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豊洲の設計の出発点は「高床式」と確定

当ブログでは盛土問題の経緯を考えるにあたって、専門家会議報告(提言)の「全面一様な盛土」は高床式想定と推測されることを述べてきた。そして同提言は「揮発性汚染物質の遮蔽」に対する盛土の効果を検証して認めており、一様な盛土が前提であることも示した(11月2日記事"専門家会議提言等での「盛土の効果」"参照)。

しかし、専門家会議提言時に高床式想定だったことが世間的には余り認識されていない。更に、例えば藤井聡氏は、10月9日TVタックルにおいて森山氏と次のやり取りがあった(敬称略)。
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森山高床式を想定してたけども、難しいか何かの理由でズボッと下がったのが今の状態。
藤井: ただ、高床式を想定していたかどうかも議事録で色々解釈が有るので
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藤井氏は自説として「現状空間の方が盛土より良い」と主張し、現状に至った都側選択を肯定。しかし、高床式の可能性があると、判断経緯として「盛土を実施した高床式と現状地下空間方式」の比較検証が必要になる。自説だけを主張することが難しくなるので、高床式想定を曖昧にしたと推測。

しかし、実際には専門家会議が始まる前から高床式想定だった資料を当ブログでは紹介してきた。再掲して説明。
豊洲新市場実施計画のまとめ平成17年(2005年)9月

この文書を「高床」で検索すると20回も登場。逆に地下は0回で想定されていないことが分かる。「高床式」前提を示す箇所は次のように明記されている。
<本計画では、新市場に求められる「安全・安心」を実現するための「閉鎖型施設・高床式施設 を前提とした、・・・>

→「閉鎖型・高床式」 は豊洲の基本コンセプトだった。そして次のように「HACCP」を意識していた。
<本計画では、HACCP的視点に基づいた高度な品質管理を行うため、閉鎖型施設・高床式施設の必要性や閉鎖型施設における温度管理のあり方、施設の考え方などを取りまとめた。>

→最終的には「HACCP」取得は無くなったようだが、次のような効果の記述も有る。
② 高床式施設
小動物、鼠などの売場への侵入、また外部からの危害(土、埃などの混入)を防ぐため、高床式施設とする。

→このように高床式は基本コンセプトであり、色々なメリットが認められていた。

本日は更に、この資料策定の約1年後に開催された以下会議の資料をご紹介。高床式関連の記述をまとめて下図で示す。
第12回新市場建設協議会資料”平成18年(2006年)10月13日
イメージ 3

このように高床式は「基本設計相当」として業界とも合意されていた。つまり、高床式だったことが確定。

その後第13回協議会は約2年後の平成20年(2008年)12月4日開催。比留間会長(市場長)の挨拶。
<本協議会は、平成18年(2006年)10月に基本設計相当を取りまとめて以来、約2年ぶりの開催となります>

→この発言から、上図の内容について約2年間変更がなかったと推測できる。結果的に、少なくとも2008年12月時点でも公式には高床式が続いていた。この時期は、同月に第8回9回技術会議が開催される。専門家会議提言は同年7月に既に出ていた。結果的に、専門家会議も技術会議の前半も高床式前提だった。また、技術会議は翌年2009年2月3日に報告書を出し、それを踏まえて2月6日に出された東京都整備方針も、それぞれ全面盛土だった。

このような経過であるが、最終的に盛土無しになる流れとして、第2次調査報告書は次のように書いている。
「技術部門では『地下にモニタリング空間を設置する』という基本的方向性が、建設調整担当部長(宮良氏)のもとで脈々と受け継がれていたと考えられる」
この何処かの時点で高床式は廃止になって、基本設計では地下空間になっていったということになる。

また、藤井氏の発言は、このような資料を読み込んでいないことの証明になった。関連して、豊洲問題でブログも書いておられる「おときた」都議のツィートが有る。
<私も地下ピット案は盛り土の改善案だと考える立場ですが、それでも議会や市場関係者に虚偽答弁・虚偽説明を繰り返してきたことや、誤った環境アセスメントを申請した責任は免れないと思います。・・・>

→<地下ピット案は盛り土の改善案>という見解によって、現状空間を全肯定しようとする人が、どこを誤解しているかの一端が認識できた。

地下ピットと盛土は比較対象ではない。まず「ピット」が特に大型建物には必要なことは共通理解。だが、ピットには色々あって、建築用語として次のような解説が有る。
ピット…穴、枡、溝などのへこみ部分のこと。排水ピット、配管ピット、土坑ピットなど。

