kensyou_jikenboのブログ

yahoo!ブログの同名ブログを移行しました

第7回公判前整理手続後記者会見(6)  アリバイに関してⅢ

弁護側のアリバイに関する考え方について、会見で佐藤氏は以下のように述べている。(会見1時間17分頃~)
<ジグソーパズルでいうと検察官は全部のパズルをぴったりハメなければいけない立証責任を負っている。
 我々は一点だけでも絶対に矛盾するというものを見つければそれで勝ちなわけですよ。
 そういう意味では膨大なもの(デジタルデータ)があるんですけども、全部を矛盾なく解析する必要は全然なくて、或るところに何かおかしいものが有りそうだと云ってやってみたら、被疑者が犯人ではありえないというようなものが見つかる可能性がある。
 どういうことかというと、被疑者は客観的にはその時期にいないのにPCだけが動いている場合は犯人の側から見たら分からない。
 つまりヴァーチャルの世界でしか犯人は動いていないから、その落差みたいな、完全にアリバイが成立するような時間帯に何かがあったら被疑者がやったのではないということを意味する。
 そういう観点から今我々は探そうとしている。それは必ず見つかるだろうと思っている。>

アリバイ立証について要約すると「被疑者がPCに触れない状態の時間帯に遠隔操作が行われていた」、或いは「遠隔操作が行われた時間帯に被疑者がPCに触れない状態だった」ことを証明すればアリバイ立証になるということだと思う。これは全く同感である。

当方の疑問は「なぜそれをもっと早くからやってきてないのか?」と云う点に尽きる。
被疑者からヒヤリングして、例え一つでも完全にアリバイが証明できる時間帯があれば、それを最大争点にして、検察側が崩せなければ無罪の可能性が極めて高くなる。
しかも、今は以前にように目撃証言など曖昧になりがちなアナログ証拠だけでなく、防犯カメラやアクセスログなどのデジタル証拠で証明できる可能性がある。

無罪立証にはアリバイ証明が一番早くて確実ということは、佐藤氏は完全に知っている。
それを何故いままでやってこなかったかについて推定される理由は、当方として次の二つを考えている。
  (1)遠隔操作がリアルタイムかどうか確信が持てなかった
  (2)アリバイ立証に不安がある

(1)に関しては、当初よりタイムラグアクセスの可能性を主張する人が結構いた。
当方はリアルタイムと考えられるという見解を何度か述べてきているが、いずれにせよ今回弁護側にIT専門家が特別弁護人として付いたということで、その専門家にまずiesys.exeの動作がタイムラグ付きになるかどうかを検証してもらえば良いと思う。
(ただし、「suicaコマンド」はタイムラグ動作になると犯人が説明しているので除く。
 またタイムラグはどれだけズレたらタイムラグと云うかという話にもなるが、その前にまず最大で何分或いは何時間ぐらいのタイムラグが起き得るかを動作解析で出して貰ってから考えれば良い)
(2)に関しては、遠隔操作を多回数やっていて、それに付随する代行依頼書込やDropboxアクセスなどの履歴もある。メール送信やアカウントアクセスの履歴も多々ある。その中から確実に立証できる時間帯を選択すれば良い。

特に被疑者が率先してアリバイ主張するのが当然と思うのだが、知るかぎりでは昨日紹介した8月9日午前の分ぐらいしか見当たらず、しかも竹田氏の質問に答えての回答である。(ちなみに竹田氏はリアルタイム前提で質問したように思われる)
会社にいる時刻だけでなく、日曜や通勤中かもしれない時間帯にもアクセス履歴があるのに、IT技術者でもある被疑者が何故率先して当初から強力なアリバイ主張しないのか?
ここが当方にはどうしても分からない。これを見ておられる皆さんも自分がその立場なら間違いなくアリバイ主張から始めると思う。
被疑者はそのような点で、とことんのんびりした性格なのであろうか。
しかし、ドコモショップの件の2ch書込を見ても防水の規格などを的確に述べて、自分の主張に非がないことを論理的に説明している。
自分の今後の人生を左右するアリバイだから、愚痴の書込などとは比べ物にならない必死さで確実な証明を探すだろうし、それが出来る知能を持ち合わせているのも間違いない。
弁護側が切り札として使うのにタイミングを測って留保しているのであろうか。
しかし、率直に言って今までの経過からはそういう雰囲気も感じ取れず謎である。

