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「上林功」氏見解に関して(6)

本題に入る前に、朝日新聞磯崎新氏の記事が掲載された件。
<競技場問題などをまとめた『偶有性操縦法』(青土社)を出したばかりの時に、ザハが亡くなるとは思いもよらなかった。>
「排外主義」など有りもしない話をまだ言っておられる。そして『偶有性操縦法』も以前読んだが、ザハ案の構造問題もA案における流用問題も入っていないまま、思い込み?が述べられている。しかし、「大家」として確立した人が言うと大新聞に載ってしまい、結果的に正確な情報が国民に伝わらない。九州の大地震もあるが、新国立競技場も基本設計が今月中に完了し実施設計に入る時期になった。このままでは「虚偽」が詰まった国立競技場が出来てしまう。世間の関心は色々移り変わっても、当方は片隅で粘っていこうと思う。
幸い、専門家で真摯な対応をしていただける上林氏とのやり取りで、当方とは逆の意見もしっかり聞かせて頂けて、当方の考えも更に整理されてきた。非常にありがたい。
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[本題] 
昨日もコメントを頂いて感謝。やり取りの中で見解の相違が思いの他大きいことに気付きますが、それでも昨日は国際コンペ募集要項における「確認書」の著作権に関わる条文について以下の解釈で見解が一致。
著作権はZHAに帰属する。ZHAはJSCに対して、新国立競技場の基本設計及び実施設計のために、ザハ案を複製し使用する権利を期間の制限なく無償で許諾する」

続いて、やはり見解が一致しない部分も多いため、本日はまず前提条件を整理し当方見解を記しますので、ご都合の良い時にコメントなど宜しくお願いします。
・当方前提1…従来の判例や慣例などと本事案の位置づけ
まず基本的なところで、旧計画は国際コンペでしかも監修者を選ぶという特殊な条件でした。槇文彦氏も、<私はこれまで15、16ほどの国際コンペの審査を受け持った経験があるが、監修者のみを選んだのは新国立競技場で初めて見た>とのこと。このような事情から、「これまでの国内中心の事例の経験が当てはまらない部分が出てくる可能性が有るのではないか」という予測による見解が当方の前提にあります。
これに関連して貴殿からは例えば以下のような見解のコメントを頂いています。
<設計競技成果物の著作権が基本設計や実施設計に及ぶことはありません。
追記頂いた「それら(最優秀案)を元に基本設計・実施設計が行われるので、基本的には個々の機能が著作権で保護されるかどうかを越えて、ザハ案を元に行った設計に対して包括的にZHAは権利主張が出来るようにも思えます。」といったことは、少なくとも国内の建築設計競技においては行われません。>
→両方の見解には大きな違いが有りますが、当方としてはやはり本事案が従来例の延長にとどまらず、新しい解釈や考え方を生み出す可能性も有るのではないかと柔軟に考えています。その場合には、特殊条件も踏まえて規定された、JSCとZHAの契約が基礎になると考えます。その中に上記の「確認書条文」(以降「当該条文」)があり、次項でそれについて述べます。

当方前提2…「ザハ案で建設する」ことが許諾される範囲
国際コンペで最優秀作品に選ばれたのは「ザハ案」です。それが基本・実施設計等で修正されても「ザハ案」です。実施設計によって建設され実物になります。
コンペで選ばれて、ZHAはJSCに対し、「ザハ案で建設する権利を許諾した」ことになると考えられます。それを規定していると想定される当該条文の役割を卑近な例で考えてみます。
当方が或る会社から頼まれて、その会社の工場内で使う簡単な機器の概略設計を行って概要図にして渡したとします。会社側は設計図面を作成し現物を製作して特定の工場で使う。その際、当方が指定された工場での使用条件に合わせ込んで設計した場合、もし同じ会社の他の工場で使用されたとしても問題が出るかも知れないと考えたとします。そして、指定工場一つだけの「限定使用」という条件を付け、複製も禁止して契約書を取り交わしたとします。この場合、当方の概略設計に著作権等で保護される部分が有るか否かに関わらず、相対(あいたい)契約として「使用場所限定・複製禁止」は有効になると思われます。
ZHAを当方、依頼があった会社をJSCとして考えると、当該条文も「コンペで選ばれたザハ案を使用することが出来る事案の限定や複製の禁止を規定している」という効力を持つことが想定されます。限定された目的の中に入っているのは、公募された神宮外苑の「新国立競技場」のみです。この状況を、複製・翻案禁止も含めて模式的な図にしてみます。比較のために例えば湾岸地区等に(架空の)「第2国立競技場」を建てる場合も入れてあります。
①~⑥を説明すると次のようになります。
①:コンペ時ザハ案、②:修正版ザハ案(ZHAも参加)、③:②と同じ
④:②を翻案し、キールアーチを外して内部構造を流用し別途外装等取り付け
⑤:②を翻案した④に対して、更に6階スタンドを削除して5階化する改変実施
⑥:A案内部構造、別途外装・屋根等取り付け
イメージ 1


まず、JSCが第2国立競技場を建てる予定は近い将来に無いでしょうが、当該条文により許諾される範囲を検証するための比較例として③~⑤を入れました。その上で、③~⑤は許諾範囲外になるため「✕」と当方は想定します。貴殿のご見解はいかがでしょうか?
現実的にもJSCからすると、ザハ案を使用して旧国立競技場跡地に新国立競技場を建てることだけを許諾して貰えば良いことになるでしょう。よってJSCはZHAからザハ案の著作権を取得する必要は無いということが、当該条文にも現れているように思えますし、それで問題ないと思います。
ただし、現実は同じ外苑の方に、新計画としてZHAを外しコンペからやり直して建てるという異常な状況になりました。⑥の新計画A案については次項で考察します。

