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真実発掘15 「キールアーチ部に関するJSC資料記述」

Twitterを見ていたら、当ブログ記事でお伝えしたかったことを簡潔かつ的確にまとめて頂いているツィートがあった。
"これ読むと新国立競技場プロジェクトはかなり前の段階で壊れてたんじゃないか?という疑念が起きる/[新国立競技場問題] 真実発掘11「基本設計のキールアーチはデザインテイスト維持用部材だった」"

それで本日は「もっと早い段階で壊れていたと思われる」と云う証拠になるようなものが見つかったのでご紹介する。
まずツィートで簡潔にまとめて頂いた件は、「基本設計段階で壊れていた」ことを示す2つの事実が図面から見つかった。
 1.キールアーチからメイン構造材という本来の機能が消えて、デザイン維持用部材に変わっていた
 2.基本設計図では見当たらない「アーチタイ」が、実際の入札公示資料では追加されていた

この中で1については、基本設計の前の「フレームワーク設計」段階でも同様だったのではないかと云う推測をしていたが、フレームワーク設計図面がごく一部しか公開されていないので解明に至っていなかった。それが設計図面ではないが「イメージ図」という形で、手がかりになる記述がJSCの公開資料にあった。
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「Q2 観客席の一部は、オリンピック・パラリンピック期間中、仮設対応としてはどうか。」
<新国立競技場のザハ・ハディド氏のデザインは、キールアーチ及び屋根で上部空間が囲まれています。また、このキールアーチの構造的な負担を客席部の構造体が一部負担することとしています。このようなことから、観客席(椅子)の一部は仮設であっても、この空間に8万席分の構造体を整備することが必要です。(下図参照)  ・・・>
イメージ 2

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2013年(平成25年)11月26日と云うとフレームワーク設計がほぼ完了した頃で、その結果の報告とそれを元に次ステップ基本設計に進むことを了承してもらうための第4回有識者会議で提示された資料になる。(この「了承」と云う点については、有識者会議委員である舛添都知事の見解を追記で紹介)
考察のために、上図に注釈を加えて同じくA図として示し、その右にB図として一昨日記事の図を並べた。
イメージ 3

両図は基本的に同じ機能で、特にキールアーチ両端が支持されていないことに要注目。ただA図は両端が一見地面に着いていて、B図とは違うように見えてしまう。しかし、以下C図を考えるとキールアーチ両端を地面に突き刺しても柔らかい土では大きな鉄骨の支持構造にはならない。

イメージ 4

なお地面に相当する部分が「地盤面」となっているが、これは設計図の方を見ると「地盤面」は地面と同じ位置になっている。つまり「地盤」面と云う名称だが、岩盤などを指しているのではない。また、たとえ固い地盤であってもその上に端部を乗せただけ、或いは少し突き刺しただけではスパン370mもの巨大なアーチ鉄骨には充分な支持構造にはならず、コンクリート等での補強を行った強固なアンカー構造にしなければならないことは明らか。結果的にA~Cは両端が支持されていない点では同様で、ただ端面の位置がA図はB図とC図の中間ぐらいにあるというだけになる。なお、ここまでで既にご理解いただけたと思うが、念の為に再度まとめておくと、「A図でアーチ両端が地面に着いていて、一見支持されているように見えることに惑わされずに、A~Cは実質的に同じ構成であって結果的にA図は支持構造が無い」ことをご認識頂きたいと云うのが趣旨。

そして、アーチを支持するには上掲D図のようなアンカーなどか、前述のアーチタイが必要になってくる。
なお、やや詳細な話になるが、A図で「屋根部アーチ?」としたのは、昨日記事で考察したように屋根部で部分的にアーチ構造のようになる場合があり得るが、それはあくまで部分的構造であって全体ではない。つまり、キール=「船首から船尾に通された構造材」としてのアーチ全体を両端で支える構造があってこそ、本来の「キールアーチ構造」になるはずである。

