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 日建設計の責任は?(文藝春秋9月号記事検証3)

昨日検討してみたように、由利氏の素性は不明でネットでも調べられなかったが、参考に記事中の情報源を抽出してみた。(登場順)
 ・都庁幹部
 ・舛添知事にごく近い人物
 ・自民党議員
 ・ゼネコンの関係者
 ・設計現場に携わる一人
 ・設計JVに参加した現役設計士
 ・実施設計に関わったゼネコン所属の技術者
 ・官邸スタッフ
 ・JOCの審査メンバー
 ・ゼネコン幹部
 ・国交省幹部
これだけでも総勢11名。由利氏は上記情報源のうち誰に聞いたのかを逐一明確にして引用している。実際にインタビューしていると想定され、取材開始は昨冬からのようで、相当な手間と時間をかけている。記事に使わなかった情報集積も更にあるだろう。立派な取材だが、その分文藝春秋の記事だけではペイ困難が予想される。他媒体にも観点を変えて書いたりしないと取材費の元も取れないのではないか。
文藝春秋の原稿料は分からないが、今後他媒体に由利氏記事が出てこなかったら、やはり通常の独立系ジャーナリストによるスクープ記事とは何か違う背景があるかもしれない。ただし、由利氏が情報集積を活用して、もっと書いてくれることの方を当方は期待。

さて、敏腕記者由利氏でも設計JVの中心となった日建設計からは直接話が聞けなかったようで、伝聞で書いておられる。
強度を司る構造設計を受け持つ日建設計は、斬新なデザインに彩られたこの巨大構造物の耐震性をどこまで確保できるか、苦しみ抜いていたという。事実、基本設計は昨春完成予定だったが、ズルズルと何ヶ月もずれ込んだ。
しかし、実施設計から入ったゼネコンについては次のように書かれている。
そして昨冬。施工の元請け候補としてJSCと技術協力を結んだ大成建設竹中工務店が、設計JVと話し合いを始めた。するとにわかに耐震性に懸念が出てきたのだ。(以降キールアーチ基礎構造の困難さの話が続く)>

ゼネコン設計部隊がすぐ分かる問題を、設計会社(日建設計)の方は解決出来ないままズルズル長期間続けていたことになる。「苦しみ抜いて」となっているが、実際は解決不能とすぐ分かる問題だったことがゼネコンの状況から明らか(門外漢の当方検討でさえ、それが容易に示せている)。プロなのだから、一生懸命やれば済むような話ではない。出来ないことを迅速に見抜いて判断するのもプロの重要な基本能力。日本トップと云う日建設計がこれでは全くお粗末としか言い様がない。

だが日建設計のHPを見るだけでも凄い会社というのは良く分かる。特に構造設計は強いようで、近年では「スカイツリー」も手がけて、使用されている構造技術の紹介も載っている。
建物は、高くなるほど地震や強風時の揺れによって、基礎部分に大きな「引き抜き力」「押し込み力」がかかります。このタワーのように細長い場合には、特に大きな力がかかります。
そこで、基礎の杭を、節の付いた壁状のものにすることで摩擦抵抗を大きくして、これに抵抗しています。この節は、いわば「スパイクシューズの靴底」のようなものです。また、この壁杭を連続させ、放射状に地中に張り巡らせることで、「木の根」のように地盤と一体化することを意図しています。>

キールアーチ基礎の問題とも繋がることは容易に認識できるのに、なぜ両建築物の設計結果に大きなギャップが生まれてしまったのか??? 
繰り返し引用になるが<建物は、高くなるほど地震や強風時の揺れによって、基礎部分に大きな「引き抜き力」「押し込み力」がかかります>という記述は、キールアーチによる屋根構築にもそっくり当てはまる条件だろう。逆にスカイツリー等での経験があったために、キールアーチも何とか出来る、何とかしようと思ったのか。しかし、精神力に頼ら無くて済むように計算というものがある。構造計算で無理なことを証明して結果を率直に施主に説明すれば良い。未だに無謀な精神力頼みが日本の誇る土木建築での実態としての技術レベルなのか。

