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土壌汚染対策法に絡む根本的問題

前記事では「巨大地下空間の目的は、工期短縮を狙ったモニタリングと建築工事の並行実施」にあるという根本的重要事実の証明を示した。本日は土壌汚染対策法(土対法)に絡む根本的問題を明らかにする。3項目を挙げる。

(1)AP+2m以下の操業由来有害物質は完全に除去したと言えるか?
これが一番根源的問題と考えている。先日の第3回専門家会議でも次のような質疑があった。
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(質問者)先ほど私が言った「建物の下に有害物質が有るんですか無いんですか?」についてお答えを聞いてないんです。一番大事なことなんです。聞かせてください。
(平田氏)基本的に対策としては操業由来の汚染物質は除去したと云うことだと思います、目標はですね。ただし、埋め立て材由来なのか元々の有楽町層に入っていたのか。例えばヒ素ですよね。そういったものについては残置されている。でも10倍以上のものは無いというような理解でよろしいと思います。
(質問者)それは10倍以上は無いと断言できますか?
(平田氏)目標としてそうしているということです。
(質問者)目標だけですね、本当に安全じゃないってことですね?
(平田氏)だから、それは今地下水でチェックしているということです。
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要するに平田氏は「目標としてやっている」と述べて、「完全に除去できた」とは言っていない。曖昧な回答になるのは土対法の根本的課題に絡むからであり、端的に言うと以下になる。

”10mメッシュ毎に一箇所のボーリングでは、原理的に捕捉抜けの可能性があり完全な汚染の把握は困難” 
イメージ 4

以前の専門家会議第4回でも駒井委員が次のように発言。
10メートルでボーリングをしたからといって、必ずすべてが調査できるとはとても思われません。要するに、汚染の広がりが例えば1メートルしかなかった状況であるとすると、10メートルメッシュで測定したとしても、検知される確率はわずか1%に満たないわけです。>

これに対して平田氏は地下水での調査を重視しておられるようである。
ピンポイントの土壌の濃度はすごく外しやすいのですね。やりましても、大変難しいものがいっぱいあります。それに対して地下水というのは、溶けにくい物質、溶けやすい物質、いろいろ違いはございますけれども、地下水というのは、一度水に溶け出して、動きにくいとは言いつつ、やはり動いています。ゆっくりとでも拡散はしていますので、周辺の濃度を反映している可能性が高い。あくまでも可能性の話ですので、絶対そうかと言われるとなかなか絶対ということはありませんけれども、地下水は周辺濃度を反映しているということだろうと思います。

上記質疑でも、続く部分で以下のように述べておられる。
<基本的には地下水の方が。土壌の方が非常に不均質なところがございますので、地下水で溶けた状態であれば、より広い範囲の汚染を拾っていると私はそう思っています。>
→「土壌は不均質だからボーリングでは捕捉漏れがあり得るが、地下水の方で広範囲の汚染検出が出来ている」という趣旨と考えられる。

更に、「完全か?」という質問者の念押しに対しては、<完全というのは世の中で、なかなか使えないと思いますよ>と一般論に振っておられたので、結局は「完全に除去できているとは言えない」ということになる。

また、都側の見解も、「ミニユンボは万が一の場合のため」と繰り返し述べているのだから、「汚染除去は完全ではない」と言っているのと同様になる。加えて実際においても、8月測定で基準超過が出てしまっている。

このように、10mメッシュでの調査に基づく対策を行っていても、「可能性的にも、実際にも」汚染は取り切れないことになる。では土対法として、この課題はどうなっているかというと、Wikiの同法の項に問題点として次のように書かれている。
<4.…、この法律に定められた調査を実施したとしても、汚染を見落とす場合がある(土地に汚染がないことを証明する調査ではないことによる)。よって、後に汚染が発覚した場合にあっては、責任を免れることができない
Wikiであるため公式見解とは言えないが、少なくとも当方の問題認識「汚染がないことを証明する調査ではない」と合致する。以降の考察は、この見解を元にするが、土対法もこの問題点をそのままにするのではなく、辻褄は合わせてあると思われるので次項で述べる。

