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アーチタイの問題点追加

昨日取り上げたBrutus記事も「(五輪までに)建てられなかった」ことは念頭に無いようで、それがなかなか真相に至らない大きな理由と思う。「建てられなかった」ことを更に明確化する補強論点として、アーチタイの問題点を2点追加する。なお、以前に「中止を訴えるには論点を絞るべきだったのではないか」と書いたが、今となっての説明用には或る程度項目が有った方が、その中でピンと来るものがあるかも知れないという趣旨を込めての御紹介になる。

1.ZHAビデオと実施設計図のアーチタイ形状に大きな違いがある
  下図においてビデオ図(左)と実施設計図(右)のアーチタイを比較すると、以下の違いがある。
   ①ビデオでは鞘だけで中身のアーチタイ本体がない
    ②ビデオの鞘は下部が厚く、実施設計図とは厚みが異なる

イメージ 1

①②とも特にビデオ図を見ると違いは明らかであるが、ZHA内山氏(当時)は日経アーキテクチャのインタビュー記事で次のように言っておられる。
ザハ・ハディド事務所と設計JVの間では3Dモデルを使って対話していたこともあり、技術協力段階から施工予定者とも3Dモデルを使ったコミュニケーションを進めるべきだと考えていた。結局、そうした段階まで進むことはなかった。>
3Dモデルを使って対話していたと云うことは、データ共有していたことを意味する。実施設計図とそれを基にしたであろうZHAビデオで、これほど形状が異なったり、中身の有無が生じることなど本来あり得ない。
仮に実施設計図の方が正しいとすると、ZHAはビデオを作成する際に実施設計図とは別にアーチタイ図を作成したことになる。これではご自慢の3Dシステムはどうなったのか、何故わざわざ別の図を作る必要があったのか。並行工事メリット説明図の虚偽のように、ここでもZHAビデオ図はどうも胡散臭い。
或いは日建設計作成と想定される実施設計図の方が間違っているのか。鞘にはアーチタイ本体を含めた屋根フレーム全体重量がかかるのだから、ビデオ図のように底部を厚くすることは妥当性が有るようにも思える。しかしビデオ図で肝心のアーチタイ本体が無いのは異常。
いずれにせよ設計チーム内に問題があることになる。

2.ZHAビデオではアーチタイの「鞘(さや)」を考慮した工程図は出ていない
  ビデオでは下図のように(1)→(2)でアーチタイが出来上がっている。しかし、実施設計図のアーチタイ図(下図右)を見れば、もっと工程が多いことは明らか。

イメージ 3

ビデオでは省略して2段階にするのは有りと思うが、実際に工程が多いのだから当然工期・工費もその分かかる。しかも約370mもの長さがあり、本当にアーチタイ組立の工程は段取り出来ていたのだろうか。
そもそもアーチタイの着工可能図面が出来ていたかどうかについても疑問を持つが、設計図が出来ていても工程をどう組むかは別途検討が必要。もし着工準備が出来ていたとしたら、設計チームとゼネコン其々の工法想定と、それによる工期・工費の見積りはどれぐらいになっていたのだろうか。
なお、文科省がJSCからの資料を基に、本年7月14日国会でアーチタイの使用鉄材重量を答弁している。
<○政府参考人(久保公人君) 地下の鉄骨部分につきましては資料が別途ございまして、地下の鉄筋は二千三百トンでございました。>
このように当然ながらJSCはアーチタイについての認識はあった。しかしゼネコンの工程表にはスタンド工事の前になるはずのアーチタイ組立工程の記載は見当たらない。JSCもアーチタイの工期・工費について、どのように認識していたのだろうか。このような重要な点も検証委員会では検証されなかった。
(論点追加2点以上)
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このようにアーチタイの設計や工法、及び工期・工費見積りがどうなっていたかは疑問が多い。それなのに何故アーチタイの実現性が大きな論点にならなかったか考えてみると、建築専門家が森山氏を除くと殆ど詳細に取り上げ無かったからではないか。専門家がもう数人でもアーチタイについて検討し指摘して頂いていたら、局面はもっと変わっていたのではないかと残念でならない。

その中でも、やはり構造の問題なのだから「構造専門家」にもっと問題提起して頂きたかったと思う。アーチタイの実現性に懸念を持ったり、自ら検討してみようという気にならなかったのだろうか。
ようやく先月になって日経アーキテクチャが構造専門家によるアーチタイ(タイバー)の記事を出しており、当ブログ10月17日記事で紹介と考察を行った。以下に日経アーキ記事再掲するが、その後の続報は無い。
キールアーチ下部の梁、いわゆる「タイバー」だ。アーチ構造は一般に、両端が足元で広がろうとする。これを抑えるためにアーチの下部両端を引っ張る梁が必要だ。ところがこの梁がコンクリート製で異例の大きさだった。恐らく1本の断面は5〜8m角になったのではないか。全長350m以上で5〜8m角の断面の梁となると、プレストレストを導入しなければ十分な剛性を確保できない。梁内のPC鋼材の数も、推測だが控えめにみて5列、5段で25本程度は必要ではなかったか。
 梁の中のPC鋼材はアーチ両端部で固定する。仮にPC鋼材が25本だったとすると、その両端の合計50カ所を固定することになる。しっかり固定しているところと、固定の甘いところとにばらつきがあると、コンクリートの梁にどのような現象が発生するか分からない。コンクリートの梁のなかで力がどのように流れるかが見えない。

西川氏も分からない部分が多いことを書いている。つまり容易に実現出来るものではないということになる。他の構造専門家でも大体似たような見解になるのではないか。それを率直に問題提起して頂いていれば、広く知られたと思う。当ブログの「登場者検証シリーズ」では、対象が多すぎて「構造専門家の方々」について取り上げることが出来ていなかったが後日検証してみたい。(なお日経アーキテクチャの報道の仕方も何か中途半端に思える部分があるのでこれも検証対象…日経アーキは記事にしているよりもっと真相を掴んでいそうな気がする。他にも例えば槇氏や内藤氏を始めとして直接当事者以外でも旧計画の真相を知っている人は多いと思われるのに、由利氏記事を除けばなかなか出てこない。業界のしがらみなどか)

更にアーチタイの問題はまだ他にも有って、例えばZHAビデオで以下のように「鞘」の扱いが不明。鞘や免震機構を形成する工程を省略して見せながら、他方で並行工事による工期短縮だけを主張するのはミスリードではないか(短縮主張の虚偽も証明済)。またアーチタイは工期増大要因になることが分かりにくくなっている。この問題も、もっと検討してみたいが時期未定。
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以上
[追記]
再度考えてみると、7月7日有識者会議が開催された時点で、ゼネコンが10月着工するために実際に工程検討して準備ができていたのだろうか。約370mの屋内設置アーチタイは前例がないから、着工しようとしたら工法開発も必要だっただろう。免震装置も従来のものが使えたかどうか。
このような状態でゼネコンにとって一番の問題は、後々も使うような工法ではないから本気で開発に取り組む気は起きなかったのではないか(屋内設置の巨大アーチタイが又使われることは考えにくいだろう)。またアーチタイはスタジアムの建築や機能において本質的に必要なものでもない。キールアーチ支持構造変遷の果てに、基本設計終了後、有識者会議にも報告されずひっそり(こっそり)ごく簡単な図が追加された。ゼネコンはまともにアーチタイを検討してなかった可能性が高いと当方は推測する。もしそうであれば着工不能だったことになる。検証委員会を再開してこのような点を検証すべき。

追記以上(明日より不定期掲載に入ります)