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 他事件におけるウィルス作成罪他への判決

記事掲載は判決まで待つ予定であったが、量刑面で他事件において気づいたことがあったため新年初掲載。(経過説明のために記事を幾つか引用しているので、最後の結論だけ見て頂いても結構です)
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その事件というのは、「ウィルス作成罪」が2012年に初適用された以下の件である。
記事① ”ウイルス作成容疑、初の摘発 大阪府警が男送検”2012/1/26
<コンピューターウイルスを知人のパソコンに送りつけたとして、大阪府警サイバー犯罪対策室などは26日までに、不正指令電磁的記録供用容疑で同府松原市天美南2、無職、小林容疑者を逮捕した。同容疑者は「ウイルスを作成し、サーバーにアップした」と供述、同室は同作成容疑も加えて送検した。
 不正指令電磁的記録作成罪は「ウイルス作成罪」と呼ばれ、サイバー犯罪防止のため昨年7月の改正刑法で新設された。同室によると、同容疑での摘発は全国で初めてという。
 逮捕容疑は昨年9月、知人男性のパソコンにウイルスをメールで送付した疑い。
 同室によると、同容疑者は知人とアニメ関連サイトの運営を巡り、訴訟になっていた。ウイルスには同サイトに「さっさとブログを閉鎖しろ。さもなくば両親を殺して家を燃やす」などと書き込むプログラムが仕組まれており、知人が書き込んだように見せ掛けていたという。・・・>

これに対して、2013年に以下の判決が出ている。
記事② ”ウイルス作成の男に懲役3年判決 大阪地裁堺支部2013/8/27
<コンピューターウイルスを作成したなどとして、不正指令電磁的記録作成、同供用などの罪に問われた被告(29)に、大阪地裁堺支部は27日、懲役3年(求刑懲役3年6月)の判決を言い渡した。
 ウイルス作成罪は2011年に新設。府警によると、被告は同罪を初めて適用された。「犯人は別にいる」と無罪を主張していた。
 判決によると、被告は11年9月、「おまえはいつでも殺せる」といった脅迫文を、自動的に被告の掲示板に書き込ませるウイルスを作成。トラブルになっていた知人らにウイルスを感染させて書き込ませ、府警に虚偽の被害申告をした。
 裁判官は判決理由で、ウイルス作成について「他人に意図せずネットの掲示板に脅迫の書き込みをさせる内容で悪質」と指摘。脅迫内容を利用して、民事訴訟の相手らに刑事処分を受けさせようとしたとして「誠に卑劣。刑事責任は重い」とした。>
当方はこの判決を見て、初犯で懲役3年実刑というのは相当重いと感じた。また、これで3年なら本事件は再犯で併合される罪状も多いから、例えば懲役7年判決が出てもおかしくないようにも思えてしまう。
それでも更に考えてみたら、まず上記記事の被告は<「犯人は別にいる」と無罪を主張>ということで、反省・謝罪を行なっていないと想定される。これでは「黒子のバスケ事件」と同様に情状の心証は非常に悪くなり、求刑に近い判決が出やすくなる。

次に同じ判決に関する以下の記事があった。
記事③ ”脅迫文書き込むウイルス作成・感染…被告に実刑2013年8月27日  読売新聞
<コンピューターウイルスを作り、知人男性のパソコンに感染させたなどとして、不正指令電磁的記録作成・同供用、虚偽告訴の各罪に問われた無職小林被告(29)の判決が27日、大阪地裁堺支部であった。
同被告は無罪を主張していたが、裁判官は「各犯行に及んだことは優に認められる。悪質で、誠に卑劣」とし、懲役3年(求刑・懲役3年6月)の実刑判決を言い渡した。小林被告側は控訴する方針。
控訴したかどうかはその後の報道を探しても見つからず、実際には控訴せずに確定した可能性がありそう。そして、実刑3年になった大きな理由として、前述の「無罪主張」だけでなく、「不正指令電磁的記録作成・同供用」に加えて「虚偽告訴」の罪でも起訴されていることがポイントのように思われる。

その前の経過として、この被告は不正指令電磁的記録作成・同供用」で逮捕された後に、「虚偽告訴容疑」で再逮捕されていた。
記事④ ”ウイルス作成の男再逮捕へ=感染させ「脅迫被害」虚偽告訴―大阪府警 ”2012-02-13 時事ドットコム 
<コンピューターウイルスを作成するなどしたとして、不正指令電磁的記録供用・作成容疑で無職小林容疑者(28)が逮捕、送検された事件で、大阪府警サイバー犯罪対策室は13日、知人男性に脅迫されたように装って被害届を提出したとして、虚偽告訴容疑で同容疑者を14日に再逮捕する方針を固めた。
捜査関係者によると、同容疑者は昨年9月、インターネット上の自分の掲示板に、知人男性が「ブログを閉鎖しろ。さもないと家を燃やし、両親を殺す」などと書き込んだように装い、府警に「脅迫された」と相談した上で強要罪虚偽の被害届を提出した疑いが持たれている。> 
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[結論]
上記経過によると、「ウィルス作成罪」が初適用された事件で(ウィルス供用罪と併せて)懲役3年実刑判決が出た件は、実際には記事③のように「虚偽告訴罪」でも起訴されていた。
虚偽告訴罪」は以下のように刑法で最長刑期10年の重罪であり、最長10年というと本事件のハイジャック防止法と同じである。(「マルハニチロ」・「黒子のバスケ」両事件で適用が検討された「流通食品毒物混入防止法」も最長10年)
  ”刑法第172条「人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、3月以上10年以下の懲役に処する。”

つまり、小林被告の事件は虚偽告訴罪も併合となって最長刑期は15年で、謝罪・反省は無いという状況だったことになる。しかも、被害者を誤認逮捕させて係争中の民事訴訟を有利に運ぼうと企図しており、司法に対する悪質な妨害行為ということにもなるだろう。それで求刑3年6月・判決3年ということで、本事件との量刑相場比較はどうかということになる。
また、この事件では警察・検察側が「ウィルス作成罪・供用罪」に加えて「虚偽告訴罪」でも明確に逮捕・起訴した上で、それを加味して3年6月を求刑したことになるが、本事件では弁護側が最終弁論において「誤認逮捕では起訴されていない、それが求刑の量刑判断に含まれているのは罪刑法定主義に反する」と主張したと云う点も、比較上のポイントになると思われる。
やはり、よく見てみないと分からないものである。(裁判官の方々はどこまで見ておられるだろうか)

以上