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ZHA反論ビデオと河野議員検証

通称「反論ビデオ」については森山氏が専門的な分析を準備中と推測されるが、当方も昨日に引き続きやっておこうと思う。まずザハデザインで良い所を挙げておきたい。当方が以前から感じていた長所の一つが空中歩廊「スカイブリッジ」で、ビデオでは以下のように説明されている。
スカイブリッジは毎日開放され、イベントが無い日もアクセスすることが出来ます。これはスタジアムが都市のファブリックの一部として日々利用され、外苑の持つ遊歩道文化とスタジアムをつなぐことを目的にしました
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「遊歩道文化」に合わせるのは適切なコンセプトだと思う。外苑はスポーツだけでなく公園機能も有るから散策コースは重要。そんなに上の方まで登る人がいるか?という疑問も出されると思うが、東京の写真を撮ったり景色を見たりするには適しているし、無料だから気楽に行ける。このような利点が次のコンペ作品で無くなると、「ザハ案は良かった」という声も出てくるだろう。見直し計画に対してザハ案が比較対象になるのはやむを得ず、その上で多くの人がこれならと納得できる見直し案が出てくるか。

良コンセプトと思えるスカイブリッジも、技術的に見ていくと構造上の問題点を考えるきっかけになる。まず初期に戻って、2013年3月コンペ表彰式プレゼンのスカイブリッジ周辺断面図と構造図を示す。スカイブリッジはトラスを介してキールアーチにつながっていて、スカイブリッジもキールアーチが支える構造と考えられる。
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次に今回のビデオでは工事過程の説明があり、スカイブリッジと屋根フレームの組立工程も分かるようになっている。スカイブリッジは下図①②のように最初はスタンド側のベント(仮受け台)で支えられて組立てられるが、②でキールアーチ及び屋根フレームストラットと一体化され、最終的には③でベント除去し完成に至ると云う工法に見える。
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③の状態では、スカイブリッジと屋根フレームはキールアーチが支えている構造になると思われる。
まずキールアーチは地下のアーチタイで支持されていて、横倒れ防止のクロスタイが加わって自立すると考えられる。ここに他の屋根フレーム部とスカイブリッジが結合され下図緑の構成となり、更にフレーム間に膜が張られるが、やはり自立すると想定される。結果的にスカイブリッジも含めて屋根全体がキールアーチで支えられ、スタンドとは独立して自立可能だから、「スタンドは屋根を支えなくて良い」ことになる。
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実際ザハ側もビデオの「デザインの利点:アーチと工期」項目で、メリットとして明確に述べている。
屋根がスタンドから支えられ、その順序でしか施工ができない案に比べ三ヶ月施工を短縮する効果があると確信しています。

こうして見てくると、当初の「表彰式プレゼン案」と現在の「反論ビデオ」で、「屋根はスタンドから支えるのではなくキールアーチで支える」という構想は一貫していることが見て取れる。
しかし、表彰式プレゼン案と反論ビデオの中間に位置する「基本設計」の「屋根フレーム図」では、どうもおかしな所が有る。キールアーチ両端支持構造が描かれておらず、実際にそれが無いとすると、両端支持がないキールアーチで屋根を支えることは出来ない。
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では基本設計では何で屋根を支えているのか?スタンドだとすると前述のザハ側構想と矛盾することになるだろう。キールアーチなら、アンカー等は図には描かれていないが実際には地下にあると云うことか?しかし、アンカー等は基本設計図面に記載が無く、この時点はアーチタイ追加前と考えられ断面図にアーチタイも無い。

また何故か上図にはスカイブリッジも描かれていない。前述のビデオ図③では、屋根フレームとスカイブリッジは一体になって出来上がっているように見えるが、上図の屋根フレーム外周リングはスカイブリッジが付いているようには見えない。更に同じく基本設計資料でも断面図の方にはスカイブリッジが描かれていると云う矛盾もある。概念図の方は描き方を省略したということだろうか。
しかし、「ストラットは地震時や風荷重時にキールアーチに生じる力を受け止め、スタンドに力を流す」と云う機能が基本設計説明書に書かれている。スタンドに力を流す(伝える)部分はどのような構造になっているのか。屋根フレームの最外周がスカイブリッジでキールアーチと一体になっているなら、スカイブリッジの外側にはスタンドは無いから、横方向の力をどのようにしてスタンドに伝えるのだろう。もしかすると基本設計でのアーチタイ追加と云う基礎構造変更前後で、屋根フレームにも設計思想が異なるバーションが複数あったりするのか。当方には未知なことが多い。(この辺は検証委員会の技術専門委員が明らかにしてくれるか)

