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「上林功」氏見解に関して(10)「国交省官庁営繕部契約書」

ザハ案の権利関係について、これまでの貴殿ご見解をざっくり整理してみます(ご指摘等ありましたらコメントお願いします)。
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(1)譲渡が行われるという根拠「建築設計業務契約約款」の記載
<私の基本的な考え方として、国が通常行っている公共工事と同様の手続き、もしくは手続きの元となる原則を変えずに契約をおこなっていると考えている立場にあることを御承知おき下さい。>
<建築設計業務契約約款に記載されている著作権にかかる抜粋です。
著作権の譲渡等)
受注者は、成果物(第36条第1項に規定する指定部分に係る成果物及び同条第2項に規定する引渡部分に係る成果物を含む。以下この条において同じ。)が著作権法(昭和45年法律第48号)第2条第1項第1号に規定する著作物(以下「著作物」という。)に該当する場合には、当該著作物に係る受注者の著作権著作権法第21条から第28条までに規定する権利をいう。)を当該著作物の引渡し時に発注者に無償で譲渡するものとする。
公共工事の発注にかかり、以上の内容が付されている場合が多い、というのが産経記事の具体的内容です。>
(2)譲渡が行われなかった実例はないご自身の経験
<私の経験上、上記の約款以外として「発注者と受注者の共同による著作権保有」などもありますが、「著作権は受注者に帰属する」とした権利譲渡については国の工事の場合では見たことがありません。>
<私の知る2000年度以降の国の公共工事において権利譲渡が行われなかった建築はありません。>
(3)実際に譲渡の契約は結ばれたか
<今回のデザイン監修業務において知的財産権の譲渡がされているか否かはその後JSCとZHAが結んだ「新国立競技場フレームワーク設計に関するデザイン監修業務」と「新国立競技場基本設計に関するデザイン監修業務」の契約についての内容となります。こちらについては公表されていないため「譲渡が行われる契約が結ばれた可能性がある」と考えています。>
「可能性が有る」という貴殿推測
(4)実際に譲渡が行われたか
<「JSCは知的財産権の譲渡も含めて成果物納品を求めているのが現状と考えています。」という考えであって、譲渡はまだ行われていないと考えています。>
「考えています」という貴殿推測
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結果的に(3)(4)は貴殿推測となって、(1)(2)が明確な根拠に相当すると云うことになりそうですので、本日はこれを取り上げてみます。

まず、(2)の実例に関して<私の知る2000年度以降の国の公共工事において権利譲渡が行われなかった建築はありません。>となっていますが、これは実際に何件ぐらいでしょうか?

次に(1)ですが、「建築設計業務契約約款」で検索して最初に出てきたのが以下です(URLは「hiroshima」となっています)。文言の細部は若干違いますが、概ね貴殿ご紹介の内容と同様で、<受注者に帰属するものを当該成果物の引渡し時に発注者に無償で譲渡する。> という規定になっています
----建築設計業務契約約款 抜粋開始----
 (著作権の譲渡等
第7条 受注者は,成果物(第40条第1項の規定により準用される第34条に規定する指定部分に係る成果物及び第40条第2項の規定により準用される第34条に規定する引渡部分に係る成果物を含む。以下本条から第10条までにおいて同じ。)又は成果物を利用して完成した建築物(以下「本件建築物」という。)が著作権法(昭和45年法律第48号)第2条第1項第1号に規定する著作物(以下「著作物」という。)に該当する場合には,当該著作物に係る著作権法第2章及び第3章に規定する著作者の権利(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。以下本条から第10条までにおいて「著作権等」という。)のうち受注者に帰属するもの(著作権法第2章第2款に規定する著作者人格権を除く。)を当該成果物の引渡し時に発注者に無償で譲渡する。 
----建築設計業務契約約款 抜粋終了----

貴殿は<私の基本的な考え方として、国が通常行っている公共工事と同様の手続き、もしくは手続きの元となる原則を変えずに契約をおこなっていると考えている>とのことです。上記約款とは若干名称が違いますが国交省官庁営繕部所掌の建築設計業務委託契約書と云うものが有ります。それには以下のように条文Aと条文Bが示されていて、使い分けるようになっています。
----建築設計業務委託契約 抜粋開始----
○ 官庁営繕部所掌の建築設計業務委託契約書の制定について
条文(A )
著作権の帰属
第7 条成果物( 第3 7条第1 項に規定する指定部分に係る成果物及び同条第2項に規定する引渡部分に係る成果物を含む。以下この条から第1 1条までにおいて同じ。) 又は成果物を利用して完成した建築物( 以下「本件建築物」という。) が著作権法( 昭和4 5年法律第48号) 第2 条第1 項第1 号に規定する著作物( 以下「著作物」という。) に該当する場合には、著作権法第2 章及び第3章に規定する著作者の権利( 以下、この条から第1 1条までにおいて「著作権等」という。) は、著作権法の定めるところに従い、受注者又は発注者及び受注者の共有に帰属するものとする
著作物等の利用の許諾
第8 条受注者は発注者に対し、次の各号に掲げる成果物の利用を許諾する。この場合において、受注者は次の各号に掲げる成果物の利用を発注者以外の第三者に許諾してはならない。
一成果物を利用して建築物を1 棟( 成果物が2 以上の構えを成す建築物の建築をその内容としているときは、各構えにつき1 棟ずつ) 完成すること。
二前号の目的及び本件建築物の増築、改築、修繕、模様替、維持、管理、運営、広報等のために必要な範囲で、成果物を発注者が自ら複製し、若しくは翻案、変形、改変その他の修正をすること又は発注者の委託した第三
者をして複製させ、若しくは翻案、変形、改変その他の修正をさせること。
2 受注者は、発注者に対し、次の各号に掲げる本件建築物の利用を許諾する。
一本件建築物を写真、模型、絵画その他の媒体により表現すること。
二本件建築物を増築し、改築し、修繕し、模様替により改変し、又は取り壊すこと。
・・・