ネットで「日建設計 新国立競技場」を検索したら、日建設計執行役員の「山梨和彦」と云う人が次のような記事を先月発表しておられた。
<■最後に求められるのはデザイン
大型建築の設計を生活の糧として30年の経験から言わせてもらいたい。矛盾に満ちた話だが、機能と経済性だけを満たしただけの建築は、なぜだか竣工時にクライアントから祝福されない。・・・
誰が新国立競技場の白紙撤回の後を引き継ぐのかは分からないが、現状の世論を真に受け、機能をぎりぎり達成したコストだけ収まったスタジアムを建設してしまったら、竣工と同時に総スカンを食らうかもしれない。・・・
願わくは、担当する建築家には、ローコストと良いデザインとは必ずしも排反事象ではなく、優れたデザイナーのもとでは両立し得るものであることも示してほしい。・・・>

あなたの会社が両立をおかしくしたんじゃないのか」と思って、プロフィールをもう一度見たら「執行役員」だけでなく「設計部門代表」となっていた。信じられない事態に一瞬固まってしまった。
大型建築で30年の経験がお有りにも係わらず、今回のキールアーチが建てられないことをすぐに見抜けない人物が「設計部門代表」とは。(設計期間は長かったから問題が代表まで伝わって知っていたのは間違いない)

構造設計面においては、日建設計がザハ側(アラップ含む)とともに最大の責任を担う立場にあった。それでこの状態になったのだから、一昨日59億円問題と書いたが、今後は日建設計分(設計JV全体36億4600万円から要抽出)に絞って、応分の設計費返還を求めることも政府は考えるべきだろう(ザハ側分は国際問題になるため実質的に困難そう)。
国民の資金を無責任な会社に払って戻りませんでは政府として国民に申し開きが立たないのではないか。もちろんJSC/文科省の責任範囲も有るから全額ではなく「応分」とした。

更に山梨氏は7月31日Facebookで次のように書かれている。
<現状示されている流れは、シュリンクする日本経済における巨大建築の敗北であり、文科省主体の構図の中での施設計画の敗北であり、2520(億円)と言う官邸主導の仕切りの敗亡であり、国際的なスター建築家によるデザインの敗北であり、それを支えた組織事務所が国家的信頼を勝ち取る事が出来なかった敗北であり、ゼネコンが提示したプライスの信頼感の敗北であり、敗北者たちの羅列の上に、国民の混沌とした意見が重く覆いかぶさっている状況と言えるだろう。>

まったく「人ごと」のようで、所属設計会社とその設計部門代表である自らの責任は「組織事務所」として一般化して入れているのみ。山梨氏が設計JV総括会社の責任者として、先頭に立って施主やザハ側などと調整すれば、ここまでの状況にはならない。日建設計が引き受けた仕事は、担当部門代表者として絶対失敗させないという覚悟はなかったのだろうか。
なお、絶対失敗させないというのは、出来ないものをいつまでも右往左往して粘るという話とは全く違う。出来ないものは早めに体を張ってでも止めて、次のやり方を迅速に探す。首まで覚悟して臨めば、社外でも社内でも相手に真意が伝わって分かってくれる。今回はそれをやったのか、やったとしても中途半端だからこうなった。結果を出さなければならないのが責任者。

もし、施主が、ザハが、というなら言い訳にすぎない。また責任者は部下の仕事がうまく行っていない場合は自分でも状況確認して、出来ないものなら早めに見抜いて率直に顧客に伝える必要がある。
日本経済における巨大建築の敗北云々とかに逃げないで、責任者としての貴方自身の失敗に向き合うべき」  Facebookを見て、こう諫言してあげられる人は周りにいないのか。

