弁論での主張のみで結審させ判決に至ったことは、これまで繰り返し指摘してきた。このような訴訟指揮は国民が裁判に期待している真摯な議論をないがしろにするのではないかと思えて、改めて問題提起をしておきたい。

もはや判決は確定してしまったが、後日法曹関係者の中で本事件の裁判に興味を持って調査するような奇特な人が出てくる時のために参考としてこの考察を残す。

以上