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盛土問題の根源…改正土対法対応でのモニタリングと建築工事の並行実施

このところの記事で「土壌汚染対策法(土対法)」と豊洲の関連を検証してきた。その中で盛土問題の根源は、同法改正(平成21年4月公布、平成22年4月施行)への対応が発端だったことが見えてきた。それを次の3項目により説明。まず、項目を示して、その後考察。

(1)東京都第2次自己検証報告書
 → 都側も土対法改正の対応が主要因と認識し報告書に明記

(2)豊洲新市場整備方針(平成21年(2009年)2月)
 → モニタリング期間と建築工事が並行するスケジュールになっていた

(3)本来やるべきだった工程の組み方
 → モニタリング期間終了後に建築工事に取り掛かる

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[考察]
(1)東京都第2次自己検証報告書(該当箇所)
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この章の表題に「土壌汚染対策法の改正」が入っており、都側は経緯を的確に掴んでいる。その上で、他の章も併せ「情報を上層部に伝えてなかった」ということでM部長の責任が特に大きいと断定。「言語同断」とまで言い切っているから、明確な証拠や証言があると推察。しかし、M部長は否定。特に重要な証拠となる2枚の地下検討図の作成指示まで否定されたら報告書の見解は未成立。部下証言等との食い違い理由を解明すべき。同部長は都庁退職しているとはいえ関連団体の役員で、都側の調査は甘いと言われても仕方がないだろう。

ただ、同部長が否定している理由を考えてみると、報告書の以下記述が関係しているのではないかとも思える。

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まず、前段記述で、建築の担当部長が交代している。都庁キャリヤの定期的異動の一環と推測されるが、これで情報の断絶が起きた可能性あり。そして新任部長はモニタリング空間の検討図を見せられて、「設計与条件」と思い込んでしまった。(都のガバナンス改革では、このキャリヤ異動の弊害は取り上げるべきだろう)

後段記述では、2枚の図を日建設計に見せたのは平成23年(2011年)3月なのに、同年5月時点でモニタリング空間の内容は確定していなかった。「設計与条件」と思ってしまってもポンチ絵レベルの検討図だから、曖昧な状態だったと想定される。こういうところから、M部長は「明確に指示したわけではない」と考えていて主導を否定しているのかも知れない。解明には、やはり百条委員会が必須と思う。

(2)豊洲新市場整備方針(平成21年(2009年)2月)
前項のように、M部長否定とはいえ、報告書は明確に経緯を書いている。しかし、その真意が世間にもマスコミ等にも余り伝わっていないようなのは何故か? 

考えてみると、やはり報告書では肝心なところが抜け落ちている。それが下図の下側にある「モニタリング期間2年と建築工事の並行」になる。

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並行させるために建築工事中もモニタリング可能な空間が必要になった。並行は当然工期短縮目的であるが、その指示がどこから、どのようにして出てきたかは現時点では未解明。また、並行が問題であることは、色々な人が気付いていて指摘もしていた(例を追記に示す)。

しかし、M部長率いる担当部署は並行工事で走ることを最初から検討していて、その証が2枚の地下検討図になると思う。それでも地下水採取用の空間だけなら配管スペースとの共用も考えられる。だが、ミニユンボを入れると盛土は無しにせざるを得ない。では何故ミニユンボが必要か?

この点は、モニタリングの必要性とともに都側が技術会議(第8回)で説明している。
<私どものほうとして、土壌について環境基準を超えるものを除去し、地下水についても環境基準以下に浄化していくといった対策をした後に地下水質のモニタリングを行いまして、さらに万が一、地下水中から環境基準を超えるような汚染物質が検出されるといった場合にも、汚染地下水の浄化が可能となるように、例えば、建物下ですと、今後そういった物質が出てきたときには対策がとれないわけでございますけどもそういった対策は、地下水浄化ができるような、そういった作業ができるような空間も確保するといったことで、この指定区域がかけられたとしても解除が可能だろうというふうに私ども考えています。
→「建物下」が入っており、モニタリング期間中に建物が建つことを想定。これが「並行」を意味していた。ただし、委員だった長谷川氏は「地下水管理システムのことと思っていた」とTVで証言。しかし、都側は「指定区域の解除」に言及しているから、やはり改正土対法を想定した対応。それでも技術会議で改正土対法や指定解除等の突っ込んだ議論はなされておらず、都側の思い先行の感があり、メンバーには趣旨が伝わっていなかったことが考えられる。また、その状態だから同会議は提言へのモニタリング空間の盛り込みを認めなかったことになり、辻褄が合う。

だが、都側は前述2枚の図面などでモニタリング空間の検討を進めていた。上記技術会議説明のように、「モニタリング期間中に万が一基準超過が検出されたらどうするか?」という課題が当然出る。その対応として、地下水浄化の作業ができるようにということで、ミニユンボ作業空間のアイデアが出てきたと思われる(但し配管の多さやミニユンボの能力等からリアリティは薄い)。

