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新国立競技場ザハ案と豊洲新市場の共通項…N建設計

随分前になってしまった感もあるが、「新国立競技場ザハ案」の白紙撤回騒動は昨年の出来事。そして今年は「豊洲新市場」ということで、2年連続で巨大建設案件の大失態が起きた。この二つには共通項がある。本日タイトルで書いた、皆さんもよくご存知の「N建設計」。

この共通項の影響をどう考えるか。当方は大いに影響があったであろうという認識。

まず、新国立競技場(新国立)。N建の話に入る前に、ザハ案の根本的問題を示す。
当ブログはザハ案白紙撤回後から検証を行ってきた。特にキールアーチの支持構造に問題が有りそうな点に着目。発端は森山氏のブログ。
この中でよく知られているのが「地下鉄との干渉」の図。
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ただ当方は、地下鉄より同じ記事にあったソチの写真を見て「支持部が巨大で敷地に収まらないのではないか」と思ったので考え始めた次第。人の大きさと比べると支持部の巨大さが分かるし、アーチ自体は新国立の半分ぐらいとのこと。
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そのため地下鉄との干渉はメインでは考えなかったが、指摘を見たら少なくとも技術系の人だったら検討は必要と思うだろう。それを建築関係者の中でも、地下鉄との干渉を「デマ」などと完全否定する人がいた。例えば以下。
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これを書いた建築家の言説の危うさは昨年の記事で明らかにしたが、一部では信奉者も多いようである。しかし、上記地下鉄干渉の図ぐらいは見ておられるだろうに、なぜ「デマ」とまで言い切るのかが分からなかった。(「キールアーチでコスト増大」もデマとしているが、これも間違いなので別途どこかの時点で取り上げる予定)

それが今回豊洲を巡る論議の中で、新国立の話も出てきて、ようやく理由がわかった。「デマ」に関するTwitter論議例を紹介しながら述べていく。以下のやり取りは、山本一郎氏のツイートが発端 → 触発された学生さん(ORZ氏)がペコ氏にツィート → ペコ氏が事情を説明 → ORZ氏がK山氏(K氏)に転送、という構図。K氏はザハ案支持で、昨年のザハビデオに関するネットメディアでの記事等もあり。

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まず上記右側の「ザハ案表彰式プレゼン図」でペコ氏が「斜め杭」としている支持構造が有る。それに対して、K氏は「コンペ後の実施(設計)段階ではタイバー形式になっている」と記述。そこから、”タイバー導入で斜め杭を無くしたから地下鉄との干渉は無い→干渉指摘はデマ”というのが主張の理由だった。他の人も、調べたら同様の考えによって干渉は無いと思っている。

しかし、干渉(或いは敷地オーバー)という問題があったからこそ、タイバー追加の変更を行って斜め杭は廃止。その斜め杭が無くなった状態を捉えて、「斜め杭が地下鉄干渉するというのはデマ」としているわけである。実にお粗末で本末転倒の論理だが、正しいと思い込んでいるから厄介。それにしても、干渉指摘をデマと決めつけている人たちが、ここまでレベルが低いとは思いもよらなかった。

しかも、K氏は「設計変更後に騒いでいた話」としている。しかし、上記森山氏ブログ以降の時系列は以下(1)→(2)→(3)の通り。
(1)ブログ(地下鉄干渉指摘)…2014年4月
(2)基本設計完了(アーチタイ無し)…同年6月
(3)実施設計入札(アーチタイ有り)・・・同年8月

