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築地問題の図解書籍に関して

本年初記事。
まず「11月地下水測定結果」が今後を大きく左右する要因と見ているので発表を待っているが、1月3日毎日新聞に小池氏インタビューが載り、「1月半ば」になるようである。

----小池百合子東京都知事の新春インタビュー」抜粋開始----
 --念のため、築地市場豊洲への移転問題の見通しをお尋ねします。 
 小池 私が一度立ち止まるべきだと言ったのは、豊洲新市場の地下水のモニタリング調査が未完了だったからです。1月半ばに最終9回目の調査結果が出る。調査をしっかり済ませることが大事です。 
 補償については、都がちゃんとお世話するのは当然ということで、進めています。夏ごろに総合的な判断をすることになろうかと思います。早められるかどうかは1月の結果を見ないと分からない。結果次第で早い場合と遅い場合が出ると思う。豊洲に関する風評被害が出ていると言われますが、安全が確認されれば、おのずと消えるものだと思っています。 
----抜粋終了----

それまでの間、情勢分析を行っておくことを考えているが、その前に以下の電子本が出ているので取り上げてみる。

ざっくり見てみたが、特に前半の盛土問題部分と最後の方の「豊洲市場と報道」に関しては、これまで藤井聡氏・佐藤"英知”尚巳氏・山本一郎氏などによって流布されてきた「トンデモ説」の集大成のようにも思えた。その点では、「このような見解が世間でどう受け止められるか?」という一種の社会実験にもなると思うので非常に興味深い。

ただ、単にこのままにしておくのも世間に対して良くないかも知れないので、まずはトンデモ説に至る以前の根本認識における違和感箇所について記しておくことにする。
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(1)「メンテナンス空間」
同書では地下空間に関して次のように書いておられる。
<周知の通り、建物を建ててからいわゆる「謎の空間」が発見されました。これは現在のところ「メンテナンス空間」という名称で呼ばれております。

しかし、皆さんよくご存知の通り、都側の担当部署が呼んでいたのは「モニタリング空間」。文書でも、例えば基本設計の起工書で「モニタリング空間設計は当設計に含む」と書かれていたり、検討事項で「課題①構造計画(モニタリング空間)について」となっているなど、随所で出て来ている。

第1次第2次検証報告書でも「モニタリング空間」は頻出するが、「メンテナンス空間」は全く無し。それに対して、この電子本で検索してみると「メンテナンス空間」は12回出ているが、「モニタリング空間」はゼロ。真逆になっている。

同書のスタンスは次のように書かれている。
<この本に書かれてあることは全て事実を元にしている。
実を申し上げれば本書の解説に目新しい情報は何一つありません。本書で解説する豊洲での土壌汚染対策は、すべて東京中央卸売市場で公表された各種の会議議事録、配布資料、その他情報を基幹としております。>

しかし、前述の検証報告書等も同市場HPで公開されており、当然読んでおられる。その上で、「全て事実を元にしている」と明言されながら、これほど基本的なところで公表事実と真逆では根本から信頼できないことになってしまう。

ただし、間違いなく「モニタリング空間」は知っておられるにも関わらず、このようにされた目的を少々考察してみると、次のような「自説への誘導」をしやすくする意図の可能性はあるかも知れない。
<そもそも豊洲のような大型の建物には地下にメンテナンスのための空間は絶対に必要ですし、柔らかい盛り土の上に建物を建てることは耐震性に著しい悪影響があります。工事としてはむしろ盛り土が無い方が正解なのです。>

「メンテナンス空間」と呼ばれていた(ことにする)→メンテナンスのための空間は絶対必要→盛土が無い方が正解、と持っていける。ただし、この辺の受け止め方は人それぞれと思うが、通称が「メンテナンス空間」でなく「モニタリング空間」であったことは以下のように藤井聡氏さえも紹介している明確な事実。それまで曲げてしまう意図を、皆さんはどう受け止められるだろか。

<事実4:「技術系職員は全て地下空間の存在を知っており、通称で呼んでいた」(通称=モニタリング空間)>

また、前述において<柔らかい盛り土の上に建物を建てることは耐震性に著しい悪影響があります>としておられる。確かにこの事自体は常識的な話。しかし、その裏は”「柔らかい地盤の上に建てる場合は杭基礎を使う」という話は抜かして結果的に盛土をdisる”という手法であり、「盛土無しが正解」説提唱者の常套手段にもなっている。日建設計の提案書さえ、建物下に盛土があったんですけどね。

