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「キールアーチとフレーム構造」及びザハ側矛盾点

昨日はザハ案のデザイン面から考察してみたが、本日は機能面から考察。
まずキールアーチは中国アーチ橋と同様に美観に貢献する可能性があったが、機能面でも効用が発揮できる点があった。それは「フレーム構造」になるということである。
キールアーチ構造は橋との類似性がすぐに考えられるが、フレーム構造については自動車で考えてみると分かりやすいのではないかと思う。自動車の構造に知識がお有りの方は良くお分かりの通り、自動車の基本構造には大きく以下の2種類がある。
 (1)フレーム構造・・・堅牢なフレーム(骨組)をつくり、駆動装置やボディーを取付ける
 (2)モノコック構造・・・卵の殻の様に、ボディー全体で強度を出す
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今の乗用車などは(2)が圧倒的なため、(1)については語られることも少ないと思うが、強度面でボディ外板の損傷等による影響が少ないため、SUV軍用車など堅牢性を重視するジャンルでは今も使用されている。

ザハは(1)の構造にするとメリットがあると考えて採用したと想定されるが、例えば下図左のようにキールアーチ(クロスタイ含む)を先に構築することが出来る。そこに今回の大きな課題であった開閉機構を取り付けて、スタンドや屋根全体の完成を待たずに開閉試験などの機能確認も進められる。下図右の自動車フレーム構造もフレームにエンジンや駆動系を取り付ければ、ボディを組む前に基本機能が出来上がるのと似たような発想をザハ(や今回の担当者)がしたのではないか。

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また、フレームを活かしたデザインと云う手法がある。自動車ではフレームを見せる事は少ないが、バイクではフレームを目立たせて機能美をアピールする例は多い。キールアーチを積極的に見せて、デザインのアピールポイントにしたと想定される。
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以上のようなメリットだけでなく、フレーム構造にはフレーム自体が重くなるというようなデメリットも有るが、メリットを重視してザハは採用したことになるだろう。このようにザハ案は一見奇をてらったデザインのように見えても、コンセプトはよく考えられていたと感じる。なお、基本設計では「屋根フレーム」と云う構造が出てきている。本来は全体のキールアーチ構造の一部となるが、基本設計書では屋根フレームをメインとして説明するような構成になっている。この構成をザハ側と設計JVのどちらが主導したか不明。ただし、自動車の場合も例えばモノコック構造でもサスペンションを取付ける際にサブフレームが使われる場合があるなど、複合的な構成もある。

しかし、よく考えられていたはずのコンセプトを全部ぶち壊していたのが「キールアーチ支持構造なし」の件だが、それについて新たな理解を試みてみた。「キール」と云う言葉が船の竜骨を表す所からの率直な発想である。
船のキールの例を下図右に示すが、上下ひっくり返すとアーチ様の形状が見えてくる。これと左のザハコンペ案を対比させてみると、まさに「キールアーチ」というネーミングが頷けるようになった。
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更にコンペ案のキールアーチ接地部分と本ブログで紹介したJSC資料の説明図を並べると、やはりコンペ案はアンカー等の支持構造を考慮していなかったのではないかと云う気がする。(ただしコンペ案は地下に支持構造が無いとはいえないので、最終的にはザハ側に当時の意図を確認する必要あり)

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仮にコンペ案に支持構造がない場合、「船のキール(竜骨)には橋梁のアーチ構造のような強固な支持構造が必要ない」と云う点がクローズアップされる。
つまり、ザハ側がコンペ案では船のキールをイメージして構造を考えたとしたら、支持構造は不要と云うことになる。だが、船の場合は船体重量が浮力と釣り合っているからキールに色々な艤装を施して重くなっても堅固な支持構造が不要なのであって、新国立競技場を水に浮かべるわけには行かない(そもそも上下逆であるが)。

それでも、アーチの支持構造がないと云う信じられない事態が起きていた(と思われる)原因説明としては、「キール(竜骨)アーチ」だから船と同様に「支持構造は無くて良いと考えた」と云うことぐらいしか当方には現在想定出来ていない。
しかし、一応これで辻褄を合わせても、実際にはザハ側のコンペ表彰式プレゼン構造図に支持構造(強度等は別にして)が明記されていたから、「船構造説」は矛盾が生じる。

また、それ以外にも白紙見直しが決まってからのザハ側コメントで以下のように大きな矛盾が複数ある。
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<デザインにおいてコストを増加させていると言われているアーチ状の屋根については、決して複雑な構造ではなく、標準的な橋の建設技術を用いており、>
<この構造はスタンド部分と屋根部分の建設を並行して進めることができるため、スタンド完成後に屋根の建設に取りかかる、屋根をスタンド端から支える構造に比べて施工期間を短縮できると主張しています。>
<コストの面においてもアーチ構造は230億円の見積もりとなっており、全体の承認予算の10%以下であると説明しています。>

これらを整理してみた。同時に矛盾点も明らかになってくる。…以降は当方補足。
(1)アーチ状屋根構造(キールアーチが中核)は橋の建設技術船の構造技術(キール:竜骨)ではないことをザハ側が明言している。橋梁のアーチ構造なら支持構造は必須ではないか?
(2)屋根をスタンド端から支える構造ではない…アーチタイ追加前は、スタンド端(外周)が屋根を支える構造ではないか?
(3)スタンド部分と屋根部分の建設を並行進行可能…アーチタイ追加後は先にアーチタイ埋設してからでないと屋根もスタンドも工事できない。アーチタイの工期はどれぐらいと見ていたか?(アーチタイ追加前もキールアーチの支持構造が強固で自立可能でないと並行工事困難)
(4)アーチ構造は230億円…この見積りにアーチタイは含まれているか?含まれないなら何故含めないか?含んでいるならアーチタイ部の費用は凡そ幾らぐらいか?
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根本的矛盾が多すぎると思われ、単なる認識違いや間違いでは済まされないレベルで、このような強弁にはどこかに虚偽があると想定せざるを得ない。しかし、そんな推測を行わなくて済むよう、早くザハ側・設計JV・JSCなどはキールアーチ支持構造とアーチタイ追加の経緯等について詳細説明を行うべき。

結果的にザハ案はキールアーチを構造やデザインの中核に据えながら、肝心の支持構造に対する考え方が不明であり、設計思想がよく分からない。またアーチタイ追加という根本的構造変更が有ったことを全く無視したかのような矛盾の多いコメントも理解し難い。ザハ側に関してはまともなところと全く変なところが同居しているようだ。ただコメントが出ているだけでも沈黙の設計JVよりは良い対応か。

以上