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由利氏記事の的確性

昨日記事で文藝春秋9月号由利俊太郎氏記事の信憑性が更に上がったと書いた。改めて記事表紙を見てみると副題で”「ザハ案では震度7に耐えられない」。予算倍増の原因を政府は看過していた”となっている。
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検証委員会は耐地震のコスト増に踏み込めず報告書に全く書いてないのに、由利氏記事は「予算倍増の原因」と真相を的確に指摘している。
記事本文においても、まず取材範囲の広さや深さに驚嘆するが、その結果を報告するだけでなく、プロジェクト全体を見た評価や考察的な書き方がなされている。
<ザハ案は、予算増加以外に「重大な欠陥」をはらんでいた。にもかかわらず、政府は見て見ぬふりを決め込み、建設着工は強行されようとしていたのだ。ひた隠しにされてきた真相を明らかにしたい>
<スケールの大きい斬新なデザイン性と、この国に欠かせない耐震性の双方を実現しようとすれば、もはや総工費三千億円の大台突破は免れない。検討を真剣にやればやるだけコストはかさみ、机上の空論に近づいていった>
<ここまで経過を検証すると、ひとつの拭い切れない疑問にたどり着く。なぜ、難問山積のザハ案にここまで引きずられてしまったのか>

由利氏記事は読めば読むほど、非常に高度な能力を持った人が考えて書いたという感じがしてくる。その人が検証で辿り着いた疑問に対する答えのようにして、昨日も紹介した次の事情を書いていることは重いと思う。
<前出の審査メンバーが明かす。
 「ザハ氏側から『うちのデザインを生かすには、アラップ社の優れた構造計算の力が必要だ』と口添えがあり、設計JVに組み込んだ経緯があったんです。『十分な構造計算を行った』と自負するアラップ社を前に、もはや日本の設計事務所は口出しできなかった」>

記事の一番最後の章は「職人たちの奪い合い」で人員確保の話だが、これは普通に考えても分かる内容。デザイン監修という位置付けで権限が余り無かったと思われていたZHAに注目し、「ザハ・ハディドの影響力」の章でアラップ社までたどり着いている意味は大きい。これが耐震性に注目した由利氏の実質的な結論ではないだろうか。

そのように思えてきた時に、森山氏ブログにも気になる記述があった。
<スタンドは地面に半分埋められていて、卵を産み付けた巣のよう。
その上に覆いかぶさる巨大な生物がザハ案の特徴ですね。
まあ、それが成り立たないわけだから諦めればいいものを
アラップが、もうやめとけって言ってるのに、
日本側でつじつま合わせたのが現在の基本設計の構造案なんです。
この亀甲割り付けはこれまた、非効率なフラードームもどき形式。
そこにキールアーチが生きているように見せかけようとして益々構造的に非合理な状況が生じています。
結果として、屋根開口面積はどんどん狭まり、おそらく天然芝は育たないでしょう。>

「アラップが、もうやめとけって言ってるのに日本側でつじつま合わせたのが現在の基本設計の構造案なんです。・・・益々構造的に非合理な状況が生じています」という指摘はどういうことなのだろうか。
当方なりに整理してみると、「アラップがキールアーチ構造は実現不可と判断して『もうやめた方が良い』と日本側(日建設計)に言っているのに、日本側(日建設計)では無理な構造で『キールアーチが生きている』ように見せかけようとしている」と云うような趣旨にも受け取れる。
ただし、由利氏記事だと<『十分な構造計算を行った』と自負するアラップ社を前に、もはや日本の設計事務所は口出しできなかった>となっており、むしろ「アラップ社の構造設計のままでやれる」と日本側を実質的に拘束していたようにも受け取れるので相反する面がある。

だがZHAビデオでコンペ案に「アラップスポーツ社」が関わっていたことはザハ自身が明らかにしていたが、基本設計レベルまでアラップ社が関与していたことを示唆しているのは由利氏記事とこの森山氏ブログしか見たことがない。さて森山氏は当時からどこまで事情を御存知だったのだろうか。これも謎になってきた。(ちなみに当然ながら森山氏は由利氏が聞いたという「審査メンバー」ではない、この審査メンバーが誰かも謎)

以上