kensyou_jikenboのブログ

yahoo!ブログの同名ブログを移行しました

(続)土対法に絡む問題

土対法に絡む問題がまだあるので続編。ただし、ややこしい話が多いので分かりにくくなるが、当方の備忘録として記す。

(4)自然由来有害物質は盛土で封じ込めの構想だった
前記事で取り上げた「自然由来有害物質(以降「自然由来」)」について、同記事で紹介した都議会「経済・港湾委員会 平成22年(2010年)11月16日」で関連する質疑が有った。
----答弁1 開始---
臼田基盤整備担当部長 改正法におきましては、対策の基本的な考え方といたしまして、土壌汚染の摂取経路を遮断するための封じ込め対策を講ずることとされてございます。
  これに対しまして、豊洲新市場の予定地においては、操業に由来する汚染七物質すべてを除去するとともに、自然由来については封じ込めを行うなど、改正土壌汚染対策法を上回る対策を講ずることから、安全性に全く問題はございません。
  土壌汚染対策法の改正によりまして、人の活動に伴って生ずる汚染に加えて、自然由来の汚染についても法の対象となりましたが、自然由来の汚染は、汚染土壌の搬出、運搬、処理に関する規制等の観点から対象外としたものでございまして、掘削除去等の対策を求めたものではございません。
  また、専門家会議は、過去の東京ガスによります調査、対策結果を踏まえまして、ガス工場操業に由来いたします七物質による汚染はすべて除去することとしており、そのうち、砒素、鉛については、土壌溶出量が環境基準値の十倍以下を目安に、自然由来として封じ込め対策を講じることとしております。
----答弁1 終了---

まず、自然由来の前に「操業に由来する汚染七物質すべてを除去する」と明言。これは前記事で紹介したように、専門家会議の平田氏や駒井氏も言及している通り、原理的に困難。土壌改良担当の責任者である「基盤整備担当部長」が、原理を認識せずに発言をしているわけで、都側の体制はどうなっているのかということになる。

そして、自然由来は基本的に全域に渡るような話だから、最初から除去ではなく「封じ込め」で考えられていた。その方法は以下のように盛土になる。
----答弁2 開始---
臼田基盤整備担当部長 環境省作成の土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン暫定版によりますと、自然由来とは、砒素、鉛など重金属八種類のうち、土地の履歴などを検討し、土壌溶出量で環境基準値の十倍以下であり、かつ全量分析値がガイドラインの目安の範囲内にあるものでございます。
  専門家会議の豊洲新市場予定地におけます対策は、環境基準値を超過するベンゼン、シアン化合物、カドミウム、水銀、六価クロム及び十倍以上の砒素、鉛を操業に由来する汚染といたしまして、深度方向の調査を行った上で、すべて除去することとしてございます。
  一方、自然由来でございます十倍以下の砒素、鉛につきましては、深度方向の調査を行うことなく、二メートルの土の入れかえ、二・五メートルの盛り土やコンクリートアスファルトで封じ込める対策を講じることで、土壌汚染対策法が求める安全性は十分満たしてございます。
  専門家会議の提言を確実に実行することで、市場用地としての安全・安心を確保してまいります。
----答弁3 終了---

やはり、盛土は対策の中核をなす要素で、それが建物下は全く無い。専門家会議は換気等の対策だけでなく、現状地下空間が土対法上で、どう解釈されるか綿密な検証を行っておくべき。

また、臼田部長の上司で新市場の技術部門トップ、そして第2次調査報告書で「特に責任あり」と繰り返し指摘されているM部長も次のように発言。
----答弁3 開始---
宮良新市場整備部長 ・・・専門家会議の提言、この対策は何かというと、工場操業地盤がAP四(m)とお話ししています。四(m)から二(m)、そこは全部入れかえて盛り土をする。・・・
(対策で)法律--法律というのは土壌汚染対策法、また、具体的には食の安全・安心の観点からも、十分安全性が確保できると考えております。
----答弁3 終了---