→ここで注目すべきは、「地下」とは書かれていない。ただし、「排水ピット」などは地下の必然性があるだろう。しかし、「配管ピット」については、用途面から「配管スペース」として捉えると地上でも設置可能。その具体例が「高床式」。言葉として適切かどうかは別として、地上に設けられた配管スペースを「地上ピット」と呼べば、以下の対比になる。
 ”地下ピット ⇔ 地上ピット”…地上ピット(高床式での地上配管スペース)は盛土ではない地盤の上でも構築可能

しかし、「おときた」都議は地上ピット(高床式)もあり得ることを想定されていないのではないか。地下ピット前提を決めてしまって、その状態で地下を「空間にするか埋めるか(盛土)」の比較と思われる。藤井氏と同じく、議事録で証明されている高床式検討が消えてしまっている。(なお、高床式では半地下もあり得るが、簡単にするため半地下も地上ピットと、この記事では呼ぶ…実際に上掲図は半地下)

第1次報告書でも高床式に言及が有る。
イメージ 1

このように盛土問題解明に関しては、初期段階から検討すべきであるが、都側の調査は第1次2次とも非常に甘い。都議会で「百条委員会」を設置して解明すべきという御見解も頂いている。東京都は行政側だから、その調査が中途半端なら議会で行うのは重要なプロセス。これだけの大問題だから百条委員会も必須。

ただ、それで都議会の状況も調べたら、最初に出てきたのが上記「おときた」氏のツィート。豊洲問題について発信している都議でさえもこの状態だから、都議会で今のまま審議しても解明に至らないのが目に見えるように思う。やはり、技術的に第3次調査を実施してから都議会の方が適切と感じる。宮良氏反論書の件もあるから、迅速にPTで調査して頂きたいと思う。

その際に、当ブログで取り上げているPT委員佐藤尚巳氏に関して、「おときた」氏も以下のようにツィート。
<第1回市場問題プロジェクトチーム会議」を視聴中。JIA(日本建築家協会)の佐藤先生「私は東京都の技術者の方々は良心にかけて、正しいことをしたと思います」 こうした様々な専門家の見方が、冷静に遡上に乗って欲しいです。>

→多くの専門家の見解表明は行われるべきだが、本日も出発点に遡って明らかにしてきたように、盛土問題には長い複雑な経緯がある。それがまだ余り調べられていない段階での公式な第1回PTで、「英知」とまで発言したのは余りにも早すぎた。

しかも、その影響は大きく例えば前述の藤井氏も引用。(山本氏もそうだった)
<マスコミ世論のプロット(脚本)の正当性を脅かす「豊洲の地下空間・ピットは、実は技術的に見れば衛生的、かつ、安全だ」という技術論がメディア上でも指摘されるようになります。

それでも発言内容が、きっちり筋の通ったものならまだしも、このJ-CAST記事でも以下のように佐藤氏発言が紹介されている。
<地下には水道やガス、電気などの配管が通っており、巨大な空間で水を100メートル流すには、空間は3メートル以上の高さがないといけない。

→11月7日記事”PT委員「佐藤尚巳」氏発言の”詭弁と虚偽” ”でも立証済みだが、「3メートル以上の高さ」の必要性に言及しながら、その前に現場を見て2mを確認しておられる。しかも3mではなく4mの空間に対してコスト増加分も示さず「英知」発言。矛盾があるように思う。

この発言から生じた誤解の連鎖はネットを中心に相当起きている。更に以前から引っかかっていたのだが、佐藤氏のご経歴では「東京国際フォーラム」が代表作で「プロジェクトディレクター、統括監理建築士」の立場で関与されたとのこと。その東京国際フォーラムはれっきとした東京都の関連団体だった。つまり実質東京都発注の大プロジェクトだったことになる。(また、都ではないが「港区景観アドバイザー」は今も務めておられる)
これでは都の仕事にシンパシーがお有りでも不思議ではないと感じる。

そのような方が、調査も充分でない第1回PTにおいて、上記J-CAST記事を引用すれば<「作ったのは英知」 委員が絶賛>。実態としても、このように受け取られる発言だった。「李下に冠を正さず」の諺もあるにも関わらず。

そして、現状は移転判断時期も不明になって、市場関係者の困惑は度を深め、様々な損失はどこまで膨らむか分からない状況に陥った。この事態の原因となった設計判断を、今でも「英知」とされるのだろうか。是非PTの場で再度ご説明を頂きたいと思う。
それも無いならPT委員としての不適格懸念は増すばかり。小島座長はPTの正当性を保つために、お考え頂きたいと思う。そして盛土問題第3次調査を実施して頂ける場合には、佐藤委員に外れていただくか、別途第3次調査チームを作って迅速な調査をお願いしたい。

