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著作権問題考察1 「薄い著作権」

上林氏のご見解については、実際の公共工事契約の確認や作図の結果をお待ちするとして、当方は流用問題に関して著作権の考察を行う。

その際に、五輪エンブレムは最終的に本日決定したが、昨年のエンブレム騒動について書かれた記事が有る。
著作権侵害の成立には三つの要件を満たすことが必要です。 
 一つは対象マーク、つまり劇場ロゴが著作物にあたること、二つ目は今回のエンブレムがロゴと実質的に類似していること、三つ目は佐野さん側が劇場ロゴを見たことがあること。この三つがすべてそろわないと著作権侵害は成立しません。さらに、三つの立証責任はすべて訴えたベルギー側にあります。>
著作権侵害が成立する三要件が簡潔に述べられている。
 ①対象が著作物にあたること
 ②実質的に類似していること
 ③対象物を見ていること

これをザハ案とA案に当てはめてみると、まず①について、ザハ案は例えば以前紹介したように弁理士の栗原潔氏が<私見ですが新国立競技場は著作物と言ってよいと思います>と述べている。後で紹介する弁護士も著作物と言っており、著作物に当たる可能性が高いと思われる。
③に関しては、ザハ案に参加していた梓設計や大成建設がA案を担当しており、見ていたことは確実。更に業務としてザハ案に関わっていたから内容も良く知っているしデータ入手も可能だったと思われる。この点が普通の著作権侵害論争と違う点と当方は考えている。普通は、「見ている見ていない」で争うが、今回は③については争いようがないぐらい明確(笑)

結局②がどうかと云うことになってくる。これについても同記事で示唆が有る。 
<著作物性に疑いがあり、仮にぎりぎり著作物性が認められたとしても、その場合は、代わりに類似性を厳しく見る考え方が一般的です。つまり、酷似していると言えるほど似ていないと著作権侵害を認めない、ということです。これを「薄い著作権の理論」と言います。>
→「薄い著作権」の場合は<酷似していると言えるほど似ていないと著作権侵害を認めない>ということのようである。

「薄い著作権」については、新国立競技場に関しても以下記事が有る。(段落1~3は当方付与)
新国立競技場の類似問題”2016-01-19   水野祐氏(弁護士)
<(段落1)ザハ案は、アーチなどの外観については問題なく「建築の著作物」として認められるだろう(「建築の著作物」として認められるためには建築が完成していることを要しない)。
(段落2)ただし、隈案との類似が問題になっているのは、アーチなどの外観ではなく、スタジアムの座席、柱、傾斜などレイアウトの設計部分であり、この点が「建築の著作物」として認められるかは判断が難しい。なぜなら、スタジアムのレイアウトは、競技場としての用途・機能の制約のうえに設計されているため、より表現の幅が狭いと考えられるからである。
段落3)仮に、スタジアムのレイアウト部分が「建築の著作物」として認められたとしても、「薄い著作権」の考え方からしてデッドコピーに近い場合にしか著作権侵害は成立しない。本件がこの「デッドコピーに近い場合」に該当するかも判断が難しい。>
→この記事を書いた水野弁護士は、段落1~3で的確に問題を分析している。
 ・段落1:ザハ案は、外観については問題なく「著作物」として認められるだろう
 ・段落2:隈案との類似性は、スタジアムのレイアウト部分であり、この点が「著作物」として認められるかは判断が難しい
 ・段落3:「薄い著作権」ではデッドコピーに近い場合にしか著作権侵害は成立しない。本件がこの「デッドコピーに近い場合」に該当するかも判断が難しい。
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結果的に両氏の話から、「薄い著作権」という考え方を導入すると、「酷似と言えるほど」(福井弁護士)や「デッドコピーに近い」(水野弁護士)と云うぐらい似ていないと著作権侵害が成立しないということになりそうである。非常に興味深い話で明日更に検討予定。

以上
[追記]
最近三菱自動車でまた不祥事が発覚した。日本の物づくりがここまで落ちたのかと思えてガックリ来る。燃費不正は今のところ計測を担当する実験部の部長が指示したということになっているが、不正の規模が大きく実際にはもっと多くの人が不正を知っていたことは間違いない。それでも止まらなかった。
不正を見逃さないためには「筋を通す」という考え方が必須と思う。そして新国立競技場問題も筋の通らない話ばかり。特に本来動くべき建築家の方々が、旧計画では深刻な構造問題を見逃し、新計画でも流用問題や審査疑惑が出ているのになかなか動かない。
当方は建築業界には全く関係がなく、一国民として本問題を見て来ているが、建築専門家の方々は専門家としての責任を果たすつもりはないのだろうか。元々社会的発信を多くやって来ておられる方々なのに、都合悪くなるとダンマリかスルーに見える。非常に残念。当方としては出来る限りの検証を行って発信していきたいと思う。

追記以上