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検証報告検証7 「総理英断とザハ案」

本日はアーチタイの検証を延期して、歴史的勝利がフロックではなかったことを示したラグビーW杯の話から。日本代表はサモア戦で26-5と完勝し、W杯で初めての2勝目を上げた。他チームの勝敗で決勝トーナメント進出は厳しいとはいえまだ望みは残しているし、次戦で3勝目の可能性も充分ある。
日本人選手だけではないから「日本代表と言えるのか」という意見もあるが、国際ルールに則っているし、例えばエディコーチはお母さんが米国人の日系二世で奥さんも日本人だそうだ。日本では現在サッカー人気が高いが、ラグビーも面白いスポーツだし、2019年の日本開催に向けて盛り上がっていくと思われる。

当然ながらネットでは「2019年を新国立でやらせてあげたかった」という声が上がる。当方も新国立での開幕を見たかった。こうなると安倍総理の「英断」とは何だったのか、と云う気もしてくる。
2,520億円になってしまった時に、ラグビー歴史的勝利前でも総理が国民に対し「2019年W杯に間に合わせてあげたい、日本は約束を守る国という信頼を得続けたい」と真摯に思いを伝えてザハ案で正面突破すれば、それが真の「大英断」だったのではないか(「建てられなかった」ことは除いての仮定の話)。
国民も南アから大金星をあげサモア戦で2勝目をあげた今なら高くても支持す人は増え、何とか理解も得られた可能性はあるだろう。タラレバの話ではあるが、「金額の決断は高いからダメと云うだけではない」ことを表していると思い、書いてみた。(しかも、2520億円には座席空調や商業施設・博物館・スカイウォークなどが含まれていて新コンペとの実質的金額差はもっと小さい)

さて本日の主題としては、ラグビー好成績のもっと前から「ザハ案で建てるべき」と云う論陣を張っておられた方々について取り上げる。代表例としてノエル氏はBLOGOSで昨年6月に早くも記事を出しておられ、読まれた方も多いと思う。

この中の以下見解については同感だし、特に聖徳記念絵画館に関しては槇氏も指摘しておられた同館前広場の景観破壊状態を題材に当方も記事も書いた。
<「新国立競技場 国際デザイン・コンクール報告書」には建築設計コンペの審査過程での激論が明らかにされているのだが、そこには「明治神宮の歴史を見ると、内苑は伝統様式でつくる。一方、外苑はヨーロッパ的な、外から来たものを積極的に取り入れている。ある種の異物、近未来的なものがあってもおかしくないという観点で評価した」と記されている。これは極めて妥当な判断であると言えるだろう。実際、明治神宮の外苑に建つ「聖徳記念絵画館」は洋風の建築である。・・・
明治神宮の外苑のイチョウ並木は大変に美しいと思うけど、「聖徳記念絵画館」の周りは駐車場(アスファルト)で固められている。こんなので本当に景観を大事にしていると言えるのかと疑いたくなるような惨状で、はっきり言って、ボロい。これを現状維持するのは馬鹿げている。>

予算の話についても前述のように「高ければすぐダメと云うものでも無い」という点で共感する。
<予算をオーバーしていることについてだが、日本の建築家たちがこれを理由に批判するのはあまりにも唐突である。なぜなら、建築家が予算をオーバーするのは割と日常茶飯事だからである。例えば、2002年に竣工した「横浜港大さん橋国際客船ターミナル」は予算を大幅にオーバーして訴訟にまで発展したのだが、それを理由に日本の建築家たちがこの建物を批判したことは僕の知る限りでは一度もない。それどころか、この建物は日本の建築家たちの間では極めて評価が高い。>

しかし、以下で言及しておられる「ザハ案の技術的問題」は廃案に至る致命的なものだった。
<技術的な問題について。確かに「新国立競技場」のザハ・ハディド案は技術的な問題が山積している。現在の段階でも解決されてない問題は無数にあるだろう。だが、そのこととザハ・ハディド案を廃案にせよと主張することは直結しない。>

その後同氏は森山氏への反論という記事も約1ヶ月後に書いておられる。
2014年07月23日

この記事の中に「技術的反論」は出ていない。そして両記事は森山氏が以下のブログでキールアーチ支持構造の問題を指摘された後に書かれている。この指摘に対する技術的反論も書いていただいて、その後両者で更に技術論を交わしていただければ局面も変わっていたかもしれない。

