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 処罰感情

昨日は「morinosatoo」さんから量刑に関するコメントを頂いている。
2chを読むと、「片山懲役10年は妥当」というコメントの方が目立つけど、何の罪状で懲役10年の求刑されているか知って書いている人がどの程度か知りたいですね。

当方も見てみたが、2chでそのようになるのは本事件も被告人の謂わば自爆があって裁判も結審になり(表面的には)ほぼ決着付いたという状態で、後は殆ど野次馬的な人が残って被告人に向けて「野次ってる」という状況ではないかと思われる。ただしそれでも中には傾聴に値する意見もあるのが2chの良い所と思う。
2chに集う人々」(その特徴的な一人が片山氏だったということになる)の考察もやってみたいが、いつになることやら(笑)


さて表題の「処罰感情」であるが、検察官は本事件で求刑10年とする意味をどのように考えられておられるのだろうか。論告に関して江川氏が次のようなツィートをしておられる。
<11月25日【メモ】【PC遠隔操作事件】片山被告への論告で、情状に関する部分は33ページ。頻度の高かった形容表現は、「悪質」56回、「卑劣」26回。それに、「極めて」27回、「類を見ない」8回、「極まりない」4回が組み合わされた表現が連発されていた。

論告には色々な要因が含まれて出来上がったと思うが、江川氏の分析を見る限りは、当方としては法による「論理」より処罰「感情」の方を強く感じてしまう。
処罰感情も重要な要素であることは理解するが、当然ながらやはりバランスを重視する必要があるだろう。ここで弁護団の弁論でも取り上げられた「マルハニチロ事件」の例を挙げる。
従業員66人退職へ 農薬混入のアクリフーズ群馬工場 全員「自己都合」
自己都合ではあるが、操業停止により「グループ会社への出向」の打診があったとのことで、移動できない事情があって退職した人も相当含まれていることは確実。後日更に派遣社員契約解除の報道などもあった。
これらの方々にも当然処罰感情が湧く。しかも人数が多い。残った社員も将来不安が発生する。

また、この事件での被害額は58億円に上ると云う話もあるが、確実なところで以下の会社側会見記事があった。
マルハニチロHD会見「回収、販売額で13億円相当」 原因は「不明」” 2013/12/29
販売額で13億円ということだから、ざっくりその半分としても6.5億円の実害。更に回収費用は入っていないし、原因不明段階だからその後も費用が増えたことは間違いない。加えて操業停止が7ヶ月もの長期になったそうで、大幅減収になって損害額は更に大きくなり、諸々加えると58億円も不思議ではなさそう。会社存続の危機にもなってくるから、退職しなかった人にも不安が発生する。回収対応等で苦労された方々も多いわけで、処罰感情の総和で考えたら物凄く大きくなる。

それで3年6月判決だが、「流通食品毒物混入防止法違反」が適用されなかった経緯が以下記事にある。
グリ森30年、冷凍食品事件も防げた…毒物防止の法整備できているのか”2014.3.6
健康被害を訴えた人と毒物との因果関係が立証できなかったことや、毒性が低く規制対象ではなかったというような事情があったようだが、国民生活にとって非常に大事な食の安全を現実に脅かしたのは間違いない。これこそ(拡張)解釈による適用も考え得る事件だったのではないかとさえ思える。同法を適用せずに起訴したのは前橋地検とのことで、東京地検と考え方の差があるのだろうか。(但し前橋地検の方も一日ごとの混入を別犯行として、その併合罪を主張したが前橋地裁に却下されるなど色々やったようだが)

バランス的に国民はどう考えるだろうか。結果的に国民の意思を重視して、長期刑が10年にも達する重罪は、裁判員裁判の対象にすべきではないかと思えてくる。国民参加の負担は増えても、社会基盤として処罰感情の問題は重要だから、職業司法官にだけ委ねず国民の声を反映させることは必須になるだろう。

なお、「社会基盤」と書いたのは、例えば外国の例になるが韓国の「セウォル号事件」なども念頭にある。もし同様の事件が日本でも起きたらどうなるか。(世間では「日本ではあのような事態は起きない」ということで無視する向きもあると思うが、当方は「仮定」による思考を重視)
本事件で求刑10年なら、あの船の船長や乗組員に対する処断は日本の検察としてどうするか。多分検察官も「そのような事態は起きない」とスルーすると思うが、究極に近い例としてバランス面を考えてみていただきたいと思う。
そして、セウォル号事件は韓国社会や政治をも揺るがした。その大きな要因として遺族だけでなく韓国国民の処罰感情があることは間違いない。そのような意味で「処罰感情は重要な社会基盤」というのが当方の見方になる。

日本でも実際には処罰感情の問題は大きく、特に近年の厳罰化の流れがあって、そこに裁判員裁判導入という大きな制度改革があった。今後どうなっていくのか、厳罰化の方向だけで良いのか。国民として深く考える時期に来ているところに、この事件も起きたと思う。

以上
[追記]
求刑10年の事件例を参考に調べてみた。
その中に2007年に起きた「某ランチ」事件があった。恐ろしい事件だという記憶はあったが、求刑が犯人2名とも10年であった。ただ、主犯格は求刑より重い判決12年になった。
事件の記録を見ると被害女性がもし自力で逃げ出せていなければ監禁は続いて、犯人は顔も見られているから最悪の事態になった可能性があった(というか間違いなくそうなっていたと思われる)。
この凶悪事件と本事件が同じ求刑とは唖然とするばかりであった。

追記以上