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ゼネコン検証1…見積りに関して

一昨日記事で紹介したように、内藤氏はザハ案でのゼネコンの動きに批判的で<工期が間に合わないと言うほうがおかしい>と言いきっておられる。ZHAも「ゼネコンの選定が競争原理の働かない方式だった」とか、「ゼネコンと打合せが出来なかった」とかの批判を行っている。設計JV、特に日建設計はゼネコンとの見積り乖離に対して有効な手が打てないままだった。

ゼネコン見積りに関連して、当方は10月22日記事で次のように記した。
キールアーチは並行工事のメリットどころか工期の増大をもたらすため、ゼネコンはそれを見込んで見積りせざるを得なかったと云うのが当方の見方です。その検討もほぼ出来てますが、特に竹中はキールアーチ関連の高所作業とその下側での作業が並行進行する場合において、「安全性」の問題に相当気を使っていたようです。>

本日はこれの続きを述べる。ゼネコンからの情報は乏しいが、まとまったものとしてはヒアリング結果がある。竹中は以下のように言っている。
----竹中ヒアリング引用----
工区を分けることについては、メリット、デメリットあるが、開閉式の機構等は二つに割れないので、その会社としての力を発揮するという意味では、屋根なら屋根をまとめてやるというやり方にならざるを得ない部分があったと考えている。各社の得意なところを生かすという意味ではメリットがあると思う。デメリットは、屋根工区もスタンド工区も地面があって初めてできるところがかなりあり、日本に何台かしかない重機を使ってやらないといけないので、それぞれの工区でどのように施工するかを調整していくのに、時間がかかるところはある。
○ 上下で割られているから、下が遅れたら上が遅れるわけで、そのリスクをどう補塡するのかの議論はずっとやっていた。工事保険会社ともお互いに研究しようと言っていたところで、白紙撤回があり、ストップがかかった。
○ 今回は上下で分かれての作業なので、上下作業の安全性を含めて大成建設と協議を進めて、合理的に進めていた。
----ヒアリング引用終了----

竹中は屋根とスタンドの工区分割のメリット・デメリットを客観的に評価していた。この分割の仕方に批判も出ているが、実際に担当予定だった竹中は分割の合理性を認識。ただし特殊な重機使用の調整など実務面の困難さと両工区間での遅れの相互影響によるリスクを考えていた。
また特に注目すべきは「安全性」の問題と思う。参考として、キールアーチ方式ではないが竹中がドーム屋根工法について特許を出している内容の抜粋をご紹介。

----竹中特許引用----
直径が200m〜300mにも及ぶ無柱の大空間を形成するドーム屋根の架構を鉄骨部材で組み立て構築する場合、通例は地上から多くの支保工を立て前記鉄骨部材を支持して構築を進めるのが一般的な工法である。
しかし、前記工法は、ドーム屋根の規模によっては支保工の仮設費用が屋根の施工費用を上回ることさえあるし、支保工が林立するかぎり屋根下の地上では各種工事を進められず、工期が長引く等の問題点がある。
----特許引用終了----

竹中は「支保工が林立する屋根下の地上では各種工事を進められない」と考えている。ザハ案も開閉機構が無くなった場合でも、キールアーチやクロスタイ・サイドストラット等、固定膜などの天井工事がある。それらをやっている時は、その下では工事ができないというのが竹中の考え方になる。確かに高所から物が落ちたりしたら危険なことは誰でも分かる。施工会社としたら、労災で犠牲者が出たら最大の問題になる。そこが設計チームとゼネコン、特に竹中との認識の差になったのではないかと思う。(日建設計やZHAのヒアリングで安全性の話は全く無い)

竹中は自社のポリシーに沿って見積りを出し、設計JVはゼネコンの考え方を余り考慮せずに見積ったから、両者の算出結果に乖離が生じた。もちろん建築資材や労務費の高騰などもあった。資材費の見積り方にも最安値を取るか中間値を取るか等の違いが有った。
しかし、工事進行に対する根本的な考え方の違いがあったことが表に出て来ていない。これは工期や工費に大きく影響するにも関わらず、検証委員会は的確に把握できていなかったから「乖離の原因は謎」という情けない検証結果になった。

当方は以前にも並行工事について記事を書き、アーチ工事の下での作業について危険性を指摘した。
また、ZHAビデオの「並行工事による工期三ヶ月短縮効果」についても、動線分断の問題等を示して逆にデメリットではないかという疑義を呈した。
イメージ 1

結果的に「キールアーチは並行工事のメリットどころか工期の増大をもたらす」ことは確実と思われ、ゼネコンの見積りが設計JVの見積りと乖離したのも当然と言えるだろう。しかし、ZHAや日建設計、そして内藤氏もそれを認めようとしなかった(日建設計ヒアリングを見ると、工期の短縮につながらないことまでは認識していた模様)。これがゼネコン参画後の軋轢の大きな要因になったと思う。

以上