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地下空間の真の意味

前回記事に関してコメントを頂いて、その中に次の部分がある。
謎の地下空間の真の意味は・・・?

この解明につながる考察として以下記事(記事Aとする)を書いたが、経緯説明用として第2次報告書の意図から述べたのでポイントが見えにくかった。

ポイント再説明のために、地下空間の「真の意味」を「真の目的」として捉え、その実現のために考えられた手法と併せて以下のように想定している。

 ”目的:工期短縮(2年間) → 手法:モニタリングと建築工事の並行実施

想定根拠として、都側が正式決定した工期がある。中央市場HPに「豊洲市場年表」があり、その中に平成21年(2009年)2月”「豊洲新市場整備方針」”がある。記事Aの(2)項で抜粋を紹介したが再掲(「モニタリング期間」と「並行実施」は元の文書に追記)。
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これは第2次報告書に”添付資料1「豊洲新市場整備方針」”として取り上げられている文書のまとめになる。
モニタリング期間2年は、改正土壌汚染対策法(土対法)における「形質変更時要届出区域」の指定解除用として必要となった。解除申請ができるようになってから建築工事を始めるとすると、土壌改良工事が(一応)済んだ土地を2年間寝かせることになる。

都側は開業を出来るだけ早くしたいから、2年短縮を目的に建築工事とモニタリングの並行実施が考案されたと思われる。その際の内部事情等は不明だが、結果として上記「豊洲新市場整備方針」で正式決定されている。

並行実施のためには、建物の上モノが工事していても建物下の地下水モニタリングを可能にする必要がある。その対応で、地下に「地下水採取用の作業空間」を設けるようにして、「モニタリング空間」と呼ばれるものになった。
ただし、実際は「モニタリング」の作業を行うにあたって、以下の3種類の形態が考えられる。
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・形態1:地表からのモニタリング…長期モニタリングを行うために設置された観測井戸。(2年ではなく)地下水管理システムの一環としてずっと監視し続ける。井戸は建物外に設置されているため、指定解除用と共用は可能だが、建物下のモニタリングは出来ない。
・形態2:配管スペースからのモニタリング…各棟ごとの配管スペースを取った上で、その底面に観測井戸を設置する。これだと上モノの建築中にも建物下のモニタリング可能。
・形態3:形態2に対してミニユンボ作業空間を付加…2年間のモニタリング期間中に基準値オーバーが発生したら、ミニユンボを入れて対策する構想。
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形態1は「空間」と云う表現には当たらないと思うが、第一次調査報告書のⅡ章2項「技術会議の議論『建物下に作業空間が必要』」の初期段階において、「長期モニタリング」とされているのは該当技術会議(第4回)議事録からすると形態1と推測される。
現状地下空間は形態3に合わせたものになっていると考えられ、都の担当部署は「モニタリング空間」と呼んでいた。しかし、形態2でもモニタリング可能にも関わらず、形態2と3が分けて論議されることは少ない。更に形態1も加わって、3形態が混同され分かりにくくなっている。

現状が形態3になった理由として大きいのは、設計会社に提示された「基本設計の検討課題」の課題一番目にモニタリング空間が挙げられていた。その中で小型(ミニ)ユンボ作業空間が明記され、搬出入口(マシンハッチ)も記載されて、この時点ではミニユンボ投入について一応辻褄が合わされていた。設計はこれに合わすことになった。
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しかし、実際に設計を始めるとミニユンボバックホー)作業空間は色々無理が出始めたと思われ、次のようなやり取りが残されている。
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まず前提として、地下空間図は深く検討されたものではないことを都側が述べている。これは調査報告書にも、M部長から指示されて作成した「ポンチ絵」レベルのものだったとの証言が出ている。設計側からも疑問が示され、その度に「人力掘削」ができれば良いといったような都側の(その場しのぎの?)回答が出されていた。