(2)「摂取経路の遮断」が重要
改正土対法で導入された「形質変更時要届出区域」の規程は次のようになっている。
<②形質変更時要届出区域(第11条)
土壌汚染の摂取経路がなく、健康被害が生ずるおそれがないため、汚染の除去等の措置が不要な区域(摂取経路の遮断が行われた区域を含む。)>
→土壌汚染があっても「摂取経路の遮断」が行われた場合は、「要措置区域(第6条)」から外れるので土地利用が可能になる。

この規定は、前項の10mメッシュ調査に基づく対策での「残留汚染物」についても適用できるのではないか。つまり、「有害物質が完全に取り切れなくて残留していても、「摂取経路の遮断」(以降「遮断」)が行われていれば、そのまま使用可能となり実質的影響はなくなる。これが前項で述べた「土対法としての辻褄合わせ」になると当方は考えている。

この考え方からすると、「遮断」が非常に重要になる。そして「建物下の盛土無し」は「遮断」の条件を満たしているかどうかという話になる。揮発性物質の遮断にはなっていないと思われるが、揮発性物質の遮断は現在の土対法では規定されていない。

ただし、砕石層は穴があるから、例えば技術会議の委員だった長谷川氏は「砕石層の下の土壌が出てくることも考えるべき」という趣旨の発言をTVでしていた。しかし、砕石層の写真を見ると結構細かいし、地下では風が吹くことも殆ど無いだろうから、実際にその下の土壌が出てくるかどうかも不明なところがあり、考え方が難しい(換気すると、どうなるかという新たな問題もある)。

結果的に、まず「建物下の盛土無しが土対法上でどういう解釈になるか?」を論議の出発点にすべきと思う。そこから論議を積み上げていく。更に、専門家会議としての考え方が加わる。

そして、今になって考えてみると、専門家会議再招集の記者会見で平田氏から次のような発言があって(9月17日毎日新聞)、違和感を覚えた記憶がある。
<平田氏は「(新たに)盛り土をするのは物理的に難しいとも思うが、現状を調べ評価するしかない」と述べた>
→最初に「盛土は難しい」と言ってしまうのではなく、「土対法の規程からすると現状はどのように位置付けられるか」を先に明確化すべきだった。また、専門家会議提言に盛土を入れてある意味も、マスコミに伝わるように説明すべきだったと思う。そうすれば一部識者の土対法や専門家会議提言の意味を考慮しない主張による撹乱も相当避けられたのではないか。

当ブログでも11月2日記事”専門家会議提言等での「盛土の効果」”を書いたが、それまでは「揮発性汚染物質の遮蔽に対する盛土の効果」は認識されにくかった。ただし、前述のように土対法には現在のところ「揮発性物質の遮断」については規程がない(対象は土壌と地下水)。しかし、水銀の指針値オーバーという事態もある。どう考えるか。