一方検察側もアリバイ崩しをやっておくことは必須なのに、その姿勢が見えないことの不思議さはこれまで何度も指摘してきた。
これに関しては当方として分かって来ていることがあって、前回10月25日会見で佐藤氏が次のような発言を行っている。(10月25日会見57分頃~)
検察官は独自捜査を全くやっていないですよこの事件は。
 多分全部警察に依存している

これは極めて注目される発言と考えていて、まず佐藤氏が「この事件は」と付けているのは検察も一般的に追加捜査ができるからである。
wikiの「検察官」の項目では以下のようになっている。
<警察は第一次捜査機関としての役割を担うこととなり、検察官と対等・独立の協力関係を確立したが、公訴提起・公判維持の観点から検察官には依然、一定の指揮権限を与えている。>
<検察官は警察官等に対して、一般的指示権、一般的指揮権、具体的指揮権を有するほか、正当な理由がなくこれらの検察官の指揮に従わない場合、検事総長検事長、検事正は従わない司法警察職員の懲戒の請求を公安委員会に対してすることができる>
<具体的指揮(刑事訴訟法第193条3項)検察官が自身が独自に捜査を行う場合に、検察官の責任において司法警察職員を指揮して独自捜査を補助させるものである。>

検察官は警察を指揮して独自捜査を公訴後も行えるのである。
佐藤弁護士は当然それを知っていて、これだけの難事件で新たな事実や弁護側からの真摯な提起もあるのに検察が追加捜査しないことに不可解さを感じておられると思う。

更に上記の佐藤氏発言の前に木谷氏が次のように述べている。
<検察官の手持ち証拠はないという回答は、警察にそういうもの(証拠)があるかないかを確実に突き合わせて確認しなければいけない。確認させなければいけない。してるんだと僕は思うんですけどね。してるけれどそこは言わない>
また佐藤氏も以下の発言を付け加えている。
<今我々が問題にしていることは当然警察に流して検討してると思うんですけど、「証拠として上がってきてないからいいだろう」というスタンスですからね。それは凄くおかしい>

元裁判官の木谷氏も超ベテランの佐藤氏も「当然検察は警察に確認しながら進めていると思うが、それが見えてこない」というように感じておられるようである。
これに対して一般人の当方が率直に見ると、木谷氏や佐藤氏が持っておられるこれまでの常識から外れて、検察側の方針は「6月末の捜査完了時までに警察から出てきている資料だけを用いて、警察に追加で確認なども行わず、検察だけで独自捜査も無しで進めようとしている」ように受け取れるのではないか。

そうでないと例えば2ch事件のような警察の捜査済資料を追加で貰えば済むような事案まで、「手持ち証拠がない」というような対応になることは有り得ないと思うからである。
また昨日記したように肝心の遠隔操作で場所もPCも時間も特定しないままで乗り切ろうとしているように見えるのも、警察が特定していないから、検察としては特にフォローすること無しにそのまま出してきているとも考えられる。

多分異例と云っていい進行になっている理由の本当のところは分からないが、本事件の逮捕に至る過程やその後の捜査段階などにおいて、何らかの複合的理由で検察と警察の間に決定的な溝ができているのではないかと推察している。
この見方があたっているかどうかは別にして、経験豊富な木谷氏や佐藤氏が疑問に思うぐらい難事件の割に検察と警察の連携が密接でないことは間違いないだろう。

公判の行方に対する当方の現在の印象は、本記事前半で述べた「被疑者・弁護側のアリバイ主張がなかなか出て来ない」と云う点などで弁護側の不利も大きいと思うが、検察側がこのような対応では裁判官も明確な有罪認定しにくくて、結果的に「証拠不十分」になる可能性も充分あると感じている。

そうなると最終的にはやはり判決を下す裁判官の判断次第ということになるが、裁判官個人の心情はなかなか分からないので判断の基盤となる「自由心証主義」を後日別途考察してみたいと思っている。
それとアリバイ検証には本人取調が必須となるが、検察側が取調できていない問題についても今後更に考察対象にしていきたい。

以上