条文(B )
著作権の譲渡等
第7 条受注者は、成果物( 第3 7条第1 項に規定する指定部分に係る成果物及び同条第2 項に規定する引渡部分に係る成果物を含む。以下この条から第1 0条までにおいて同じ。) 又は成果物を利用して完成した建築物( 以下「本件建築物」という。) が著作権法( 昭和4 5年法律第8 号) 第2 条第1 項第1 号に規定する著作物( 以下「著作物」という。) に該当する場合には、当該著作物に係る著作権法第2 章及び第3 章に規定する著作者の権利( 著作権法第2 7条及び第2 8条の権利を含む。以下、この条から第1 0条までにおいて「著作権等」という。) のうち受注者に帰属するもの( 著作権法第2 章第2 款に規定する著作者人格権を除く。) を当該成果物の引渡し時に発注者に譲渡する。
・・・

[ 注] 条文(A ) (B )は当該建築設計業務の内容に応じて、選択的に適用する
----建築設計業務委託契約書 抜粋終了----

更に条文(A ) (B )の使い分けについては以下の運用基準が有ります。
----運用基準 抜粋開始----
官庁営繕部所掌の建築設計業務委託契約書の運用基準を定め、平成22年11月1日以降に入札手続を開始する業務から適用することとしたので、遺漏なきよう措置されたい。
第7条関係
[注]における条文(A)(B)の選択にあたっては、原則として条文(A)を選択することとし、次の各号のいずれかに該当する場合に条文(B)を選択すること。
一 象徴性、記念性等が極めて高く、他の類似の建築がなされることを確実に回避する必要性がある場合
二 同一又は類似の設計基づく建築を繰り返し行う場合
----運用基準 抜粋終了----

この中で、新国立競技場が条文(B)の選択基準に該当するかどうかは色々な考え方も有ると思うので置いておくとして、確実なことは国交省官庁営繕部所掌では少なくとも「平成22年11月1日以降」は条文(A)(B)の選択制になっています(旧計画は国際コンペが平成24年)。これと(1)における貴殿ご紹介の「選択制ではない約款」との関係がどうなのか?ということになって来そうです。

更に、条文(A)(B)では、「原則は条文(A)選択」になっています。貴殿の基本的考え方においては「国が通常行っている公共工事」となっていますので、原則が(A)だと通常行っている工事は譲渡が規定されていない条文(A)になることが考えられそうです。しかし、上記(2)の<私の知る2000年度以降の国の公共工事において権利譲渡が行われなかった建築はありません。>からすると、運用基準とは違って条文(B)が基本的に選択されているのだろうか?ということになってきます。これは矛盾しませんでしょうか?

また、帰属については条文(A)は「受注者又は発注者及び受注者の共有」となっています。これだと「受注者に帰属する」も選べそうです。<著作権は受注者に帰属する」とした権利譲渡については国の工事の場合では見たことがありません。>としておられますが、「受注者帰属」も選択可能と思われるこの規定のことはご認識されておられたでしょうか? 或いは、選択可能だが、実際には選択されていない」というご見解でしょうか? また、この規定がある以上、ザハ案で「受注者帰属にしていない」と言い切れますでしょうか? <文部科学省国土交通省は徹底した先例主義です。前例のないことを施策として取り入れることは例外なくありません>とまで述べておられますが、規程が有れば先例が無くても適用可能と云うことにはならないでしょうか?

なお、参考として、条文(A)(B)は建設省の時代からあったようです。
公共建築設計業務標準委託契約約款について(通知)”平成8年2月23日 (条文(A)(B)が入っている)

以上
[追記]
「流用問題」の方に関しては、4月16日コメントで以下のように述べられていましたが、その後状況はいかがでしょうか?
<一度作図してみようと思いますが、最上段のスタンドは縦通路が柱位置の影響を受けないため、条例などの関係で下段スタンドより一致しやすいことが多いように思います。>

追記以上