結局、専門家会議は土対法や自らの提言の趣旨に照らし合わせて現状をどう考えるか、早めに見解を出す必要があると思う。
土対法関連と専門家会議提言趣旨を併せた論点を例示。
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①建物下の有害物質は完全に除去されているか?
→前項(1)のように「完全」と言うのは困難と思われるが、専門家会議並びに都側として正式見解を出す必要あり。そうしないと冒頭のようなやり取りが繰り返されることになる。
②地下空間の底面は、土対法上の「摂取経路の遮断」が行われているか?
→盛土は無いが、50cmの砕石層はある。前述の長谷川氏見解のように、砕石層では土壌の遮断は行われていないと見るかどうか。また、土対法にない揮発性物質の遮断についても、水銀の件があるので、どう考えるか。
③現状の地下空間底面コンクリートは「遮断」になるか?
→青果棟は砕石層のみだか、水産棟では砕石層の上にコンクリート(捨てコン?)がある。土壌の遮断には十分と思われるが、揮発性物質に関してはどうか。
④換気による対策の法的位置付けはどうなるか?
→現在土対法に規程がない「揮発性物質遮断」に関する対策だから、法的な制約は無いということで良いか。ただし、排気は環境アセスで考慮する必要があるか。また、換気で風が流れるが、②の「土壌の遮断」に対する影響の有無はどうか。
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色々課題が考えられるが、根本的に過去の専門家会議提言は2008年7月で2009年4月土対法改正の前になる。改正で導入された規程、例えば「要措置区域」と「形質変更時要届出区域」(以降「要届出区域」)や、その状態間での遷移・指定解除なども踏まえた論理立てが必要と思われる。

加えて、土対法だけでなく、都側が当初から強調してきた安全性の考え方の面からも再検証が必要。例えば都議会「経済・港湾委員会」2010年11月16日での塩見管理部長(当時)答弁。
二重三重の封じ込めを行うことにより、安全性については全く問題が生じない、そういうものでございます>
→これを具体的に以下のように想定してみる。
 ・一重目…AP+2.0m以下の操業由来有害物質(以降「操業由来物質」)除去
 ・二重目…盛土
 ・三重目…1階床コンクリート

それぞれについて考えてみると、まず一重目の除去は(1)項で述べたように、平田氏も都側も「完全ではない」・「万が一がありうる」としているのだから、心許ないということになる。
二重目は、建物下の盛土無しで全く条件が変わってしまった。三重目も例えば再招集後の第2回専門家会議で内山委員が次のように発言。
<内山委員  前の専門家会議のときに地下空間を利用したいという案が出たときに、やめた方がいいですという発言をしたのも、つくれば換気をしなければいけない。コンクリートのひび割れ等でメンテナンスも必要だということで、大変面倒になるからという意味もあって、つくらない方がいいのではないかということだったと思います。>
→換気の検討は進められているが、「コンクリートのひび割れ懸念」はどうなっているのだろうか。同委員は医師で建築関係の専門家ではないが、正式会議での委員による表明である。
土対法で10cm以上のコンクリートでもOKとなっているが、ひび割れまでは考慮されておらず、実施者の責任になる。この辺は法律の読み方をよく考えないと趣旨を間違えることになる。

さて都側はPTでの森高委員発言などをつまみ食いして都議会答弁したりしているが、「内山委員から示された懸念については検討しているのか?」ということになる。専門家会議自体も「盛土無し」という、提言時には想定外の事態なのだから、換気だけでなく「ひび割れ懸念」についても都側に検討指示する必要があるだろう(故障等で換気停止などもあり得る)。やはり、こういうところでも厳密さが不足しているように感じる。
総合すると、上記の「三重対策」でも大丈夫と言い切れるのか釈然としない事になる。きっちりした論理立てでの検証が望まれる。

なお、土対法の絡みでは「自然由来有害物質」の件も重要になって来ているので次項で記す。

(3)自然由来有害物質の解釈
農水省の解釈で以下のようになっているのは皆さんよくご存知の通り。
イメージ 1

そのまま見れば「要届出区域指定」では中央卸売市場として認可されない可能性が高い。都側は、これを認識して2年間モニタリングで指定解除を図ったことが推察される。しかし、基準値超えが出てしまった。この件もどうクリヤするつもりなのか曖昧。

そこで出て来ているのが「自然由来有害物質」(以降「自然由来物質」)の件。「自然由来物質が有るから要届出区域は解除されない」という発言を聞くことが多くなったように思う。

