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旧計画再検証4 「ZHAと日本政府の関係は狐と狸の化かし合い」

昨日ご紹介したように旧計画においてZHAは「デザイン監修者」どころか「設計主導者」だった。ZHAと日建設計という当事者証言だから確実。それでも未だに「デザイン監修者」との認識が多いのは、建前と実態が逆になっていることが影響していると思う。心情的な面を含めて整理してみる。
 「建前」…ZHAは国際コンペで選ばれたのにデザイン監修者でしかなかった→ザハさん可哀想、日本側理不尽
 「実態」…ZHAはJSCにねじ込んで設計者の役割も得て、それどころかアラップも入れさせて設計主導者になった→このやり方に対して本来の日本人的感覚なら「何と強引な」、端的に言えば「ズーズーしい」となってもおかしくないところを、実態が知られてなかったので話題に登らなかった

ZHAがJSCと交渉した経緯は「文藝春秋由利記事」の記述と符合してくる。
<JSC広報室が説明する。「ザハ・ハディド・アーキテクツより基本設計を行いたいと申し出があったのは事実です。しかしながら公募型プロポーザルで選定することが決まっており、直接随意契約することは困難なためお断りしています」
 ところがそれでもザハ氏は納得せず、結局、JSCと基本設計の「デザイン監修業務」を契約することに成功する。これが、設計段階でいくら難点が顕わになっても、ザハ案が維持され続けた大きな理由だ。・・・
「ザハ氏側から『うちのデザインを生かすには、アラップ社の優れた構造計算の力が必要だ』と口添えがあり、設計JVに組み込んだ経緯があったんです。『十分な構造計算を行った』と自負するアラップ社を前に、もはや日本の設計事務所は口出しできなかった」>

上記部分は、同記事の信憑性の高さを当ブログが認識した重要な要因の一つになっている。ZHAや日建設計証言と併せて、「ZHAは設計主導者であり、特に重要な初期段階であるフレームワーク設計や基本設計をリードした」ことは確定と言える。
ZHAが設計の主導者であった事実は。現在の流用をめぐる問題についても、大きく2つの面で影響があると考える。

(ⅰ)著作権等の権利関係…ZHAは設計にも関与しているので、デザイン(意匠)以外の設計も設計JVと同等か、主導していた部分は設計JV以上にZHA側が権利主張できる可能性がある
(ⅱ)再コンペを行わざるを得なくなった責任…旧計画が行き詰まらなければ新コンペは必要なかった、旧計画はコスト変遷・増大で頓挫したと広く信じられているが、実際には「建てられなかった」ことも影響して中止になった可能性があり、その場合には設計を主導していたZHA側にも大きな責任がある

当ブログでは(ⅱ)を深く解明するために、旧計画の再検証を開始している。その中でも鍵を握るのは「アーチタイの設計が機能・品質を保証出来る形で完成していたのか?」になると考えているため、多く取り上げていると云う次第。
そして、もし設計が完成していなかったらどうなるか。結果として「建てられない」だけでなく、設計段階においても「出来上がっていない設計に契約通りの設計費を支払う必要があるのか?」という疑問が出てくる。当ブログでは、昨年8月3日記事”「アーチタイ追加経過は一大偽装事件の趣き」”で次のように書いた。
<(2014年5月に基本設計完了が有識者会議に報告されてから3ヶ月足らずで)アーチタイを追加しないと建築物としての設計が成り立たないとすると、各担当者の業務上で次のように重大な問題が有ったことになる。
 ・設計者側担当者…実際には建てられない構造の設計を提出して設計料を受け取った
 ・発注者側担当者…建てられない設計を精査せずに受領して発注者や国(ひいては国民)に損害を与えた>

もし「完成していない設計」と知りながら提出して、契約通りの設計料を請求し受領したら明らかに問題。「知っていたかどうか」について、キールアーチの支持構造が当初ZHA構想の「スラストブロック基礎」から基本設計で「スタンドによる支持」に変わり、すぐ後の公募では「アーチタイ追加」になっている。
構造担当だったと想定される「ZHA+アラップ+日建設計」は、深刻な問題があったから変遷したことを当然認識しており、問題が解決されないまま「基本設計完了」をJSCに報告したことになる。この実態を明らかにすれば、JSC及びそのバックの政府は、担当各社に対して「未完成設計への支払い分」を返還請求できるぐらいと思う。(ただしJSCも保身のために設計側と一緒になって未完成を知りつつ見逃したりした懸念は残る)

ZHAもJSC・政府側もこのような話は今まで表に出していない。これが表題に書いた「狐と狸の化かし合い」になる。ZHA側は自ら主導した設計の大きな瑕疵を隠したまま、一方的被害者のような顔をして更にお金を取ろうとしている可能性がある。JSC・政府側はゼネコン直訴によって致命的問題が有ることを知った官邸チームが、問題を隠したまま水面下で対応を行った。その際に契約解除しながら新コンペ向けにはザハ案の骨格を流用し、それを明らかにしないという本来考えられない手法を取った。

