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著作権問題考察3「偶然の一致度」(仮称)

昨日は「薄い著作権」における著作権侵害認定のためには、「濃い類似度」(仮称)が必要になるだろうという考察を述べた。ただし、「薄い・濃い」だと定性的で曖昧になってしまう。この曖昧さに対する裁判所の考え方は調べ切れていないが、当方独自考察を行ってみる。
まず、判断を明確化するために、「薄い・濃い」を数値化できないか考えてみる。普通だと、主観が入るものをどうやって数値化するのか?ということになってしまうが、参考として交通事故裁判における「過失相殺」という考え方が有る。判例等を分析・検討して数値化された基準が存在する。
 ”「民事交通訴訟における過失相殺等の認定基準」(別冊判例タイムズ)”
 ”「日弁連交通事故相談センターの過失相殺基準表」”
これらは国の明確な法的基準が有るのではなく、民間の資料として出されている。一例を示す。
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一見して明快で分りやすくなっている。ただし、当然ながら各数値の厳密な根拠は示せないから、前述のように国ではなく民間で出されていると思われ、実用的基準として使用されているようである。これは、「曖昧な部分が有る問題の数値化も、やれないことはない」という事例になると思うので、今回の事案も数値化を考えてみる。
まず、「薄い著作権」に関連して、著作権の専門家(栗原弁理士、水野弁護士)が「ザハ案は著作物に当たる」としているので、建築予定だったザハ案(実施設計)を「著作物性100%」としてみる。次に、まずキールアーチを外す。非常に重要な特徴の排除だから著作物性が下がって「30%」になると考えてみる。更に6階を削除し、サイドスタンドのフラット化を行う。メイン・バックスタンドは大筋で同じままとして、30%の半分で「15%」とする。これでA案スタンド構造と同様になってくるので、A案と比較するにあたっての「薄い著作権(著作物性)」の数値化と考える。表にしてみる。

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このように一旦15%という数値が出せた。ただし、福井・水野両弁護士が言及しているとはいえ、実際に裁判になった場合に「薄い著作権」の論議になるかどうかは不明。例えば上林氏産経新聞記事では<「機能的なアイデアは、それ自体として保護の対象とはなり得ない>という判断基準を挙げておられる。
しかし、「機能的なアイデア」が著作物性を有する建築物に含まれる場合、「機能的なアイデア」だけを取り出して判定するのが果たして適切か。上表のように、著作物からの関連性を考慮して「薄い著作権」の考え方を当てはめるのも納得性が有るように思う。

さて、次に「濃い類似性」の件。類似性が100%だと「デッドコピー」と言えるだろうし、違う部分が多くなるにつれ、90%、80%…となっていく。では前述のように「薄い著作権」が仮に15%とだとして、それに対応する類似性の濃さがどれぐらい必要と考えるか。100%の類似性から15%下がった85%と考えることが出来るかもしれないが、数値の比較が一見して分りにくくなりそうである。
それで当方独自になるかも知れないが、「確率」で考えてみる。例えば隈氏は「誰がやっても条例等に沿ってやれば同じようになる」と言っている。もしそうなら、誰がやっても同一パターンになるから確率を「1」とする。しかし、考えられるパターンが例えば2つあって、両パターンの優劣が余り付かず人によって五分五分の確率で選ばれるなら確率「0.5」とする。

このような考え方を、ざっくり当てはめてみる。まず基本構造としてS造(鉄骨造)がある。B案はPC造で、現時点で最大の日産スタジアムもPC造。このような事情からザハ案とA案がS造で偶然に一致する確率を「0.5」(50%)としてみる。次に一周の柱数108本。これはS造にしたら必ず108本になるというわけではなく、バリエーション(ただし基本的に4の倍数)は色々考えられる。しかし簡単にするために、これも108本で一致する確率を「0.5」とする。このように独立して決まる要素で、バリエーションが有りながら一致しているものを更に挙げてみる。例えば「地下一階のトイレ数と配置」。ソックリと言って良いぐらいで、加えて隣接する機械室や通路の配置まで同じ。ここまで同じになる確率は相当低いと思えるが、やはり「0.5」とする。
この三つだけで、偶然一致する確率は「0.5x0.5x0.5=0.125」(12.5%)になる。このような累積(累乗)を「偶然の一致度」と呼ぶことにする。これを前述の「薄い著作権(著作物性)」の15%と対比できないか、というのが当方の考え方。「偶然の一致度」については、”偶然の一致度が低い=偶然で似た確率は低い(元の著作物を真似ている可能性が高い)=類似度が濃い”というように見る。

なお、一致項目はもっと多く、例えば特に当方が注目するのは「2階3階吹抜け」のVIPルームで特徴的だと思う。これも確率「0.5」とすれば、「0.125x0.5=0.0625」(6.25%)となる。また、VIP用ボックスシート4か所の配置がそっくりで確率0.5とすれば、「0.0625x0.5≒0.031」(3.1%)。これらを表にしてみる。