結果的に盛土無しになって行った経緯においては、「モニタリング空間」がキーポイントだったと検証報告書が主題にしていて、当ブログでは更に「モニタリングと建築工事の並行実施」が根源的問題だったことまで検証。しかし、「モニタリング空間」という言葉を一切使わなければ、このような真相を追跡する必要もなく自説を展開できる。(自説向きには)よく考えられていると言えそう。

(2)専門家会議の方針
専門家会議について次のように書いておられる。
<専門家会議の汚染土壌対策ですが、議論の途中で変化していきます。しかし当初の予定のみを見れば、地下の汚染土壌には手を付けず、上に盛り土をかぶせ、その上にアスファルト等を敷くことで汚染物質を封じ込める計画でした。つまり「汚染物質に対して盛り土で蓋をした」のではなく「元から予定していたかさ上げ用の盛り土に蓋の役割も期待した」というのが正しい認識なのです。・・・
専門家会議の議論が回数を重ねていくうちに、「食の安全」という見地から、地下汚染物質を封じ込めるのではなく徹底的に除去する方針へと対策が変更されていきました。>

しかし、専門家会議は当初から<地下の汚染土壌には手を付けず>などということは無く、まず状況把握として調査不充分を指摘し東京都が再調査したら、基準値の43,000倍のような汚染が見つかったという流れ。当然除去になる。議事録等で分かる話にも関わらず、ここでも事実と大きく違うことを書いておられる。

これも自説に持っていきやすくなっていると思える。盛土は嵩上げ用だった→汚染物質は除去することになった→汚染物質の蓋はいらなくなった→(嵩上げ不要な建物下は)盛土がない方が正解、という流れ。

だが、「盛土無し」正当化の常道として、専門家会議の議事や提言に含まれている「揮発性汚染物質に対する盛土の遮蔽効果」は華麗にスルー。更に、同書は約2ヶ月前から準備されて来たとのことだが、その間に専門家会議で「換気」の検証が行われている事実にも全く言及なし。盛土問題を語る上で肝心なところが抜けているのではないだろうか。

同書が高く評価して引用しておられる佐藤尚巳氏発言についても言えることだが、「現状空間が英知」なら何故「換気」の話が出てくるのか。後から換気設備が追加必要な空間なら、とても「英知」にはならないのではないか。
今の専門家会議の流れからしたら、少なくとも「換気設備の追加」が提言されると当方は見ている。皆さんの中にも、そう思われる方は少なからずおられると思う。もしそうなったときに、佐藤氏や筆者さんなどがどういう反応をされるか、今から注目している。

(3)地下空間における滞留水の監視
トンデモ説についても一例を挙げる。余りにもズレている話なので、これまで取り上げてこなかった以下のような見解。
<地下水管理システムが作動する前に何らかの事情によって地下水が侵入してしまったのが問題の始まりですが、そもそもこれが通常の地下ピットであったら気が付きもしなかっただろうと佐藤氏は言います。
もしも通常の地下ピットだとしたら、先述のとおりに人が調査することが実質的に不可能なので、それだけ地下水が上昇していることに気付くのが遅れてしまいます。今回、早期に水位の上昇を発見できたのは人が立ち入れるほど大きな空間であったからこそです。この巨大な地下空間は地下水管理システムの一部としても有用な空間なのです。

同書では「専門家」の見解を重視しておられると思うが、当方もシステムになれば専門家の部類に入れてもらえると思う。その立場からすると、水位上昇は目視ではなく、水位計等の「センサー」によって自動検出し、アラームも出す設計にするのが当然。実際豊洲でも水位観測用井戸が複数設置され常時監視体制が整っている。砕石層に達すれば平準化される設計思想にもなっている。そして、水位が砕石層を越えたら毛細管現象防止が効かなくなるのだから、その前に手を打てるようにアラームを出すことが必須。

システム的には余りにも常識過ぎて、佐藤氏発言に関しても、この部分は敢えて指摘してこなかった。そして、本来問題とすべきは、<地下水管理システムが作動する前に何らかの事情によって地下水が侵入してしまった>ことの方だろう。これは管理責任が問われる話だが、盛土問題の責任追求に隠れて殆どスルーのようになっている。

