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真実発掘16 「キールアーチの飾り部材化に関して」

Twitterでまた簡潔にまとめて頂いたツィートを見た。
キールアーチが必要な構造ではなくて、只の飾りになった段階で、破綻していた、と。」“[新国立競技場問題] 真実発掘15 「キールアーチ部に関するJSC資料記述」 ”

これで気がついたのが、逆に「只の飾りでは何故いけないか?」と云う疑問を持たれる方もおられるかも知れないと云うこと。
昨日記事などでも「屋根からぶら下がった部分は無駄」と書いたが、それに対して「飾り部材(デザイン部材)として有効であれば無駄ではないのではないか?」という観点もあるかも知れない。これには以下の様なデメリットをすぐ挙げることが出来ると思う。(アーチタイなしの場合)
 (1)断面が約70平米もある巨大な鉄骨造りで、デザイン部材としてはコスト高だし工期延長要因
 (2)重量がかさみ支持はスタンド上面になるので、デザインのためだけにスタンド強度アップ必要
 (3)せっかく免震構造にするのに、飾り部分の長く重い鉄骨が上で揺れるのは不安定だし不合理

イメージ 1

これだけでも「キールアーチ風デザイン部材」の採用は断念すると当方は思う。しかし今回の設計では(1)~(3)などをあまり考慮しなかった、或いは実施設計でのゼネコン検討や材料・工法コストダウン可能性に期待するなどして、両端支持なしで基本設計完了まで行ってしまったのかも知れない。そうなると「キールアーチ風デザイン部材」は設計JVの中で或る程度合意事項になっていた可能性がありそう。

だが、結局は基本設計書が有識者会議に提示されてから入札公示までの3ヶ月弱において、アーチタイ追加と云う特大の設計変更を余儀なくされた。「設計欠陥」だったとの見方もやむを得ないのではないか。しかも欠陥を修正するはずのアーチタイは大掛かりな基礎工事から必要になり、工費・工期に大きな影響を与え、実質的にはこれが混乱を更に増大させてプロジェクトにトドメを挿したと見る。

ここまでは基本的に昨日までの紹介の再説明になったが、当方はキールアーチのデザイン部材化には別角度からの観点もあると考える。デザインであるからポイントは「美」ということになり、それを以下の2方面から考えてみる。
 ・機能美
 ・装飾美

この2つは、もはや説明の必要もないと思うが、装飾美の方は各人各様の好みがあっても、機能美の方は一般的に受入れられやすい傾向があるだろう。コンペ時ザハ案には機能美を生み出す意図を込めた構造が存在し、それがキールアーチだったと当方は考える。
しっかりしたキールアーチに可動式屋根やその他の屋根などを取り付けて構成できる。そのためにキールアーチは太くがっちりしていて、可動機構なども確実に支えるアーチ構造のために緩やかに湾曲し、建物表面に出ている部分では全体の強いアクセントになる。このようなコンセプトが中核にあったと思う。またキールアーチ支持部も明確に図面に書かれている(強度面は不明)。更にキールアーチが出来てしまえば、「スタンド工事との同時進行が可能になるのもメリット」とザハ事務所は言っている(ただし当方から見ると同時工事は困難が多いと思われるが、少なくともザハ側は工事のことも考えていたとは言えそう)。

それが日本側主導の修正ザハ案では、両端が支持されていないからアーチ構造になっておらず、キールアーチとしての機能は喪失。最大の巨大構造物が屋根の重量を支えず、逆にスタンドに支えられている。当初設計の意図からして余りにも本末転倒。当方なら設計思想面からも飾り部材化したキールアーチは受け入れがたく思う。しかし、設計JVの方々は「キールアーチ(風デザイン)を活かすことが最優先」と云う判断をされたのかもしれない。

なお、修正ザハ案についてはデザインに賛否有るが、コンペ案では敷地に全く入らないのだから、それを入るようにコンパクト化し、仕様は満たすように取り組んだ結果のデザインとしては、当方個人的には及第点どころか相当良い評価。その意味では装飾としてのキールアーチも有効だったし、設計JVの方々は良い仕事をされたと思う。ただそれが「キールアーチのデザイン部材化=アーチ支持無し」で成り立っていたとしたら、デザインテイスト維持のために建築設計として成立する限度以上の無理をしすぎたのではないかと残念に思う。
電子機器でもそのような例は色々あるので、いつか書いてみたい。

以上
[追記]
本文を総合すると一つ言えることがありそう。それは「コンペ時ザハ案」は(現実的効果は別にして)機能美や工程まで意図した構造が考慮されていて結構まとも。線路や道路オーバーなど規定事項違反は有るし異様な巨大さの懸念も有るが、デザインコンセプトとしては有りかも(デザインについては別途考察予定)。もし当方なら基本的に慎重派なので選ばなかったとは思うが、思い切って選択する人がいても不思議ではないレベルと思える。

それに対して修正ザハ案は、アーチタイ追加必要になってしまう設計で工費・工期等に無理が生じて、プロジェクトが白紙見直しになったのは主としてこちらの方の要因と見られるのではないか。
そうなるとザハ側はもっと主張しても良いのかも知れない。例えばゼネコン選定の仕方に問題があるようなことも言っていたが、それよりアーチタイ追加を持ちだされたら、工費アップの説明が容易に出来てしまうだろう。他から指摘されるような事態にならないためにも、設計JVの方々は早めに自ら説明をされた方が良いのではないかと改めて思う。

追記以上