この発想が盛土無しの元凶ということになる。ただし、専門家会議提言や技術会議報告、及び内部外部への説明等との相違を無視したくない意思も当然働いて、設計段階では幾度も紆余曲折が繰り返された。しかし、最終的には盛土無しの空間になってしまったという経過。これが当ブログが到達した「盛土無し」問題の根源だが、さて皆さんはこれをどうお考えになるか。

また、都側でも並行実施の問題であることを分かっている人はいると思う。しかし責任問題になるから、報告書は、しっかりそこを隠している。M部長の方は、モニタリング空間について2011年8月部課長会で「作らないのはダメだと言っただけ」との証言が報告書にある。同部長は上記整備方針の策定時も担当部長だったから、並行実施は必須とするが、具体的やり方の詳細までは指示或いは決定していないという認識なのかも知れない、

(3)本来やるべきだった工程の組み方
モニタリングが2年間問題なしで終了してから建築工事を開始すべきだった。モニタリング期間中は例えば以下図のどちらかの状態でモニタリング実施。

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これだと専門家会議提言とは厚みが違うが、建物下も盛土可能。厚みの違いは同会議に再検討して貰うことが出来たのではないか。このように筋を通すべきだった。しかし、2年間の工期を稼ごうとして、結果的には今の混乱を招いてしまった。工期的にも環境アセスなどの状況によっては、2年ぐらい遅れる可能性も出てきている。実に残念なことになった。

なお、土対法関連で、もう少し突っ込んで考えてみると、「形質変更時要届出区域」の指定解除が結構な曲者。築地問題に長く取り組んでおられる「中澤誠」氏のツィートを追記で載せるが、2014年2月において次のような指摘をされておられた。
土壌汚染対策法に基づく調査・対策は、汚染物質の見逃しを前提としており、地下水まで汚染された豊洲用地の場合、モニタリングで汚染が発覚する可能性は高い。
→10mメッシュの中の1点での測定だから「見逃し」が出るという指摘。結局この通りになったと思われ慧眼。ただし、土対法もちゃんと整合性が考えられている。対策後に、もし汚染物質が残っても、盛土やコンクリ-ト/アスファルトで「摂取経路の遮断」をしておけば、そのまま使い続けて良いという規程になっている。しかし、豊洲では都側の解釈が甘くて、広大な建物下の盛土を全て無しにしてしまった。

また、農水省の認可方針「(要届出区域指定のままでは)生鮮食料品を取り扱う卸売市場用地の場合には想定し得ない」との兼ね合いがハッキリしていないのは不可解すぎる。地下水管理システムで開業後もずっと水質管理が行われ、水質が定期的に測定される。汲み上げた地下水は浄化して流すから、もし汚染があっても問題無くなる。しかし、基準超過が検出されると、指定解除になっていても、実質的には「形質変更時要届出区域」相当となる。これでは矛盾してくるから、指定解除ではなく、指定のままでも認可して貰うよう交渉しないと、整合性が取れないように思う。

なお、余り遡りすぎると「後付け」の話にもなってしまうが、豊洲はやはり「そもそも」を考えざるを得ない。やはり東京ガス跡地は汚染が多すぎた。中央市場HPにあるQ&Aで当初の汚染状況について以下のように説明されている。
<Q:豊洲新市場予定地の土壌汚染はどのように調査したのでしょうか。その結果はどうだったのでしょうか。
A:東京都の調査は、まず、平面方向の汚染状況を把握するために、約40ヘクタールの豊新市場予定地の敷地全域を、土壌汚染対策法が定める最小の調査区画である10メートル四方の正方形で区切った4,122地点で、ガス工場操業時の地盤面から深さ50センチメートルの土壌と地下水を分析する、詳細調査を実施しました。・・・
こうした調査の結果、人の健康への影響の観点から設定されている環境基準を超える地点は、土壌または地下水で1,475地点(36パーセント)でした。
このうち1,000倍以上の汚染物質が検出されたのは、土壌で2地点、地下水で13地点であり、敷地全体に高濃度の汚染が広がっていないことが分かりました。>

→基準超過地点が36%とは多すぎ。最後は高濃度汚染を取り上げて「敷地全体に広がっていない」としているが、印象操作にも見えてしまう。基準超え全体を含めたら、「汚染が全域に広がっている」が適切だろう。当初はここまで分かっていなかったにしても、結局「豊洲の選択は元々ギャンブルで、それでも張ってみて大失敗した」という状況と思う。また、「筋が悪すぎた」とも言えよう。この辺は今まで当ブログでは踏み込んでいないが、今後機会があれば検証。

更に考えてみると、モニタリングと建築工事の並行実施もギャンブルと言えるだろう。大型公共工事でギャンブル的なやり方を重ねて破綻。新国立競技場ザハ案も、そのような面があった。しっかり教訓にすべきだが、全肯定派まで出てくるから、それもなかなか望めない。

以上
[追記]
並行実施の問題を指摘している記事や資料。

<土壌汚染対策法では、対策後2年間の地下水モニタリングをし、土壌汚染がないことを確認した上で、土壌汚染区域指定が解除される。しかし、これまで東京都は、地下水モニタリングと並行し、施設着工をすると説明している。建物を建ててしまってから、どのようにして地下水モニタリングをするのか、不明瞭である。>

