kensyou_jikenboのブログ

yahoo!ブログの同名ブログを移行しました

 悪質性の評価

本事件では検察側論告において、情状関係記述が論告書の大半を占め、「サイバー犯罪史上、まれに見る卑劣で悪質かつ重大な犯罪」と強調した。
しかし、「サイバー犯罪史上」を外して、主要罪状が業務妨害罪という点で共通性がある同時期の他事件との比較で考えてみると、手口の悪質性や犯行数などでは「黒子のバスケ事件」、被害額や雇用への影響などでは「マルハニチロ事件」の方が重大ではないかという指摘をこれまで行なってきた。

更に昨日ご紹介したK被告の事件では、手口がCSRFであるから明らかにサイバー犯罪である。そして判決は以下のように指摘している。
<同被告は無罪を主張していたが、裁判官は「各犯行に及んだことは優に認められる。悪質で、誠に卑劣」とし、懲役3年(求刑・懲役3年6月)の実刑判決を言い渡した。・・・
裁判官は判決理由で、ウイルス作成について「他人に意図せずネットの掲示板に脅迫の書き込みをさせる内容で悪質」と指摘。(虚偽告訴については)脅迫内容を利用して、民事訴訟の相手らに刑事処分を受けさせようとしたとして「誠に卑劣。刑事責任は重い」とした。

またK被告は、まず被害者の個人情報をサイトに書き込んだ上でそのサイトのURLを被害者に送り、アクセスせざるを得ないようにしてCSRFを仕掛けたサイトに誘導し罠にかけていた。
”サイトの誘いは「罠」”
<(被害者)男性が過去にアクセスしたことのあるサイトに、仕掛けが施されていることが判明した。
男性はあるメールを受け取っていた。「あなたの個人情報がサイトに書き込まれています」
メールにはこのような文言とともに、サイトのURLなどが記されており、男性はサイトにアクセスし、個人情報が書き込まれているか確認した。
ここが今回の事件の肝になる「CSRF」という手法を使い、脅迫を受けているように見せかけるために男性を罠にはめた手口だ。>

これで本事件の検察官は、「どちらの事件の方がサイバー犯罪史上、まれに見る卑劣で悪質な犯罪か?」と聞かれたらどう答えるのか。しかも、両事件は9ヶ月違いで起きているのに「まれに見る」とするのだろうか。加えてK被告は判決まで無罪主張をしていたとのことで、謝罪・反省なしと想定されるという情状面の問題もある。
----------------------

[結論]
悪質さ・卑劣さ・重大さを幾ら各事件ごとに強調しても、それだけでは恣意的になりかねない。司法として公正・公平な裁きをするには客観的視点が不可欠。特に量刑においてはやはり比較が重要になるだろう。
しかし、本事件での論告は傍聴者報告によると情状のページ数(42ページ中34ページ…TBSラジオ記者)や、「悪質」56回・「卑劣」26回(江川氏集計)などの言葉の多さが目立つような状況であり、出来るだけ客観的に「量刑相場」を検討した結果とは受け取り難い。
最終的には裁判官の方々の客観的な良識を期待したい。

以上
[追記]
K被告の事件では誤認逮捕の報道はないので、「CSRF」が大阪府警に見破られて誤認逮捕は無かったと想定される。つまり、「CSRFは警察が見破れるものである」ということになるが、本事件では神奈川県警が見破れなかった。
「被害者が自分でアクセスしたようなブラウザログ・キャッシュが出来る仕掛け」がされている(ラストメッセージ)というような事情はある。しかし、逆によく知られている「250字2秒」問題や「リファラー未対策」という発覚要因もあった。特に「リファラ」はCSRF対策の基本中の基本であり、サイバー捜査官が見抜けなかったことは本来有ってはならない失態だった。
これで誤認逮捕を量刑反映させるなら、例えばK被告の事件でもCSRFを警察が発見できずに、一旦被害者が誤認逮捕されていたとした場合、求刑は3年6月で同じなのか?、もっと重くするのか?という論理的な疑問が出る。
量刑が難しいことは分かるが、少なくとも本事件の求刑10年については、当ブログで行なってきた本事件との共通性が見られる幾つかの事件との比較でもバランスがとれているようには思えず、検察側は真摯に客観的な量刑比較検討を行ったのか?という疑念は拭い切れない。

追記以上