・当方前提3…複製禁止がA案に当てはまるか
これも貴殿と当方で大きく見解が分かれるとポイントです。ザハ案設計を使ってキールアーチを外すと、フラット化のアイデアは容易に出て来ると思われます。それを図にしてみました(このような図は本職でないため出来は無視してください)。
イメージ 2

A案関係者が、ザハ案からの上記流れとは別にスタンド形状の統一化を検討された可能性は有り得ると思います。しかし、ザハ案からも出て来るので、アプローチが違うというだけでは証明にならないと考えます。今回のポイントは、流用有無判定において「元データ入手の容易性」は大きな判断要素になります。実態として、入手容易どころか、内容も非常によく理解しているという特異な状況です(「依拠性の問題)。
これを覆すのは相当な証明が必要でしょう。よって、フラット型とサドル型の差による説明では決め手になりにくいと見ています。そうした中で当方などの図によって類似性を多数指摘できることは、もし裁判に成った場合も有力な論拠になると想定しています。(つまり前項の図で外苑のA案は「✕」という見方)

・当方前提4…全体的な考え方
(1)貴殿産経新聞記事の結びにある考え方について
記事の結びの方で以下のようになっています。
<昨今はさまざまなデザインをめぐり、「似ている」「パクっている」との指摘を多く目にしますが、ザハ案とA案は明らかにこうした批判には当たるものではなく、>
→「明らかに…当たらない」とのことですから「流用全否定」と当方は解しています。しかし、上図や当ブログ1月2日記事等で「流用有り」と推測する方が妥当と思いますし、貴殿も参加されたB案シンポジウムでの伊東氏による図や説明なども有ります。他紙も東京新聞などは流用疑惑の記事を載せています。
その中で「流用全否定」という内容を専門家の見解として投稿されたわけですが、意見は人それぞれです。当方も当初「ZHAはデザイン監修者どころか基本設計を主導した」という事実を提示して、なかなか理解を得られませんでしたが、今は相当認識が広がりました。その上で流用に関しては前述の証明図等だけでなく、以前からの官邸チームの動きや次項のJSC意向等の周辺状況も踏まえ、個人的には確信できる状態になっています。出来る限りの客観的論議で真相に迫りたいと考えています。

(2)JSC意向に関して
JSCは「旧計画の成果を最大限活用する」という趣旨を審査委員会会合で述べています。
議事録(議事要旨)[第1回委員会] ” 平成27年8月17日
<委員から、旧計画の関与者が有利となることはないかとの指摘に対して、事務局から、旧計画の成果を最大限活用する趣旨もあり、可能な限り参加者に資料を提示することとしており、また、競争参加資格の確認以降に、守秘義務の下で提示する資料もあると回答した。 >(P4)
→まず、この件はご存知でしょうか?
コンペ主催者のJSCがこのような意向であれば「流用」が起きる可能性が有りますし、それどころかJSCは積極的に活用(流用)して欲しいという意図が受け取れます。もしご存知だった場合は、このような事実を紹介しないで「全否定」という結論を出すのは尚早ということになりませんでしょうか? 別の結論を指し示すかも知れない事実については、記事で紹介頂いた上で、それを乗り越える証明と共に結論を提示して頂く方が納得性が得られやすいと思います。
また、記事を書く前にはご存じなかった場合は、掲載される産経新聞の協力を得ることなども今後ご検討願って、「旧計画の最大限活用は具体的にどうなったか?」をJSCに問い合わせるなども可能になれば、回答有無も含めて真相解明につながる重要な情報になると思われます。

以上
(「前提」の論議から既に盛り沢山になったので、ご見解等頂きながら更に整理したいと思います)
[追記]
先日いただいたコメントに以下のような部分が有りました。
<2の続きです。あくまで技術屋の観点として、似すぎているけど「一致していない」こと、そして「一致していない」箇所が最初にお話しした設計過程において不自然ではないことが気になっています。
つまり、「流用したけど辻褄を合わせるためにずらした」といったような不自然なズレじゃなくてそれなりに納得できるズレということです。>
<いくつかの記事を見ながら、流用を主張されている方の多くは、ザハ案を部分的に直接引用したとの考えをお持ちのようだと感じました。しかしながら実務者の立場としてそれはあり得ないと考えます。詰め将棋のような一連の設計作業に「ノウハウ」ではなく直接的な引用図を持ち込むことの難しさは先述の不自然さに必ず表れます。>
→以前に匿名の方から以下のコメントを頂いています。
ZHAのボウルデザインは、ロンドンで、ZHAから依頼を受けたアラップスポーツが、独自のノウハウと独自のソフトを駆使して設計されたものです。
この内容の裏付けは取れませんが、「独自のソフト」という点が注目されます。スタンド等の設計ソフトが有るようなので、そのような手段を使ったなら初期条件入力を変えて計算させると、微妙な違いが出て来るでしょう。CADデータをそのまま使わずに、ソフトの使用ということで説明が付く部分も有るかも知れないと思えます。これはまさに上林さんの範疇? 現在作図検討等を行っておられると思いますが、その後に設計ソフトの可能性もご検証頂けるでしょうか? ただし、当該ソフトの入手は困難でしょうから、微妙に「一致していない箇所」の説明が設計ソフトの使用で説明できる可能性が有るかどうかのレベルで結構かと思います。(既にご検討されているかも知れませんが)

追記以上