ミニユンボに関する都側の回答はまだあって、問題発覚後の今年10月都議会でも次のような答弁が行われている。
----都議会答弁 抜粋開始----
〇佐藤施設整備担当部長 過去、この設計に携わっておりました担当者に聞いたところによりますと、当時の議論といたしましては、水産卸売り場棟、水産仲卸売り場棟、青果棟の主要三棟に加工パッケージ棟を加えました四棟について、一階で食品を扱う売り場等がありますため、万が一の場合、建物直下の土壌の確認や、必要に応じて掘削等の作業が行えるようにする必要があるとの議論があったとのことです。
  具体的には、地下ピットをモニタリング空間として位置づけ、基礎ばりの下端から地下ピット底面までの高さをおおむね二メートル程度確保するとともに、小型の建設重機のための搬入口を設ける必要があるといった議論だったと聞いております。
  なお、この地下空間は、通常は設備配管スペースとして活用しておりまして、万一の場合は、必要に応じて、この配管の切り回し等も行い、作業空間を確保するという議論もなされておったと聞いております。
----都議会答弁 抜粋終了----

「配管の切り回し等も行い」としている。しかし、特に水を多く使う水産棟では排水配管等が低い位置で多数並んでおり、移動範囲も考えると切り回しにも困難があると思われ、果たして現実味のある対応なのだろうか。或る時は「人力でも良い」とし、別の時は「配管を切り回してでもミニ重機を入れる」と言ってるわけで一貫性にも欠ける。また、「スコップ代わり」程度のミニユンボで、どのような具体的対策手法を想定しているか。「人力掘削が可能な小空間」で良いともしているのだから、無理にミニユンボ用空間を取るより、全域を人力対応の高さにする方が合理的とも考えられる。

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総合してミニユンボ用空間に関する当ブログ見解を示す。
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(1)作業用空間設置は「モニタリング期間中に基準値超えが発生したらどうするか?」との課題に対する、(リアリティに欠けた)辻褄合わせだったのではないか。
(2)並行実施を正当化するための無理な辻褄合わせであって、実際は「モニタリング期間で問題は発生しない」と楽観的に考えていたと推察。
(3)後から担当した職員は意味もよく分からなくなっていて、ただ「設計与条件」のように思われてしまっていたから、謂わば惰性で地下空間高さを維持しつつ、実態は配管スペースとして殆ど自由に使用したのではないか。
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詳細事情は不明なので、この部分は純仮説となるが、少なくとも「並行実施」が前述の正式な整備方針に実質的に含まれていることは間違いない事実。

また、上記答弁は「議論もなされておったと聞いております」との表現であり、「ミニユンボ作業空間です」と明言していない。
市場問題PTの小島座長も同様に曖昧な認識。”第2回PT議事録
<地下ピット部分の耐震設計上の評価についてです。地下に空間がありますが、いわゆる地下ピットはいろいろな用途に使われています。基礎をつくるという意味で「基礎ピット」と呼ばれたり、配管を維持管理するための空間としては「配管ピット」ですが、豊洲市場の地下ピットは重機の搬入口なども設置されていますので、経過からすると、土壌汚染対策用の工事ピットにも利用されると考えられております。ということでいろいろな用途があるので、4.5mの高さになっています。>

→「工事ピットにも利用されると考えられております」となっていて、「利用されます」ではない。語尾に「考えられております」とか、答弁では「聞いております」とかを付けて曖昧にしている。

汚染対策工事用に想定したミニユンボが本当に使用されるかどうか、誰も明言していないことになる。各発言は、「言い訳や」や「その場しのぎの言い逃れ」ではないのかという疑念は拭えない。ミニユンボ投入が実際にどのような扱いなのか、最終的にはPTにおいて解明を図るべき。

これを明らかにしないままでは、PTの議論に大きな影響を与える。例えば佐藤委員の「英知発言」。ミニユンボ用空間を設置しなければ、形態2で厚さは別にして盛土が可能だった。形態2を考慮に入れて、形態3と考えられる現状地下空間との比較を行って、どちらの選択が適切だったか再評価必要。
仮に水産仲卸棟でも配管スペース高さが3mに出来れば、1mの盛土が可能だった。土壌汚染対策法の盛土規程は50cm以上だから、専門家会議にも検討して貰ってOKになれば、今回のような事態にはならなかったことになる。形態2の方が適切なら「英知」発言は修正や取り消しが必要になるだろう。