「AP+4mから2mは全部入れかえて盛り土」と明言。4mから上は言及していないが、直前に臼田氏発言があり、AP+6.5mまでの盛土を認識していたことは確実。

特に「全部入れ替えて盛土」と言っていることは注目される。M部長は「専門家会議の提言(=全面盛土)」という前提まで入れて盛土のみでの答弁。盛土無しを主導したと報告書で特定されているM部長が、少なくとも2010年11月段階では全面盛土で対策の認識を示していた。

なお、臼田氏も他の部分の答弁で次のように述べていて、全面盛土の認識は確実。
<具体的な対策は、深さ二メートルまでの土壌を、新たに購入した土などですべて入れかえまして、その上に、きれいな土で二・五メートルの盛り土を行い、さらにアスファルト等で舗装することで土壌汚染の摂取経路を完全に遮断し、二重、三重の封じ込めを行うものでございます。>

しかし、2008年末から2009年初めにかけて作成された盛土無しの地下構造検討図は、M部長指示で作成との証言が報告書に掲載(M部長否定)。一体どうなっていたのだろうか。

また、第一次報告書で、盛土無し状態の(当時の)安全性認識について次のように書かれている。
<4 なぜ、盛土を行わず地下空間を設けることを専門家会議・技術会議に報告しなかったのか
○地下空間の設置を判断する際の安全性については、①法の義務を越える二重三重の対策を講じていたこと、②建物下と地下空間との間の1階部分のコンクリートの厚さを確認していた、などで十分対策できているとの認識があった。>
→上記答弁からは、両部長はこのような認識ではなく盛土を考えていたことになる。しかし、専門家会議提言に反する重大変更について、両部長の承認無しに課長以下だけの判断で実行するはずもないし、出来ない。ちなみに、情報はM部長のところで断絶というのが第2次報告書の趣旨と考えられるが、その状況からしてもM部長までは承認していないと行えないだろう。

それでもM部長は否定しているし、この不可解な状況をどう考えるかについて、次項で経過を遡って考察してみる。

(5)「盛土無し」に至る経過の再検証
前述した「地下構造検討図」の作成日付は2008年11月と2009年1月。しかし、2009年2月の技術会議報告書は盛土有り。また、同報告書を受けて同月決定された「豊洲新市場整備方針」(以降「整備方針」)も同様。

しかし、例えば郷原信郎氏は同報告書の記述解釈について、以下のような見解を発表しておられる。
<技術会議報告書には、「エ 埋め戻し・盛り土」の項目の中に、小項目として「①砕石層設置」「②埋め戻し・盛り土」が設けられ、「砕石層設置」については「敷地全面にわたり、A.P.+2mの位置に厚さ50㎝の砕石層を設置する」と書かれているが、「埋め戻し・盛り土」については、「砕石層設置後、計画地盤高(A.P.+6.5m)まで埋め戻し・盛り土を行う」と書かれているだけで、「敷地全面にわたり」とは書かれていない。
→だが、まず専門家会議提言は文章だけでなく図も出して、明確に「全面盛土」を説明している。技術会議報告は「専門家会議の提言を確実に実現」としているから、変更明示がない重要事項は維持されると解釈するのが妥当。郷原氏のような法律のプロが、全体の流れではなく、言葉尻を捉えたような解釈をすること自体も個人的に驚いた。

ただし、整備方針については、このところの記事で紹介しているように、「モニタリングと建築工事の並行実施」前提のスケジュールになっていることも事実。これは「盛土無し」につながる話になる。ただし、並行実施でも盛土ありという手法も考えられる。

