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桝添氏著書と(いわゆる)「舛添基準」

舛添要一氏が「都知事失格」(小学館2017年6月)という著書を出されている。
その中で、所謂「舛添基準」に関連する結構詳しい記述がある。もちろん、ご本人は「舛添基準」とは書かれていないが、市場長によるレクチャの内容なども語られていて参考になる。
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ご存じの方も多いと思いますが、この「舛添基準」についての論考は「宇佐美典也」氏ブログなどが有り、「おときた」都議も関連するブログ有り。(これらは[追記]で掲載)
同都議は、2017年3月21日都議会での石原元知事招致時に、折れ線グラフのようなもので舛添氏が2014年12月9日の記者会見時に安全に関する基準を下げたと主張。
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このような背景において舛添氏著書を見てみると、同会見での意図が詳説されている(以下に引用…B:桝添氏①)。それに加えて、百倍超検出に至った現在の状況での見解も述べられている(C:桝添氏②)。更に築地関係者の「パゲさん」の見解(A)も入れて、3種類の見解引用で考えてみる。(→以降が当方考察)

A:パゲさん‏ @yasuo3704  7月16日Twitter
豊洲市場用地の化学物質を環境基準値以下に除去します、て無害化の約束は化学物質の残るガス工場跡地という場所に市場を移すのは嫌だ、て感情を正しいと認め、それでも移転を受け入れさせる為に都がした約束
今更「安全なんだから、無害化しろってのは意味の無い感情論だ」、て理屈は通用しない>

→当方はこれが真っ当な見解と感じる。特に「都がした約束」が重要。都側が「対策後は安全であることを分かりやすく示す」ために、「形質変更時要届出区域の解除」を当初から意図したというのが真相。

これ自体は、当時として妥当で納得性があった措置だが、「自然由来汚染」の件が入って、ややこしくなって話がねじ曲がった。当ブログでは「形質変更時要届出区域」の中の「一般管理区域を無くす」と表現するのが適切と述べてきた。この言い換えが出来ていれば、ぐっと分かりやすくなっていたと思われる。

市場PT報告の土壌汚染部分を書いた人も同見解のようで、遅ればせながら次のように正式に使用されている。
<①「操業由来の汚染土壌はすべて除去する」(無害化 3 条件の第 2 条件)ことにより、行政的には「形質変更時要届出区域(一般管理区域)」から「形質変更時要届出区域(自然由来特例区域)」への変更、または「形質変更時要届出区域(一般管理区域)」の区域指定の解除が行われる。>(PT報告書P72)

なお、上記で「安全なんだから」という部分についても、(パゲさんも多分そうだと思うが)疑問がある。法令上問題ないと言っても、例えば現在も「公営住宅アスベスト問題」が大きくなっている。アスベストも当時は法令上問題ないから使われていたが、後で被害が発覚した。更に公営住宅の件は、もっと後になってから問題になった。その時だけの判断で本当にOKなのかという実例となる。

B:桝添氏①(知事時代2014年12月)
(著書記述)
<4回目のブリーフィングの「懸案課題・局長ヒアリング」が行われたのは12月24日。2014年の夏の人事で新たに就任した新市場長から、豊洲市場の建設・運営費、卸売市場の課題や、豊洲新市場の開場と2年間モニタリングなどについて説明を受けた。
(その中で)豊洲新市場の開場と2年間モニタリングについて。指摘された点は5つ。そこには小池知事やマスコミの誤解を明白にする重要なポイントが含まれている。

1:技術会議から提言された徹底的な土壌対策を行って、10月末に完了した。その結果で、豊洲新市場用地の安全性は確保・確認されたと認識する。
2:今後、開場前、開場後を通じ、リスク管理として永続的に地下水のモニタリングを行って都民の安心に役立てる。
3:そもそも2年間モニタリングは、土壌汚染対策法で指定された区域の指定解除のための手続きに過ぎない。豊洲新市場用地では本来不要である。
4:施設建設中は、2年間モニタリングを続けるが、あくまでもあくまでも都民の安心に役立てるためである。
5:従って、2年間のモニタリングの完了と豊洲新市場の開場とは全く無関係である。