また、これまでの記事で述べてきたように、コスト問題も重要。排水の少ない青果棟の配管スペース高さは水産仲卸棟より低くて良いから、形態2で高さ2mに出来れば地下空間の体積も半分になり確実にコストは下げられた。

更に日建と森高委員の副会長・会長コンビで、0.2と0.1の係数問題などが曖昧にされたままの感がある構造問題も、現状空間の評価ばかりでなく、形態2で各棟ごとに最適設計を行った場合の構造と比較した検証が必要だろう。例えば日建が言っていた「上モノと同じぐらいの重量の基礎」は、果たして適切な設計なのか。もし耐震性を満足させるために無理した設計で重くなっていたりしたら、すんなりOKと言えるものでもないだろう。

結局モニタリングと建築工事の「並行実施」のために、ミニユンボ用空間導入まで行わざるを得なくなったことの影響は非常に大きいのではないか。「盛土なし」になっただけでなく、他にも無理が色々出ている可能性有り。それらを明らかにしてからでないと、PTは中間結果など出す状況に無いと思う。特にコスト評価を抜きにして拙速に安全宣言?を出すようなことになれば、PTの意識が問われる。

また、都側も「並行実施」に関する検証が必要。多分にギャンブルの面があり、前記事で「都側の暴走」と書いたのは、このギャンブルと付随するリアリティのないミニユンボ用空間導入の件。
影響の大きい巨大公共事業で確実性重視は当然にも関わらず、目先の工期短縮に目がくらんでギャンブル的手法を選択したことが失敗の始まり。次に辻褄合わせのミニユンボ用作業空間導入による盛土無しや設計的無理の発生。そして結局モニタリング自体も2年間を無事終えられなかった。
担当部署への開業時期のプレッシャー等も含めて真相解明必須。

失敗の連鎖になった経緯を率直に明らかにしないと、盛土問題の真相は見えてこない。第2次報告書では、「土対法の改正対応」までは書かれているが、肝心の「並行実施」の部分が抜けている。この点について記したのが記事Aの(2)項で、更に(3)項では本来どうすべきだったか(=建物予定地も含め形態1で2年間モニタリング後に建築工事)についての記述になっている。

以上
[追記]
並行実施は本文で紹介したように2009年2月資料で記載があるが、いつ頃から考えられていたかの参考になる資料があった。2008年10月21日第4回技術会議資料の中に「第3回技術会議の議論についての考え方」があり、以下のように土木工事と建築工事が連続しているスケジュールになっている。
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ただし、第3回議事録では次のようになっていて、東京都は「指定区域」ではないとしている。
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(委 員) 土壌汚染対策法では、対策完了の確認方法として、2 年間の地下水モニタリングが必要となるが、これを適用するのか。
(東京都) 新市場予定地は、現行の土壌汚染対策法の指定区域とはなっていない。
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しかし、第4回議事録では一転して次のように「指定区域解除」の話が出ている。この辺が改正対応の影響かも知れない。
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(東京都)前回の議論の中で土壌汚染対策法のことが出ていまして、豊洲の地区については、土壌汚染対策法は平成15年に施行されまして、法には直接の適用を受けません。といいますのは、この工場が廃止されたのは63年で、法の施行前になっています。ですが、土壌・地下水の浄化後、土壌汚染対策法の指定区域の解除要件、それは地下水を2年間モニタリングして、環境基準以下であれば、その指定区域というのは解除ができる。そういった確認を行うことを今検討しています。
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こうして見てみると、この時期に土対法改正対応で様々な検討が行われていたようである。その中でも、並行実施というギャンブル的対応が、どのような経過で考案・承認・実施されたのか、再調査を行うべき。結果的には開業延期で目論見は外れ、延期期間もまだ見通せなくて市場関係者などが多大の迷惑を被っている状況。大きな判断ミスであるから、今後の教訓のためにも経緯の解明必須。

追記以上