「移転を危うくしかねないのは、むしろ推進派の言説ではないか」という見方
昨日記事で紹介したTVタックルで、最後はたけし氏が「結果的に豊洲へ行くだろ? 行くよ間違いなく。これ行かないことになったら、とんでもないことになる」と締めていた。
藤井氏という京大大学院教授で内閣参与の(一応)大物を出して、やや移転推進に振ったかなという番組作りに感じて、たけし氏もそれに沿ったまとめか、とは思った。しかし、彼は本音を言う場合もある。
”豊洲移転「安全確認まで延期」64% 本社世論調査”2016/9/25 日経新聞
<日本経済新聞の世論調査で、築地市場(東京・中央)の豊洲市場(同・江東)への移転について尋ねたところ「豊洲の安全が確認できるまで延期すべきだ」との回答が64%に上った。「東京五輪に影響が出ないよう、できるだけ早く移転すべきだ」は12%。「移転はやめるべきだ」は14%だった。>
注目したのは「移転はやめるべきだ」が14%しかない。また、当ブログ9月29日記事”今後の進め方に関しての一私見”で紹介した街角アンケートでも、移転中止は20人中3人で15%。奇しくも殆ど同じ数字。移転すべきも対比した両調査の結果は以下のようになる。
移転中止と賛成が10数%ずつで拮抗。残る大多数は「安全が確認できるまで延期」と「よく調べて移転で」、これは聞き方の違いだけで同趣旨。
つまり、ちゃんと調べて結果を公表すれば、移転推進派のほうが圧倒的に有利な状況。しかし、推進派の識者の方々は、何故か10数%しか無い反対派をターゲットにし過ぎているように見える。
共産党や左翼寄りマスコミが危険性を煽るのは「伝統芸」ぐらいに認識すれば良いと思うし、一般の方々もそういう認識である表れが調査結果だろう。煽りに過度にとらわれる必要はない。共産党のやり方に対する支持が多ければ、今のような議席にはなっていない。
当方も上記9月29日記事で以下のように私案を書いた。
<問題点の洗い出しを行い、対応案が幾つか出てきた段階で各案の延期期間見通しを立て、世論に問うて意見集約するする>
しかし、世論の大勢に合わせて検討していく場合に困るのが移転推進派の言説。
昨日記事で紹介したように藤井氏は「地下空間高さ4m」になった経緯も分かっておられない。もしかすると、「4.5m盛土」は第1回専門家会議の都側対策案で建物下も含めて実施することが明記されていることもご存じないか。
もし知っておられたら、「都側のマッチポンプ」という基本構図も認識されると思うが、そうなっていないのはやはりご存じないのかも知れない。(なお、砕石層考慮だと盛土は4mだが流布している4.5mも使用する)
実態も捉えずに、「現状で問題ない、逆によく出来ている」などと繰り返して論議に蓋をしようとしても、一般の方々にも見透かされてしまう。それより、早く問題点を明らかにして整理検討し、結果を公表していけばいい。それが世論の信頼を得る道。
だが、藤井氏はもう無理な感じ(国土強靭化などで政府与党と関係も深い)。しかし、昨日藤井氏支持の識者として言及した気鋭のブロガー山本一郎氏は。藤井氏よりずっと認識力は上だと思うが、先日のブログでは以前よりもっと悪い方へ行っているようだ。
論点は多々あるが、一つ取り上げてみる。
”テレビ局は、なぜ豊洲問題で騙されたのか”山本一郎 2016年10月9日
<設計に直接かかわった建築士は施主(主に東京都)との守秘義務もあり、顕名で「批判が不当であること」を自由に話すことができません。また、一般的には大規模構造物の設計経験のある建築家が問題点を指摘しようにも、大規模建築に関わるほとんどの方は特定の企業に所属されており、その企業や建築関連団体の許可なくして、自由に見解を述べることが困難になっています。>
→東京都が設計会社から説明する場を作れば良い話なのに、何故持って回った言い方にして情報公開不足を当たり前の話にしようとするのだろうか。実際日建設計は盛土問題でプレスリリースも出した。
”日建設計が豊洲問題で反論、「地下空間は都の指示」”2016/10/07
→山本氏の上記ブログは、これが出た後になる。その上で、まだ「守秘義務が…」としているのは、同氏流に言えば「ガセ」レベルの主張では無いのか。本来切り込んで頂くべきは、早く許可を出さない東京都の姿勢だろう。これでは推進派のほうが信頼を失いかねず、真っ当な論議ができなくなるのでは無いかと云うのが当方の危惧。なぜこれほど無理を重ねるのかと率直に思う。
また、<その企業や建築関連団体の許可なくして、自由に見解を述べることが困難になっています>も、企業はともかく団体の方はギルドではない(笑)
各設計家が専門家としての矜持や良心から、自由に発言する闊達さを奨励するのが筋ではないか。もちろん山本氏は百も承知と思う。それでこういうことを書けば、何かウラがあると見透かされる。繰り返しになるが、山本氏は本来どうあるべきかを分かった上で、あえて書いていると思う。
同氏の認識力は、先月のブログでも見て取れていた。
”小池百合子「豊洲劇場」と、報告書を読まずにいまさら文句を言う有識者問題”2016年9月15日
これで技術会議説明資料の工事図で建物下に盛土が無いことを鋭く指摘。ただ、それを見て変更に気づかなかった技術会議メンバーをやり玉に挙げながら、非常に重要な変更を明示しなかった都側の責任追求が軽いという本末転倒をやらかしておられたので、その指摘も書いた。