 シンプルに言えば、土壌対策を行った豊洲新市場用地の安全性は科学的に証明された。ただし、都民に安心してもらうために永続的に地下水のモニタリングは続ける。2年間のモニタリングは土壌汚染対策法の手続きのためで、あくまで都民の安心、安全のため。だから2年間のモニタリングと市場の開場は関係ないという論理である。
 2016年7月31日に当選した小池都知事は、新知事へのオリエンテーションで担当職員からそう説明を受けているはずである。さらに小池知事は、就任2週間後に築地、豊洲市場を視察している。現場でも同様の説明があったと思う。しかし彼女は「モニタリングが終わっていないのに、なぜ11月の開場を決めたのか」と疑問を呈している。
 小池知事は本当に問題を理解しているのだろうか。モニタリングと新市場の開場とは「全く無関係」だ。
 小池知事の視察を報じるメディアも、一切そのことに口をつぐんでいる。記者諸君は記者会見における私の説明、都議会での質疑をすっかり忘れてしまったのか。それとも意図的に小池劇場に加担しているのか。>

→ブリーフィングは12月24日とのことで、12月9日会見の後だが、会見の趣旨を表していると思われる。そして市場局の当時の意向ということになる。

まず「1」で技術会議の対策実施と確認で「安全性は確保・確認された」と実質的安全宣言。しかし、当方の技術的観点からすると、「モニタリングが規定されているということは変動が有るのだから、効果の確認には或る程度の期間が必要」となる。2年間モニタリングが不要とした場合に、「代わりの妥当な確認期間をどうするか」の論議が欠けており、技術的に見て問題有り。

「2~5」はモニタリングの件。この中に「基準を下げた」ような記述はない。当ブログでは桝添氏当該会見は「2年間モニタリング完了前の開業」について述べたもので、「基準の変更は行っていない」とずっと書いてきたが、正しかったことになる。

しかも、「2年間モニタリングは指定解除の手続き」と説明されている。自然由来があるから指定解除出来ないが、前述の「一般管理区域を無くす」ことと同じ認識を舛添氏も持っていたことになるだろう。そして2年間モニタリングは以下の様に「環境基準達成」が条件。
<②区域指定の変更または解除は、2 年間地下水モニタリングの測定値が環境基準を満たしていれば、土壌汚染対策の効果があったと判断される。>PT報告書P72

結果的に、舛添氏は会見で「環境基準達成する」ことを述べており、基準を下げてはいない。ここ重要。


C:桝添氏②(現在)
(著書記述)
<さらに3月19日に専門家会議が開かれた。従来8回までのモニタリング調査と同様な採水法で検査した結果が公表された。最大で、環境基準の約100倍のベンゼンなどが検出されたという。
しかしながら、法的に見ても、科学的に見ても、豊洲への移転はなんら問題ない。安全も担保されている。小池知事やマスコミが主張する「安全だが安心ではない」「地下と地上は切り離すことはできない」という論理に、私は与しない。

環境工学が専門の中西準子元東大教授も2月13日の『WEBRONZA』に掲載した論文「豊洲への早期移転が望ましい理由:厳しすぎる土壌環境基準、環境対策にお金と時間をかけすぎてはいけない」で・・・豊洲移転の正統性をこう結論付ける。

「先日筆者(中西氏)は築地市場を見学した。余りの古さにたじろいだ。・・・どう考えても早く移転するのが良いと思った。
豊洲市場の汚染対策に、これまで数千億円の資金が投じられていると聞く。膨大な費用がかかるということは環境破壊をしていることになることをぜひ認識して欲しい。・・・
安全の対策にお金がかかることを問題視すると、お金より命が大事でしょという人も多い。よく社会を見て欲しい。お金がないために命を縮めている人がどれだけ多いかを。・・・
効率良く安全対策や環境対策をしなければならない。その為にはリスクという概念がとても大切だ」

・・・安全対策にコストをかけすぎることが別の問題を生んでいることを指摘している。>

→まず舛添氏は「環境基準百倍でも何ら問題はない」というのが現在の見解のようだ。しかし、前項の「モニタリングは都民の安心に役立てる」という自らの趣旨説明は、どうするか。「百倍でも安全ということを説明すれば良い」などと言うのかも知れないが、都民側がそれで安心するかどうかは舛添氏の期待通りになるとは限らない。

