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世論及び知財論議

昨日記事で「大成チームは隈氏会見での類似性否定の公言により、今後類似性が確認されれば虚偽の説明をしたということでアウト」ということを書いた。
この判定は第一義的には「道義的かつ常識的問題」であり、知財の権利問題以前の話になる。例えばこれまで書いたように、何かのコンペに「コピーフリーで商用利用もOKの素材集」からコピペして、改変を行って応募したらどうなるか。権利上の問題はなくとも、「コンペではオリジナル設計を求める」というのが常識的感覚だろう。よって普通は「改変の程度にもよるが、流用が大幅ならNG」と考えるのではないか。また流用を明示してなくて発覚したらNGの可能性は更に高くなる。詳細な知財の話に行きがちになるが、今回の流用がアウトかセーフかは、まずこのように簡潔に考えることが出来ると思う。

では「改変の程度」はどう判定するか。参考になる記事がある。
<不幸なことに、多くの競技場はボウル型を採用しており建築物の類型論となってしまうため、著作権では保護できない。
わたしたちはここのところ、建築物著作権についてあらゆる面からの検証に時間を費やしたが、今回のようなケースの場合、結局は「トータルルック・フィール(全体の見た目と感じ)テスト」を実行することになるだろう。つまり審査官が2つのデザインを比べ、「これらのデザインはどれ程類似しているか」と訊ねるものだ。これはあやふやなルールであり、もしあなたがザハ氏と隈氏のデザインを比べたとしても、前者にとって旗色はよくはない。>

上記引用の最後は、「デザインを比べるとザハ氏にとって旗色は良くない」とZHA側不利の見方をしている。ただし、「デザイン比較」として外観のことを主に考えるなら似ていないと言うことも出来るだろうが、ZHAの指摘は「我々が2年かけて提案したスタジアムのレイアウトや座席の構造と驚くほど似ている」ということである。
レイアウトや構造が似ていることは当ブログ1月2日記事などで検証済みで有り、個人的見解としては「明白な流用」がある。(なお昨日1月2日記事の類似検証に1月5日分なども追記して一つにまとめました)

最終的な判定をどうすれば良いか考えてみると、上記引用中の「トータルルック・フィールテスト」をZHA指摘の「レイアウトや構造」についてやってみれば良いと思う。具体的には、前述の1月2日記事などの図を見て「似ているかと思うか?」を世論に問う。世論というと漠然としているように感じられると思うが、実際に現在ネットで出ている反応は世論の先駆けになる。「パクリ」、「コピペ」、「思った以上に似ている」などの声が多い。
「似ていない」と明言する反応は殆ど無く、有ったのは「外観の違い」を指摘するものだった。後は「分からない」という声がちらほらある(「分からない」という人は「分かろうとしない」という面があって、何にでもまず「分からない」と言う場合有り)。「要求仕様が同じなら似てくるのは当たり前」というような意見に対しては、前述の1月2日記事などを見てもそう思いますか?ということになる。全部「偶然の一致」と言い切れる人がどれだけいるだろうか。よって大差で類似性が支持されるのではないかというのが、現在の当方の見方。

後は今後のマスコミや野党の動きによる事になると思う。広く流用問題が知られれば、「世論の判定」が出てくる。その際には、(当方見解では)実態はエンブレム問題が霞むぐらいの大幅流用であり、専門家でなくても見た目で分かるから判定結果は自ずと明らか。(なおエンブレム自体は流用ですら無く、S氏デザインとコンペのやり方が拙劣だったという見方をしている)
マスコミ報道や野党の追求はどうなるか。日刊ゲンダイが「”パクリ”疑惑」と銘打ったが、夕刊紙だけで終わるとインパクトは弱い。大手紙や週刊誌が動くか。また野党は旧計画の時から既にだらしなかった。国会で肝心のところの追求がないからこのような事態になって、野党も共同責任と言えるぐらい。新計画ではどうだろう。

このように考えてみているが、念のために知財問題についても検討。資料として以下記事がよくまとまっていると思う。その中でも著作権以外に「営業秘密」を取り上げていて慧眼。今回の問題では、こちらの方が先に来そうな気がする。
<ザハ案の設計図の営業秘密の保有者は誰か?
著作物との話とは異なり誰が作ったのかは直接関係なく、誰が秘密情報として管理しているかということになります。おそらくは、ZHA、および協力会社が共同で保有者ということになると思うのですが、実態は外部から見るだけではわかりません。> 

この中では肝心の関係者が入っていないように思う。「JSC」である。ZHAと設計JV併せて50億円を超えるという巨額設計費用を支払って入手した設計情報だから、第一義的にはJSCの保有になるのではないか。また著作者を保護する著作権より。「営業秘密」の方がJSCへの帰属度が高いと想定される。
それで問題となるのが、「A案における流用をJSCが許可していたかどうか」。場合分けしてみる。
 ①許可した(JSC…どのような趣旨で誰がいつ許可したのか?ゼネコンにはどのように話したのか?)
  (1)大成チームにのみ許可…コンペ公平性毀損で不成立、JSCの責任を問うた上でやり直し
  (2)両チームに許可…白紙見直しのコンペでオリジナル設計を求めないのか?という問題になる
 ②許可していない(JSC…ZHAとの交渉状況や流用度合いから知っていたことは確実であり、放置・黙認したのか?)
  (3)大成チームが無許可で使用…業務で知り得た情報の無断使用になってしまう

JSCが①と②のどれかという問題もあるが、コンペ結果に対しては(1)~(3)のいずれになるか。。まず(3)なら一番大問題で論外、悪質なら「盗用」にもなりかねない。(1)は主催者(JSC)による公平性毀損の不手際でコンペ不成立。
(2)についても、「白紙見直し」表明を受けての新コンペで「オリジナルデザイン」を求めなかったのかという問題が有る。応募者側も流用を示しておく必要があっただろう。JSCや政府については、ザハ案ベースを事前に承認していたなら「何故ZHAと契約解除したのか」という説明が必須。結果的にZHA側の了承を得られていなかったという現在の状況も有る。それ以外にもザハ案ベースで「五重塔」がモチーフはおかしいだろうと云うことで「モチーフ偽装」問題が出てくる。

結果的に(1)~(3)のどれでも判定はアウト。つまり著作権の問題に行き着く前に営業秘密の方で破綻。更に前述のように「公言との相違」でも先にアウト。ZHAが強硬姿勢に出た場合も厳しく、もし著作権での争いになれば決着まで時間がかかることは必至。
もはや2重3重に「詰んでいる」状態。これを逃れる方策が政府側には有るのだろうか。或いは「動き始めている」「間に合わなくなる」ということで、このまま押し切るやり方を取るか。または流用による設計完成度の高さによって「ラグビーW杯に間に合わせる」という実利を打ち出すか。ただし、仮に更なる納期短縮が出来ても、政府として「流用を認めるか、認めないで押し切るか」で「筋を通すか通さないか」が変わってくる。推移を注目したい。

以上