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白紙化経緯検証(中)「白紙見直しに至るまでの検討ルートは三本あった」

当ブログ2月22日記事”旧計画再検証6 「異常な設計プロセス…二つの推進ルート」”において、二つの検討ルート---①JSC主導ルート ②官邸主導ルート---の存在を提起した。これは謎が多い白紙見直し経緯に対して、①のルート、つまり「ザハ案推進→工費高騰・変遷批判の高まり」だけでは説明がつかず、②を考えることによって辻褄が合ってくるという背景がある。

それを示す事実関係の例として、既出ではあるがポイントになると思われる重要事項2点挙げてみる。
(1)早い時期のZHA契約解除報道
 <文部科学省などがデザイン監修者としたイラク出身のザハ・ハディド氏(英在住)の事務所との契約解除を検討していることが5日、分かった。
…政府関係者によると、現行案の「キールアーチ」と呼ばれる幅約370メートルある2本の鉄骨部分が最大のネックとなり、現状の構造を維持する限り、整備費や工期の見通しが立たないと判断した。>
 白紙見直し表明7月17日よりずっと早く6月初にはザハ案中止が決定していたことが分かる。ZHAと契約解除してザハ案を進めるのは契約トラブル必至で有りえない。ZHA東京事務所U氏による「5月からはゼネコンとの交渉がJSCから離れて官邸に移ったと聞いている」という証言もある。結果的に5月一杯ぐらいには官邸ルートによるゼネコンとの検討でザハ案中止が決まり、それがリークで報道されたと推測すると説明がつく。また、リークした政府関係者は「文部科学省などが検討」として、官邸ルートは表に出さずカムフラージュしたと思われる。
(2)大成建設社長が7月14日官邸に呼ばれていたという報道
 先日紹介した昨年12月朝日新聞記事の件。同日の「首相動静」には載っていなかったが、当然隠密行動であり、総理執務室には記者から見られず入れる。また朝日一社の報道であることもリーク記事の特長であるし、これをねつ造しても朝日には意味がないから信憑性ありと考える(リークと記者クラブ制度については傾向等が分って来たので別途書いてみたい)。大成社長は安倍総理に「五輪までに間に合わせる」ことを言明したと想定され、総理も納得して白紙見直しが決定し、翌15日の事前報道につながって17日に正式表明という流れだったと考えられる。そして、前項U氏証言のように、JSCはゼネコンとの交渉から外されていたから、大成社長を呼んだのは官邸ルートということになる。
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結果的に官邸ルートの存在は明らかと当方は考えてきているが、一つ気になっていたのが昨日挙げた「下村大臣のザハ案見直しに関する一連の発言」。例えば同大臣は総理表明後に自身のFacebookで以下のように書いている。
下村博文 7月19日 新国立競技場の見直し
 ご承知のように、安倍総理がゼロから新国立競技場の見直しをすることを表明しました。 実は1カ月ほど前から、極秘でいろいろな見直しを検討をしていました。各界や国会で見直し議論がされていました。私たちも当然、もっとコストが低くなり、ラグビーワールドカップにも間に合うのであればと、文科省の担当者にも詳細は分からないようにして進めていました。 結果、オリンピックパラリンピックに間に合わせる。ラグビーワールドカップは他会場でするということで合意ができました。
 国民の皆さんが納得し、アスリートが喜ぶ競技場にして参ります。・・・>

これと上記事例の関係について考えてみると、まず(1)については前述のようにリークには「文部科学省など」という説明が入っていたと推測される。しかし、Faceookにある見直しでさえも6月中旬からであり、6月初迄のザハ案中止実質決定に文科省や傘下のJSCが関与していたとは思えない。(1)を進めたのは、やはり官邸ルートしか考えられなくなる。

次に(2)に関連する白紙見直し表明前の取組について、同大臣は検証委員会ヒアリングで次のように述べている。
<○ 平成27年(2015年)6月の中旬には、ザハ・ハディド氏の案をこのまま続けた場合、建築家の槇氏のグループの見直し案に変えた場合のメリット・デメリットも含めて持っていき、ザハ・ハディド氏の案を変えるべきではないかと総理に説明した。変えた場合に、必ず間に合うかどうかの確証を得られていなかったが、相当のコストダウンにはなることを説明し、総理からも、更に研究するよう指示があった
○ 2,520億円でやむを得ないと思った段階では、工期が間に合うと確信を持てる材料がまだ無かった。今年の7月17日に総理のところに行って、見直しをした際には、ラグビーワールドカップには間に合わないが、オリンピック・パラリンピックには、ゼロから見直しても、工期は間に合うという確信を持てた。>

