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直接・間接について

ぺんてるさんから昨日記者会見ビデオアップの速報を頂いて早速見てみた。
その中で「2月12日初公判の午後1時ぐらいまでには、弁護側と被疑者本人の冒頭陳述内容を文書で配る」との表明があった。これは期待される。
文書で見られれば検証もやりやすくなる。明日か明後日には何らかの形で公表されるのではないかと想定され、当面はそれの検討がメインになりそうである。

さて、毎日新聞が初公判について報じている。
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”PC遠隔操作:12日初公判 間接証拠めぐり対決”
< 被告と事件を結びつける直接証拠なく
 2012年に男性4人が誤認逮捕されたパソコン(PC)の遠隔操作事件10+件で、威力業務妨害罪などに問われた元IT関連会社社員、K被告(31)の公判が12日から東京地裁(大野勝則裁判長)で始まる。片山被告と事件を結びつける直接証拠がないとされる中、間接証拠の積み上げで有罪立証を図る検察側に対し、弁護側は全面的に無罪を主張する。>
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ここで「間接証拠の積み上げ」と云う言葉が出ている。
それに対して、当ブログ昨年12月24日記事での佐藤氏紹介による検察官の言い分は以下のようになっている。
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佐藤氏は今回の会見で以下のように述べている。(5分20秒頃~)
<検察官は何故横綱相撲で臨まないんだ?というふうに言ったところ、平光公判副部長は「横綱相撲ができないからこそ沢山の証拠と証人を必要としている」と率直に認めた。
 ・・・
 それで平光検事は、あるいは検察官は一貫して「間接事実の積み重ねによって有罪を立証する」と言っているが、そうせざるを得ないというのが実際である。>
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これでは「間接事実の積み重ね」となっている。

更に以下のブログで佐藤氏からの話として「検察官意見書」の内容が紹介されている。
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”法浪記”第2回「パソコン遠隔操作事件」
佐藤弁護士によると、検察は起訴後の意見書に、片山被告が「自宅パソコンや元勤務先のパソコンの記録をほぼ完全に消去する手段を講じていた」と決めつけ、「細かい間接事実・間接証拠の積み重ねによる立証を余儀なくされている」と記しているそうだ。
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こちらでは「間接事実・間接証拠の積み重ね」となっている。
これは一体どういうことか?

整理してみると、まず以下のように2種類に分かれる。
 (1)直接事実を証明する直接証拠・間接証拠
 (2)間接事実を証明する直接証拠・間接証拠
これが更に下表①~④に分解される。( )内は本事件で考えられる例を当てはめてみたもの。
イメージ 1

このように整理すると簡単な話で当然佐藤氏は分かっておられて「間接事実の積み重ね」と検察の姿勢を紹介されているが、、例えば前述の毎日新聞記事を書いた記者は理解しているのだろうか。
「間接証拠の積み上げ」だけでは、直接事実を証明しようとしているのか、間接事実なのか不明である。この記事内容だけから見ると多分理解してないと推測されるが、これ以上は突っ込まないでおこう。

ただ、この「直接・間接」が上表の①~④に分かれるというのは非常に重要な話になる。
例えば、間接証拠(情況証拠)による立証に関して頻繁に出て来る「大阪平野母子殺人事件」の判例がある。Wikiでは以下のように解説されている。
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平野母子殺人事件
2010年4月27日、最高裁は審理が尽くされておらず、事実誤認の疑いがあるとして地裁へ破棄差戻した。・・・
また、直接証拠がない事件で間接証拠のみで被告を有罪とする場合は従来の基準であった「合理的な疑いを差し込む余地がない程度」から「被告が犯人でないと説明のつかない事実が間接証拠に含まれている必要がある」として検察側により高度な立証が必要と指摘した。
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今回の事件もこの判例との関連で考える場面が出て来るだろう。
ただ、重要なポイントとして、この母子殺人事件は上表では②に当たるのである。(直接事実である「殺人」を間接証拠で立証しようとしている)
それに対して、今回の事件を特に江ノ島の件で立証しようとする場合は④になる。(間接事実である「江ノ島猫首輪装着」に対する直接証拠がなく間接証拠で立証することになる)
この違いは殆ど注目されて来なかったのではないだろうか。

上表の①~④は一般常識において「証明の確実さ」を表す順番と理解しても良いだろう(①が一番確実)。
つまり、今回の事件で主に江ノ島で立証しようとしたら証明の確実さは一番劣るレベルとなる。

したらば掲示板へのアクセスログなどの②と考えられる証拠もあるようだが、直接事実としての遠隔操作に対して例の「東京都内又はその周辺・・・」という主張では、立証は放棄したも同然と云わざるを得ない。
また、キーワード検索も間接事実であり、しかも弁護側の「遠隔操作されていたのではないか」という指摘に具体的な証拠を挙げて明確に反論できない限り、間接証拠の域にとどまるだろう。

よって、本事件の立証は④という一番確実性の低いレベルのものになる。
これに②レベルである母子殺人事件の判例を当てはめるのは相当ではないと当方は考える。

元々確実さで劣る立証方法④に対しては、②よりもっと厳しい制約を課すべきではないか。
それには当方が強調してきた”出来る限りの丁寧な捜査による事件の全容解明への真摯な取組”を求めることが適切ではないかと考えている。
なお、司法の門外漢である当方が主張しても全く顧みられないのは承知のうえで、個人で自由に発信できるブログの特性を活かして、司法面についても独自視点の論理的分析や考察を記していこうと思っている。

以上

[追記]
本事件の関連で「和歌山カレー事件」も取り上げられることがある。
だが、この事件の地裁判決で間接事実として挙げられているのは例えば以下の事実である。

< 被告は、保険金取得目的でカレー事件発生前の約1年半の間に、4回も人に対してヒ素を使った。存在自体が極めて希少である猛毒のヒ素を、人を殺害する道具として使っていたという点で、被告以外の事件関係者には認められない特徴である。被告の犯人性を肯定する重要な間接事実といえる
 被告の4回のヒ素使用などは、人の命を奪ってはならないという規範意識や、人にヒ素を使うことへの抵抗感が薄らいでいたことの現れととらえることができる。>

一目瞭然であるが、これは間接事実とはいえ「ヒ素投入による殺人」という直接事実に強く結びついた行為になる。
翻って江ノ島の件は直接事実である「遠隔操作」には行為としての関係はない。
犯人が両方共やったとメールで表明していて、間接証拠のラストメッセージなども含まれていたから、江ノ島も間接事実になっているだけである。
つまり、和歌山の事件と比べて間接事実の意味合いが全く違うのである。
この点も和歌山の例を出す人においてさえも、殆ど語られてこなかったのではないか。

今回の事件の江ノ島雲取山は、「間接事実中の間接事実」、「the 間接事実」と言ってよいぐらい間接性が顕著であると思う。
そのような直接事実とは行為において無関係の間接事実の積み重ねで立証しようというのだから、非常に特異な事件といえるだろう。
この特異性を念頭に置いた検討が求められると思う。

なお、和歌山の事件についてももっと書いてみたいが、いつになることやら。

追記以上