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事実認定と当事者主義

裁判官の事実認定能力について何回か書いたが、根本的に考えてみると幾ら超難関の試験を通ったエリートと云っても、そもそも司法試験は法律知識を問うものであって、事実認定能力やその素質を推し量る意図ではないだろう。
また、任官してから裁判の場数を踏むことで事実関係の判断力が鍛えられる可能性はあるが、その基盤となる洞察力というものは素質の面が大きいのではないか。
では、裁判官による事実認定をどう考えるか考察してみると、日本の制度では「当事者主義」に行き着くのではないかと思う。

警察が集めた事実を検察が吟味整理してストーリーと裏付けを構築し、起訴して公判に臨む。
弁護側はそれを崩そうとして、色々な手段を駆使して挑む。
そのやり取りが法廷で裁判官と傍聴人立ち会いの下で行われ、検察側・弁護側双方が提出する証拠を併せて裁判官が検討して判決を下す。
結果的に検察側と弁護側という当事者同士のやり取りで揉まれる中で、ほぼ事実認定の基礎は出来上がっていく。
裁判官はそれを自由心証で最終判定するので、裁判官の事実認定能力は余り問われなくて済むシステムということになる。

しかし、本事件は非常に特異な状況になっている。
象徴的なのは、検察側が提出している多数のデジタル関係の証拠が、弁護側からは遠隔操作によるものということで全面否認されていることである。
例えば何かのアクセスがあったことは事実でも、それは被告人ではなく真犯人がやったものであるという主張になる。
こうなるとアクセスという事実があることは証明できても、実際に誰がやったのかで真っ向対立になり、両方の主張に相応の妥当性があると、どちらが正しいかは裁判官の一存ということになる。
しかし、警察・検察側にはサイバー捜査官、弁護側はIT担当特別弁護人がいても、裁判官には専門的補助者を認める制度はない(外国特派員協会での佐藤氏談)。
つまり裁判官が一番専門知識を持てないことになるが、これでどうやって判断するのだろうか。

また常識的に考えて、本人取調は事実認定に必須。
弁護団と片山氏は当初から録音だけでもすれば聴取に応じると明言していて、実際保釈されてからは公開の場で様々な質問に答えてきている。
しかし、検察・警察が取調を行わなかったから、結果的に事件に関する殆どの最終判断を裁判官一任という状況になってしまう方向である。
しかも1年以上も被疑者を拘束した上での話である。
専門知識もない裁判官が被疑者調書も無しに法廷での限られた時間での尋問や心証だけでこの難事件を判断して良いものか。
自由心証主義とはいえ、そのベースは当事者主義となり、真相解明に必須である一番の当事者の被疑者取調が、黙秘ではないのに検察・警察側の都合だけで行われていない。
検察・警察側の当事者責任放棄と云えるだろう。
このように当事者主義が崩れていて、結果的に事件の全容を検察側が示せていないという状況下で、裁判官が自由心証を根拠に判断することは正当化出来るのか。

佐藤氏も取調をしなかったことの問題を以前から述べてきて、先日の外国特派員協会での会見でも強く訴えていた。
しかし、佐藤氏がいくら会見で訴えても、弁護側が結審まで裁判に付き合ったら、後は裁判官の自由心証で判定できることになり、取調を行わなかったことは結果的にスルーされる。
論告求刑までいけば検察官の仕事も完結し、もはや今回の捜査・起訴・訴訟進行などについてお墨付きを与えることになってしまう。
結局問題点が数多くあっても結審してしまえば裁判は大筋で成立したことになるが、本事件の場合それで良いのだろうか。

取調問題、シロにする捜査問題、その他多々ある問題を指摘するだけでなく、本事件の裁判に反映させるとともに、今後のために問題点を改善させるためにも、この裁判を結審させてしまってはいけないと思う。
そのためには、5月中の検察側立証段階が終了した区切りにおいて、「多くの捜査や起訴上の問題を抱える本事件の裁判をこのまま進めることは認められず公訴棄却が必要」ということで、弁護側から最高裁法務省などに公開質問状等を出すなどして見解をただすべきと思う(最高検は出してもスルーだろう)。

その上で回答なしや不十分な回答ならば、裁判ボイコットなどの強硬手段も考えて、問題だらけのまま起訴が行われ適切な訴訟指揮もなく進んでいる裁判を、少なくともこのままでは結審させないようにすべきではないだろうか。
過激ではあるが、録音要請すらも門前払いで、シロにする捜査の徹底を公約した警察報告書の証拠採用にも同意しないなど、真相解明や捜査の問題に真摯に取り組む姿勢を見せない検察側のやり方を考えると、弁護側も強硬手段を取らないと問題提起にもならないと感じる。

(過激な意見には異論も色々あるとは思うが、個人ブログなのでその時々の個人的見解を率直に書いていこうと思っている)

以上