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Brutus記事 (追記「大成建設落札予想」)

「Casa Brutus」という雑誌で以下の記事が出ている。経緯記述は分かりやすいが、まとめや解説は疑問に思える点が多いので引用して論考する。

<五輪のメーンスタジアムとして使われ、東京の新しい顔となるべく計画された新国立競技場だったが、デザイン競技で選ばれた案は突如として捨てられ、設計から選び直しとなった。迷走の張本人は誰なのか。その特定は難しいが、少なくとも、関わった建築家たちは、いずれも最善を尽くしていたのではないか。>
→迷走の要因は色々あるが、結果的に「ザハ+日建設計」が2年近く掛けてやったのは「(五輪までに)建てられない」設計だった。建てられなくては着工できず、直前で白紙=中止にせざるを得なかった。しかも「建てられない」ことは基本設計の初期から分かっていたと思われるのに、着工寸前まで引っ張られるという異常事態が起きていた。

<世界から集まった46案のうち、最優秀に選ばれたのはザハ・ハディドの案。個性的な作風の建築家だけに、その評価は確かに分かれる。しかし、一部の報道で言われた「アンビルトの女王」という称号ははるかに前のこと。今や世界各地で次々と主要建築を実現させている。実現が不可能だったとするのは、濡れ衣もいいところだ。>
→ザハの設計が建てられるようになってきた流れはその通りだとしても、今回もそれが当てはまったかどうかは別問題。前述のように今回は「異常事態」が起きていた。基本設計の初期段階からキールアーチのコンセプトが崩れて迷走が始まっていたのに着工寸前まで行ってしまった。ザハ案とはいえ、ZHA(ザハ事務所)には多くの人がいて、担当幹部によってやり方が違って当然。日本側設計JVもしかり。更に与条件に対する外苑の敷地条件や日本の耐震基準等の厳しさなどがあり、JSC・文科省の対応不十分も含めて、これらの複合で異常事態になったと想定される。

<ハディドの監修のもと、実施設計までを行ったのは日建設計をはじめとする日本のチームだった。問題視されたのは工費の膨張。しかし施工者が示す金額が、設計者の想定を上回るのは、住宅の設計でもよくあること。施工者や建築主と話し合いながら、設計案を変更して金額を落としていくのは、通常の設計プロセスだ。それを十分に行えないまま、設計者たちは退場を余儀なくされたように見える。>
→プロセスに関して安藤氏も同様の認識だったことは11月10日記事で紹介した(安藤氏談<コストが問題ならば、事業者と設計者と施工者で、計画を変更調整するのが当たり前の建築プロセス>)。
しかし、今回は普通のプロセスではなく前述のように異常状態だった。
Brutus記事の<それを十分に行えないまま、設計者たちは退場を余儀なくされた>は大きな誤解。散々コストダウン検討していたことは検証報告でも明らか。だが、設計初期から「建てられない」状態だったものを、世界と日本の大手設計会社がいじくり回して最後まで引っ張ってしまった。そこには両社の商売優先も透けて見える。設計がそのような状態だったから切羽詰まったゼネコンが官邸に直訴し、和泉総理補佐官が動いて最後で白紙化決断に至った。(ZHAが「ゼネコンが入ってからプロジェクトに関わりにくくなった」と言っているのは、直訴後にそれまでの設計の酷さから「ザハ+日建設計」は実質排除されたのではないかと推測している)

<ハディドを選んだ審査員たちも、その案に反対した建築家たちも、それぞれの立場から正しく主張した。
そしてその結果が、設計提案のやり直しとなってしまった。募集に応じたのは、わずかに2グループ。>
→2グループになったのは、大成建設に確実に落札させるよう和泉補佐官が事前に調整した結果によるもの(追記で詳説)。設計提案のやり直しは、上記のように「建てられない」設計だったから致し方無い。ザハ案の選定過程より、その後の経過で建てられないことを設計会社は分かったにも関わらず、それを明らかにした上での「根本的軌道修正」が出来なかったことが問題をここまで大きくした。

<いよいよ本格的な設計が開始される。その体制はハディドによる監修のもと、日建設計、日本設計、梓設計、アラップ・ジャパンの4社が共同で行うというもの。日本を代表する大手設計事務所が組んだ、最強とも言える布陣だ。・・・>
→この<最強とも言える布陣>に皆が幻惑され、真相がなかなか見えなかった。槇氏指摘が設計グループの問題点を言い当てている。「過去2年間の設計プロセスの中で適宜、コストや技術上の問題を発注者に報告し、時に適切な提言を行ってきたかはまったく定かではない(当方注:「定かでない」=「やっていない」)」(槇氏インタビュー記事

<責めを負うべきは設計者ではない。にもかかわらず反対派の矛先はハディドに向けられ、その中からは、キールアーチ構造の実現性など、根拠のはっきりしない理由まで挙げて、攻撃する者も現れた。>
→特に後半は藤村龍至氏の主張<反対派のブログでザハのアーチが槍玉に挙げられると、・・・不確かな情報が一人歩き>と重なってくるだろう。
当ブログで藤村氏主張を何度か取り上げて来た理由が、これで或る程度お分かりいただけるのではないだろうか。Brutus記者が同氏のHuffpost記事に影響されたかどうかは別としても、何らかの形でザハ案支持の専門家意見を見ている可能性はあるだろう。建てられないことも承知のうえでザハ案支持なら仕方がないが、そうでないなら幾度でも実態の説明をしておくべきと思う。そして、当ブログで「キールアーチ構造が基本設計では成立していなかった」ことや、「実施設計のアーチタイこそ実現性がはっきりしない」ことなどを記して多くの方に見ていただいても、このような記事がまだ出てくるのだから適宜発信していく必要ありと考えている。