さてスタートに戻って、A図が何故「今回の設計がもっと早い段階から壊れていた」と云うことの手がかりになるか。
それはフレームワーク設計時も(A図のような安直な図を出しているということは)アンカー構築が予定されていなかった」と推測されることにある。アンカーを検討しさえすれば、巨大になって地下鉄干渉などの恐れがあることは、一番の基礎構造物だから迅速にわかったはずである。(アーチ支持方法はアーチタイより、まずオーソドックスなアンカーから検討するだろう)
しかし繰り返しになるが、A図を見てフレームワーク設計時からアンカー構築が意図されていなかった可能性が高いことが分かった。だが、未だに信じられない思いもある。古代から利用されてきたアーチ構造の基本である両端に掛かる力の仕組みを、日本を代表する設計会社が集まったJVの設計者が理解していないことなどあり得ないと思うからである。しかも仮に担当設計者が余り知らなくても、指導監督し図面承認したりする上司や、チームの同僚などは必ずいるだろう。
イメージ 1

それでも実際にAが公式会議資料の図であったことは事実で、その内容はJSCの会議担当者が考えて書いたのではなく、設計者が提出した資料に基づいているだろう。やはり昨日も書いたように、設計会社JVの早期ヒヤリングは必須。特にもし「プロジェクトがフレームワーク設計段階から壊れていた(設計破綻)」と云うことだったら、それが発生した原因やなぜ軌道修正できなかったか、などの聞き取りがまず重要になってくる。その次には基礎構造での設計破綻を基本設計や実施設計以降まで引っ張っることになった経過の確認が必要。このような聞き取りを行いつつ、図面・文書やメールなどで裏付けしていけば早期に全容解明可能と思われる。

また、もし「設計には問題がなかった」という見解の場合は,率直にそれを証明していただければ良い。少なくとも入札公示資料で基本設計図には無かった「アーチタイ」が追加されたことは図面上間違いなく、かつスパン約370mの巨大な「アーチタイ」の実現には技術的課題が多いことは容易に推測される。工費や工期に大きな影響を与えたことは確実で、その事への説明責任から果たして頂ければ解明に近づく。(国立の競技場建設プロジェクトだから、発注者だけでなく国民への責任も明確な説明という形で果たしていただきたい)

なおここからは更に細かくなるが、設計会社への確認ポイント整理も含めて、アーチ支持問題を更に分析してみる。まず、A図を見て建築家はどう認識するのだろうか。幾つか想定してみる。
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(1)キールアーチ端面が地盤面に着いているから、両端はそれで保持されていると考える
(2)キールアーチ支持部が描かれていないから、「地中にアンカーがあるんだね?」と確認して、その深さや形状・大きさなどを聞く
(3)スタンド外周でキールアーチ風味の物体と屋根を支えていることを見抜いて、キールアーチ構造ではないことを指摘
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(1)については、まさかこんな安直な認識をする設計者はいないだろう(いないで欲しい)。
(2)なら、適切なアンカーがあればそれで良し、そうでなければアンカー敷設かアーチタイなどの必要性を説く。
(3)では、屋根部以外のキールアーチは無駄だし、スタンドに負荷を掛け過ぎではないかと考えるだろう。

つまり、アンカー(或いはアーチタイ)無しで進んでしまうのは(1)の場合になる。まさか日本トップクラス設計会社で(1)の発想をする設計者がいたのだろうか。とても考えづらいが、実際に基本設計終了までキールアーチ支持なしで進んでしまい、その後アーチタイ追加があった事実からすると、そのような設計者がいたと考えざるを得ない状況でもある。