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この5項目だけで、前記で設定してみた「薄い著作権(著作物性)=15%」の数値を大きく下回る。一致している箇所はまだある。また完全一致とまではいかなくても、類似性が有ると思われる箇所についても確率で表す手法がとれるだろう。結果的には、「偶然の一致度」は非常に低くなる。そして重要なことは当方が挙げてもこれぐらいの項目が有って、ZHAがやったらどれぐらい出て来るか分らないぐらいになるだろう(笑)

ただし、前述したように実際に裁判になって、このような方法が裁判官に受け入れられるかどうかは不明。各項目の「確率値」の設定の仕方も基準のようなものは無く、仮定的にならざるを得ない。それでも、このようにすれば完全一致かどうか、つまり「デッドコピーかどうか?」と云う「1,0」判定とは違う比較が可能となる。
水野弁護士は<本件がこの「デッドコピーに近い場合」に該当するかも判断が難しい>としているが、技術者ではないから個々の類似点の意味合いを認識することが難しいためと思われる。それに対して個別の項目だけでなく、全体的な数値化比較で類似性を提示すれば理解しやすくなるだろう。

そして肝心の裁判官も建築専門家ではないから類似性判定を行うことは難しく、不確かな面はあっても数値化と云う手法に乗ってくる可能性は有ると思う。曖昧なものを数値化しているという例では、前述のように交通事故裁判の基準も有る。
改めてまとめると、「著作物性」と「偶然の一致度」をそれぞれ数値化して、例えば上記の例だと「(著作物性)15%>(偶然の一致度)3.1%」というような比較をしてみれば良い。また、類似性項目はもっと有るから、「(著作物性) >> (偶然の一致度)」になることは確実。結果的に「薄い著作権」に対して充分な「濃い類似性」が出せることになる。

更に、一昨日紹介した福井弁護士が挙げていた「著作権侵害が成立する三要件」を再掲。「薄い著作権」の考え方を入れて、これまでの考察結果に基づき評価してみる。
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①対象が著作物にあたること…○ (ザハ案スタンド構造は「薄い著作権」に該当することが考えられる)
②実質的に類似していること…○ (一致点・類似点多数で偶然の一致で同じになる確率は極めて低くなる)
③対象物を見ていること…◎ (ザハ案担当の梓設計・大成建設がA案も担当)
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①②は上記で説明した通りで、③は昨日言及したように、著作権侵害問題では珍しい部類ではないかと思われるぐらい元データにアクセス容易な状況だったから◎にしてみた。総合すれば「著作権侵害と認定される可能性は相当高い」というのが当方見解になる。
なお、「薄い著作権(著作物性)」、「濃い類似度」、「偶然の一致度」等に関する当方の考え方は固まったものではなく、今後も更に検討したいと思う。また、もし裁判になったら、ZHA側・日本側双方の弁護士が知恵を絞って主張の仕方を考えるから、その中に何らかの数値化手法が入る可能性もあるだろう。個々の類似点を別々に見る手法だけでなく、「全体的に見て判定する」というやり方は、法廷戦術上も提起されるのではないかと思う。

以上
[追記]
本文を書いてみて、裁判になったら日本側が極めて不利であり、やはりJSC・政府側は裁判には出来ないと改めて感じた。しかし、昨日以下のような報道が有り、JSC池田理事の会見発言が紹介されていた。
<「著作権について司法の場で争われる可能性はゼロとは言えない」「建築差し止めの仮処分申請の恐れもなくはない」「仮処分を申請されても、差し止めが認められないように我々の主張を説明していく」
  口調はミョーに弱々しく、まるで訴訟が差し迫っているかのような発言にも聞こえた。>

池田氏の真意は不明だが、裁判の可能性が出てきたということだろうか。前述のようにJSC・政府側は裁判にしたくないはずなので、考えられるとしたら「ZHA要求金額」の問題が有り得るか。フライデー記事は100億円となっていた。更に猪瀬氏は500億円と言っていたが、これは置いておくにしても、100億円の方でも影響は大きい。契約解除は総理による白紙見直し表明の結果だから、最終決着に持ち込むための費用を出すこと自体は政府も織り込み済みと思われる。しかし、国民への説明をどうするかが大きな課題になる。費用増大を避けた安倍総理判断が「英断」とされたが、100億円、或いは50億円でも追加支払いが必要になったら、国民的批判が巻き起こることも想定され、野党の追及も厳しくなる。

それでも池田理事が裁判を覚悟し始めたとしたら、ZHAとの交渉が10億円以内やどんなに高くとも20億円ぐらいまでの範囲内で話を付けられなくなって、もはや「結果は考えずに裁判に突入することも止むを得ない」という事態まで来たのだろうか。そうなったら、判決が出る前にも本文に記したような論点で流用が明らかになり、隈健吾氏、ひいては日本政府側の嘘が海外にまで明るみに出される。その上で賠償金や使用許諾料を支払い、嘘も認めて「原案ZHA」等の表記を行ってA案を建てるのか。
そのような恥を晒さないようにするためには、「五輪までには建てない」というゼロ案はどうか。他に論点としては、旧計画構造の致命的欠陥をようやく明らかにして、その責任問題を絡めて争うか。

追記以上