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ザハ案の真相「建てられない設計だった」が国民に知らされていない件

本日24日は第4回検証委員会が開催される。文科省のHPでは議題は一つだけで「検証報告書(案)について」となっている。柏木昇委員長は8月7日第1回会合後「これだけの問題のサイズでは半年はいただかないと、しっかりとした調査にならない」と言っていた。それから一月半ぐらいしか経っていない。ただし、9月中旬に結果報告を出すこと自体は最終的に委員長も了解していたが、それも9月16日から24日に延びた。どの程度の調査が出来ているのだろうか。

なお、検証委員会とは別に、本来はマスコミが早く真相に迫るべきだが、新国立競技場問題は長く続いているにも係わらず核心がなかなか報道されない。その中で当ブログでも紹介してきた8月7日発売「文藝春秋9月号」のジャーナリスト「由利俊太郎」氏(現在正体不明)による技術面の詳細まで明らかにした記事だけが異彩を放っている。しかし、その後由利氏の続報や他マスコミの追随はない。

どうしてこれだけ真相が出てこないのか、どうにも良くわからない。例えば東京新聞は地元東京での五輪に関連するためか、新国立競技場問題を当初から熱心に追いかけている。中でも文化部「森本智之」記者は署名記事を多数書いていて、以下の今年6月記事も基本設計時のJSC内幕が明らかにされている。
<「文科省有識者会議も助けてくれない」「日本の設計事務所は能力が低いのでしょうか」。昨年春、東京都内のJSC本部に呼ばれた建築関係者に、複数の幹部職員が弱り切った様子で切り出した。
 総工費千三百億円で始まった計画は、英国の建築家ザハ・ハディド氏の基本デザインがコスト増を招き、二〇一三年十月の試算で三千億円に膨脹。JSCは規模を縮小して基本設計をまとめていたが、昨年三月の公表予定は既に過ぎていた。
 JSCを所管する文科省からも、建築家の安藤忠雄氏らがメンバーを務める諮問機関の有識者会議からも、具体的なアドバイスはもらえていなかった。一方で建築界からは槇文彦氏をはじめ、巨大すぎる計画に批判が上がっていた。
 「何が正しい情報か分からなくなってきた。正しいことを教えてほしい」。すがるように求める幹部らに、技術的な問題点などを指摘すると、幹部らは計画の無謀さを認めつつ、「われわれは計画の推進が責務。それ以外の行動は取れない」と吐露したという。>

残念なことに建築関係者が「技術的な問題点」を指摘したとまで書いているのに、その内容は全く書かれていない。同記者の昨年9月記事もある。
幕張メッセ東京国際フォーラムの構造設計を担当し、新競技場のデザインコンペにも参加した構造設計家の渡辺邦夫さんは「新競技場の形は構造的には全く非合理だ。それを実現しようとしていろいろな所に無理が生じている」と指摘。「ゼネコンの力があれば造れると思うがコストは跳ね上がるだろう」と話す。・・・
 渡辺さんは「構造の問題は手付かずで、先送りされてきた。予算内で収めるには大幅な設計変更が必要になるのでは」とみる。>

先ほどの記事では匿名の建築関係者の話だったが、この記事では実名の構造設計家。しかし、渡辺氏は「ゼネコンの力があれば造れると思う」だそうで、数ヵ月後に実施設計でゼネコンがギブアップするキールアーチ支持構造問題をまだ正確に把握しておられなかったのだろうか。また同記事は「技術的課題」として入札公募時のものと思われる図面にキールアーチを色付けして載せている(アーチタイは抜けているが)。
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更に森本記者はキールアーチ問題の本家本元森山氏とネット放送で同席するなどして、同氏からも取材出来た立場にあった。また東京新聞には森山氏による記事も別途掲載されたりしている。

他にも数多くの記事があり、これだけ技術面も追って来ている東京新聞と森本記者でも「建てられなかった」という真相が未だに報道されない。他マスコミが報道していないのも仕方ないかも知れない。しかし国民の関心が高い事案となっており、国民が真相を知らずに考えたり論議したりすることは大きな損失。マスコミが一社でも正確に報道すれば状況は変わると思われるが、全く無いのは一体どうしたことだろうか。もしかすると、国民自身が潜在意識で真相報道を望んでいないかのかとさえ思えてしまう。

またマスコミ以外の問題もある。建築を学んだ人ならアーチ構造は初歩中の初歩だろうキールアーチが問題になっていると知った時点でザハ案を少し調べれば、支持構造の問題点にすぐ行き当たるのではないか。しかし、建築の大家から、学者、数多くの建築士さん等に至るまで(森山氏を除き)明確な指摘がほとんど出てきていないように思う。一番容易に問題点が分かるはずの構造設計家からも核心を明らかにする指摘は出なかったのではないか。

ここから思うのは、国立競技場問題は色々な他の問題に例えられているが、当方は一面において「STAP細胞」問題と似ている気がしている。「根本に技術的虚偽があった」という点での類似性である。STAP細胞ノーベル賞級発見と思われたにも係わらず、(未だに異論をお持ちの方もいるだろうが)結果的に再現性がなく幻だった。ザハ案も大々的に発表され「キールアーチ」が特徴であったのに、肝心の支持構造が幻だった。「あり得ないことが起きた」という点でも共通性があるように思う。