11月の測定結果にもよるが、8月の基準値超えは3区画で、まさかそこだけ除いて開業するというようなことは、これだけ注目が集まった中で困難ではないか。そうなると指定解除には、少なくとも後2年か、それ以上はモニタリングを続けなければいけないことになる。当然都側は何とかしようとする。その際に、自然由来物質で解除できないことを利用して、「指定解除されなくても農水省に認可してもらう方策」も考えてくるのではないか。

しかし、以下のように自然由来特例区域(以降「特例区域」)という規程が平成23年(2011年)に制定されている。
イメージ 2

「要届出区域」であっても、この「特例区域」に申請することが出来る。ただし、自然的原因による汚染と人為的原因による汚染が認められる土地では、人為的原因による汚染土壌を除去しなければ特例区域には指定されない。

豊洲は、現在の東京都HPで以下のように指定されている。
イメージ 3

豊洲では形質変更は行わないから、特例区域として承認されても直接的メリットはないだろう。しかし、操業由来物質について2年間モニタリングを行って問題なければ、自然由来物質があっても「特例区域」に申請できる。自然由来物質がない区域は要届出地域指定が解除される。結果的にモニタリングが上手く行けば、残るのは「特例区域」だけという状態が生まれる。

この「特例区域だけになった状態」で農水省に申請すれば、操業由来物質に関しては「要届出区域指定が解除されたと同等の状態」とみなされてOKされる可能性も出てくるのではないか。この流れで行ければ、「自然由来物質で解除できない」という話は、農水省認可に関しては余り意味を持たないように思う。(個人的見解)

ただし、今は「2年間のモニタリングがクリヤ出来ていない」という問題自体も突っ込んだ論議がされていない。しかし、今後都側が「自然由来物質による指定解除不能」を理由に、モニタリングと指定解除の問題を都合良く曲げてしまう可能性を考慮に入れて、この項を記した。

以上
[追記]
改正土対法の大きな狙いは「汚染除去偏重」の風潮を改めてもらうことなので、要届出区域のままの使用は同法の趣旨に合致すると言える。しかし、卸売市場の特殊性も当然考慮必要。そのため、当ブログ見解としては、要届出区域のままでの開業に関して今のところ適否が判断出来ていない状況。

このように土対法は、見れば見るほど非常に難しい法律と感じる。だから豊洲問題は、例えば建築家の「若山滋」氏が書いておられるような簡単な話ではないと思う。
<都庁内の調査は、安全の問題よりも、盛り土をしないことの報告を怠った問題に焦点を当てているようだ。しかし一般の人はこの二つを峻別することが難しいので、スケープゴートがつくられるとすれば気の毒なことである。手続き論としては確かに手抜かりであったかもしれないが、専門家会議の決定通りにすれば、土を盛ってまたすぐにその土を掘り返さなければならないことになり、その無用なコスト(血税)を省く信念の決断をしたというのなら、理解できるのではないか。>

→報告を怠った問題でも、単なる手続き論だけでもなく、「モニタリングと建築工事の並行実施」と云う根本的問題が未だに隠されていたりする。
そして土対法は非常に難しい。「土を盛って、すぐ掘り返す」のではなく、都側が当初目標とした指定解除を目指すとすると2年間のモニタリングが必要。そのモニタリングでNGになる可能性があり、実際になっている。若山氏は土対法のことを考慮せずに書かれていることになる。これでは意味のある見方にならない。豊洲問題の難しさの表れと思う。(当方もまだ分かっていないところは多々あるので、ご指摘ご意見等ありましたらお寄せください)

更に、仮に民間がこのような問題を起こして発覚したら、「今から盛土は無理です」と言って済まされるだろうか。当然厳しい追求があり、ものすごい量の検討が求められる。監督する側の東京都に、こんなに甘くて良いのだろうかという気がしてならない。まさに「示しがつかない状態」ではないか。こういうところまで考慮する必要があると思う。しかし、専門家会議もPTも、そして深く考えない一部識者らも、生ぬるい言説で都側の逃げ切りを助けているようにも感じる。

追記以上