kensyou_jikenboのブログ

yahoo!ブログの同名ブログを移行しました

内藤廣氏研究3 「設計チームとの係わり合い」

延期していた内藤廣氏研究3回目。まず以前記事で抜粋を紹介した内藤氏のご経歴(同氏事務所HPより)。
-------------
1950 神奈川県横浜市に生まれる
1976 早稲田大学大学院にて吉阪隆正に師事、修士課程修了
1976-78 フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所勤務(スペイン・マドリッド
1979-81 菊竹清訓建築設計事務所勤務
1981 株式会社内藤廣建築設計事務所設立
2001 東京大学大学院工学系研究科社会基盤工学 助教
2002-11 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学 教授
2010-11 東京大学 副学長 
2011- 東京大学 名誉教授
-------------
「大学院工学系研究科 社会基盤学」の教員紹介では担当が「景観学」になっている。また、「社会基盤工学科」の前身は「土木工学科」になる。生粋の構造専門家と云う経歴では無いようだが、構造をご存じ無いとも考えられない。
続いて今月の日経アーキテクチャによるインタビュー記事2本ご紹介。

-----記事引用開始-----
①”コスト高の汚名を着せられたザハ コンペ審査委員の内藤廣氏が見た設計の真実”日経アーキテクチュア・プレミアム 10月10日号
<――国際デザイン競技の結果が出た後に、設計チームとは接触していたのか。
内藤廣氏(以下、内藤) 結果決定後、1年半ほどしてから設計チームとやり取りするようになり、助言もした。設計の過程も目にしている。

<(内藤氏談)14年7月、建築関連5団体(日本建築士会連合会、東京建築士会、日本建築士事務所協会連合会、東京都建築士事務所協会、日本建築家協会)は、JSCに対して旧整備計画に関する質問書を提出した。この頃には安藤さんが体調を崩していたこともあり、僕がザハ・ハディド事務所や日建設計・梓設計・日本設計・アラップ設計共同体(JV)とやり取りをするようになった。設計の過程にも目を通している。
デザイン選定が終わってから1年半ほど審査委員会の対応が悪かったという反省があるかもしれない。ただ、安藤さんはご自身の生死の際となるような体調のなかで全体の状況を把握することは難しかった。安藤さん1人に責任を負わせるのは気の毒だ。>
-----引用終了-----

→記事②の方で安藤氏の大病のことを明かしておられる。他記事によると<2014年にすい臓がんが見つかり、同年7月に膵臓脾臓を全摘していた>とのこと。
→2014年7月から設計チームとやりとりをするようになったとのことで、内部事情には非常にお詳しいと考えられる。どのように参画したか、もっと詳細を話していただきたいと思う。シンポジウムの発言によると守秘義務を盾にしておられるようだが、公的立場での参画だから「真相を国民に知らせる義務もあることをお忘れなく」と言いたい。

-----記事②引用再開-----
「悪者に仕立て上げられたザハ・ハディド事務所」
――ザハ・ハディド事務所や設計JVの働きをどう評価しているか。
内藤:好きか嫌いかは別として、ザハ・ハディド事務所のこれまでの仕事は悪くないと思っている。整備費の調整に合わせて減額案をつくり、社会的問題を考慮したデザインを考え、ダウンサイジングに対しても誠実に応対していた。問題はザハ・ハディド事務所の役割がデザイン監修者という曖昧な立場にあったことだ。デザイン監修者についての仕組みは不十分で、走りながら役割を決めているというようなありさまだった。
 ザハ・ハディド事務所や設計JVが提出したコスト削減案を見てきたが、提案を受けた発注者の意思決定が硬直化していたことが課題だった。設計の提案にイエスというためには、組織内で意思決定をしなければならない。金を弾いてもうかるの、もうからないのとやっている間に、「それでは間に合わない」という話が返ってくる。
 施工予定者にも問題があったとみている。設計の提案に対してはノーという答えが多かった。「屋根工区」「スタンド工区」と2つに分けたのは日本側の意思決定だ。施工予定者は「間に合わない」と言っていたが、2社が融通し合えば、工期なんて間に合わないというほうがおかしい。建設会社同士で「JVを組むのは嫌だ」というのは施工側の都合。設計側としては1社の建設会社に引き受けてもらっても問題はなかった。課題を解決して、プロジェクトをなんとか実現しようという意思が感じられなかった。
 ザハ・ハディド事務所を悪者にしたがる。確かにザハ案は斬新なデザインであるし、ザハ・ハディドさんの風格が話題に上ったかもしれないが、ザハ・ハディド事務所は誠意を持って対応していた。
――ザハ・ハディド事務所と設計JVはうまくコミュニケーションを取っていたのか。
内藤:設計JVとザハ・ハディド事務所の関係に対する問題は、あまり話題に上がらなかった。ザハ・ハディド事務所はデザイン監修者として、限りなく設計者に近い立場で仕事をしていた。監修者は図面を描かずにデザインにとどまる場合と、設計の細部に関わる場合があるが、新国立に関してザハ・ハディド事務所は後者だった。
 設計は順調に進んでいた。ただ、JSCや文部科学省財務省が決めるコストの枠組みが曖昧だった。例えば、3000億円という試算が出ると、設計は頑張って減額案を作成する。もう一息、二息努力して納得のいく整備費まで落とそうとすると、またどこからか3000億円という数字が出てくる。
 設計が振り回されたのは特殊なデザインではない。世論だった。もっと安くつくれないのかという圧力があった。そのためには、条件を変えなければいけない。新しい整備計画が示した上限1550億円は目指すべき数字としては間違っていない。開閉屋根を諦めて、空調を辞めて、工期を1年延ばしてと条件も緩和された。ただ、それならばザハ案でもできた。
 コスト高の汚名を着せられてザハ・ハディド事務所は退場させられた。それは冤罪(えんざい)ではないかと思う。特定の個人を悪者にすれば分かりやすいが、客観性は失われてしまう。
-----引用終了-----

