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市民運動などの今後対応

表題の件の前に、来日したIOC副会長による完成前倒し要請の記事。
国際オリンピック委員会(IOC)のコーツ副会長が25日、東京都内で遠藤利明五輪相と会談し、2020年東京五輪パラリンピックのメーンスタジアムとして政府が同年4月の完成を目指す新国立競技場について、五輪前に設備や運営をテストする期間を確保するため、完成時期を1月に前倒しするよう要請した
遠藤五輪相は会談後、「ぎりぎり詰めて4月。施工業者に頼むにしても、どこまでできるか分からない」と語ったが、政府は対応を迫られそうだ。>

舛添知事もIOC意向ということで1月を要請していたが、これで正式なIOC要請となった。遠藤大臣は4月でギリギリとのことで話は噛み合わない。今後の展開で可能性のある推移を4通り考えてみた。
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(1)4月で推し進める
IOCも正式要請したからには引き下がるのが難しいのではないか。4月では7月開幕まで3ヶ月程度しか準備期間がない。1月完成にして少なくとも半年の準備期間を取るというIOC主張の方に理がある。
(2)1月への前倒しを呑む
→出来れば良いが、前倒し約束して出来なかったら最悪
(3)期日は約束しないで「出来るだけ前倒し努力する」と回答
→曖昧過ぎるという批判が出る
(4)4月で突っぱねて、IOCから「それでは新国立競技場建設は敢えて求めないから、何か他の対応策を考えて欲しい」と言わせる
→「ゼロ」がIOCから出てくる
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当方としては当然(4)を期待したいが、そう都合良く行くかどうかは不明なので、前倒し可否の件だけでも相当波乱がありそう。

どんどんハードルが上がるプロジェクトになるが、国民の関心は高く、市民運動の方々も熱心に活動されている。その中心になっているのが「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」(以下手わたす会、同会)である。「手わたす会」には多数の賛同者が有り、しっかりしたHPもある。
当方もこのHPで有識者会議・デザインコンペ資料を見て、新国立競技場問題に関するブログ記事の第1回目を書いた。(ちなみに有識者会議第1回~第3回やデザインコンペ審議過程が非公開だったという批判をよく聞くが、このようなところで既に公開されていた。情報公開は自ら探す努力も必要と思われる)

同会は2013年10月設立で、シンポジウムなども主催されている。共同代表の森まゆみ氏は著書で設立経緯を次のように述べておられる。
建築家らの問題提起によって(新国立競技場問題が)ようやく広く知られることになりましたが,市民の目線からこの問題を考えるべく,歴史的建造物の保存や住宅・景観問題に携わってきた市民の有志による団体「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」が立ち上がりました。
今年は国会請願活動も行っておられた。
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<同会は13年10月に設立。新国立競技場の見直しを求めてきた。賛同人は約4万7000人に上り、映画監督の山田洋次氏や解剖学者の養老孟司氏ら著名人も名を連ねている。>
請願事項
1 建設費、維持費、工期、計画決定プロセスの疑惑、環境負荷等に問題があり、国民の95%が反対している進行中の新国立競技場計画を中止してください。
2 上記を実行した上で、簡素で使いやすいメインスタジアムの計画にすぐに取り掛かってください。日本の信頼できる建築家たちは、2020 東京オリンピックパラリンピックまでに素晴らしいスタジアムを完成させるでしょう。
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賛同者は更に増えて2015年8月15日現在88,508人とのこと。約一ヶ月で2倍近い伸び。
当方が「見直し案でも(五輪までには)建てられない」と云う可能性を考えているのは、このような市民運動の動きが今後どうなるか、まだ見えないということが大きな要因になっている。

例えば「手わたす会」の方々は、白紙見直し表明によって上記請願第1項「進行中の新国立競技場計画(当方注:ザハ案の方)を中止」は既に実現した。
また第2項前段「簡素で使いやすいメインスタジアムの計画にすぐに取り掛かってください」についても、「整備計画」として政府が可動屋根無しなどの簡素化仕様を8月末までに策定する。

しかし、整備計画が同会の賛同を得られるかは定かではないと思われる。
政府は意見募集やヒヤリングを行っているが、それで政府は国民や関係者の声を聞いたと同会が判断されるか。また国民意見や関係者ヒヤリングの結果を反映した(と政府が考える)整備計画の内容が、同会に受け入れられるか。現段階ではいずれも不明と言うより無いだろう。(ただし費用面は事前報道からすると、受入れ可能な金額になるか今から既に疑問)
もし同会が整備計画の一部でも反対となれば、政府は単に押し切るということも難しく、対応を迫られる場面も出てくることが予想される。

白紙見直しやIOC要請によって日程は更にタイトになって、端的に言うと「ちょっと押しただけでもひっくり返る(=工期が間に合わない)プロジェクト」になって来たと思われる。そして市民運動の方々が一部の仕様でも反対に回って引続き熱心に活動された場合は、「ちょっと押した」ぐらいの影響では済まないのではないかというのが当方の想定。
他にも建築家やアスリートの方々などの中でも、整備計画の費用や仕様によっては反対の意見が出てくることは充分考えられる。また政府は今の進行のままだと、検証委員会の報告も出ていない段階で整備計画の策定・公表・コンペ実施を推し進めることになると思われ、手続き的にも批判対象になる可能性大。

一方市民運動の側にも今後は課題が出てくると思われる。「手わたす会」の請願第二項後段は「日本の信頼できる建築家たちは、2020東京オリンピックパラリンピックまでに素晴らしいスタジアムを完成させるでしょう」となっている。河野議員の「ゼロオプション」や当方の「五輪期日までの完成にこだわらない論議」とは違って、「五輪に間に合わすことが前提」ということになる。
しかし、前述のように「ちょっと押しただけで倒れるプロジェクト」を、批判によって容易に「押す」ことが出来てしまう可能性がある(つまり倒してしまって間に合わなくなる)。プロジェクトの生殺を市民運動がほぼ直接握るということで、今までの市民運動の歴史の中でも実は史上初ぐらいの事態ではないか。
同会が計画に問題があると判断した場合、必要な批判や修整要請はするにしても最終的には間に合わせるよう協力する方向に行くのか、問題の内容次第では間に合わなくてもやむを得ないとして取り組むか、市民運動の側にとっても難しい局面になるかも知れない。

また、「2020年までに素晴らしいスタジアムを完成させるでしょう」との期待を託されたのは、実質的に建築界全体になると思われるが、建築家や建設関係者の方々も「間に合わせるよう支援・協力の姿勢で行くのか、傍観するか、中立で是々非々か、批判で倒してしまうのか」などの選択を迫られることになって来そう。その分かれ目がまず8月末にやってくる。

以上
[追記]
槇氏の強い主張で当方も共感する「絵画館前広場の原状回復」も、いざ実行しようとすると長年軟式野球場を使用してきた草野球愛好家達から「庶民の球場存続を!」などの市民運動が起きる可能性がある。何をやるにも対話が必要で一筋縄では行かない。

今回政府は見直し案策定で一応対話の姿勢を見せたが、整備計画に批判が出た時どのような対応をするかが当面の大きな課題になりそう。

追記以上