ブログは、アーチタイ有りに設計変更されるずっと前で、しかも基本設計公表よりも早い。このような事実はスルーのようである。虚偽で他者を貶めようとする山本氏と同じく、言説を信頼できようもない。しかし、それでも信じてしまう人がいるのが困りもの。他にも次のようなツィート(O氏)があった。
<2016-08-21
そもそも、国立競技場問題の最初に「建築物ではなく橋だ」と言いつつ、タイドアーチの橋脚には水平反力が掛からないことも知らずに杭が地下鉄に当たるとか書いていた時点で、森山氏と彼を持て囃したワイドショーは信用していない。>
→この方は、盛土の目的が「地盤高さ合わせ」と早くから指摘された慧眼をお持ちだが、残念ながら専門家会議提言における盛土の効能「揮発性汚染物質の遮蔽」を無視した形になって、豊洲の議論が混乱する要因の一つになった。新国立で正確に事態を認識できないと、豊洲でも同様になってしまうことは、K氏や山本氏もそうだから相関がありそうな気もしている

なお、ペコ氏は上記ORZ氏にタイバー導入に関して解説。
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更に、新国立の重要事実をご紹介。この辺から本格的にN建の話につながっていく。
当ブログで新国立の検証を始めた当初の記事を見ていただけると、「ザハ案(ザハ+N建を中心とするJV)」の設計の何が問題だったか、お分かりいただけると思う。

エッセンスを簡単に説明するために、その中で使用した「基本設計時におけるキールアーチの支持方法」を説明した図を改良してご紹介。
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前掲の「ザハ案プレゼンテーション図」では、「斜め杭」でアーチ先端を支持する構想になっていた。
それが、上図の基本設計では、地下鉄干渉や敷地オーバー、或いはそれ以外の理由もあったのかも知れないが、全く違う「スタンド外周による屋根フレームの支持」(スタンド支持方式)に変わっていた。

仮に、この形状で成立していたとしても、アーチのスタンドより外側部分は単なるカッコだけの飾りでしかない。一番目につく部分であり、これで「(全体を貫く)キールアーチが特徴」と言ったら世界中から笑われるところだった。このような設計を最大手のN建が中心となったJVがやった。これをまず問題にすべきだが、スルーされている。

そして、耐震性や耐風性などから、やはりスタンド支持方式は無理があったようで、3ヶ月弱後の実施設計入札では「アーチタイ方式」に急に変わっていた。整理すると、キールアーチの支持方法は設計の各段階で次のような変遷があった。

 ①コンペ表彰式プレゼンテーション図…斜め杭 (コンペ時も基本構想は同様と推測)
 ②フレームワーク設計…不明 (この段階では既に斜め杭は困難と認識された可能性大)
 ③基本設計…スタンド支持方式
 ④実施設計…アーチタイ方式

前述の補足になるが、地下鉄干渉がデマだと言う人は、①~③を経て④に至った経過をよく考えずに、結果としての④だけ見て干渉は無いと言っているのである。

各項目に関しては、②においてはJSC説明図だとスタンド支持方式と推測できるが、「日経アーキテクチャ2015年10月号」ではザハ東京事務所のU氏発言と思われる以下内容を紹介していた。
<国際デザイン競技の時点では、アーチの両端をコンクリートのブロックなどで固定する支持方式を考えていた(当方注:これを斜め杭方式とする)。基本設計の初期段階で免震構造の採用の可否に関わらず、アーチタイを採用する方針となったという>
→ザハ側は②を基本設計の初期段階と捉えていた。斜め杭方式は具体化設計の早い段階で放棄された可能性があり、②で色々な方式の検討や試行錯誤があったことが推察される。

③の段階では2014年5月28日有識者会議で基本設計完了報告が行われた。④は8月18日実施設計入札公示。前述のように、この3ヶ月足らずの間に支持構造の根本的な変更があった。

これに伴う問題として、”真実発掘14 「設計会社の説明責任」 2015/8/8”で書いたが、有識者会議で変更承認を受けていない可能性が高いと思われる。この間有識者会議は開かれていないし、JSC公開資料には持ち回りで承認したような経過も無い。また、そもそも5月末の会議時点でアーチタイに言及しておらず、入札が迫って急に変更することは会議メンバーに説明つかなかっただろう。結果的に以下の状態。
 「重大変更の承認を取っていなかった」

