kensyou_jikenboのブログ

yahoo!ブログの同名ブログを移行しました

 技術的問題の根源(文藝春秋9月号記事検証2)

文藝春秋記事は、読めば読むほど内容が豊富で深い。よくぞここまで取材したものだと驚く。それで筆者の「由利俊太郎」氏を検索してみたところ、当ブログと同記事を基にした数ブログが上位に来るぐらいで、最終的に由利氏のプロフィールどころか、他に書いた記事も全く出てこない(当方本日検索時)。

これだけ辣腕のジャーナリストが他に一本も署名記事が出てこないとは不思議。しかも発端は「ゼネコン関係者」への取材で漏れて来た話ということだが、相当の関係性を築いていないと取れない内部情報。建築業界ジャーナリストなどで余り知られていない人物かもしれないが、政治面の内幕描写も非常に詳しいので、広範な人間関係を築いている必要がある。

誰か裏で振り付けする人がいて、情報を提供し書かせて文藝春秋に持ち込ませた、というような可能性まで考えられるか。当ブログは陰謀論的な話については、どうしてもそれでないと説明が付かない時ぐらいしか扱わないのを基本にしているが、これほどのスクープはそう無いと思われるのに筆者の情報が無いのは奇異。何か裏があるとすると、裏の人は今回これほど世間から反応がなかった事態をどう捉えていただろうか。次の手は何か。色々憶測は可能だが、確証を得るすべは無く筆者や記事背景について考えるのはここまでとする。(世間からの反応が殆ど無かった点だけは、「新国立競技場問題」に関心持つ人と、又吉氏ら芥川賞受賞作品を読みたい人とは、余り層が重ならなかったという説明がつくかも知れない)

筆者の情報が出てこなくても記事は的確かつ詳細であり、技術的内容は森山氏及び当方の見解とも概ね一致している。時系列も加味すると、「森山氏の建築専門家としての解明」(2013年秋頃~)、由利氏「内幕取材」(2014年冬頃~)、森山氏ブログでキールアーチ支持構造問題を見てからの当方による「公開資料詳細調査」(2015年7月~)と云う、各人各様の手法で得た結論「ザハ案は建てられなかった」が一致したわけで、信憑性が高いと捉えても良いだろう。

さて、由利氏記事をどのように検証しようかと考えたが、特に技術面に関して大筋は予想通りなので、逆の発想で同氏記事によって当方のこれまでの推測や疑問などを検討してみようと思う。
本日は当方から見たザハ案の根源的疑問に関する記述を取り上げる(262頁)。
<さらにもう一つ大きな仕掛けがあった。前述したロンドン五輪水泳競技場をザハ氏と共同設計した会社の存在である。・・・世界最大の土木建築総合コンサルタント会社、アラップ社である。・・・実は同社も、新国立競技場の設計JVに組み込まれ、構造計算を手がけていた。・・・ザハ氏側から『うちのデザインを生かすには、アラップ社の優れた構造計算の力が必要だ』と口添えがあり、設計JVに組み込んだ経緯があった。『十分な構造計算を行った』と自負するアラップ社を前に、もはや日本の設計事務所は口出しできなかった

ここまで聞き出しているのは恐れ入るが、残念ながら最終的に一番肝心なところが出ていない。ザハ案による新国立競技場建設を混迷させた最大の要因かつ最大の謎は当方から見て次のことになる。
”構造計算を少しやっただけで、或いは計算も不要な段階で、「強固な支持構造を持たない巨大アーチは建設不能」と設計者がすぐに見抜けたはずなのに、どうして基本設計まで進んでしまったのか?”

由利氏記事ではザハ側がデザイン監修者として入ったことや、アラップ社が世界最大の建築コンサル会社であることを紹介して、結果的に「日本側設計事務所は口出しできなかった」と云う流れにしている。しかし、鋭い同氏も「アーチは支持構造がないとアーチ構造にならない」と云う論理が、建築知識の初歩中の初歩であることの意味を把握しきれておられないのではないかと推測。実に単純な話で、「建築設計者、しかも世界最大の土木建築コンサル会社の設計者が、アーチ構造と云う最初歩を間違えるはずがない」と当方は思う。しかし現実としては支持構造無しの状態になった経緯が未だに想定出来ない。

今考えている唯一の手掛かりの可能性は、「日本の建築界も当初は(森山氏以外)殆どザハ案キールアーチの問題点を明確に指摘しておられなかった」と云うこと。もしかすると、アーチ構造さえも理解していない設計者が世界のアラップ社にもいたのか。ただし、由利氏記事に<キールアーチ用の巨大な基礎杭固定のために流しこむコンクリートは)「海上に空港を建設する時くらいの膨大なコンクリート量になる」 設計現場に携わる一人は、思わぬ難工事をこう例えた>と書かれている。例えとしても難工事になることは、どんな設計者でも分かったレベルのように思われる(当然担当設計者だけでなく上司やチーム同僚などもいる)。

またアーチタイ追加後は一応支持構造が出来たから、それをもって「支持構造はある」と言う人もネット上で見かけた(建築士らしい)。しかし、予想通り由利氏記事には「アーチタイ追加が更に問題を困難にした」ことが書かれている(直接的には「アーチタイ」と書かれていないが、内容から推定できる)。詳細は今後取り上げる予定。

以上
[追記]
9月4日(金)に行われた第三者委員会の現場視察の記事が出ていた。
<柏木昇委員長は「大規模な工事をするには、とても狭い印象を受けた。旧計画のキールアーチがいかに巨大か感じた」と述べ、建築家ザハ・ハディド氏のデザイン案では難工事が予想されたとの見解を示した。>

<柏木昇委員長は「370メートルのスパンの『キールアーチ』いかに巨大なものであるか、現場をみて実感しました」と述べた。>

建築関係ではなく国際取引法などが専門の柏木氏がこういうことを言い出したからには、検証報告に「キールアーチ問題」が構造面まで含めて入ってくることは確実(どこまで詳細になるかはまだ不明)。昨日記事でも書いたように、政府側も入れざるを得ないと思うが、野党が問題の意味を理解して会期末を控えた国会でどのような論戦に持ち込むか。
安保法制より野党側、特に党勢挽回が急務な民主党にとっては重要な政権追求材料になると思われるぐらい(総理の英断と云う話を帳消しにして逆にマイナスに出来る)。しかし、ここで正確な情勢判断が出来るぐらいなら政権担当時もあれほどボロボロにはならなかったか。又マスコミにも格好の題材だが、内幕が赤裸々に書かれた記事が出ても殆ど動かなったのだから、果たしてどうなるか。

対する官邸側は由利氏記事内容を網羅して、それ以上の真実まで公表する姿勢を示さないと、民主党などがもし的確な対応を取って追求してきたら非常に苦しくなる(昨日も書いたが、技術的内容が理解できる議員さえいればコピー振りかざしての国会追求で良い)。菅長官と和泉補佐官で思い切った公開の決断が必須だろう。59億円問題も「戻りません」だけで済まそうとすると、金目の問題は野党にとって格好の追求標的になる(これを追求出来なかったら野党も失格)。

追記以上