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白紙化の要因…現時点での見解

新国立競技場問題での当ブログ記事が何と100回目に到達してしまった(苦笑)
書き始めた時には思いもよらなかった回数だが、まだ書くことがあるという大きな対象になった。本日は区切りとして「白紙化になった要因」に関する現時点での見解を記す。

当ブログ10月1日記事で次のように書いた。
<このところ見積り経過を検討してみて感じたことがある。検証委員長なども未解明と考えていた「設計JVとゼネコンの見積り金額乖離」の問題は、アーチタイ追加問題とは別個にも存在するのかもしれない。つまり、1,625億円起点の見積り変遷に関して、問題点が二つ有るのではないかという気がして来ている。
 (1)設計JVとゼネコンの見積り乖離
 (2)アーチタイ追加による工期・工費への影響 >

白紙化になった直接の理由も、この2つで説明できるのではないかと現在考えている。
まず(1)に関しては、基本設計見積りでJSCは1,625億円としていたが、2015年1月ゼネコン見積りで三千億円超の工費と五輪にも間に合わない工期が出て来て、迷走の最終段階に入った。
見積り乖離について次のような記事があった。
ここは日本だ。決めさえすれば、必ず間に合う。” 民主党玉木議員 2015年07月12日Huffpost 
<コスト増加要因の中で一番大きいのが、765億円におよぶ「新国立競技場の特殊性」だ。
内訳として「屋根鉄骨」「スタンド鉄骨」「内外装」「大量の建設発生土」が列挙されている。
そこで、それぞれの金額を具体的に(JSCに)聞いてみたところ、なんと全く答えられなかった。
つまりこの756億円は、ゼネコンが必要だと認めた総工費のうち、増加について明確な説明ができないところに、単に「特殊性」という都合のいい理由をつけた金額に過ぎないのである>

もはや笑い話の部類ではないか。検証委員会は初めて取り組んだ人ばかりで時間も制限され、委員長が「乖離は謎」として終ったが、JSCはずっと担当している。またJSC自体が見積りを分析出来なくても、発注者支援の山下設計JVにやってもらえば良い。しかし、本年2月13日文科省への報告で「乖離を収めることは困難」としたまま、7月になってもまだやってなかったことになる。

昨日記事で設計チームとゼネコンの考え方の違いとして、特に竹中の安全性重視を挙げた。これを徹底していくと当然コストは上がる方向だが、安全性が至上命題というのもよく分かる。キールアーチや屋根全体で高所作業が多くなるから、安全確保用の費用の多くが「新国立競技場の特殊性」に入れられるだろう。またスタンドの方も、前例の無い巨大スタジアムへの免震構造採用でコストアップが発生し、これも特殊性に入れられる。
このように分析していけば「特殊性」が何を指すのか分かるはずだが、開閉装置先送りなどの仕様低減によるコストダウン検討は行われても、コスト分析に必要な乖離調査はずっとやってなかったことになる。非常におかしな話である(ここまでおかしいと何か裏事情は有るかも知れない)。
結果的に特殊性の詳細不明のままで7月7日有識者会議に2,520億円が報告され了承された(これもおかしな話)。その後7月17日安倍総理が白紙見直しを表明するに至った。

白紙化理由は「2,520億円の工費と、その変遷による不透明さへの国民世論の反発」と一般的には受け取られていると思う。しかし、それらも有るにせよ、もっと根本的理由があったと当方は考えており、それが(2)になる。
(2)に関連して日経産業新聞で以下の記事があった。
まだ「基本設計はあるが、図面の最終版はない」(竹中の幹部)。工事に移るための図面が完成するのはこれからだ。

この記事は本年7月7日だったにも関わらず、その頃でもまだ「図面の最終版」は無かったことになる。本当なら唖然とする話だが、「アーチタイの設計図面はゼネコンに渡っていなかったのではないか。そのため見積りもされていなかった」という当方の見方とは一致する。そこから「アーチタイの設計が出来ていなかった=着工できる状態ではなかった」という推測も出来てくる。記事のタイトルは「資材・人件費」でも、この時点で図面の最終版が無かったら当然工期に影響するので、納期厳守の本プロジェクトには、より深刻な問題。

結果的に今までの見方の再確認になったが、「(納期も考慮したら)ザハ案は建てられなかった」ということが白紙化の根本的理由と当方は考えている。ただし、アーチタイの設計が実際にどうなっていたかは、実施設計の断面図にごく簡単な記載があるだけで実態不明のため、日経アーキテクチャ等が今後の取材で解明してくれることを期待。

以上