→「ザハは悪者に仕立て上げられた」、「冤罪ではないか」との主張をしておられる。しかし、由利氏記事と、どちらが当時の状況を正確に伝えているだろうか。当方はこれまでの検証で基本的に由利氏記事を支持する。ただし、ザハだけが悪者というのではない。同記事もそのようには言っていない。しかし納期も考えると与条件とZHAデザインでは「建てられない」ことを率直に明らかにしなかったZHAを含めた設計チームの問題は大きい。
内藤氏は発注者・施工予定者・世論の問題にしている。確かにそれも事実だと思う(ゼネコンは今のところ余り問題有りとは言え無さそうだが)。特に発注者側のJSCと文科省は意思決定等で設計側がやりにくかったことは想像に難くない。しかし、彼らは情報を公開しているし、それぞれのトップは実質引責辞任している。ZHAはキールアーチ支持構造の変遷など無かったことにしつつ自己都合の主張をしているが、それでもビデオや声明文を出しているだけでもマシ。設計JV、特に中心になった日建設計が白紙化で国民の資金を無駄にした責任を感じず、経緯説明を全く行っていないのは明らかな怠慢。それでいて費用は丸々頂いて、無理な設計が後で問題になることもなく、実質は万々歳の成果。この事態を取り上げない内藤氏はどうかしている。本当に本心から上記の内容を言っておられるのだろうか。当方が見る限りは違和感が大きすぎる。裏に何かある可能性の方が高いのではないか。そうでなければ建築家・学者として、社会人・人間として終わっているレベルと思う。

-----記事②引用再開-----
――旧整備計画の白紙撤回を受けて教訓とすべき点は何か。
内藤:今回、課題となったのは発注者支援業務を担う山下設計JVだろう。山下設計JVはJSCの助言者として旧整備計画に関わった。本来ならプロジェクト全体をコントロールする役割を果たさなければならなかった。設計側が減額案を提出すると、整備費を跳ね上げた数字がメディアにリークされて報道される。発注者支援がほとんど機能していないように見えた。
 日本にプロジェクトマネジメントを根付かせたいなら、旧整備計画で山下設計JVが果たした役割を検証したほうがよい。特に施工予定者が加わってから設計と施工の両者を調整する必要があった。外から見たら全く役に立たなかったとしか見えない。
-----引用終了-----

→内藤氏は山下設計JVには非常に厳しい評価。しかし、委託したJSCから見たら同JVの問題把握や是正の活動が不十分だったと云うことになるだろうが、まず設計チームの自己管理が必須。その上で、ここまでにしてしまったのは山下設計JVにも責任なしとはいかないと云うことになる。同JVには日経アーキがインタビューするという話もあったので掲載が待たれる。

明日はJSCを取り上げる予定。
以上
[追記」
昨日言及した森山氏ブログの「アラップ」記述について、他日付にも関連記述があった。例えば以下。
真国立競技場へ12 ”2015-06-07 
<新国立競技場コンペ大失敗の原因は、何もザハ・ハディドのデザインや途中で構造設計投げ出したのに、そのこと隠したアラップジャパンや、ザハのデザインを選んだ審査員の先生だけに帰するものではありません。>

→2014年6月7日分では<アラップが、もうやめとけって言ってるのに、>だったが、こちらは<途中で構造設計投げ出したのに、そのこと隠したアラップジャパン>となっている。途中放棄なら責任は重いし、「アラップジャパン」と明示。
相当の内幕暴露ではないだろうか。こうなってくると例えば日経アーキで内藤氏と森山氏の対談などセットして貰って、両氏で率直に話し合って頂けば大筋で真相が解明できそうにも思える。

追記以上