6月中旬に槙氏の案を総理に説明して、更に研究するよう指示が有ったことは他の報道等からも確認できる。しかし、そこから7月17日総理表明までの間は情報が錯綜して経緯が不明確だが、大成社長の訪問は大きなポイントになったと思われる。それと下村大臣主体の検討とはどう関係するだろうか。まず同大臣取組に関する確実な情報として、7月9日参院質疑における発言を見てみる。

----下村大臣答弁抜粋開始----
第189回国会 文教科学委員会 第17号 平成二十七年七月九日
(前段)これまでも、基本デザインは維持しながら、規模の縮小等必要なデザインの見直しを行ってきておりますが、今年六月に、仮に槇さんたちの案のようにデザインを全く新しいものに変えるということを前提で試算したところ、設計者の随意契約、また施工者の技術提案、それから交渉方式による選定を、つまり一番コンパクトで、まあ年月掛からないでやるということで前提としたとしても、設計開始から竣工までには二〇二〇年六月(注:五輪2020年7月の直前)まで掛かる、つまり六十一か月、五年一か月掛かるということが試算されました。これは私もいろんな方々に客観的にお聞きしましたが、オリンピック・パラリンピック直前で、オリンピック・パラリンピックのためのプレイベントもできなくなる、そもそも二〇一九年九月のラグビーワールドカップに間に合わないという結果でありました。
(後段)ラグビーに間に合わなくてもいいのではないかというのが槇さんたちの提案の一つでありました・・・
  槇さんの案が間に合うということで、私も直接お会いしてお話を聞きました。ただ、この場合は、ラグビーワールドカップはこれは間に合わないから違う場所でやって、オリンピック・パラリンピックに間に合うためにという今のお話でありまして、それについてはお聞きいたしました。
  先ほど申し上げましたように、これは相当のリスクがあると。つまり、普通の手続をしても二〇二〇年の六月になってしまうと。超法規的にという言い方を実際槇さんたちも言われていましたが、本来、一年、二年掛かることを、一年半掛かることを、許認可を半年に短縮するとかいう意味での超法規的ですが、そういうことをすれば間に合うという前提でありましたが、これは、利害関係に合致しないいろんな業界の方々にも私お聞きしてお話をしましたが、間に合うか間に合わないかについては、これはリスクがある、これは絶対間に合うとは言えないと。
----答弁抜粋終了----

当方で前段と後段に分けてみたが、両方とも槙グループ案の検討結果について述べていると想定される。前段は6月1日付の槙グループ第1回提言に関する評価と思われ、同提言の工期は「42 ヶ月程度」であるが、それに文科省で検討した設計期間等19か月を加えると61か月になり、五輪にも間に合わないと判断して採用されなかった。ただし、前述のように安倍総理には報告し、更に研究を求められたため引き続き検討が行われた。
それと後段が関連すると考えられる。答弁で<ラグビーに間に合わなくてもいいのではないかというのが槇さんたちの提案の一つでありました>となっているが、第1回提言では「W杯に間に合わない」ということは全く書いていない。しかし、昨日記事で示したように提言は複数あり、第2回第3回提言の報道では「ラグビーW杯に間に合わない場合は別会場を使用する」という趣旨になっている。それでも、やはりリスクを勘案して採用されなかったようである。
これらの検討があり、同大臣が「1カ月ぐらい前から極秘でいろいろな見直しを検討をしていた」のは、主に槙案だったと見るのが妥当と思う。

結果的に文科省関連では、「JSC・文科省が主導したザハ案」と、「下村大臣が秘密裏に進めた槙グループ提言検討」の二つの流れが有ったと推測できる。ただし、大成との詳細な仕様詰めを同大臣が秘密裏に行えるはずもない。また、槙氏の方も大成と検討していたなら、もっと確度の高い詳細な計画案を出すことができただろうが、実際の提言はごく簡単なものにとどまっていた。
やはり大成と組んで進めていたと思われる官邸ルートの存在は動かせない。その上で冒頭の「二つの推進ルート」に下村大臣と槙氏のルートを組み合わせると、以下の三つのルートがあったと推測。
 ①JSC・文科省主導ルート
 ②官邸主導ルート
 ③下村大臣・槙氏ルート

