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真実発掘5 「屋根とスタンド同時工事の問題」

アーチタイの工事がどのようになるかを考えてみる。
まずアーチタイが記載されている断面図を再掲する(寸法は当方で推測記入)。
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アーチタイ2本の外側間の距離は図から推定して約67m程度。アーチタイの組立や据付には作業用スペースや重機などが必要になる。もし2本のアーチタイの間でそれを行うとすると、少なくとも幅約67mの大きな溝が必要になるが、実際は作業性を考えてもっと外側まで広げる必要が出てくると思われる。

アーチタイはスタンドの下に入るが、概略比較のために下図で競技場部と合わせてみると、その大きさがイメージ出来てくる。67mでも陸上フィールドがすっぽり入ってしまうぐらいになる。これだけのものを先に作って設置してしまわないと、アーチタイと干渉する部分はスタンドの基礎工事も出来ない。イメージ 5
また、アーチタイ設置が出来ても、その上にキールアーチを組み上げる工程をどうするか。組立途中ではアーチを何らかの方法で支えておく必要がある。例えば以下の橋の場合のように仮受け台(ベント)で支えながら順次組み立てていく工法が考えられる。


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手順を想定してみると、アーチタイを埋め戻した上にベントを立てクレーンなどを使って工事を進める。上図右ではアーチスパン122m高さ21mの橋でもクレーンの配置などを考えるとアーチの周りに相当なスペースが必要になる。今回のようにアーチが遥かに大きいとクレーン等も巨大になり幅67mどころか、どれだけスペースが必要なのか見当がつかなくなる。(他にも色々組立工法は有るが新国立の敷地や搬入路の制約の中では、やれることは限られてくる)

更に今回のキールアーチは鉛直方向に対して約20度傾いているので、上部は外側に広がってキールアーチ間は100mを優に超える。陸上トラックや観客席の上方までかかってくる。これではいつになったらスタンド工事に本格的に取り掛かれるのだろうか。普通に考えても、アーチを作っている時にその下を、並行作業する建設作業員が多数動いているというのは危険過ぎる話である。
こうして考えてみると、スパン約370m、地上からの高さ約70mの巨大タイドアーチと8万人収容の巨大スタンドの同時進行工事は余りにも無理が多過ぎて、実質的には「実現困難」と認識せざるを得ないのではないか。設計会社やゼネコンの詳細計画がどうなっていたか是非見たいものである。

結局のところ前例も無いであろう「巨大建築物同士の組合せ」になって、更に敷地条件等との兼ね合いから到底工期が間に合わないと云う非常事態だったので、官邸もやむを得ず「白紙見直し」を打ち出さざるを得なかったのではないか。しかし、設計会社・ゼネコン、JSCなどにも早い時期に事態の深刻さが分かっていた人は複数いたはずである。それがなぜ長期間明るみに出せなかったのか、今後公式調査で解明してもらいたいが果たしてどうなるか。

なお、今回のキールアーチが橋梁のようになると云うことは皆さんお気づきのことだが、アーチ橋スパンの国内上位3位までは以下のようになっている。新国立キールアーチが完成していたら、1位に僅差の堂々たる2位に食い込むことになっていた。(コンペ時の案では400mやそれ以上とも言われていたから1位相当か)
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このような規模のアーチを都心の競技場の屋根に作ろうとしていたのだから、余りにも無謀と言えるのではないか。それでも進んでしまったのは、建築業界の「ゼネコンに任せれば何とかなる(かも知れない)」と云う「ゼネコン神話」によって、関係者の中に漠然とした楽観的期待があったのだろうか。この辺は又別途検証予定。

[追記]
今回のアーチの巨大さを示す東京新聞2015年7月11日記事図解を参考に添付。
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以上