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白紙化経緯検証(下)「安倍総理の検討と官邸チーム」

当時「次世代の党」の松沢成文参院議員が、白紙見直し表明前の7月9日という重要な時期に国会質問を行い、同夜には安倍総理や菅官房長官などと会食している(下村大臣は出席していない)。その場のやり取りが上杉隆氏の本「悪いのはだれだ!新国立競技場」に出ている。この時期の安倍総理に関する情報は貴重。
----抜粋開始(P71~)----
「総理決断の呼び水」
「文教科学委員会で質問をした7月9日の夜、安倍総理菅義偉官房長官、次世代の党の議員という顔ぶれで夕食会を開き、安保法案についてディスカッションしました。そのとき、安倍さんに『新国立はこのまま突っ走ったら、ラグビーW杯、オリンピックの両方がおかしくなりますよ』『時期的に、今が決断する最後のチャンスだから、どうにかしたほうがいい』と言いました。
安倍さんは、本当に困ったという顔をして『でも、文科省が今のままでできる、って言い張るんだよなぁ』という言い方をしてました。実は、このときにはすでに、下村文科大臣が安倍総理のもとにザハ案の見直しの相談に行っているんですね。私の質問には『ザハ案でいける』と答えていた下村さんですが、まさか国会の場で突然、見直すと言うわけにはいかない。その頃には、ザハ案をやめたときのメリットとデメリットを書いた紙を持って、安倍さんのもとを訪れている。安倍さんが迷っているのは明らかでした。その時期、内閣支持率世論調査が次々と出始め、数字がかなり下がっていたからです。安倍さんにすれば、ただでさえ安保法案を衆議院で採決して支持率が厳しいのに、新国立の問題で命取りになりかねない。そこで、下村さんの提案を受けて、安倍さんが独自に国土交通省やゼネコンを呼んで、工期の問題などを検討していた。下村さんも内心このままではまずい、と思っていたのでしょう。一気に決めようということになり、7月17日のザハ案白紙撤回の発表に踏み切ったというわけです」
----抜粋終了----

文科省が今のままでできる、って言い張るんだよなぁ」というのはザハ案と考えられる。ただし、上記会合の二日前7月7日には有識者会議にザハ案実施設計が報告され、着工の段取りが出来ていた。会合当日9日には一部資材の発注も実施された。コスト批判を押し切るつもりなら、「ザハ案でラグビーW杯にも間に合うように完成できる」というのは決定済みの状況だったにも関わらず、総理は何故このような発言したのか。「このまま進めても五輪にも間に合わないのではないか?」、そのような危惧が伝えられていたのではないか。やはり「コストより納期」を心配していたと思われる。

それが「安倍さんが独自に国土交通省やゼネコンを呼んで、工期の問題などを検討していた」という話につながると思う。ただし、下村大臣は、まだ或る程度独自に動けても各段に忙しい総理では困難だろう。総理独自の動きというのは実際には「官邸チーム」がやって、大成社長に確認するなどの要所で総理も参加したものと想定される。

こうやって見てみると、昨日記した3ルートに安倍総理自身まで加わって様々な検討が行われていたことが分かってくる。表面に見えて来る分だけでも大騒動であったが、内実は予想以上に大変だったようだ。それでいながら、核心の問題である「建てられない設計」という点を認識している関係者は、ごく一部だったと思われる。殆どの人達は実態を知らないまま右往左往していたわけで、日本政府の実力はお寒い限りということになる(苦笑)

ちなみに総理が森氏を説得した際に使われたというA4ペーパーも「国交省などが作成」と以下記事で書かれているが、実際は国交省出向者が中心の官邸チーム作成と思われる(後日文科省国交省に情報公開請求したニュースサイト「Hunter」によると、両省とも「そのような文書は存在しないという回答)。
首相が示したA4の文書は、国土交通省などが作成したものだった。もう一度、コンペをやり直して半年以内に設計を決定し、20年春に完成させ、五輪には間に合わせるという計画見通しが示されていた。>

別途行われていた下村大臣・槙氏ルートの検討でも、最終的には「ラグビーW杯はあきらめて五輪までに完成」という結論を得ていたが、「官邸ルート」の検討結果と何が違ったか。「納期確度の差」と当方は推測し、その決め手になったのが「ザハ案流用」だったのではないか。大成も全く一からでは納期確約できないが、官邸チームとの調整で「流用」が決まり納期が保証出来て総理も決断できる状況になった。その後同チームから指示を受けて、JSCは審査委員会第一回会合で「旧計画成果の最大限活用」の意向を示したという流れが想定される。

これで辻褄が有ってくるが、それでも一件落着と行かず、現在まで「ZHAとの間で流用問題が未決着」という状態になってしまっている。白紙見直し表明時に遡ってみると、上記記事のP3には「賠償金」について総理が悩んでいたという話が出ている。
賠償「最大100億円」試算 首相、最後まで悩み抜き
 安倍晋三首相が新国立競技場の計画見直しで、国土交通省文部科学省に念入りに検討させたのは、2020年東京五輪パラリンピックまでに建設が間に合うのかという工期と、現行計画より総工費を抑えられる見通しが立つのかというコストの問題だった。
 加えて大きな問題となったのは、現行計画を白紙にした場合には、デザインしたザハ・ハディド氏側に支払うべき損害賠償などが発生する可能性があることだった。文科省はハディド氏側にデザイン監修料の一部として昨年度までに13億円を支払い済みで、契約解除時に違約金を支払う条項は設けていないと説明。ただ、政府の調査では、過去の判例から違約金や賠償金として「10億円から最大100億円」を支出せざるを得ないとの数字も出た。巨額の賠償金を支払うことになれば、新たな批判を呼び起こすのは確実だ。>

記事では「賠償金」となっているが、著作権も含めて名目はどうであれ、外から見たら「突然の契約解除」となるから、未払金だけでなく追加支払いの考慮は必須。「基本構造設計の問題」を持ち出して相殺を図るなどしなければ何らかの支払いは逃れられないが、設計問題を追及した節は見られない。
官邸チームの主体は官庁営繕部という費用面のプロ集団が中心だから、積算だけでなく金額の話にも乗れるはずで当然解決に取り組む。それで何故ZHAに対してJSCを通じてでも事前了解取得等の交渉が出来ていなかったのか、非常に不可解。
ただ、これも白紙見直しに至る検討を隠蔽したから生じた事態であって、オープンにして検討したなら最初に片づけておく問題。幾ら官僚としての腕は良くても、隠蔽体質ではこのようなことになる。しかも安全保障や外交上の問題でも無いのだから、隠蔽したことは大きな間違いだったし、結局今に至る問題を生んだ。

以上