今となっては昨日記事で示したように「基本設計時に屋根はスタンドで支えられていた」という事実を証明できたと考えている。基本設計書のスタンド構造に「屋根の常時荷重・地震荷重・風荷重等を支持」と明確に書いてあるから動かしようがない。

ノエル氏が今年別の人と論議されたツィート集もあって、アーチタイ追加後も「基礎杭は打てるのではないか」という見解を示しておられたので引用させていただく。
------ツィート抜粋引用開始(2015年6月6日分より)------
<とある***@ …気になったのですが、シドニーの場合、キールアーチは太くない上、かつ両端の構造物見る限り、地中へ杭を打つことでアーチを成立させてますが、地下の構造物が多い東京の場合、それが出来そうにないのが問題かと。>
<ノエル@… ガチンコで杭と地下構造物がぶつかると確かにヤバいですが、たぶん大丈夫だと思います。
  ・・・
<とある***…ネットで出回ってる設計図見ると、アーチの両端に基礎杭を打てないから、代わりにアーチの両端を基礎梁で繋いで支えるようですね。>
<ノエル@… 基礎杭は打てると思います。
<とある***@… (森山氏のblogから引用これ見ると、アーチ両端を梁で繋いでいるようにしか見えないのですが・・・・ 基礎杭ではないのは、それなりの理由があるのではないでしょうか?>
  ・・・
<ノエル@… 基礎杭は打てないというソースは(森山さんの記事以外で)あるのですか?
------引用終了------

「基礎杭」と云うのは、通常の基礎用の杭ではなくアンカー等を言っておられると思われる。
当方は論議相手方の「とある***」氏と大体同様の見解で、更に検証報告書や基本設計書等の詳細読込みという手法で支持構造を分析した。結果としてフレームワーク設計での両端支持構造無しは基本設計でも続き、基本設計ではスタンドを免震構造にして屋根を支え、結果的にキールアーチもスタンドで支える構造」だったことを見出だせたと思う。だいぶ時間は経ったが、ノエル氏が求めておられた森山氏記事以外での証明になったと考えている。
これはプロジェクトにとって非常に重要な基本設計終了段階において、ZHAコンセプトが屋根の支持と云う基本構造面で崩れていたことの証明にもなった。キールアーチのコンセプトを主張しているZHA反論ビデオや声明文などは「眉につばを付けて」から見るべきものになった。

昨日記事をもし見られたらノエル氏はどうおっしゃるだろうか。「まだ証明出来ていない」とおっしゃるだろうか。或いは基礎杭が打てなくてもアーチタイがあるとおっしゃるだろうか。
また「文藝春秋由利氏記事」も<巨大な基礎杭を地面に深く撃ちこむ必要が出てきた。ところが2つの難題が立ちはだかる。一つは地下鉄大江戸線が地下三十メートルを走っている。もっと深刻だったのは、軟弱地盤のため杭を固定するために流し込むコンクリートが膨大に必要。>と書いている。これに対しても同氏記事の信憑性に疑問があるから認めにくいとおっしゃるだろうか。

新国立競技場建設は建築家間の論議を越えて一般的にも関心が高くなっており、「ザハ案+日建設計」の問題点が正しく伝わらないまま論議が行われるのは国民的損失と当方は捉えている。
ノエル氏も「T新聞の偏向報道は、民主主義が正常に機能することを阻害している」などの見解を書かれておられ、民主主義を重視しておられる。当方も「民主主義」が正常に成り立つためには正確な事実が認識された上での「議論」が必須と考えている。(なお、T新聞は本案件においては基本的に森本記者など事実報道を掘り下げていたように思えた、アーチタイ付きの図まで早期に載せたのは一般紙では珍しい)

当方考察や証明などに異論は大歓迎なので、自分自身でも更に整理してから同氏にザハ案技術的検証の論議を申し入れるなども考えてみたいと思っている。(なお、当ブログではザハ案のデザインやコンセプトの良い面を評価した記事も複数書いている)
明日はアーチタイの検証に入る予定。

以上
[追記]
ノエル氏は当時まだ解体前だった旧国立競技場の改修に反対意見を述べておられたが、この趣旨に関しても妥当と思える。
<森山さんが「古い施設を再利用してはどうか」と提案されていることについてです。これは現在建っている「国立競技場」(1964年の東京オリンピックの競技会場として建設された)を改修して使ってはどうかという提案なのですが、はっきり言って無理です。>
改修の件は当方も森山氏や他の建築家・文化人などの方々と見解の相違がある点であり、「古い建物に対する考え方」という一般論から始めて書いてみたいと思っているが、いつになるかは未定。

追記以上