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第5回公判前整理手続後弁護団記者会見3(ポータブルアプリ)

複数犯説のインパクトが強力だが、本来は今回の最大のインパクトになったと思われる「ポータブルアプリケーション」の文字起こしと考察。

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(29分10秒ぐらいから)

裁判長から「本件について被疑者のPCが遠隔操作されていないということについてきちんと押さえた上で捜査しているか?」ということを弁護側から質問していた。(本日質問したのは裁判長か弁護側か、この発言では不明だが言葉使いからして本日質問したのは裁判長ではないかと推察される)
何故かというと昨年誤認逮捕の事件は遠隔操作されていた。
それでウィルスが残っていたということが犯人でない証拠になっていた。
ところが今回の事件は全く逆になってるので、おかしいのではないかと我々は言っていて、そのことが証拠になりうるのは被疑者のPCが遠隔操作されていないということが立証されてからではないか。
言葉としては「量は質に転化しない」と私は言ったわけです。

ところが検察側は前回どう言ったかというと、「弁護側から具体的に遠隔操作されていたということを具体的に主張しろ」というふうに検察官は述べたのです。
つまり検察官の側からは遠隔操作されていないという証拠はないということなのです。
「もしそういう主張がなされれば考えます」と検察官は言った。

それでこのことを被疑者に接見で伝えたところ、今日被疑者は書面でその点について思い当たることとして書いておりまして、そのことは私達が既に聞いていたことなんですけども、口頭でその書面を読み上げる形で裁判官の前で説明しました。
それはどういうことかというと、私は被疑者の言葉から初めて知ったんですけども、ポータブルアプリケーションと云われるソフトがあるそうです。それはUSBメモリにインストールしておけばPCにUSBメモリを差し込むだけでアプリケーションを使うことが出来るというかなり便利なものなのだそうです。

それで、「ポータブルアプリケーションを自分は重宝して使っていた。職場のPCについてはUSBメモリを差し込むこと自体が禁止されていたので使えなかったんだけれども、オンラインストレージというものがありますけれども、それにアップロードしておいてインターネットでアクセスして使っていた」。
USBメモリiesys.exeその他に感染していたとすると、それを差し込むことによって職場のPCや自宅のPCなどが感染した可能性がある。
どういうことかというと、昨年の誤認逮捕事件は簡単に言うと1台のPCだけに痕跡が残っていた。
今回検察官が云うのは「派遣先のPCだけでなく、自宅のPC或いは被疑者の携帯電話の中にも犯人ではないかと疑われるようなものが残っていた」ということなんです。
被疑者もそれはちょっと説明しなければいけないだろうと考えて、今日そのUSBメモリにインスト-ルしたポータブルアプリケーションというのを自分は使っていたということを初めて明らかにしました。
それで、検察官もそのことについては関心を寄せて聞いておられて、「これを裁判所としては被告人が明らかにした予定主張というふうに取り扱います」と言って彼が書いた書面を受理されました。(関心を寄せて聞いていたのが検察官か裁判官か、この発言では不明だが「裁判所として」となっているので裁判官と推察される)

それでこの書面は三枚半ぐらい約四枚の手書きのもので、大きさがこの用紙(A4)の丁度半分ぐらいの大きさに書いたものなので大した分量ではないんですけども、彼に自分自身でしたためるように弁護側として指示しました。

というのは、ラストメッセージは被疑者が書いたものとこの事件では主張されているけれども、彼の筆力は実際にどの程度のものか、ということも見てもらう必要もあるからということで、裁判所にそういうものを提出しました。

(33分36秒ごろまで)
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[考察]
江川氏の記事で被疑者の書いた全文が公開されているが、会見の方も裁判官の反応などが分かって貴重である。
裁判所の方に、「被疑者が遠隔操作されていた可能性がある」という主張を認知させて、その上で検察が遠隔操作されていないことを明確に立証できなかったら、弁護側は有利になる。
裁判所が「被告人が明らかにした予定主張である」と認めて受理したのは大きな第一歩だろう。