これでようやく本日の表題にたどり着いた(笑) 説明も、ややこしくなってしまったが、三本もあるから一筋縄で行かないのは当然だったか。特に②③は秘密ルートのため解明しにくい。それでも③は、当事者が語ったりしている断片的情報をつなぎ合わせて上記のように大体解明できたと思う。②については、報道機関が未だに殆どスルーのため情報が出てこない。核心に迫る取材力の不足が残念。
明日はこの方向で更に補足予定。なお、③で当方がこれまで惑わされた要因について追記で記す。

((下)につづく)
以上
[追記]
下村大臣へのインタビュー記事で以下があり、週刊誌だけあって相当掘り下げている。
<その後、7月に入って、再検討していた課題の結論が出ました。その内容は、「ザハ案を変えると、コストを下げられ、オリンピックにも間に合う」が、ただし「ラグビーW杯には間に合わない」というものでした。ラグビーW杯を新国立競技場で行うことにこだわっていた森会長が懸念されていた点ですが、それが現実のものとなったわけではあります。これを安倍総理に再度、報告したのは、7月17日の直前のことでした。>

槙案第2回第3回提言に関する検討の話と思われるが、「7月17日の直前に報告した」となっている。直前が正確に何日かは分らないが、本文のように14日には大成社長の官邸訪問、15日には白紙見直し事前報道が有った。少なくとも、これらより前でないと報告の意味が無いが、そうなると「直前」から外れてくるのではないか。

更に同記事では17日のスケジュールについても述べている。
安倍総理から、「明日(17日)の午後2時~4時の間に官邸に呼ぶので、時間を空けておいてほしい」とのご連絡を受けていました。この時、総理は森さんにも、官邸で協議したいと要請していた。すでに安倍総理の肚(はら)は白紙撤回で決していたのです
 翌17日、まず午後2時頃から、安倍総理は執務室で森さんと2人きりで面談して、「ラグビーW杯には間に合わないが、受け容れてほしい」と説得を試みた。その30分後、私と遠藤利明東京オリンピックパラリンピック担当相、菅義偉官房長官らが部屋に招集されました。…その後、総理から国民に向け、計画白紙撤回の表明が行われたわけなのです。>

17日に下村氏が総理に会ったのは森氏の後ということになり、精々簡単に事後説明を受けたぐらいと考えられるがFacebookを再掲すると以下になる。
<ご承知のように、安倍総理がゼロから新国立競技場の見直しをすることを表明しました。 実は1カ月ほど前から、極秘でいろいろな見直しを検討をしていました。…>

これでは下村氏の検討を受けて総理が白紙見直し表明したと匂わしている。それどころか他の場面の発言ではもっと端的に自らの手柄にしている。例えば以下。
<総理の指示を受け、更に検討を行った結果、今月中に見直しを判断すれば、
 ・ 事業者選定までに約半年
 ・設計から工事完成まで50ヶ月強
で、2020年オリンピック・パラリンピック競技大会には間に合う旨を、7月17日に私から総理に説明しました。 
今回のゼロベースの見直しは、ラグビーワールドカップには間に合わないが、オリンピック・パラリンピックには間に合うとして総理が決断されたものです。その際、私の報告も踏まえてなされたものと考えています。>

上記のように7月17日には事後で簡単な説明を受けたかどうかぐらいなのに、逆に「総理に説明した」と述べ、その報告が白紙見直し表明につながったように国会で発言。しかし、新潮記事では17日官邸に来るよう前日に求められた際には、既に総理の肚は決まっていたと下村氏自らが言っている。
また、本文に引用したヒアリング結果では<今年の7月17日に総理のところに行って、見直しをした際には、W杯には間に合わないが、五輪には間に合うという確信を持てた>となっている。当日見直す時間など無かったことは前述記事で分っているし、その場で「確信を持てた」というような検討では総理もOKしないだろう(笑)
同氏は無意識なのか意識的なのかは分らないが認識が揺れるようだし、自らに都合が良いように振れる傾向がある模様。発言は率直なのだが、その中に有るブレと思い込み?のようなもので惑わされた(苦笑) 印象としては何か「不思議な人」という感じがして、余り見たことが無いタイプで理解が難しい。

追記以上