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登場者検証13「藤村龍至氏」

昨日は民主主義について書いたが、新国立競技場問題と民主主義の関連については「藤村龍至」氏も初期から発言しておられる。例として2014年7月の記事。
”特集 迷走「新国立」の行方”日経アーキテクチャ 2014年7月10日号 
藤村氏<「例えば、複数の案について議論を重ね、住民投票を実施して、その結果を反映するような仕組みが必要ではないか。ただし、経験が少ないなか、いきなり国民投票で意見を反映させるような取り組みは非現実的だ。まずは、既に公開審査の経験がある工事費が10億円程度のプロジェクトから始めたらどうか」 >
 主張は一応もっともなのだが、国際コンペ設定時でも1300億円のプロジェクトなのに、何故10億円程度のプロジェクトから始める話がここで出てくるのかが当方には不可解。

2015年3月には同年代ミュージシャンとの対談で以下記事がある。
民主主義の練習 | 対談:藤村龍至” 2015.3.23 The Future Times
 新国立競技場を中心とした記事ではないが、やはり<ゆくゆくは国立競技場のように数千億円がかかるものも投票で決めることもできるようになる>といった発言がある。(この中に後述の著書の話も出てくる)

同年7月白紙見直し表明後の9月には、ザハ案支持の論考をインタビューで語られていて、突っ込みどころが多かったので当ブログでも複数回取り上げた。
 特に、<隣に建っている槇さんが設計した東京体育館だってキールアーチなのに(苦笑)>という発言については同体育館の実地調査を行って、スラストブロックの違いによりザハ案アーチと同体育館のアーチを同列に扱うのは無理があることを示した。

続いて同年10月の以下記事では、新コンペでの情報公開で国民を巻き込む提言をしておられる。
”「高コスト=悪」ではない、情報公開の徹底を”日経アーキテクチュア 2015年10月20日
<設計・施工者を決定する12月まで、時間は限られている。ここでネガティブなイメージが付いた新国立整備計画に対してガラス張りの選考で透明化を行う。それだけでなく、より積極的な情報発信を伴うイベント化を図って国民を巻き込む。そうすれば、建築界には明らかにプラスになるはずだ。>
 結果的に新コンペでは、同氏の提起していた透明化は「提案書の事前全面開示」で一旦達成されたかに見えた。しかし、その後審査における採点操作疑惑が審査員自身から語られ、その証拠となりうる個別採点は未公表という事態になっている。流用問題も含めて、是非ご見解を発信して頂きたいと思う。

なお、藤村氏については、隈氏が「若手建築家最強の論客」と評価しておられる。当ブログでも、今後の日本社会を担うアラフォー世代の代表選手の一人として、主張の問題点には突っ込みつつ期待を持って注目した。しかし、やはり前述のように「不可解さ」を感じるところが有るため、著書「批判的工学主義の建築」も読んでみたので、それについても記す。
同氏検証は一部でお待ちかねだったかも知れない(笑)ただ、同書副題が「ソーシャル・アーキテクチャを目指して」となっているように、建築関係だけでなく国際性も有る大きな社会的構想が書かれている。当方はその方面も関心があるので論考してみたが、「国際情勢」などは余り関心がないという方は以降は飛ばしてください。

さて、同氏から日本社会への提案となる「第7章 新しい都市設計の原理----列島改造論2.0に向けて」の最後の部分を引用する。
「答えの軸=希望の軸」 
 日本はこの五十年の間に培った列島改造のスキルを、国土の大きさや人口密度が似ていて、鉄道インフラの強みを生かしやすい東南アジアの列島諸国(台湾、フィリピン、ベトナムインドネシア…)においてこそ、活かすべきである。・・・
イメージ 1

「軸----歴史の反復と上書き」
かつて時の外務大臣松岡洋右は「帝国の生命線は満蒙にあり」というスローガンとともに大陸進出を主張した。… 時を経て、2011年の東日本大震災に端を発した日本の新たな生命線は、松岡の描いた生命線とは90度回転し、新たな方角を示す。
 … 前回は侵略戦争へと向かったわが国であるが、今回はそれをめざしてはならない。今回めざすべきは新興国への技術提供であり、新たな人とモノの循環が生み出す文化交流である。
 私たちは1945年のヒロシマで「過ちは繰り返しませぬから」と誓った。意味の上書きを忘れると日本は新たな生命線をふたたび自ら断つことになる。>

だいぶ端折ったが、アラフォー世代の一員としての同氏の歴史感や地勢学的認識の一端を垣間見れたように思う。ただ、同氏が写真で引いている軸は引き続き重要としても、これからは朝鮮半島や大陸方向の軸が「焦眉の急」ではないかと当方は感じている。

同書は2014年9月初版であるが、その前年には既に北朝鮮金正恩氏の義理の叔父である「張成沢」氏処刑という大事件が起きていた。一見強固に見える北朝鮮指導部も内実は危ういことを示し、その流れは幹部の大量粛清を伴いながら今に続いている。そして水爆実験準備やミサイル射程延長なども察知していたと思われる米国は、急速に危険度を増す北朝鮮の崩壊を視野に入れて動き始めたようである。昨年末の意外と言ってよいぐらいの急な日韓慰安婦問題合意も、米国が裏で強力に働きかけたことは間違いない。更に統一を国是としながら実際には現状維持を強く望んできた韓国が、今年になって開城工業団地の閉鎖と云う思い切った手段に出たのも、崩壊まで考慮した米国の意向に従ったと見るよりない。今までに無かった事態が起きてきている。前述の慰安婦合意が、崩壊過程での混乱や崩壊後をにらんで日韓の関係改善を図っておく米国の戦略であることも明らか。

このような状況になって同氏も或る程度考えは変わっているかもしれないが、東アジアの安全保障問題も踏まえて日本の将来は両方の軸を見据えていく必要がある。また大陸方向とのバランスをとるためには、太平洋方向における対米関係の重要性はますます高まるし、他にも豪州・インド・ロシアなども今まで以上に本格的に日本の周辺関係に入ってくる。これまでにない難しい時代に突入していく。藤村氏のような若手論客と評価される人が国際関係に関心を持ちながら、大陸方向を余り注視していないとしたら残念。(このような注視する軸の90度ズレなどが、同氏に感じる当方の不可解さと同根なのかも知れない)

以上
[追記]
昨日記事に関して、これまでもTwitterでコメントをいただいている「KintaGoya」さんから<ついに「空気」と「正義」に踏み込んだ>というツィートがあった。実際、新国立競技場問題を検証していると非常に奥が深いと感じる。
例えば「正義」についても、「猪瀬氏見解のように、このまま進めて五輪までに完成させるのが現実的で妥当な道なのか、或いは日本が明らかな嘘をついて、それが世界にも知られていくというモラル破壊の事態は何としても避けるべきか」というような設問にして、白熱教室を主宰する「正義論」のサンデル教授に解いていただきたいぐらい(笑) (今後どこかの時点で更に掘り下げてみる予定)
なお、「空気」に関しては明日も関連する話を書く予定。

追記以上