また、当方が「被疑者PCが遠隔操作で覗かれていた説」に反証を試みた際の最大の論点は「2箇所の派遣先PC、自宅PC、スマホという場所も機種も複数の機器にウィルス感染させることは困難ではないか」という点であった。
USBメモリに入れたポータブルアプリケーションは、スマホを除く機器に感染させられる可能性があると言われると、否定するのはそう簡単ではないと思われる。
しかし、スマホの問題も残るし、詳細に技術的に検討していけば被疑者の主張を崩すことも絶対不可能というわけでもないだろう。
ただ、技術論が深くなっていくと、裁判官に理解してもらうことが難しくなっていく。又弁護側、検察側双方が専門家を出して議論したら、周りは誰も分からなくなる事態が想定される。
それでシンプルな説明が求められると、被疑者主張を分かりやすい形で崩すのは困難になってきそうである。
つまり、裁判所がこの論点を採用すれば、被疑者と弁護側は有利になって、しかも裁判所は採用しそうな雰囲気である。

ただし、江川氏記事の被疑者書面のポータブルアプリケーションに関する部分も併せて考えると、被疑者の弁明にもまだ釈然としない所が残る。
 <よく使っていたポータブルアプリケーションの中のどれかがウイルス感染していたとしたら、複数のPCが感染してしまった可能性が高いです。
   iesysそのものなのか、もっと別のウイルスなのかは分かりませんが、遠隔操作および画面監視を受けていたのだと思います。>
 →「iesysそのものなのか、もっと別のウイルスなのかは分かりませんが」となっているが、ウィルス(トロイ含む)にいつ感染したことになるか?
  被疑者は危ないサイトに近づかないと言っていたから、注意を払っていたはずである。
  それなのに感染した経路として何が考えられるのか。今回被疑者はそれは示していない。
  経歴的には専門学校を出ているし5年程度のソフト開発の実務経験もある。
  PCゲームに嵌っていたぐらいだから、パソコンの使い方にも詳しい。
  ポータブルアプリケーションを使うのもある程度パソコン上級者クラスの証と考えていいだろう。
  感染した可能性があると思われる経路の想定ぐらいは、何種類か示せて当然ではないだろうか。
  どうも肝心な所では「余りよくわかりません」的な雰囲気を醸し出しているように当方には受け取れてギャップを感じる。
  ただし、この辺は性格的な面もあるだろうから、もっと被疑者の生の声などが聞けないと判断できないかもしれない。

同様に以下の点も人物像の観点から気になる。
 <職場ではUSBメモリの使用が禁止されているので、USBメモリの中身と同一のコピーを、オンラインストレージを利用するなどして職場PCに転送し、同様に使っていました。>
 →Torもそうだったが、USBメモリ禁止もかいくぐって同等の使い方をしていたという行動は、どうも遵法精神に欠けているきらいがある。
   法律ではなくて社内規則違反と云っても、セキュリティは今や会社的には重大事項であるから、それを色々破っている人物の言動は基本的に信用することが難しくなる。
   この点について、被疑者と弁護側は何らかの説明(釈明)が必要なのではないかと思う。

しかし、このような課題はあっても今回検察が反証を出してくる前に先手を打って、被疑者と弁護側から複数PC感染の具体的な手法想定を提出したのは非常に大きい。
佐藤弁護士は以前の記者会見で以下のように言っていた。
<検察官が弁護側がしている主張を予定主張と認めてないわけですが、それは証明予定事実より先に出しているので、順序が違うと云って認めていない。
  しかし、(例えば)アリバイが何よりも弁護側の予定主張だが、証明予定事実を全部知って請求証拠を全部見た後にそういうアリバイを主張した時は、検察から今までも「手の内を知った云わば後出しジャンケンだ」と言われて、「そんなの信用出来ない」と言われてきた。
  裁判所だってそういう主張だから信用性に劣ると云って、有罪にしてきたという歴史がある。>

後出しジャンケンの批判は受けなくなって、逆に検察側が今後出してくる反証が後出しジャンケン化することが考えられる。
ここでも検察が後手に回って弁護側の主張に迅速に反論や対応してこなかった姿勢の影響が出てくる。

以上