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真実発掘3 「タイドアーチ構造の課題」

昨日記事で3000億円が「断り見積り」ではなかったか、と云うことを書いた。ただし、今回の場合は金額面で断りたいというだけでなく、技術的及び工期的に達成がほぼ不可能と見ていたのではないかと当方は想定している。
その理由はキールアーチである。キールアーチについては建築エコノミストの森山氏がブログ記事で書いておられて、皆さんも見られているであろう。

このブログ記事中のソチドームにおけるアーチ基部を支えるコンクリート基礎部分が、「5~6階建てのビルぐらいある」と云う写真を見て、アーチが更に大きくなるから新国立では成り立たないのではないかと感じた。森山氏は具体的に地下鉄大江戸線への干渉の指摘も行って、工事は可能なのかと云う疑義を提起された。
更に森山氏は同記事でキールアーチの基礎部分を巨大化しない手法として、アーチ下部を連結する「タイドアーチ構造」を簡易的にボール紙と輪ゴムで示しておられる。荷重がかかってアーチが外側に開こうとする力を、輪ゴムのテンションで押さえられて釣り合いを保てるという仕組みが良く分かる。

ただ新国立の鋼鉄巨大アーチをゴムでとめる事はできないから、森山氏はブログにも書かれているが、TVに出演された時に「タイ(tie)バー」という手法を模型で紹介しておられた。(「アーチとタイバーの接合部」の注記は当方追加)
イメージ 1

巨大な新国立ではタイバーも巨大になり、森山氏は以下ブログで「タイバーを構造的に効かせようと思うと、自由に動ける状態にしなくてはならないんです。8m角で長さ400mの鉄の筒が動く、常にビンビン振動している状態」と書いておられる。

このような巨大タイバーが振動する構造は具体的にどうやったら実現可能なのかについては森山氏は書いておられない。それで実際のアーチ橋梁で調べてみると、振動させる構造よりも「アーチとタイバーをボルトや溶接などで固定してしまっている構造の物が殆どのようである。(以下はタイバー付アーチになるかどうかは不明だが固定接合の例)
イメージ 2

このように固定接合したとすると、アーチとタイバー両端の接合部に大きな力が掛かることは容易に理解できる。橋とは違う条件になる今回の約370mのアーチにも適用できるのだろうか。また、固定しないで何らかの可動構造にする場合、今回の大きさで実現する手法があるのか。ゼネコンといえども相当困難ではないか。
建築物の大きさによって、小さい場合は適用できた構造でも巨大になると使えなくなることがあるのではないか。そして新国立の場合は首都圏大地震を想定した耐震性も求められるし、五輪後もレガシーとして少なくとも50年を越えるような使用が期待されるだろう。

結局最大の問題は「前例がない巨大構造物」と云うことになって、納期もある中で大手ゼネコンといえども実現できるのかどうか。実際は設計会社やゼネコンも無理だと分かったから実質的な「断り見積り」を出して、発注者側に注意を喚起しようとしたのではないかと当方は推測している。
そして最終的には受注者側のゼネコン(大成建設竹中工務店)が先にギブアップしたので、官邸もどうしようも無くなって「白紙見直し」と云う所に追い込まれたのではないかと思う。
今後政府などで顛末調査する際には、ゼネコンに対して「タイバーの支持構造の設計と性能・耐久性等の計算は出来ていたのか?」などの設計状況を問いただしておくべきと思う。(それがきちんと出来ていたら、このような事態にはなっていなかっただろう)

もちろん工賃や資材の値上がり等の工費増加要因も多々あって金額が膨れ上がり約3000億円と云う試算になったとは思うが、潜在的には技術的困難さが解消できないことが「白紙見直し」の最大要因ではないだろうか。また技術的困難さによってキールアーチの費用自体も膨らんで工費の増加につながったことも当然。
アーチタイ(タイバー)の追加は大規模な構造変更であり、それがいつ頃行われたのかを明日検証する。

以上