更に、地下水管理システムに関しては、「当初予定の性能が出ているのか?」という根本的問題がある。例えば、集中豪雨や台風などの際にも水位が上がりすぎないように制御することになっているが、少なくとも滞留水は遅々として排水されなかった。現在は地下空間にポンプを設置して強制排水が行われている。

管理システムの設計的に滞留水排水までは考慮していなかったということなら納得性も有るだろう。しかし、「排水能力に余裕があるわけではない」ことを示しているとも言える。大きな余裕が無いとすれば、「実際に大量降雨があったらどうなるのか?」という実地での検証が必要になる可能性が出てくる。逆に言うと、滞留水は排水能力を試す機会でもあったが、それには対応できなかったという「実績」が出たことにもなる。

当方のシステム構築における認識からしたら、このような状態では少なくとも大量降雨を実際に処理してみないと確認が済んだとは言えないと思う。それに対して、昨年10月本稼働だったから大量降雨時期は通過していない。
結果的に地下水管理システムだけでも、大きな問題を抱えている。しかし、他の問題が多すぎて市場問題PTも取り上げられていないようだ。

また、前述のように佐藤氏発言には、「水侵入の目視監視」を空間正当化理由の一つにするというシステム的には大いに疑問な内容が含まれている。同PTがシステムの検証を行うには適切でないことを示しているようにも思える。

ただし、システム専門家でも見方は様々とは思う。だからこそ、このシステムだけでも検証委員会などを立ち上げて、本当に長期安定稼働が可能なのか検討することは必須だろうが、そのような動きも見られない。また、年間30億円とも言われる同システムの維持費も検証必要。

このように地下水管理システム一つを見てみても、根深い問題がある。豊洲問題は予想以上に深刻と当方は感じて来ており、今後の情勢分析で書く予定。

(4)科学的内容
筆者さんは巻末で、<科学に関する知識もあまり豊富とはいえません>と述べておられる。これには相当謙遜が入っていると感じられ、特に土壌汚染対策の項などは専門的に詳しく書いておられると思う。

ただ、やはりパッと見て疑問な箇所もあったことは事実。その例。
不飽和帯
不飽和帯とはどのようなものでしょうか。私たちの周囲には空気がありますが、その中に目には見えない水蒸気(湿気)も混じっています。それと同様に土の中にも水蒸気は混じっているのです。中学校の理科で習ったと思いますが、水蒸気が水になることを「飽和する」と言います。次に説明する帯水層と違い、地表から帯水層までの浅い土壌のことを「不飽和層」と呼びますが、これは水蒸気がまだ水になっていない土壌のことを指します。
 帯水層
一方、地中深くになるにしたがい気圧が高まってくるため、気体だった水蒸気はやがて液体である水へと変化します。飽和現象です。このように水をある水へと変化します。飽和現象です。>

これは例えばWiki「地下水面」の項目にある次のような説明とは「飽和」の意味が違っているように思える。
<水が地面から土の粒子の隙間に浸透するとき、最初は通気性のある部分を通過し、その土は不飽和である。水がさらに深く浸透していくとより多くの隙間を満たすようになり、最終的に飽和する領域に達する。この飽和帯のほぼ水平な上面が地下水面である。地下水面より下の地下水を含む地層を帯水層と呼ぶ。

Wikiでは(飽和)水蒸気の話は出てこない。土の隙間を満たしているかどうかが、飽和・不飽和の違いになっているようである。当方が見た限りでは、Wikiの説明のほうがしっくり来るように思う。
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本日のところは以上であるが、思いがけず長くなってしまった。更に同書では、まだまだ違和感を感じた部分が多くあって、一体どれぐらいの検証量が必要か不明になる(苦笑)
ただ、同書に関する検証を行うと、他の方々の説もまとめて検証できることになり、意義は大きいと考えている。どこかの時点ではまとめようと思うが、分量多すぎて何時になることやら。当面は冒頭で述べたように、情勢分析の方を優先して実施予定。その中で同書の後半部分についての感想も適宜述べていこうと思う。

不定期掲載になるので、記事を書いたときはTwitterの方でもお知らせします。

以上