また、BとCは異なる見解と想定される。但しBの知事時代も舛添氏は、心の中ではCのように考えていたのかも知れない。しかし、実際に会見で変更したのは「モニタリング完了前の開業」であって、「環境基準以下」はそのまま。今頃これを言うなら、会見時に明示しておくべきだった。現在の舛添氏の考え方=C自体は、「舛添基準」かも知れないが、実効性は全くない。

行政は手続きが重要。本当に変更するなら、各種関連資料なども変更指示が必要。しかし、例えば市場HP掲載資料などが「環境基準以下」のままだったから、問題発覚後に慌てて修整していた。変更した状態になっていなかったというのは客観的事実。

なお、中西氏も含めて「勝手に論点を変えている」と感じる。安全対策に、お金がかかることを問題視しているが、これほどの大金を使ってくれと都民が頼んだわけではない。地歴や測定データから都側が判断して目標設定し実行した。
この経緯に対しても、例えば以下の一般のかたの方が真っ当な見解と感じる。
<結局、都が、豊洲は地歴から、生鮮品市場建設には本来不適であると認めたから、無害化の約束をしたのであり、それが妥当と認めたから、数百億の投資が許容されたのであり、無害化の約束が、合意形成の条件になったのは事実。>

舛添氏や中西氏の見方は、合意形成の経緯を軽視していると感じられ、とても総合判断とは思えない(後から中西氏を引用して開き直るのは石原氏も同様)。

中西氏は一回の築地見学で移転すべきと感じたことがスタートで、最初から決めている感がある。他にも多くの観点から重要課題が数多いのが築地・豊洲移転問題の特徴。例えば両氏とも地下水管理システムの「水位管理破綻」などの技術的問題は、非常に深刻にも関わらず言及なし。 その点で、今後小池氏が本当に「鳥の目」で見て判断できるか、正念場を迎える。

最後に、舛添氏著書に関するまとめとしては、「舛添氏は、やはりこれぐらいの器の人物だったか」と見て取れる、有り難い本だった。

以上

[追記]
「参考記事」
(1)”豊洲市場に関する法的な問題は完全に決着がついた”宇佐美典也氏 2017年03月17日
<環境基準の達成を豊洲の開設条件から切り離したのが舛添知事です。舛添知事は環境基準を達成しなくとも土壌汚染対策法上はなんら問題ないため、「技術会議に定められた汚染対策を実行すること」を豊洲の開設条件としました。(③舛添基準)>

→技術的に考えると、「定められた対策実行」というのは、単に対策処置の実施だけでなく、長期に渡る効果も保証できる状態を指す。その為に必要な期間を考えて確認を行う。ただ平田氏や中西氏らも、学者さんの割には効果確認の厳密性を重視していないように感じる。延期に関しては小池氏の方が慧眼だった。

<第五回の専門家会議での議論を見れば、これから短期間で地下水を「すべての地点で基準値以下」にすることは困難ですし、細かなメッシュで調査した以外のところに(健康にもちろん被害がない程度の)小規模な汚染が残留している事実は認める他ないと思います。
よって豊洲市場を活用するとすれば、地下深くまでの土壌を丸ごと交換するのでない限り、健康被害がない程度の土壌汚染まで浄化することはそもそも不可能であったし、やる必要もなかったということでみんなが「再合意」する必要があります。>

→おときた氏は「小規模な汚染残留は認める他ない」という見解。これを認めると専門家会議や、ひいては今後の小池氏側の「無害化見直し」ともバッティングする可能性あり。但し、「規模の問題」の議論になるかも知れない。

また、「そもそも不可能であったし、やる必要もなかったことを再合意する必要がある」としている。しかし、本文Aの真っ当な見解との摺り合わせを、どうするかが課題になるだろう。仮に最終的には摺り合わせが可能でも時間はかかる。豊洲問題は五輪日程との関係があるので、ややこしさが増す。

追記以上