<この協議会をはじめ、これまで東京都は、土壌汚染対策工事後に行っていく予定の地下水モニタリングの具体的手段について、明確な方法を示せずにいる。この日の協議会でも都は「協議・調整中」と繰り返すなど、対策工事が始まって以来の重要課題を、いまだ棚上げ状態にしている。>

<この協議会での注目は、『地下水の2年間モニタリング』完了前に豊洲新市場の建設工事を行うことの是非だったが、協議会はこの判断を『技術会議』に委ねて流した。比較的に“良心的な御用学者”(笑)である細見座長が、恐らく拒否したのだろう。>など

<今年(2014年)11月27日、有識者で構成する「第18回技術会議」を開き、すべての街区において10月末に「提言に基づいた全ての土壌汚染対策工事が確実に完了した」と発表した。同時に、今後は「地下水管理システム等により、継続して市場用地の安全性を確認し、都民や市場関係者の安心に資する」としている。 ・・・

この「汚染除去完了」の発表には重要な視点が抜けていた。土壌汚染対策法だ。土対法によれば、対策工事後に汚染指定区域の解除に必要な2年間の地下水モニタリングを行って、地下水が汚染されていないかどうかの経過を見守ることになっている。豊洲予定地でも、これから2年間の観測を経て、本当に汚染が除去されたことが確認されて初めて、土対法上の「汚染区域」の指定が解除される。

にもかかわらず、この日、技術会議で配布された資料の中には、地下水位や水質を確認する井戸を備えた「地下水管理システム」についての華々しい報告はあったものの、それらとは別に11月から始まっている、土壌対策後に行われる土対法上の「2年間(地下水)モニタリング」の井戸についての記述は一切見当たらない。>

⑤”築地市場の豊洲移転計画に関する国会審議平成23年3月8日衆議院環境委員会会議録(抜粋))
<○川内(博史)委員 農水省に確認をさせていただきたいんですけれども、要措置区域なのか形質変更時
要届出区域なのか、これから東京都が御判断をされるということでございますけれども、東京都としては、土壌汚染対策を行って、二年間の地下水のモニタリングをし、その土壌の地下水に汚染がないということが確認をされ、この区域の指定を解除した後、建築工事を行うという御方針であるということでよろしいかということを確認させていただきたいと思います。

○田名部大臣政務官 東京都からいろいろと確認をさせていただいておりますけれども、土壌汚染対策工事を行うことにより、豊洲新市場の予定地のすべての地域において汚染土壌と汚染地下水を環境基準以下にするということを聞いています。東京都によれば、その上で、二年間モニタリングと並行して、市場の施設建設に着手をしていくというふうに聞いております。

○川内委員 モニタリングをしながら、もう工事には着手をするということなんですか。

○田名部大臣政務官 モニタリングと並行して工事をしていくということになります。

○川内委員 私は、そこは大問題だと思うんですけれども、大事なところだと思うんですが、土壌汚染対策を行って汚染除去をした後、二年間モニタリングを行って、土壌汚染区域の指定解除を受けた後でなければ建設、建築に着手してはならないのではないかというふうに考えるんです。
というのは、着手しました、建物は建っていますよ、しかし、地下水の汚染というのはなかなか消えないのではないかというふうに専門家の間では言われているわけでございます、さまざまな問題がありますからね。そうすると、土壌汚染指定区域でありながら農水省として開設の許可を与えるのかという重大な問題が生じるわけでございます。・・・>

⑥”築地市場の豊洲移転問題”投稿日: 2016年08月29日 大城聡 弁護士(築地市場移転問題弁護団
<市場の移転は、開設者である東京都が申請して、農林水産大臣が認可するという仕組みになっています(卸売市場法8条、11条1項)。

農林水産省が2016年1月14日に策定した『卸売市場整備基本方針』では、卸売市場の基本的指標が示されており、その中の「立地に関する事項」では、次の条件が掲げられています。土壌汚染の問題も物流の問題も、豊洲新市場が中央卸売市場として適切かどうか農林水産大臣が判断する際に考慮する事項となります。

・道路など生鮮食料品等流通に関連する公共インフラの整備計画との整合性が確保され、かつ、災害時等も考慮して交通事情が良好な場所であること。
・各種施設が適切に配置され、施設利用の効率性が確保され得る地形であること。
・生鮮食料品等の安全・衛生上適切な環境にある地域であること。(当方注:「形質等変更時要届出区域」はこれに適合するか?)

現在、東京都は、農林水産大臣に対して、まだ正式な申請をしていない状態です。
→8月時点で、東京都は農水省に申請していなかったことになる。担当部局は、どうするつもりだったのか。申請予定だったが、小池知事就任で延期していただけか。
その場合、当初目論見は11月で「形質等変更時要届出区域」指定が自然由来を除き解除予定だった。それを前提に、認可が可能ということで農水省と事前了解などがあったのか。また、その後8月測定で基準超が出たことに対しては、開場延期になったとはいえ、考え方について農水省と協議は行っているのだろうか。従来通り、「要届出区域指定では卸売市場としての使用は想定し難い」ということだと、それだけで最低2年は認可が更に延びる。

追記以上