当方は技術者として、無責任な技術者、その中でも特に責任者クラスは厳しく見る傾向があって、本日は書きすぎた感もある。それでも同氏と所属する会社によって日本の国際的信用まで大きく毀損したことは間違いなく、未だに説明責任も果たしていないと云う問題もある。
ちなみに同氏ツィートによると、丁度明日都内で講演予定があるとのこと。<9月9日、13:30から東京にて「建築デザインのこれからの方向性について」と題したレクチュアをさせていただきます。http://t.co/Jy2ZdIPUly
申し込みは締め切り過ぎていたので、どなかた行かれる方がおられましたら、「キールアーチの支持は当初どうなっていたのか?」、「アーチタイは本当に作れる設計ができていたのか?」、「新国立競技場問題における日建設計の責任問題をどうお考えか?」などの質問(ストレート過ぎるか)をしていただいて結果を教えていただけるとありがたいです。

(なお本日「ザハが日建設計と組んで再度入札参加」というニュースが入ったが、元々考えていた本日題材と偶然一致してタイムリーになった。ニュースの件は追記の最後で触れる)

以上
[追記]
知恵袋で以下のQ&Aがあり、重要な示唆を含んでいるように思える。
<新国立競技場のキールアーチの実施設計を担当していたのは【日建設計】です。
設計は4社でのJVだったのですが、客席や部屋部分は梓設計、設備関係は日本設計、外装はアラップ、日建設計キールアーチや外装、外構部分などを担当していました。(竹中や大成は施工だけです。)
報道では全くといっていいほど触れられていませんが、日建設計は基本設計段階からキールアーチの設計を担当しており、ザハ氏のキールアーチ案を2年近くかけて呑気に詰めてきました。
次の新たな新国立競技場のプランでは、日建設計が設計を担当することだけは絶対に阻止しなければなりません。>

なお、本日は以上の知恵袋紹介までの予定だったが、ザハ&日建設計の入札参加のニュースがあった。
<従来計画で設計を担当した日建設計(東京都)と同じく従来計画のデザインを担当したザハ・ハディド氏の建築事務所は7日、設計チームを組んで新計画の公募に参加することで合意した・・・
日建設計は施工を担当する業者は未定としている・・・>

今日入ったばかりのニュースなので、本日は当方の現時点での憶測を記す。
まず由利氏記事との関連で、「政府側はザハ再参加の意向を以前から掴んでいて先手を打ってリークをしたのではないか」という見方は有り得るかもしれない。設計過程の内幕暴露でザハ&日建の問題点を先に知らしめておく。ただ、もしそうだとするとマスコミや世間に余り反響が広がらなかった点は誤算だったかも知れない。
それでも、ザハ側は声明文やビデオで都合の良い所だけアピールして強弁しているし、日建設計はダンマリ作戦だけかと思ったら本文で紹介したように設計部門責任者自らが責任転嫁の文章まで出している。日本の信用を失墜させておいて、全く反省もない姿勢は裏の人の予想通りかもしれない。

ザハ、日建設計とも実力のある会社だから、再入札参加はあって良いと当方も思うが、前回の真相を明らかにしないままでは入札する資格も無いだろう。文藝春秋の記事が出ても国民の多くはまだ前回の内情を知らないから、まずは9月中旬という検証委員会報告がポイントになる。ザハ&日建設計が長期間かけて設計料もたんまり頂きながら、初歩の「アーチ構造」さえ実現できず、本当は「建てられなかった」と云う実態がどう示されるか。もし示されたら、その内容をマスコミがどう報じるか。

また由利俊太郎氏の裏にいるかも知れない人物が、全く反省もないザハ&日建設計でのグダグダ再現を危惧して、絶対落札させないために由利シリーズ第2弾などの手を打ってくるか。
もし実際に政府官邸側からのリークだったとすると、裏で仕掛けられるのはやはり和泉補佐官なのか。ただ「肉を切らせて骨を断つ」、「毒を持って毒を制す」という捨て身の戦法なので、有能でも官僚出身者に出来る所業かどうかは疑問もある。そうなると豪腕飯島参与か、と云うことになるが、TVなどでの発言を聞いた感じでは少なくとも7月までは新国立競技場問題は飯島氏マターでは無かった。
由利氏という、世間に知られていなかったが建設業界や政界に広範な人脈を持つ敏腕ライターが実在する可能性だって有るし、この辺だけでも興味深い。

追記以上