ただし、別の可能性として、設計者に対して「キールアーチ」の変更を認めない人がいたらどうなるか。アンカーを入れる設計にすると「アンカーが巨大になって敷設困難だから、キールアーチ風デザインだけ残さざるを得なかった」という状況も考えられてくる。その場合は変更認めなかった人にも相応の責任が発生することになるだろう。候補を挙げてみる。
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(ⅰ)JSC、文科省
(ⅱ) 設計JV内幹部
(ⅲ)安藤氏
(ⅳ)森氏や他の政治家
(ⅴ)ザハ事務所
(ⅵ)その他…その他の具体的候補はないが一応入れておく
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内部事情は分からないので、この中で安藤氏と政治家だけ考えてみると、まず安藤氏はコンペ審査委員長の職責が終了した後も有識者会議の委員ではあり続け、同委員会中唯一の建築専門家だった。安藤氏が審査委員長として選んだザハ案の特徴であるキールアーチ構造の変更に難色を示したというような流れは仮定出来るかもしれない。あくまで仮定であるが、もしそうなると例えば当ブログでは「審査委員長としてザハ案を選んだことに関して安藤氏に大きな責任があるとは思えない(建築各分野専門家の技術調査員による検討結果表で事業費の欄が○(丸)になっていたなどの理由)」と書いたが、その後のフレームワーク設計でキールアーチが無理なことが分かっても、その維持を強く押していたりしたら或る程度の責任は出てくるだろう。ただし、キールアーチが実現困難なことを直接聞かされたり、実際に変更の了承を要請されていた場合の話になるから経緯調査を行えば良い。

また、安藤氏は有識者会議でA図を見ているのだから、支持部の記載がないことを問いただしたり指摘してなかったとしたら、建築専門家としての責任は問われるのかも知れない。しかし、現実的には優秀な設計会社が集まったJVで半年ぐらいかけてフレームワーク設計が行われた後であり、「構造に問題有り」というような明確な説明がなかったら信頼してしまっても已むを得ないとも思える。(当方経験的に電子業界では「デザイナーに構造や設計の詳細知識を求める」と云う発想自体が殆ど無いと思っていて、建築業界とは認識の違いがあるのかもしれない。この辺は具体例なども挙げて今後別途考察してみたい。又電子業界でも色々異論はあるかも知れないが、ここでは割愛)

政治家で森氏の方は元々ザハデザインは「好きではない」と言っていたようである。安倍総理は自らが招致で公約したからザハデザインを維持して貰いたかったとは思うが、JSCレベルの動きにまで指示している時間は無いだろう。

結局は調査によるが、仮にデザイン維持を望んでも、それを通せる実力者は限られているので、当時の事情を大筋で解明することはそう難しくないと思える。しかし、昨日記事でも書いたように調査の第三者委員会では殆ど表面的なお金の話にフォーカスが当たる可能性が高く、上記のような事情解明は望むべくもないだろう。
技術専門家が大学教授一人しかいないのでは、本問題の核心にある技術的問題とそれにまつわる経過の解明が困難なことは、今から殆ど見通せてしまうのが本当に残念。国民も建築の技術的内容について理解できる人はそう多くないだろうが、本質に迫っていない調査では直感的に「何か真相を突いていない」と見抜いてしまう。結果的に「国民が納得しない」ことになり、混迷が続いてしまうことになりかねない。

以上
[追記]
舛添氏が有識者会議について以下のように述べている。
<そもそも、この有識者会議には、何らかのことを決定する権限はない。ただ、説明を聞き、意見を開陳するのみである。しかも、大多数のメンバーが建築の専門家ではない。したがって、一部の報道にあるように、政府決定を「承認」したり、「了承」する権限はない。もし、そんな権限があるのなら、政府決定を拒否して反故にさせる権限もあるはずである。
当日、多くの批判、反論、問題提起がなされたが、それをどう受け止めるかは、JSC・文科省・政府の自由であり、かれらに決定権限がある。司会を務めたJSC側も、「承認」「了承」などといった言葉は一切使っておらず、「最終的な決定につきましては、JSCと文科省のほうで出させていただくことになっております。本日は貴重なご意見ありがとうございました」という言葉で会議を締めている。>

しかし、以下のように不正確かもしれないがマスコミ各社は「了承」、「承認」と云う言葉を使用している。これ一つとっても難しい。
 ・「有識者会議了承、五輪後工事負担一段と」2015/7/7 日経
 ・「国立競技場、設計案を承認 有識者会議」2014年5月29日 朝日

実質は「了承」ぐらいだと思うが、JSCや文科省側は舛添氏の言うように別の(官僚にしか通じない)論理も用意していると思われる。
なお、舛添氏の見解を踏襲すると有識者会議に関しては安藤氏や森氏なども同様の立場になる。

追記以上