実際に、11月15日記事”2010年環境アセス案では「地下2層式」で盛土有り”で、平成22年(2010年)11月の「環境影響評価書案」では次のように建物下の盛土が記載されていることを紹介済み。
<AP+4mまでに埋め戻しの後、計画地のうち、新市場の建物予定地以外はAP+6.5mまで盛土する。また建物予定地は、AP+6.5mから建物の根切り深さを除く高さまで盛土する>
→4.5mではないが、基礎を除いた高さの分は盛土することが明記されている。上記答弁でM部長がAP+4m以上について触れなかったのは、この記述を意識していたかどうかは微妙だが、「AP+4mから2mまでは盛土」と明言したことの辻褄は合っていた。(環境影響評価書案と答弁は両方とも2010年11月で同時期)
また、この時点でも両部長が盛土有りで公式答弁しているのだから、前述の郷原氏見解とは反している。

これに対して、「盛土無し」が明確に出てきた契機は、「平成23年(2011年)3月8日に東京都が日建設計に提出した資料」で、検討事項の第一番目に「モニタリング空間」と「小型ユンボ・マシンハッチ」が挙げられていた。

これらの経過と注目点を整理してみる。
------
①2009年2月「新市場整備計画」には相矛盾する複数の思惑が含まれていたのではないか
→・モニタリングと建築工事の並行実施による工期2年短縮スケジュール…明記せず
 ・専門家会議提言尊重の技術会議提言を受けての全面盛土…公式提示
 ・M部長指示によるミニユンボ用作業空間設置の地下構造検討…表には出さず
②2010年11月環境影響評価書案の地下2層式(仮称)が一番妥当ではなかったか
→4.5mではないが、基礎部分(配管スペース含むと思われる)を除く盛土が明記されていた
③2010年3月基本設計で小型ユンボ稼働可能なモニタリング空間を日建設計に検討要請したことが盛土無しを決定づけたのではないか
→2009年1月作成などの地下構造検討図も提示
------
特に、②から③は約4ヶ月。少なくとも見かけ上はこの間に、「盛土有り→無し」の変化があったことになる。
①のすぐ後の2009年4月には土対法が改正され、翌2010年4月施行。改正対応で「形質変更時要届出区域」の指定解除問題が、潜在的に大きくなっていったのかも知れない。
②と同月に上記委員会答弁があり、M部長は全面盛土実施を明言。専門家会議提言の尊重は続いていた。また同月には基本設計起工(「モニタリング空間設計等は本設計に含む」との記載有り)も行われた。
②と③の間では基本設計起工を受けた日建設計から建物下にも盛土有りの技術提案書提出。日建が、この時点では土対法規程を認識していた可能性は大いに有りと思われる。
③では余りにも明確に検討課題の一番目として示されたことが疑問。工期短縮優先としても、専門家会議提言に反する重大変更としては、軽すぎる対応の様にも思える。これを誰が主導し、実際に動いたのは誰か、が解明の鍵ではないか。
更に直後の4月1日からは「施設整備担当部長」が交代という新たな状況も有った。新部長は、部下からモニタリング空間の図(ミニユンボ入りと推察)を見せられて「設計与条件と思った」との証言が報告書にある。これも後々に影響した可能性大。

このような流れの、それぞれの段階で何が起きていたか。例えば「土壌対策担当部長の交代」について考えてみる。会社でもよく有りそうなストーリーが浮かんでくる。M部長の下に担当部長が2名いて、M部長は統括の立場になり実務の責任は担当部長に任せたのではないか。そして担当部長は他部署から来たばかりで(キャリアの定期異動と思われる)、ミニユンボ作業空間を含んだモニタリング空間設置を与条件と思い込んで進めた。

このような偶然も重なって、①の混沌状態から、「工期短縮」はずっと至上命題として、実態は日建との打合せ議事録で見られるような紆余曲折を経て現状の形になったのではないか。
このストーリーの適否は別として、やはり一番のポイントは②と③の間での変化ではないだろうか。評価書「案」や「検討事項」とは言え、「盛土有り→無し」の変化が公式文書で証明できるのだから、都側やPTは経緯の再調査を行うべきと思う。