誤解の連鎖は民主主義に深刻な悪影響をおよぼす。このような大事件を教訓として断ち切り方を模索すべきと思うので、思い切って考えを書いている。

なお、豊洲問題は今後の小池都政を占う上で試金石になると思う。五輪問題は国際関係もあるので当然難しい。豊洲は東京都主体の問題。これを的確に処理できないようでは能力が問われる。

石原氏に関しては、盛土問題では歴代市場長も知らなかったことを、知事が知っているべきとするのは無理がある。ただ、一番の本質的問題として、汚染が分かっている東京ガス跡地への移転判断を質すなら意味はあると思うが、基本的には盛土問題ではもっと現場に即した実態解明が必要。

以上
[追記]
本文で紹介した以下の協議会は重要な情報がある。第13回では宮良氏(新市場建設調整担当部長)から、「専門家会議が提案する対策」として提言内容の説明があった。長くなるが引用。

第13回新市場建設協議会議事録”平成20年(2008年)12月4日
<(宮良委員)
専門家会議が提案する対策ですが、対策のポイントは二つあります。土壌は環境基準以下に処理しましょう、地下水についても環境基準以下の浄化を目指しましょう、そういうことが二つの大きなポイントです。

中身を少しお話し申し上げますと、土壌汚染対策、要は土壌の中に含まれている汚染物質の処理のことです。土壌汚染対策①ガス工場操業時の地盤面の下2mを掘り、きれいな土壌と入れ替えます。それを図示したのが8ページの上段、豊洲新市場予定地の断面図の①になります。次に、土壌汚染対策の②その上に厚さ2.5mのきれいな土壌を盛っていきます。8ページの上の図面に対比しますと、②きれいな土を盛ります、そこが該当しているところです。さらに③ガス工場操業時の地盤面の下2mより下の土壌につきましても、環境基準を超える物質があったところは全部きれいに取り除きます、これが土壌の対策です。

次に、地下水の対策ですが、建物建設予定地とそれ以外のところに分けてあります。建物建設予定地は、建物が建ちますと床が張られますから、後でいろいろ対策ができなくなります。そういった観点から、建物建設地は、建設後に改めて対策を行うことが困難であるため、建物を建設する前に環境基準以下にいたします。それ以外のところは、排水基準以下にします。排水基準といいますのは、環境基準の10倍であれば下水道、あるいは公共水域に排水できます。まずは排水基準以下にしまして、将来的に環境基準以下にする、そういうことを目指します。

また、地下水管理を行い、地下水位を一定に保つ、そういった方策も考えています。そのためには、地下水を流出入しないように、敷地の周り、新市場予定地の周りに遮水壁を打ったり、地下水位を一定にしまして、地下水が上昇しないように砕石層を敷いてそれを防止する、水位が上昇した場合にはくみ上げて水質をチェックして、それで下水に流す、そういうことを考えております。

これらの対策につきましては、土壌汚染対策法にはかかりませんが、技術的な基準と対比してみますと、地下水の飲用、要するに飲むことはしない前提で考えますと、土壌汚染対策法では、土あるいはアスファルト、それからコンクリートで封じ込める、そういう対策があります。具体的に申し上げますと、土で盛る場合は50cm以上の厚さ、アスファルトを舗装するとすれば3cm以上、コンクリートであれば10cm以上、そういう対策になります。今お話し申し上げました対策に比べれば、何重にも手厚い対策、そういう内容になってございます。>

→説明内容からは、専門家会議提言を的確に理解しておられたことになる。これで提言無視することは確かに考えにくい。宮良氏の反論も無理からぬと思える。ただ、気になるのは以下の説明の部分。
土で盛る場合は50cm以上の厚さ、アスファルトを舗装するとすれば3cm以上、コンクリートであれば10cm以上、そういう対策になります>

→提言の記述を「建物下は1階床のコンクリート厚さが30~40cmもあるから、土は盛らなくても良い」と解釈した方も複数見ているし、第1次報告書にもそれに近いような記述が有る。

イメージ 2

都側の一部で専門家会議提言の揮発性汚染物質の遮蔽効果想定を抜かした解釈が行われ、盛土無しでも良いと誤認識された可能性は否定出来ないかも知れない。(調査報告書は盛土とコンクリートの両方必要と正しく認識)
このような点も宮良氏に、ご自身が担当していた組織の当時の状況も含めて確認すべき。

追記以上