既に皆さんお気付きの通り、豊洲も同状態。発注者はJSCと東京都で違うし、両組織のミスは大きかったが、共通項はN建。これをどう見るかは人それぞれと思うが、当方見解は後述。

新国立でのN建の問題はまだ大きいものが有る。「アーチタイの設計」である。以下は当ブログで何度も掲載してきた実施設計入札図。
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一見して分かるように、屋根部とスタンド部は、それらしい図になっているが、アーチタイだけ異常に簡易な図。アイデアレベルで設計検討が進んでいなかったと推察。

8月にこの状態で、受注ゼネコンが最終的に決まって打合せが始まったのは12月に入ってからだった。前述の当時ザハのU氏も次のように述べている。
ザハ・ハディド事務所がプロジェクトに関わりにくくなったのは14年秋にECI方式で選ばれた施工予定者が実施設計に加わってからだ。 施工予定者は契約上、14年11月と15年1月、3月にコストを提示しなければならなかった。ところが施工予定者たちはコストを示してくれない。それどころか工期の問題を持ち出した。2社がそれぞれ自社の受け持つ工程を長く見積もった工程表を提示したのだ。
そして5月に入ると最終的な価格の交渉はJSCの手を離れた。その後は官邸と施工予定者が直接交渉をすると聞かされた。>
→このような状態でN建だけがザハを差し置いてゼネコンと具体検討を、どんどん進めていたとは考えにくい。しかし、新国立のアーチタイは世界初と思われる巨大な室内設置のものであり、設計だけでなく工法からゼネコンと打合せを行うことは必須。しかも最初の工程になるから、工事着手前に設計・工法とも決まっていないと、その先の工事が進められない。

実態は、JSCの手を離れた2015年5月どころか、7月の有識者会議で実施設計が承認された段階でも、アーチタイの着工可能な設計はできていなかったと推測。それを裏付けるような記事もある。
<それでもまだ「基本設計はあるが、図面の最終版はない」(竹中の幹部)。工事に移るための図面が完成するのはこれからだ。>
→2015年7月でも、このような状態だった可能性がある。総合すると、「ザハ案は建てられる設計が出来ていなかった」=「建てられなかった」と云うのが当ブログ見解。つまり、前述の「④だから地下鉄の干渉は無い」どころではなく、④そのものが最終的に建てられない原因となった。

結局、キールアーチの支持構造を敷地内に収められなかったし、アーチタイの設計は出来なかった。これをザハ側が言い出さなくとも、N建はJVの中心で構造担当として当然知っていたのだから、発注者側に立って早めに「ザハ案断念」を進言すべきだった。

当ブログ10月30日記事”「良い仕事」とは”で紹介した、当方の先輩による「良い仕事をするために」という文書の中には、次の事例もあった。
 「発注側の担当者に問題があったので、裏から手を回して換えてもらった」

文芸春秋の由利氏記事にある2015年春先の「ゼネコンによる官邸直訴」はこれに当たるだろう。客先の言うことだけ聞いていてもプロジェクトが大失敗になりそうな場合は、思い切ってこのような手段も必要。
しかし、N建は両案件とも出来なかった。今後の大型案件においてN建を使う発注者は、この事例を念頭に置いて心して取り組むべき。或いは、使わずにECI方式等でゼネコンに一括発注の方が確実性が上がると思われる。

なお、豊洲ではゼネコンも是正しなかったが、新国立と違って建てることは出来たから、設計のまま施工したと思う。設計から責任を持ったら、ゼネコンや他の大手設計会社は、豊洲の反対運動が根強いことを強く意識する。N建のように、提案書の冒頭に「関係者の了解が重要」と書きながら、了解事項を反故にすることに加担するような設計はしなかったのではないか。新国立で沈黙を守り通して設計料は満額頂いたN建の体質の問題が大きいと当ブログでは推察。

豊洲では、だんまりを通せずに出てきたが、本日記事でザハとサポートしたN建の設計には根本的な問題があったことを感じ取って頂いた上で、次記事は豊洲地下空間を取り上げる。

以上