(6)認可に対する「農水省の考え方」読解方法の一案
小池知事が示した検討ステップの最終段階になる農水省認可に関して、10月のツィートになるが、おときた議員が次のように書いていた。
<おときた駿(東京都議会議員 /北区選出)2016年10月2日 
届け出区域の件、確認しました。「汚染の除去の措置を行わず」という前提がついている部分がポイントで、豊洲の場合は化学除染済であるため、農水省ガイドラインはクリアしています。都が施設の完成まで申請を待っていただけで、申請すれば農水省からのは許可は降りる状態だったと言えます。>
→「確認しました」というのが、どのような経路なのかは不明だが、「申請すれば農水省からのは許可は降りる状態だった」としている。その理由として「汚染の除去の措置を行わず」との前提がポイントとのこと。

これは前記事に貴重なコメントを頂いた「sti**dog*2」さんの見解も同様と思われ、更に詳しく説明されている。
農水省は形質変更時要届出区域のままで、認可すると考えます。農水省資料では「汚染の除去の措置を行わない場合は市場用地に想定できない」とされていますが、逆に言えば「汚染の除去を行えば市場用地に想定できる」ことになります。よくある役所流の言葉のマジックです。資料が作成された時点で、豊洲は区域指定解除が不可能であると東京都も農水省も承知していたにもかかわらず、東京都は認可に向けて工事を続行し、農水省豊洲を整備計画に登載したことが何よりの証拠です。>
→当方も都側はこれを含めた何らかの解釈によって、「形質変更時要届出区域」指定のままでも農水省に認可してもらう方向に持っていこうとする可能性は高いと推察。

ただし、当ブログなりに詳細読解すると、これから都側がどう解釈しようとも、農水省資料は本来、次のような解釈が妥当と思える。
まず、農水省資料の元になった環境省資料(左側)を参考に示す(右側は拡大…以下同様)。
イメージ 1

農水省作成資料は下図。
イメージ 2

図中でA・B・C・は、全てA(=「形質変更時要届出区域」)に対する説明と見るのが妥当。結果的に、CはAに対する説明になり、「卸売市場用地の場合には想定し得ない」はAが対象になる。つまり、”「形質変更時要届出区域」は卸売市場用地として想定し得ない”というのが農水省見解のストレートな解釈と当ブログは認識。

では認可されるには、どうすべきかというと、D・Eの方に行けば「(形質変更時要届出区域の)指定解除」になって、卸売市場として認めることが出来る。これで論理は合うから、それを当方で「○☓」の印を付けて表した。一つの文書で○☓が完結している。

これをBにある「汚染の除去の措置を行わず」を元に別解釈しようとすると、○と☓以外のグレイゾーン?を別に設定することになるのではないか。例えば以下。
------
・F:土対法の10mメッシュ規程での調査を行って対策工事を実施し、2年間モニタリング実施中(8月に基準値超えが出るまでの状態…区域指定はされているが指定解除予定だった)
・G:同上の調査を行って対策工事を実施したが、2年間モニタリングでは基準値超えが発生(現在の状態…更に2年間モニタリングしないと該当区画は指定解除できない)
------
都側と農水省が了解していたのがFなら、11月開業も辻褄が合わせられていただろう。
しかし、Gでは農水省は認可するのだろうか(自然由来の件は除く)。もし東京都と組んで認可する方向に行くなら、どのような解釈になるか注目したい。特に土対法には「要措置区域」・「形質変更時要届出区域(この中に自然由来特例区域あり)」・「指定解除(指定無し)」という少数の状態の規程しか無い。これに対して、別途Gのような状態の考え方を持ち込むのかどうか。

また、もし無理筋と見られる解釈になると、都と農水省は了解し合っていても、「開業差し止め」などの訴訟提起されると厳しくなる可能性あり。特に農水省側は、そのようなリスクをどう考えるか。結構難しい判断になるかもしれない。

なお、前記事でも書いたが、当面は11月測定の結果が最重要と思われる。基準値超えが2度続くか1度だけか、ではイメージ的にも影響が大きいだろう。8月測定の時は9月末には暫定結果が出たから、11月測定でも今月末か1月初めには出るだろうか。

以上