また、図で建物下はAP+2mになっているが、欄外に「盛土高さ:AP+4.4m~AP+6.1m」も明記されている。盛土有りを信じ込んでいた委員たちが、これを見て4.5m程度以上の盛土があると認識しても有る得る話だろう。(都側が書くなら「盛土高さ:0~AP+4.4m~AP+6.1m」だと、まだ分かったかも知れない)
AP+2mを見抜ける山本氏が、何故これには目をお向けにならなかったか。ただ、見た目で認識できるかどうかよりは、仕様変更の明示のほうが重要なことは言うまでもない。当方はそれを指摘して来たが、山本氏は重大仕様変更の報告・承認を受けなくても良い業務環境で、仕事をされてきたのだろうか。
また、藤井氏や山本氏と同じく、現状構造積極肯定派とも言うべき方々の一人がPT委員で「英知」発言の「佐藤尚巳」氏。同氏は地下空間について<東京都の技術系の役人の方の名誉にかけて正しい選択だった>と強調しておられた。しかし、都側の責任については「それ(盛土無し)が報告されていないのは大きな問題です」と述べたに留まる。
だが、専門家会議の提言(都側対策案でもある)を反故にしてまで盛土を無くし、その仕様変更を周知しないまま実施して後日発覚したらどうなるか。同氏が「正しい選択が出来る」とした都の役人さんらが、後々の影響を考慮しなかったとしたら正しい判断などとは到底言えない。
また、盛土無しで影響を受ける大きなポイントを一つ挙げると、「環境影響調査書(アセスメント)」という重要書類に虚偽記載が行われたことになる、これは技術系の役人も当然絡む。同書の変更と再評価には少なくとも1年ぐらいはかかるという話もある。技術系の役人さんたちは、これをも無視してしたのか?ということになる。
このような影響も含めての判断になるが、それでも「英知」とされるのだろうか。「技術系」だからといって純粋技術的判断だけで仕事は全うしたことにならず、中間層や幹部はより広い視野が求められる、
また構造面では佐藤氏は概括的見方として次のように言っておられる。
<ちょっと余り例のない、言ってみれば高下駄をはいているような構造かも知れません。>
→「余り」と付けておられるのは、ご自身では知らないという意味で、実際は「例のない」という趣旨に近いだろう。「例がない」というのは、技術の常識及び当方経験的にも、極めて気を付けなければいけない場合になる。しかも、「高下駄をはいている」というのは、「不安定」と同趣旨表現であることも常識的。
それに対して、佐藤氏はフォローとして以下のように述べられている。
<そのような構造なんですが、それを前提として構造計算をしている限り、それは安全性が確保された建物として私は認識するし、確認審査なり、構造評定なりで、そういうものが第三者の目でちゃんとチェックされているはずですから・・・
特殊な構造ではあるんですけども、私は安全は担保されている(と思う)>
→まず「特殊な構造」とさえ述べておられ、前記と総合すると「例のない高下駄をはいたような特殊な構造」となる。一番危なそうな構造に聞こえる(笑)
これを「チェクされているはず」で、安全担保と想定。個人的には、技術者として適切な姿勢とはとても思えない。まず、「特殊な構造」という前提を明らかにして、「チェックされているはずだが、これだけの問題だからPTで改めて十分チェックしたい」などと述べておくべきところだろう。これでは、専門家の肩書や流暢な説明に乗せられてしまう一部の人以外は、だんだん疑義を持ってくる可能性あり。
この流れで、高野氏の構造面指摘なども早く検証して結論を得ていくべき課題。これについて山本氏は複数の構造専門家から見解を得ているそうだが、ブログで披露されている論点を見る限りは現時点では納得できない面も色々ある。
繰り返しになるが、移転推進派の方々は圧倒的に優勢なのだから、詳細な検証で事実関係を的確に捉えて主張を展開していただきたいと思う。そのためにも、盛土無しの発見とともに、コンクリート厚み違い(1cmと15cm)も指摘して都側も認めた実績の有る高野氏の懸念は、移転反対の言説などとは捉えずに純技術的検証項目として、迅速な公式検証実施をネット世論で求めていくのが妥当な方策ではないか。
とにかく今は動きが遅すぎる。小池氏会見から1ヶ月以上経ったのに、調査完了するどころか都側に都合に良い資料を後から追加という呆れた事態まで発覚。早くも小池氏の強運を持ってしても乗り切れない事態到来の予感もする。
小池氏が情報公開をもっと徹底する指示を出さないと、都庁のサボタージュ戦術に巻き込まれる懸念が、調査報告などでも強まった。解明が遅れるほど延期期間の見通しがつかなくなって、移転派に不利ではないか。或いは長期化で世間の注目度が下がった所で押し切る戦術もあるか。しかし、そのような手法ではなく世論が望む「よく調査して」を実現する方向で進めていくべき。
なお、森山氏も今は基本的に移転反対のスタンスが強そうだが、上記のように世論の大勢が「よく調査して移転」にあるなら、それに真っ向から反して10数%の方々と共同していく姿勢ばかりでは無いと(勝手に)推測。同氏が委員になっているPTも基本的に推進方向だろう。
両陣営とも芸風の縛りなどから一旦離れて、話し合いを進められないだろうか。このままでは国民にとって大きな損失が広がるばかり。
以上