ただ、STAP細胞事件では、最終的に小保方氏がやったこと自体は明確にならなかったが、虚偽があることは途中段階から多くの研究者などが的確に指摘していた。建築・建設の世界ではそのような指摘が少なすぎると感じる。しかもキールアーチ構造の問題は図面や敷地情報なども公表され、STAP細胞問題より余程分かりやすいと思われる。それでも、しがらみも少ないはずの若手建築家等からも明確な指摘がほとんど出てこない。逆にザハ案キールアーチと、正当な支持構造が有る別施設のアーチを混同させようとまでする。この大きな違いに対して建築・建設に携わっている方々の中から、いつか説明がなされるのだろうか。

とりあえずは本日検証委員会後の報道を待ちたいと思うが、21日記事でご紹介したように唯一の技術系委員古阪氏と国交省ラインの羽山氏は某研究所で接点がある。昨日の毎日記事では和泉氏と文科省が話し合って新コンペのやり方を決めており、文科省は検証委員会の技術系委員選定も国交省ラインに任せたことが充分想定される。そうなると検証結果報告にも和泉氏意向が反映可能になるが、「ザハ案キールアーチは建てられない設計だった」と云う真相は盛り込まれるか。

もし報告書がこの真相に言及しなかったり、曖昧な表現で分からなくしようとするなら、和泉氏の「真実」に対する姿勢に疑問符がつく。今やるべきことは、国民が今まで知らされていなかった真相として「これまでの混迷の大きな要因は、ザハ案キールアーチの構造的問題と日本側で構造設計を担当した日建設計の迷走にある」ことを開示する。キールアーチに適切な支持構造がなかったことや、日建設計のアーチタイ追加がいかに弥縫策かなど、技術的詳細までは理解されなくても「有名な組織でも信じられないミスをすることがある事例」として国民に知ってもらう必要がある。それを受けてザハ側は困難としても、日建設計率直に謝罪して自社でも経過調査を行って公表すべき。

ここまですれば、既に大きな遅れが生じて追い込まれた状況からのリカバリーには、政府・施工者一体になった取り組みが必須で、事前調整の必要性も暗黙のうちに認められていくのではないか。
真実が一番強い。虚偽や隠蔽を積み重ねていけば、どこかでボロが出る。国民に知らせるべき真相まで非公開にするような考え方だと、いかに周到な仕掛けでも、いつか脆弱性を表しかねない。

だが次のような部分的事前報道を見ると、工費見積りの取り扱いに関する話に帰着させている可能性あり。報告書全体ではどうなるか。
日本スポーツ振興センター(JSC)が今年1月、総工費が3000億円を超えるとの見積もりを建設会社から伝えられながら、「ゼネコンの言い値だから下げられる」と判断していたことが分かった。・・・文科省の第三者委員会は24日に検証報告書をまとめ、こうした対応の遅れにも言及する見通し。

以上
[追記]
上記の「渡辺邦夫」氏をWikiで見てみると、まさしく構造設計のベテラン専門家。
<1939年、東京都生まれ。1963年、日本大学理工学部建築学科卒業(桜建賞 受賞)。1963年から1964年まで、横山建築設計事務所に勤務。1964年からは木村俊彦構造設計事務所に移籍。1969年から、構造設計集団(SDG)を主宰する。>

前コンペに参加されたということで敷地条件などについても知見が有ることになる。このような方でもキールアーチの支持構造問題から「建てられない」と云う強い主張はされなかったようで、逆に「ゼネコンの力があれば造れると思う」と言われたことは、日本のスーパーゼネコンは文字通り「スーパー」な能力を持っているという業界神話が根強く存在するということか。

更に今になってもザハ案キールアーチ問題の真相を明確に語る構造専門家コメントや報道は無いようで、もしかして当方の認識の方が全く間違っているのではないかと密かに心配になる(笑)
しかし、これについては今までも書いてきたように、当初設計は日建設計が基本設計終了後に「アーチタイ」追加せざるを得ないほどの問題があったということで、「アーチタイ追加」自体が証拠になっている。また追加後に関しては、ザハ側がキールアーチを含む屋根部で約230億円と明言している。アーチタイの費用が入っているとは到底思えないから虚偽の可能性が高く、検証委員会などが調べればすぐ分かる話。結果的に彌縫策のアーチタイは着工できないレベルだったことをザハ側は知っていると思われる。

当方は建築関係では門外漢だから、このような調査と論理の積み重ねで「建てられなかった」という結論に至っている。だが構造専門家であればアーチの大きさや地質条件等は示されているのだから、アンカーの概略サイズはすぐに計算できるのではないか。またアーチタイ追加後では、キールアーチとアーチタイを含めた屋根部全体が約230億円で出来るかどうか、専門家なら容易に判断できるのではないか。

建築・建設関係の方々、特に構造専門家でさえもアーチ支持構造という基本的問題を的確に指摘して発表されないのは何故なのか。これも重要なテーマと思われるので、いつか調査検証して書いてみたい。

追記以上