「権力への怒り」が動機という報道について
第18回公判を受けて久しぶりにマスコミ各社から報道があり、「権力への怒り」が動機という見出しを付けた記事が多かったが、その中に誤りが含まれている。
まず例として公判当日の毎日新聞。
”<PC遠隔操作>被告「権力に漠然とした怒りあった」と動機” 毎日新聞 11月4日
<「権力に漠然とした怒りがあった。警察を右往左往させることで恨みを晴らした」と動機を述べた。>
<片山被告はロックバンド「ブルーハーツ」の曲から“キチ○イ扱いされた日々”という歌詞を口ずさんで当時の状況を説明した。>
当方傍聴メモを見たら、片山氏が法廷で「ブルーハーツ」の該当曲である「終わらない歌」の歌詞一部を話した記録は残っていない。ただし、この部分はメモを取りそこねたのかもしれない。
<「初日から刑務官にひどい扱いを受けました。罵詈雑言に始まり、こぶしを顔の近くまで寄せて、『昔だったら殴ってる』と。『お前、甘っちょろい顔してるな』とも言われました。抗うつ剤を飲んでいると話したら『お前はキチ○イか?』とまで。これが怒りの原体験です」>
<出所したら国や刑務官を訴えることも考えたがやめたという。しばらくすると、刑務官への怒りが国家権力全般への怒りに変化。「権力を行使できる人なら何でもいいんだと思い、警察を右往左往させることにしました。ほかの人(誤認逮捕の被害者など)の迷惑には思い至らなかった」>
つまり、「刑務官への怒り」を「権力への怒り」に転化させて、権力を行使できる警察を右往左往させることにした、というのが本事件の動機という話である。
しかし、東スポも毎日も、その他「権力への怒り」が動機と書いたマスコミも、傍聴した結果からすると正確ではない部分がある。
毎日新聞では上記内容に続いて以下のように書かれている。
<片山被告は5月に一転して起訴内容を認めた後、動機について「腕試し」「愉快犯」などと述べていたが、臨床心理士と面会を重ね「心の整理ができた」と説明した。>
また東スポも同様に書いている。
<鑑定の結果は「心の整理がついて、犯行の動機が説明できるようになりました」(片山被告)という。当初、自らのITスキルの腕試しと言っていたが、本当はそうではなく「権力に対する怒りから復讐をしたい気持ちがあった」と説明した。>
二社とも同じように書いているから一見信憑性があるようにも見えてしまうが、公判内容からすると大きな誤りがある。片山氏は公判で「腕試しも動機」とはっきり証言していた。つまり、動機は「腕試し」と「刑務官への怒りから転化した権力への怒り」の二つなのである。長谷川氏との面接を重ねて心の整理がついて、後者の動機があることも理解できたという証言だった。(二つの動機が犯行全体に及ぼした影響の割合は不明だが、少なくとも「腕試し」もあったことは片山氏心理分析において重要…別途考察予定)。
しかも、弁護人の被告人質問の際だけでなく、陪席裁判官からの「怒りだけか?」という質問に対しても「腕試しも含んでいる」と明確に答えていた。
どうも新聞は「権力への怒り」というような言葉に過剰反応するようであるが、それ故に不正確な報道になってしまうのは非常に問題であると思う。
以上
[追記]
上記2社以外で「権力への怒り」が動機との報道。
”PC遠隔操作、片山被告が新たな動機「権力への怒り」” TBS 2014/11/04
<片山被告は事件の動機について、これまで「腕試し」などと説明していましたが、東京地裁で行われた被告人質問で片山被告は、「過去に刑務所で刑務官から罵詈雑言を浴びせられた」「それ以来、権力へのマイナスイメージと漠然とした怒りがあった」と説明しました。>
<片山被告は犯行の動機について「権力的なものに対する怒りがあった」と説明した。>
(時事は記事が短いせいか動機が「腕試しから変わった」とは書いていないが、ニュアンスは他社と同じか)
追記以上