どんどん疑問が出てくる。他にもおかしな点は有るが、それらは細かくなるので別途として、大ぐくりに整理してみると「基本設計の構造で屋根を支えていたのは、スタンドか、キールアーチか、その他のものか?」という簡単な質問に還元できる。ザハ側・設計JV・発注者支援JV・JSCなど関係者それぞれに答えてもらえば、ここを突破口にキールアーチをめぐる事情は明らかになって来ると当方は見ている。(関連するもう一つの突破口がアーチタイ追加経緯で、こちらは更に変更内容が明確だが、「屋根を支えるのはスタンドかキールアーチか?」の方は質問が簡単で設計思想の矛盾などが有れば特定しやすい)

しかし、我々一般人にはそのようなヒヤリングは出来ないから、ここで鍵になるのが以前から決起を期待している河野議員。8月25日ブログ「幻の1300億円プラン」に行革本部検証作業の途中経過が載っている。
非常に興味深い内容で幾つもポイントが有る。まず「コンペ案からの修整はザハ側が行った」ことが明らかにされていて、これの意義は追記で言及。
更に検証結果を詳細に見ていくと次の記述がある。
<複数の案が検討され、もっともコストダウンしたものは概算で1358億円と、予定コストの1300億円に近付いている。ただし、可動屋根なし、屋根は観客席のすべてを覆わない35000平方メートルのみ、キールアーチは地上に達しない長さで、250mスパン、立体通路も可動ピッチも可動席もなしというシンプルなものになっている。>

何と「キールアーチは地上に達しない長さ」という仕様案があったことが示されており、これが本日記事と関係してくる。地上に達しなければ両端支持が無いのは確実になり、それでもコスト検討するということは設計者が「支持構造無しでも成立する」と考えていたことになるだろう。
これで「当初ザハ案にはキールアーチの支持構造が無かった」と云う見立て(元は森山氏)も、ようやく証明に近づいてきたと想定される。しかし、これ以上はやはり正式図面で確認しないと断定は困難。逆に言うと各設計段階の正式図面さえあれば、アーチタイの問題も含めて容易に検証できる可能性あり。

正式図面をどうすれば確認できるか。河野議員は「自民党行政改革推進本部長」の立場で取り組めるから、国会議員としての調査権だけでなく、政府与党の大きな権限が使える。JSCの資料などは殆ど入手可能だろうし、設計JVからも提供を受けるかJSC経由でも可能。ザハ側に関しては、まずJSCや設計JVに残っている図面で相当調査できるし、その結果で質問事項を伝えることも可能。
河野議員らは政府の検証委員会より早く調査分析が可能と考えられ、その一端が前述のブログになるだろう。ただ惜しいのは技術面検証の更なる深化で真相に達するより、どうしても工事費の方に注目が行っている感がある。ここに是非本問題の第一人者森山氏に入って頂いて、技術面を解明して頂ければと期待(既に共同でやっておられるかも知れないが)。

ザハ側もビデオは真摯に作られたものだと思う。しかし、本記事で検証したように設計経過を辿ると容易に大きな疑問点が出てくる。アーチタイの実現性や免震構造なども分析していけば、まだまだ課題が出てくるのは確実。ザハ側が自らの主張を明らかにすることは自由で是非やって貰いたいが、事実関係や論理が正確なものでなければ国民にも誤解を与えるから、そのまま鵜呑みにするのではなく確認が必須。
また、沈黙を続ける設計JVやゼネコン、発注者として解明責任があるのに政府の影に隠れている感があるJSCなどからも、真相を引き出さないと最終的な国民の納得が得られないだろう。国際的にも注目されてしまっている本問題の解明は、日本の信用のためにも必須。見直し計画(整備計画)も正式決定されたが、並行してこれまでの経過の真相を明らかにすることも次に繋がる。(当方も河野議員のHPメールに本記事を送るので、気がついてもらえると良いのだが)

以上
[追記]
コンペ案からの修整について、河野氏らの検証結果では次のように述べられている。
<コンペで最優秀をとったザハ案だが、コンペの条件を逸脱していたブリッジを修正するという条件が付いたので、ザハ氏はそれを受け入れて修正すると同時に、南北を逆転させている
さらにコンパクト化の指示に基づき、ザハ氏から350mのスパンを300mに縮める提案も出され、面積が29万平方メートルから22万平方メートルに小さくなった。>

これは当ブログで以前から述べてきたことが証明された形だが、「ザハのデザインはコンペ案から大幅に修整されて元の良さが無くなった」という見解をお持ちの方で、「日本側で行った修整の問題」として捉えている場合がある。
しかし、上記引用のようにコンペ案からの変更はザハ側が修正し、コンパクト化要請に対してもザハ側から提案が出されている。つまり「元の良さが無くなった」と評される場合があるデザインについてもザハが深く関与しており、その点で重大な誤解がある。

この誤解を解いていくためにも河野議員らの検証結果の意義は大きい。修整案はザハ側主導で作成された事実を今後は明確に発信していく必要があるだろう。
追記以上