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「上林功」氏見解に関して(8)

昨日もコメントありがとうございます。結果的に見解の相違点がますます多くなってきたようですが、産経新聞記事の背景にある基本的見解が伺えて有り難いです。
さて見解相違の大きさから、まず昨日いただいたコメントの冒頭部分について書かせていただきます。その後に論点整理の参考用として弁理士の方が書かれた記事を引用します。

<ブログ主様は公共工事の発注において、「建物を建てること」をミッションとしているとされていますが間違いです。発注に伴う成果物は仕様書であり図面であり検討書です。>
→当方の経験で、「新たな製品をつくる」という時には、単に製品を製造するだけでなく、企画・設計・調達・製造などの一連の行為を含みます(狭義で製造だけを言う場合も有りますが、新国立競技場との対比だと「一連の行為」の意味で考えています)。その際には仕様書・図面・部材リスト・試験成績書など多数の成果物も当然含みます。この「新たな製品をつくる」のと同じイメージで「新国立競技場を建てる」と表現しました。このイメージだと「間違い」にはならないでしょうか?或いはまだ相違点が有りますでしょうか?

<これらには知的財産権も含まれ、報酬との対価で国の財産として引き渡されます。知的財産権は銀行担保にもできる「資産」です。ブログ主様の想定ですと、「国は発注をおこなったにも関わらず一般の発注業務で手に入れている知的財産権を、新国立については特例措置をとってザハに預けたまま使用許諾を得る」となります。もちろん権利の「資産」としての価値はザハが持ちます。これは国が損をしているということになります。>
→昨日も述べましたが、JSCは新国立競技場に対して最優秀作品(ザハ案)の無償・無期限の使用許諾を得ています。それ以外の同様プロジェクト(例えば第2国立競技場など)の計画は無く、新国立競技場の著作権等を他に使用することは考えていなかったから、JSCもZHA側帰属で問題ないと考えていたのではないでしょうか。JSCが持っていても価値はないでしょう。仮にJSCがZHAから取得しても、「資産価値」としては他に使い道がないのだから「ゼロ」しか当方には思い浮かびません。
ただし、ZHA側は他のプロジェクトに流用できる可能性を考えて保有する価値はあるでしょう。それを譲渡する場合は、使用許諾より請求金額が高くなることが予想できます。日本側にとっては使う予定の無いもののために費用が増加することになります。当方には、こちらの方が「損」のように思えてしまいます。
なお、<一般の発注業務で手に入れている知的財産権>とされている点については、このように言えるのかどうか、別途書いてみたいと思います。

<「ZHAが手放すか?」
こちらは想定することがおかしい事です。手放さないなら槇文彦先生同様コンペに参加しないはずです。>
→まず、当選作品(最優秀作品)の著作権は「応募者帰属」と明記してあるので、手放してはいないですね。結果的に国際コンペ後の扱いに対する見方に違いが有るように思われます。
4月19日に頂いたコメントに次の一節があります。
<修正を含む設計業務をZHAがおこなっているのであれば「ザハ案」ですし、デザイン監修契約のなかで修正を含む設計業務が含まれていればやはり「ザハ案」です。しかしながら基本・実施設計契約を結んでいるのは日建設計JVであり実務的な修正作業も行っていることを考えると権利的には「日建設計JV案」となります。特記事項における拘束を設けることができることはブログ主様の例の通りですが、新たな著作物を作成している以上、元の著作権を持つ者が追加で新たな著作物に著作権を主張することはできません。>
→<基本・実施設計契約を結んでいるのは日建設計JV…権利的には「日建設計JV案」>となっています。しかし、「最終的に建築されたものはどうなるか?」という点は、このご見解から当方には読み取れませんでした。

それに言及している一例として弁理士の栗原潔氏が書かれた記事が有ります。
新国立競技場は著作物か?
過去記事で既に書きましたが、日本の著作権法では建築物を著作物の例として挙げてはいるものの、実際には相当に美術性が高いものしか著作物とされません(たとえば、建売住宅等は著作物とはされません)。とは言え、私見ですが新国立競技場は著作物と言ってよいと思います。なお、建築の著作物は必ずしも実際に建築されたものである必要はなく、建築家の頭の中にある(そして何らかの形で表現されたもの)で足ります。 
建築の著作物としての新国立競技場ザハ案の著作者はザハ・ハディド氏か?
ザハ・ハディド氏配下のスタッフが共同著作者になるかもしれませんし、ザハ・ハディドの事務所(ザハ・ハディド・アーキテクト、以下ZHA)の法人著作になるのかもしれませんが、著作者がザハ氏”側”にあることは確実と言ってよいと思います。そして、JSCが、著作物の譲渡(正確には非係争)をザハ氏側に持ちかけてきた(ザハ氏側は断った)という報道から考えれば、著作権は最初の契約によっては譲渡されておらず、今でもザハ氏側にあると思われます。 >

これと貴殿見解を対応させていただくと、以下のようになろうかと思います。なお、当方見解は①~③について基本的に栗原氏と同様です。( )内は当方付記です。
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①「新国立競技場は著作物か?」
 貴殿:(前述のように当方には読み取れなかったので、ご見解いかがでしょうか?)
 栗原氏:新国立競技場は著作物と言って良い
②建築の著作物としての新国立競技場ザハ案の著作者はザハ・ハディド氏か?
 貴殿:権利的には「日建設計JV案」(この理解でよろしいでしょうか?他の見方の場合は教えてください)
 栗原氏:著作者はザハ氏”側”にある
 貴殿:ZHA側は手放さないならコンペに参加しないはずなので、手放している
 栗原氏:報道から考えると今でもザハ氏側にある
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栗原氏記事には他にも「設計図」や「営業秘密」等に関しても記述が有り、論点はまだ多数あると思いますが、最初の部分だけでも①~③のように大きな違いが有るようです。これに実際は「ZHAがデザイン監修者にとどまらず設計にも参加し、基本設計前段では主導していた」という状況が加わります。これを考慮すると更に複雑になりますが、上記①~③は仮にZHAが監修者だったという条件にしても、同じようになると思われます。
その上で、これだけ基本的なところで違いがあります。これを整理して次に進めたいと思います。①~③の栗原氏見解についてどのようにお考えになりますでしょうか? 特に②と③については栗原氏見解が間違っているという見方をされますでしょうか?

以上