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建築設計業界の怠慢と闇

前記事が結構反響大きいようなので、新国立からの流れを多めにして豊洲地下空間を述べてみる。
まず、キールアーチ支持方式の経過を再掲。
 ①コンペ表彰式プレゼンテーション図…斜め杭(コンペ時も同構想と推測)
 ②フレームワーク設計…不明(JSC説明図はスタンド支持だが、ザハはアーチタイ?)
 ③基本設計…スタンド支持方式(2014年5月28日完了報告)
 ④実施設計…アーチタイ方式(2014年8月18日入札公募)
 
詳細不明な②を除く各段階の概要図を並べた。
イメージ 2
アーチの主要な定義は辞典(大辞林)によると以下のようになる
A.弓形に積み上げた石や煉瓦れんがなどによって上部の荷重を支える構造。窓・門・橋桁などにみられる。
イメージ 1
B.円弧。弓形。 「虹の-」 
 
Bの「形だけが円弧や弓形」の場合もアーチというが、建築的にはAの「構造」が重要。一般的なアーチ橋などを考えて頂ければ容易に分かる通り、③は支持方式が異なり、アーチ先端は極端に言えば「ぶらぶら」でありアーチ構造から逸脱している。
 
③の基本設計が公表されたのは2014年5月末だが、それを受けてJSC(日本スポーツ振興センター)は、JIA(日本建築家協会)等の団体や槇グループなど建築設計関係者への説明や回答を複数回行っている。
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■出席建築家…JIA会長「芦原」氏など建築設計諸団体代表7名+(JSC側)安藤氏・内藤氏・安岡氏など
■出席建築家…建築設計諸団体代表6名(上記と重複)+(JSC側)和田氏、ザハ、N建など
■槇グループ…槇文彦氏ら6名(上記建設諸団体代表と重複1名中村氏)
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この中にはザハ・N建を除いても、15名以上のベテラン・重鎮揃いの建築家諸氏が名を連ねている。これらの方々が、特に諸団体や槇グループ側は問題意識を持って新国立の設計を見ていたにも関わらず、アーチ構造という建築の根本部分での異常を見逃したことになる。(JSC側から基本設計の説明が行われている)
 
信じられない話だが、これが実態。基本設計段階で気づいていたら、多分2014年中にもザハ案はストップ出来ていたのではないか。翌年の総理大臣まで巻き込んだ白紙撤回騒動も必要なかった。ちなみに、アーチタイに変更しても、基本設計に致命的問題があることを認識出来ていれば、苦し紛れの弥縫策というのがすぐ分かる。少し調べれば、とても具体化出来ないレベルというのも見抜ける(実施設計書でアーチタイの具体的記述は無し)。
 
建築家の方々はこのような体たらくだったが、実際に担当していたN建の設計者は当然分かっていた。しかし、JSCには致命的状況を伝えなかった。それでJSCの幹部も危機感を持ち、外部の構造専門家に相談したりもして設計の状況を知ろうとしていたことが報道で出ている。しかし、隠すN建とザハの方が上手で逃げ切られたようだ。
 
当ブログでは、上記キールアーチ支持構造の変遷①~④とその後について、以下のような流れだったのではないかと仮説を立てている。
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①…建築の常識に沿ってアーチ両端を支持する構造で考えた。しかし、ザハ側が国立競技場の敷地の狭さをよく分かっていなかったので、支持部が敷地内に収まらなかった。
 
②…具体的設計を始めた早い段階で気づくことになって、ザハ側はアーチタイへの転換を考えた。それがU氏の<基本設計の初期段階でアーチタイを採用する方針となった>という話と思われる。しかし、N建は巨大アーチタイの設計は困難だから別の方法を考えた。
 
③…N建の考えたスタンド支持方式で基本設計完了とした。しかし、これも無理がありすぎた。
 
④…結局急遽アーチタイになったが、困難さはそのままだったから実施設計でも建てられる設計は出来ない。全くの迷走。更に復興や東京再開発等による建築コストの増大と開閉屋根の困難さもあって袋小路。
 
その後…ゼネコンは状況を知って、もはや降りることを覚悟で官邸に直訴。I補佐官という豪腕の国交省出身者がいて、同省からの出向者を中心に新計画のコンペをまとめてザハ案の方は白紙撤回。同補佐官は水面下の動きが得意で、ゼネコンと組んで情報をほぼ完全に隠蔽したから、今に至ってもザハ案の真相は表に出てきていない。
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当ブログ仮説というだけでなく、以下の記事がI補佐官登場に至る内幕を暴露していて参考になるので興味有る方は是非御覧ください。
 
さて豊洲の方。こちらもN建だが、新国立と同様に無理なことをやってしまった。それが地下空間(モニタリング空間)の設計になる。
 
佐藤PT委員は真逆の見方で、「現状地下空間は英知」としているが、それに矛盾があることは当ブログ11月17日記事で明らかにできたと考えている。
 
佐藤氏は配管スペースの考え方で「英知」としたが、各棟で配管スペースの必要高さが違うことはスルー。同氏は豊洲は巨大だから配管スペースは「3mかそれ以上」が適切とした。しかし、実際は4mで、これだけでも無駄がある。
 
更に、青果棟は排水設備が少なくて済むから2mでもいけるのではないか。実際N建自身の提案書の概略図を見ると、それぐらいの高さになっている。2mのところが4mでは、どれだけのコスト増になっているか。また、単に高さ2倍による分のコスト増だけでなく、地下写真で分かるフーチングの巨大化によるコストアップ等も当然ある。
 