このように両者が実態を隠しあったまま、更に思惑を秘めて対峙しているので、周りから見ていたら真意が見えない。また流用に関して、普通に考えたら周到なカムフラージュをして当然なのに、外装には手を加えても中身はそのままの部分が多い。ZHAや伊東豊雄氏にあっという間に見破られて指摘され、厳しい状況になった。シナリオを書いたと想定される官邸チームが何を意図していたか定かではないが、後々の事も考えてとにかくZHAとは手を切りたいという思いが強く新コンペまで設定して「設計ロンダリング」を図ったにも関わらず、中身への配慮が欠落していたというような事情かと今は推察。

結果的に当方として現在の状況について一番思うのは、例えばJSCからZHAへの手紙の件で、ZHA側主張だけを信じて日本側(JSC)を一方的に悪者にするのでは真相が見えにくい。前述のように「狐と狸の化かし合い」になっているから、徐々に双方の化けの皮を剥いでいく必要がある。
現状認識の実例として経営評論家の宋文州氏はいち早く流用問題を指摘しておられて慧眼と思うが、次のようなツィートをしておられる。
<事実と真逆のNHKの報道。まるでHadidさんが新に何かを要求してるようだ。パクリと支払拒否に触れない。訴えられるのは当然だ。ザハ事務所 新国立競技場で著作権の交渉要求 NHKニュース  (1月15日)>

ZHA側も旧計画の頓挫に大きな責任が有りながら、2015年3月分までは契約通りの費用支払を受けた上に、政府側の止むに止まれぬ判断によって外されて実質業務をしていない分まで未払いとして請求していることになる。これは「○○猛々しい」と言うことも出来るぐらいと思う。今のような異常事態が片方の問題だけで起きるわけがないという認識を聡明な宋文州氏には今後期待したいところ。

また、このようなややこしい状態では、他にも識者と言われる方々が登場して解き明かしていただきたいものだが、どうも期待できないようである。例として「浅田彰氏」を取り上げてみる。少し前になるが浅田氏の論考「新国立競技場をめぐって」(2016年1月4日)を見ると例えば次のように書かれている。
<まず「デザイン監修者」としてザハ・ハディドを選び、そのあと日本の設計会社及び総合請負会社(ゼネコン)と組んで具体的な設計案を作らせる。そこではむしろ日本側が主体であり、ザハは「監修者に過ぎない」・・・
ここでは「デザイン監修者」はおおまかなコンセプトとイメージ、そして「名前」(ブランドイメージのような)を提供するだけになっている>

当ブログで昨日ご紹介した当事者証言資料と読み比べて頂ければ、浅田氏が如何に実状を知らずに、知ろうともせずに表面的認識だけで書いているか一目瞭然。しかも本問題での肝心なところになる。あの「浅田彰氏」の実像が事実関係を示すだけで理解できてしまった! 当ブログを書いてきた中でも注目に値する成果かもしれない(笑)他の部分の記述も同様な傾向があるので後日もっと詳細に評価してみる予定。

なお、本来は建築専門家からの動きがあっても良いはずなのに殆ど見られない。そうしたら次のような鋭いツィートがあった。
<建築が専門の方々は、それぞれに立場が有り新五輪スタジアムについてスルーを決め込んでます。迂闊に語りは藪蛇になる惧れが有ります。例えば教授であると官公庁もゼネコンも教え子の就職先です。(1月24日多久 芳仁氏)>

余りにも的確で、いきなり全て納得がいってしまった気がする(笑) 教授はそうだし、建築家や設計士などの方々も官庁やゼネコン・建築設計業界と多少なりとも関係がある人が多いだろう。建築村と云うことか・・・。
それにしても本問題は何と奥が深いことか。

以上
[追記]
先日「CADデータ流用して改変した可能性」について書いた。実際にもCADデータが容易に使えた状態(ザハ案業務で使用)なのに、流用に際してそれを用いないということは今時考えにくい。
データ流用が行われていたとすると、流用の事実自体も証明されやすくなる可能性がある。改変されていない部分については両案を高い精度で比較できる。巨大かつ複雑なスタジアムを全く別々に設計して、多数の箇所でCADデータが一致するなどあり得ない。つまり、CADデータで比較して同一データであれば、「類似している、或いは一致している可能性がある」などというまだるっこい話ではなく、完全一致が証明できてしまう。他にもCADソフト種類等の付加情報も分かる可能性がある。
仮に裁判になったら、CADデータを提出させて比較すれば流用判定は容易になるだろう。もしCADデータを改竄などして流用をわかりにくくする手法が有ったとしても、バレた時の責任が遥かに重くなるから、これ以上やらないと思う。流用していることは目視比較でも明確で、裁判になったら否定し続けるのは更に無理と云うこと。日本政府はそれを前提に対応を考える必要有り。

追記以上