しかも、藤村氏自身もなかなかのもので、以前に以下のTwitterまとめを見ていたら同氏のラグビー南ア戦後ツィートがあって、その内容に思わずひっくり返りそうになった(笑)
<@ryuji_fujimura (2015年9月21日) ラグビー日本代表が勝利したブライトン・コミュニティスタジアムもキールアーチ構造。スタンドもチケット収益を考えたサドル型で新国立競技場ザハ案と同じ考え方で遠景がよく似ている。ザハ案がいかに工学的に最適化されていたかわかりますね。 https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/bb/Falmer_Stadium_-_night.jpg … >
東京体育館だけでなく、英国の南ア戦スタジアムまで引き合いに出してザハ案支持。引用されている写真は以下になる。ザハ案のキールアーチとは見た目も構造も大きく違うが、これを例に引いてまでザハ(+日建設計)案を正当化してくるとは、藤村氏は予想以上に凄い人かも知れない。
イメージ 1

さらにこのツィートには別途以下の反応が付いていた。
ブライトンが神戸埼玉他のキールアーチと同じサドル型の考えというところは理解しますが、8万陸上競技場の可動屋根収納を兼ねた長大アーチ案と、よく見るトラスアーチ、それは素人目からみて同じには見えません。>
こんなにあっさり突っ込まれて大丈夫か藤村氏、そしてザハ案批判への見解が重なるBrutus記者も。

以上
[追記]
昨日記事に「1010」さんから以下のコメントと質問を頂いたので、こちらで返信。
<コンペの結果は年末に決まるのですが、先立って大成に決まるという見立てでしょうか。確かにスタンド工区を請け負っていた以上、大成はあらゆる手段を講じていることでしょう。コンペ要項も基本はザハ案をベースにしてますし、隈研吾氏を大成のクライアントのNHKが連続出演してもらっているのも、偶然にしては、やや気になります。当方不勉強ですが、その理由も教えて頂けますか?>

大成建設受注推定は以下の想定によるものです。
まず前提として、今年春先にゼネコン2社(大成と竹中)が官邸に直訴して和泉総理補佐官が対応したという背景があります。(10月12日由利氏記事再検証3 「浮上しはじめた「撤退論」(後半)」参照)
そこから7月の「白紙見直し」に至りましたが、その間に和泉氏とゼネコン2社で話し合い(JSC・文科省も必要に応じて参加していると想定される)、「白紙化」から「新コンペ」という流れを作って受注者も決めています。
大成は「旧国立競技場」と「絵画館」も手がけており、会社として思い入れがあります。また旧計画でスタンド工区担当でしたが、新コンペではスタンドがメインになります。
竹中はヒアリングで<日本の大体のドームをやってきているので、今回ドームとなったときに、チャレンジしないわけにはいかないところがあった>と言っています。つまりスタジアムの屋根、特に可動屋根は他社には渡せないという意思表示です。
この2社のどちらにするかといえば当然大成でしょう。竹中は可動屋根がなくなったから降りやすくなっています。そして入札の形を整えるためと、2社以外入札しないようにJVを組んで応札した(鹿島は元々応札意向無かった模様)。
このように単純な話なのですが、ポイントは由利俊太郎氏記事の「ゼネコン直訴と和泉補佐官対応」を信用するかどうかです。当方検証では同記事は事実との整合性が高いと考えています。9月21日22日23日記事「和泉氏仕掛け(1)~(3)」で由利氏記事において示唆されている国交省営繕部出身者(羽山氏)と和泉氏の対応状況を書きました。新コンペ審査委員会は明らかに同部人脈で固められており、委員長は和泉氏と共著がある人物です。よくここまでやったと思えるほど見え見えです(笑) そのような仕掛けの意図は意中の会社への確実な落札でしょう。

改めて整理すると以下のようになると考えます。(これらは由利氏記事を余り信じなくても客観的事実の列記)
 (1)新コンペ審査委員会国交省営繕部&和泉氏の人脈で固めている
 (2)応募は大成と竹中JVのみ
 (3)竹中は可動屋根なら他社に渡せないが、新コンペはスタンドが中心
 (4)大成は旧計画のスタンド工区で準備していた、又過去の経緯もあり会社として受注意欲が強い

つまり、客観的に見ても大成と思えますが、更に裏側を推察すれば官製談合で調整済みになっていて、ゼネコン側も大成受注で異存無し。しかも官邸主導だから最強(笑) 工期が非常に厳しくなった非常事態で(政府としては)已むを得ない処置。(当方は旧計画経過の真相を国民に明らかにした上で進めるべきと思うので、検証委員会にも介入しての隠蔽は不賛同。公表した方が新計画への国民の理解も得られると思う)
後は固定屋根でも竹中の協力を得た方が良い可能性があり、大成落札後の竹中の扱いがどう予定されているか。また昨日記したようにJSC・文科省主導が復活気運になれば、和泉氏はコンペ終了後には引く可能性があり、官邸という強力な権限を持ったリーダーシップが無くなるが、一体どういう進行になるか。

追記以上