PTの検討課題には「豊洲市場の建設費の適正性」が項目として明記。構造問題の一環としても、安全性と並行してコスト問題も検討することは必須。しかし、PTとして公約した専門家同士の打合せも一回も開かず、個人的見解の延長で安全宣言しようとしている森高委員や、それを許すなら小島座長も適正手続を逸脱していると言わざるを得ない。
 
新国立でのキールアーチ支持構造のように、設計の根本部分で無理が有ると影響はそれだけにとどまらず各部に波及する。例えば新国立では③基本設計でスタンド全体を免震化している。キールアーチを含む重い屋根フレームをスタンドで支持するためにやらざるを得なかったと推測される(新計画B案も免震だが全体ではなく中間層免震で部分的)。
 
しかも、アーチタイ追加によりキールアーチで屋根を支持する方式に戻した後も、基本設計時にスタンド免震の効能を謳ってしまったから、スタンド全体免震は実施設計でも残さざるを得なかった。スタンドの大きさを考えたら、どれほどのコストアップか。先日記事で<「キールアーチでコスト増大」もデマとしているが、これも間違い>と書いた理由の一つがこれで、キールアーチによる設計的混乱でコストは確実にアップしている。更にアーチタイは仮に作れても膨大な工費が想定され、「キールアーチでコスト増大もデマ」とは世間を誤らす虚偽。
 
このように新国立に関しては、まだ幾らでも書くことが有るが、豊洲に話を戻す。
無駄に大きい地下空間を作ったことにより、豊洲も他の部分に無理が波及している可能性を検証することは必須。それには例えば耐震性や床荷重の余裕の無さなども含まれてくるかもしれない。もちろん前述のコスト増大は間違いなく有る。総合的な検証が重要。
 
しかし、N建は抜け抜けと次のようなことを第2回PTで述べている。
<私どもは、法に則って設計を行い、法に則って安全性について本日ここで説明したつもりです。ですから、そのことだけはこの場で確認していただきたいと思っております。
  例えば、今、高野さんからいろいろなご指摘をいただいていますが、もし、私どもの最後の結論にご反論があるようでしたら、逆に危険性を証明していただきたい。そのことによって明確になるのではないかと思います。
 
→無駄な空間を成立させるために、フーチングを巨大化させて耐震性を一応満足させた(それでも係数0.1と0.2の問題等は残る)。それによるコストアップなどは「分かりっこない」とタカをくくったか、或いは示し合わせて、「危険性を証明して頂きたい」と開き直り。それなら、「地下空間の高さは一律である必要はない」と証明したから、各棟ごとに最適設計を行えば現状と概略どれぐらいのコスト差になるかを出して頂きたい。それによって以下の記事で述べた盛土問題の根源も明らかになってくる
 
ただし、これは東京都側の問題が大きいので又記事を改めて書く予定。しかし、N建はプロとして、都側の暴走を止めるべきだった。業界最大手N建に対する絶大な信頼に応える義務があったと思う。だが、実際には都側の要望を受け入れ、ある時は都側の「盛土に戻す検討依頼」を工期を盾に拒否したりもしていた。N建には期待が大きいだけに、新国立と豊洲では実態との落差が失敗につながった可能性有りと当ブログでは推察。
 
N建への信頼を端的に書いているのが、先日存在だけ触れた建築家「若山滋」氏の記事。
<きわめて技術力の高い組織による設計
 これは必ずしも理解を得られないかもしれないが、われわれには設計者に対する信頼もあることを告白しなければならない。この建築の設計者は、きわめて技術力の高い組織であり、メディアが指摘するような単純なミスはほとんど考えられないのである。建築界は裾野が広い。高度な技術をもつ組織と、そうでもない組織と、よく指摘される劣悪な組織とがあって、その差が大きいのだ。一般の人と話していて、われわれと認識が異なると感じるのは、その点である>
 
→「きわめて技術力の高い設計者」としているのが「N建」になる。これだけ絶大な信頼を寄せられながら、実態は発注者の表面的要求に応えるだけで、真に発注者側に立って考えることはしない(例えば今回は盛土をしないと、どうなるかなど)。問題発覚後も真の問題を隠したまま開き直りか、だんまり。
 
時代が変わってN建も変質したということかもしれない。若山氏などの信頼を考えると、多分その可能性が高いだろう。それなら発注方式も時代に合わせて変えることを考えるべき。設計会社の責任感が低下したなら、枠組みとして責任を明らかにする意味で、設計・施工一体方式を多くせざるを得ないのではないか。もちろんゼネコンにも変質はあるわけだが、最終責任を負うことで責任感を持たざるをえない。そこが設計会社との違い。過去の栄光で信頼しっぱなしの若山氏は余りにも甘いのではないか。
 
新国立・豊洲と続けて明らかになった「巨大プロジェクトの失敗から何を学ぶか」が重要なことは自明。しかし、「ザハ案は問題なかった」・「現状地下空間の方が良い」などと言う人まで出てくる。小池氏は「知らなかったことも問題」と処分者を増やすことで格好だけ整えようとする。設計の問題は隠されたままだから、教訓にもならない。(現状空間と土対法に関しては又別途書く予定)
 
N建にとっても、建築設計界にとっても、真相を明らかにする方が後々のためになることは確実。もっと建築家の方々の論議を期待したいが、新国立の経過で示されたように景観のような表面的で分かりやす問題からでないと、なかなか動かないようであるのが残念。
 
以上