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三重県警報告書問題点

以前から参照させて頂いているが、高木浩光氏が各警察報告書を掲載している。
その中に三重県警の報告書もある。

ID被りが実際の被害者だったと云うことが今回会見で分かったので、改めてこの報告書を見直してみると、何とID被りについて一言も言及がない
各警察の報告書には色々問題が多いことはこれまで紹介してきているが、これも衝撃的な事実であり、更に考察してみる。
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(1)犯行予告の否定
昨日紹介したように被害者は犯行予告が行われた後、自らID被りに気付いて、自分で書き込んだものではないことをレスしている。
これは犯行予告を否定していることと同じになる。犯行予告を書き込まれても、すぐに自らで否定しているような場合、普通はイタズラの可能性が高いという見方になるだろう。
それなのに報告書によると、9月10日書込・11日通報・13日家宅捜索・14日逮捕と短い期間で逮捕に至っている。
その間任意聴取も実施しているが、他の警察の対応と比較すると、大阪府警は約1ヶ月かけて8回の任意取調べ実施している。
また、神奈川県警では6月29日CSRF書込・同日通報・7月1日逮捕で任意捜査期間は短かったが、三重のような否定は無いという大きな違いがある
犯行予告に対して否定があるものと無いものを同列に扱うのは、社会常識としてどうなのだろうか。勿論否定しても悪質なイタズラということで犯罪相当で良いと思うが、否定されたものは危険度が低くなるのは当然であろう。
それでも危険がゼロではないということになるかもしれないが、IPアドレス特定で対象者が割り出せて自宅や関係先を捜索できている場合には、その結果も判断に入ってくる。
予告した犯行を実際に実行できるような準備等があるか、又そのようなことをやりかねない傾向や動機を持った人物かどうかなども調査できる。
三重の場合、被害者のID被り発見書込みによる犯行の否定も考慮した判断が行われたのかどうか、再検証が必要だろう。

(2)逮捕した理由
報告書で逮捕理由について以下の説明がある。
<Aさんに対する任意取調べ(注:実質的には逮捕前1回と逮捕当日の任意同行程度)、押収したパソコンの解析等、当時必要と認められた捜査を行った上で、本件犯行予告がされていた三連休を目前に控えた9月14日に、Aさんを逮捕したものである。犯行予告どおりに無差別殺人が敢行されることをなんとしても防止しなければならないという判断の上での逮捕であったが、その身柄を拘束する前に、Aさんが本件書込を行う動機を有していたかなど、犯人としての適格性について、より多角的に検討する余地もあった>

よくぞこんなことを書いたと呆れる記述である。
前項で記したように、仮に被害者が犯行予告を書き込んでいたとしても、伊勢神宮ドコモショップとも予告内容は稚拙かつ大げさで、イタズラと容易に分かるようなものである。
しかもID被りで自分ではないという否定のレスを複数回している。
それらを勘案し、さらに家宅捜索でも爆弾や凶器の準備が見つかったわけでもないだろうから、危急の状態ではないことが判断できたのではないか。
どうしても連休中が危険というなら、例えばその間は任意で最寄り署に毎日来てもらうなどすれば逮捕の必要はない。
逮捕理由も再検証が必要だろう。

(3)縄張り意識
本来有り得ないと思われる逮捕が起きたのは、佐藤氏が会見で述べていたように、三重県警が伊勢神宮への犯行予告だけを問題にして、ドコモショップへの予告を取り上げてなかったことが原因となった可能性がある。(ちなみに、報告書にはドコモショップだけでなく、任天堂への犯行予告の件も全く書かれていない)
被害者はドコモショップの犯行予告をID被りによって知っていたから、警察が来た時はそれの件と理解して、「犯行予告は自分ではない」という説明を明確に行ったのは間違いない。
しかし、警察は通報受けたのが伊勢神宮の件だったから、それだけ考えていた可能性がある。

またもや警察の縄張り意識の問題が出たと考えられそうである。
IPアドレスで追跡したのだから、ドコモショップ分もアクセスログ開示要請すれば同IPアドレスと分かって、偶然のID被りではなく同一回線だったことが判明する。その場合、基本的に一旦は同一人物の書込と判断することになるだろう。
三重県津市在住の人がドコモショップ秋葉原中央通り店に犯行予告をする動機は何があるのか?
おかしな事態であることはすぐに分かり、少なくとも逮捕ではなく大阪府警のように任意取調べを続ける判断が妥当だった。
また伊勢神宮ドコモショップ任天堂も)では場所が離れすぎていて、予告内容を本当に実行する積りがあるか極めて疑わしく、家宅捜索も行っているから緊急事態などではないことも分かる。

その上で「無差別殺人が敢行されることをなんとしても防止しなければならない」と云う尤もらしい理由を付けるのは、自己正当化もここまで行くのかと唖然とする。
そして報告書作成の調査時には、ドコモショップ任天堂への予告やID被りも当然判明しているのに報告書に全く記載しなかったのは、伊勢神宮以外を考慮しなかった失態隠蔽のためと受け取られても仕方がない。
もし「犯人からの犯行声明メールにドコモショップ任天堂の件は書いていなかった」と言い訳しようとしても、少なくともドコモショップに関しては被害者が最初からID被りを明確に説明していることになるので、知らなかったという言い訳は全く通らない。
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これらの重要な問題もこのまま闇に葬られるのは確実。
取材力の高い各種マスコミも有能なジャーナリストの方々も、公式報告書を読み込んで問題点を見出して隠蔽を指摘するという地道な取組は余りされないようである。
また、思わぬ形でクロが決着した今、弁護側から法廷で批判を提起することも難しくなっなった。
そのような中では、たとえ社会の片隅であっても当ブログで記録に残しておこうと思う。

なお、警察の縄張り意識は各都道府県警が捜査を担うという根本的な組織体制によるものが大きく、長い歴史があることなので難しい問題ということは理解できる。しかし漸進的でも連携強化に依る改革は必要だろう。
今回のような連携不足と考えられる実例を示しておくことで、少しでも捜査方法の改善などにつながることを期待したい。

以上